第69話 ピーラーのその後とマッシモの繁栄

それから数日も経たずに街の彼方此方でマイマイを炊く匂いが漂う様になり、それに混じってソイが焦げる時に放つ独特の美味しそうな香ばしい匂いもする様になって行った。


お陰様で、件のイベント布教活動で俺の出した『オオサワ・レシピオオサワ・レシピ経典』は一気にこの街の市民権を得て、食い物屋は挙って俺のレシピの料理を看板メニューとして出す様になったのだ。


件のイベントには周辺の領地の貴族家や商会にも通達されて居たようで、彼らが良い口コミを拡散してくれた様だ。


そして、口コミの広がりはこのマッシモの周辺だけに収まらず、徐々にこの国の王都や大都市へと広まって行った・・・。

そして、2ヵ月も経った頃にはマッシモの街についた二つ名が、『食の都』だよ。フフフ、発端が俺ってのが笑えるが。


気になっていると思うので、一応報告すると、今回のキャンペーン布教活動の下拵えには全く間に合わず、出番無しだったが、特注したピラーは見事に完成し、テストでも良好な結果を残した。


で、商人ギルドに持って行って信者2人に見せてジャガイモの皮を剥いてみせると、「流石はトージ様! 素晴らしい物ですね!」と褒めてはくれたが、生産コストを言うと無言になってしまった。


「あのぉ~、もしかして、ジャガイモの皮を剥く以外に秘密の機能があったりしますか?」と尋ねて来るロバートと当然ありますよね?って顔で俺を見て居るルミーナさん。


「いや、ジャガイモの皮を剥く他には、人参の皮や大根の皮ぐらいしか向けないぞ?」と普通に答える俺。


マジでその辺りの野菜の皮を『安全』に剥ける以外の効能は無いし、思い浮かばない。


すると、やや呆れた様な顔で、俺に懇々と言い聞かせる様に説明してきた。


簡単に言うと、高過ぎる!と言う事だ。


仮に銀貨1枚でも高いと言うのに、こんな者に金貨を叩く馬鹿はお貴族様でさえ居ないと言う理由だった。


これを使って貴族の子息がジャガイモの皮を剥く訳も無く。 それなら普通にナイフで剥ける人物を雇った方が潰しが効くと言う真っ当な反論であった。


孤児院の子供達もそうだが、職を得る為に皮剥きの特技を習得した方が後の人生に役立つし、そうすべきだと言われた。


いや・・・言われてみれば確かにその通りやな! 


まあ日本の様に工場で大量製産されて、100均で売られてる世界とは違うと言う事だ。


俺の考案する物が何でもこの世界の価値観に受け入れられる訳では無いという良い例である。


そうか・・・残念だ。


そして、頑張ってくれた鍛冶屋のオッチャンよ、ゴメンな!! 何か努力が無駄になっちまって・・・と心の中で詫びる俺。


その後、鍛冶屋のオッチャンの所に、ごめんなさいとお礼と詫びを込めたのボーナスを払いに行ったのだが、

「まあ、作ってて面白かったが、そんな結果になる予感はしてたさ!」と言いながら、豪快に笑われたのだった。


今回の試作品と注文した分を全部引き取って、支払いも済ませ、『保管庫』に秘蔵するのだった。


いや、何時の日か日の目を見る時代が来ないとも限らないからな・・・ドンマイだ!





丁度醸造所街の建設時から公衆衛生に力を入れる様になった事で、街の中でゴミを捨てる奴もゴミも無くなり、飲食店の出すゴミは毎朝回収される様になった事で、不快な臭いが漂う事も無く、見た目にも美しい


メインストリートとなり、それも相まって、評判となった。ラットも激減したようで、街中で見かける事は少なくなった。


この所、食の仕入れや観光等、街を訪れる来訪者の数が増えて、街の宿は何処も満室が続いて居るらしい。


その恩恵で、どうやら、税収がアップしたとの事で、先日領主邸にお呼ばれした際にマッシモ辺境伯がご満悦だった。

「これも、トージ、アリーシア、そして、紹介してくれたラルゴのお陰じゃな。礼を言うぞ!」と。


「領主様、まだお礼を言うのは早過ぎでございます。まだ醸造所の方も稼働時始めたばかり、これから、第2、第3棟の方も稼働となります。その後もまだまだ計画がありますので、その結果を見て頂いてからで!」と俺が言うと愉快そうに笑っていた。




そして件のイベントから半年が過ぎた頃、マッシモで食べた料理の美味しさに商機を見出した者達が各地で店を開いたり、自分の店のメニューの柱にしたりしてドンドン加速度的に広がり、

勿論その波はあの王都にまで広がり、『マッシモ・マイマイ』は引っ張りダコで、ソイもソイペーストの売り上げも凄い状態になっていた。


現在醸造所街の方も人手不足で募集した結果移住者がも増えて、マッシモの街と変わらない程にまで膨れ上がり

醸造所も第5棟まで稼働中である。


更にビネガーだけで無く、俺の主動した日本酒の醸造所も建築されて作られて俺の酒麹を使って目下熟成中である。


片栗粉の製造工場も建築されて、こちらも稼働している。


そんな訳で、現在、マッシモに色んな物や者が集まり、マッシモ・マイマイやソイ、ソイペースト、そして俺の作った浄化の魔動具やその後に作ったハンドミキサーの魔動具等が好評で食材等と一緒にドンドンと輸出されている状況である。


だって、俺のレシピに必須のアイテムだからね。




このマッシモ、この国一番の綺麗な街、『流石は食の都』と評判が鰻登りで更に税収もアップし、収める国への上納金が増えた結果何とマッシモ辺境伯はマッシモ侯爵へと陞爵したらしい・・・。


凄いよね!ちょっと前までは領地経営が下手って話もあったのにね!


そんな訳で、本当にマッシモは栄えて住み易い良い街になった。


そして我が家の隣の敷地を購入する事が出来たので統合して1つの大きな敷地にして、中に子供達や今後増えるスタッフの為の宿舎を建てて錬金工房やなんかも建築中だったりする。


そうそう、魔法を教えて居たアリーシアさん達、ついに自分の中の魔力を検知する事に成功し、初歩のライトぐらいを発動出来る様になったんだよね。

子供らはまだ無理っぽいけど、アリーシアさん達が出来たので可能性は0じゃない。 俺は出来ると思って居る。


そう言って挫けない様に励ましながら日々教えて居る。


ああ、そうだ!彼奴らにも、『エグドラの実』と『アプモグの実』を食わしてやらないとな・・・。


そう言えば、アリーシアさん達には度々デザートでだしたから、それも影響しているのかも知れないな。


そうと決まれば、速攻で、食べさせて様子を見よう!


午後3つの鐘の鳴る頃に、休憩を兼ねたおやつの代わりに『エグドラの実』と『アプモグの実』を子供でも食べ易いサイズにカットして、皿に盛って出してやると、初めて見る果物に興味津々の子供達。


「これはなぁ、滅茶滅茶美味しくて、身体に良い果物なんだぞぉ~。丁度冷えてて美味しいから、みんなで食べなさい。もしかしたら、魔力を検知し易くなるかも知れないし。」と俺が微かな希望を仄めかすと、

「頂きます!」と手を合わせて『エグドラの実』からパクリと食べて、「美味しいよ!トージ兄ちゃん!」と叫ぶ子供達。

続けて『アプモグの実』も食べて、顔に満面に笑みを浮かべウットリする子供達。


一時期、主食として俺を支えて来た『エグドラの実』は1個でかなり大きい。

1個をカットして子供6人で食べて丁度良いぐらいの大きさである。『アプモグの実』は2個で6人で丁度良いぐらいかな。


「美味しいだろ! だが、今日から1週間のおやつとデザートはこれだから。一応、こうして普通に食っているが、最初のこっちは『エグドラの実』だ。名前聞いた事あるだろう?」と俺が言うと、


「あ!お伽噺に出て来る木の実!?」とリンダちゃんが気付いて軽く叫んで居た。


その言葉を聞いて、全員そのお伽噺を思い出したのであろう。非常に驚いていた。


「本当にあったんだ・・・『エグドラの木』」と呟く子供達。

「あるよ。俺その木の麓に住んでたし。それで、こっちの方は『アプモグの実』だな。これはダンジョンとかにも生えて居るって話を聞いたけど、滅茶滅茶レアらしいぞ。魔力に良いって話もあるから、一杯食っておけ!」と言っておいた。


俺なんか毎日これしか食えなかった時期もあったぐらいで、身体に悪影響なかったから大丈夫な筈だ。


そうそう、あれから何も『日本の食の英知』のアプデが無いのだけど、こっちも忙しかったので放置です。


余りせっついて、臍曲げられちゃうと拙いし。


美味い物で期待値をガッツリ上げて上げて、英知引き出さないとね!!

俺が真に望む情報は日本の食の英知とこの世界の英知のマージ版である。

日本でピーマンと言って同じ名前の野菜がこの世界に有る訳じゃ無い。この世界の別の名前があるのだから。


特に一番困るのが、スパイス等である。

今購入してストックしている物はある程度匂いやちょっと舐めた感じだけで決め付けてるけど、カレーを作ろうとした際に実際とは違う物が混じると味の迷子になってしまうのだ。


そう、現在コッソリ『魔の森』の方でカレーを作る為にスパイスの調合やって居るんだけど何か上手く行かないんだよな。


昔習ったお袋のレシピの味にならないのだ。


まあ、根を詰めてやったところで、舌も鼻も馬鹿になってしまって、判別できなくなってしまうので、3日に1度くらいの間隔を空けてある程度味覚嗅覚をリセットしながら気長にやっているのである。


だって、今のこの身体の嗅覚って、元の身体よりも高性能だから、香辛料の匂いばかり嗅いでるとおかしくなっちゃうんだよね。



さて、今日は件のの味覚嗅覚のお休み日である。


日々追われまくっていて、折角作ったもののそのまま『保管庫』の肥やしになっていた、特注で作った中華鍋とお玉を使ってチャーハンを作ろうと思う。


この為だけに『保管庫』に入れず冷やご飯にしておいた程良い冷やご飯を使う予定である。


シーズニングは既に終わっているので、食用油を中華鍋に投入し、熱で鍋に油が馴染んだ頃合いを見計らって、溶き卵を投入し、手早く冷やご飯を投入し、卵と冷やご飯を掻き回して万遍無く混ぜる。


次に刻んだ長ネギや、細かく切ったオーク肉、塩を少々胡椒も少々、本来ならシャンタンや鶏ガラスープの素で味わいの深みを付けるところだが無い物はしょうがない。この時の為に自作した鶏ガラスープの水分を飛ばして作った『鶏ガラスープの素』を入れて隠し味に、ソイを一筋掛けて、鍋を振って全体的に良く馴染ませる。


頃合いを見て、火を止め、お玉で掬って更にコンモリドーム型に乗せて、あああ!紅ショウガ作って無かった!! ちょっと赤身が寂しいが、一応完成である。

焼き餃子と鶏ガラスープに葱を入れソイで味を調えた中華スープ付きのチャーハンセットにしてみた。

俺の作るチャーハンの匂いに釣られ、女性陣も子供達も寄って来たので、全員に配る・・・足りないので5回程追加で鍋を振るったが、全員で『頂きます』をして、いざ実食である。


『シャンタン』とか入れて無いのでやや味が薄い気もしないでは無いが、これはこれで美味い! 久々に食う我が家の卵チャーハンだった。


思わず懐かしさに胸の奥が熱くなる。


餃子を含め全員が美味しいと絶賛してくれたので、後日レシピを登録する事に決めて、師匠の分と女神様への献上分を作って店にお届けするのであった。



師匠も最近では箸を上手に使い熟し、餃子を箸で取ってタレ(酢醤油+自家製ラー油)にチョンと浸けて美味しそうに食べて居る。蓮華はまだ作ってないので普通にスプーンだけど、チャーハンも中華スープもお気に召した様であった。


師匠曰く、王都からマッシモに越して来て最大の変化は食生活と1日の会話量だと嬉し気に微笑んで言っていた。


まあ、師匠って、余り自分からバンバン話し掛けるタイプじゃないからな・・・それに割とツンデレ体質だし、然もありなんってな。



師匠の店を後にした俺は久々に神殿へと足を向けたのだった。


勿論本当の目的は、『日本の食の英知』の催促である。


幸い神殿の祭壇の周辺に人の気配も無く、スムーズに女神像の前にチャーハン餃子セットを置いて、『マルーシャ様献上致します。』と呟くと、パッとトレイごと消えたのであった。


俺は直ぐに祈ろうかと思ったのだが、先に食べて貰う時間を作った方が交渉がし易いと判断し、孤児院によって、司祭様と話した後にまた寄ってお祈りする事にしたのであった。


子供らが家に就職?で孤児院を出る際に孤児院に風呂や魔動具トイレ等の改築、老朽化した部分の修繕も行っているので、現在の孤児院の建物には悲壮感は皆無である。


孤児院の建物に近付くといち早く俺を発見した子供達が、「あ!トージ兄ちゃんだーー! 司祭様ーー! トージ兄ちゃん来たよーー!」と元気にお迎えしてくれる。


まあ、俺が人気ってよりは、美味しい肉とかを運んでくれる人っと事で人気?なんだろうけど、無邪気な子供らの笑顔に心が和む。


尤も王都に軟禁されていた時の様なストレスも無く、好きな事をして、平穏に暮らしているので、そもそも癒やしを求める程に荒んではいないのだけどね。



お肉や野菜等の食料品を勝手知ったる厨房の倉庫に収めつつ司祭様と世間話をして、寄付を済ませてから孤児院を後にした。


そして再度直談判の為に祭壇の前に跪き、まずは何時もの順番通りに祈りを捧げ、『ナンシー』様へ呼び掛けた。

「おー、トージよ、えらく時間が空いたのぉ~。順調に頑張って居る様で何よりじゃ!」とご機嫌な『ナンシー』様の声が頭に響く。


声のトーンで判る様にどうやら、現在も尚今回は合格ラインは大丈夫らしい。


「そんな俺へのご褒美とかは無いのでしょうか?」と見返りを要求するが、特に何も出来ないらしい・・・チェ、使えないな・・・と心の奥底で思うが権限の無い女神見習いなのでしょうがない。

「早くエラクなって、俺に恩返ししてくださいよーー!」と釘を刺しておいたけど、期待は出来そうもない。


まあ、命というか、第ニの人生を貰った様な物なので、強くは言えないか。


そして、『ナンシー』様との接続が切れたところで食い込む様にマルーシャ様の声が頭の中に響いて来た。


「おー、トージよ、やっと来居ったか!? 待っておったぞ。お主の欲しがっておった『日本の食の英知』じゃが、準備が整ったのじゃ。もう1人の方の問題も片付いたしのぉ~。安心じゃて。」と継げて来た。


「おお、出来ましたか!?それは嬉しいですね。 そのもう1人の方の問題って、もう1人の手駒の同胞の事ですか? 何か進展あったんですか?」と俺が喜びながら尋ねる。


マルーシャ様は少し言葉を濁しつつ、もう1人の状況を説明してくれた。

どうやら、もう1人は森を越える事も出来ずに・・・森の中で魔物に襲われた傷が元で無くなってしまったらしい・・・何と切ない最後。思わず見も知らぬもう1人のご冥福を祈り手を合わせてしまったのだった。


どうやら、もう1人は上手く魔法を操る事が出来なかったらしい・・・。


来世はもっと良い世界に生まれて幸せを享受して欲しい物だ。



「そうじゃ、トージ、新しく更新される『日本の食の英知』の知識がインストールされる時じゃが、死ぬ程の苦痛を味わうので注意するのじゃぞ? 今日の夜中に処理して置くが、激痛と思っておいて覚悟を決めるのじゃぞ!」と不穏な予告をして来た。

反論しようとしたが、それだけ大なデータが脳内にインストールされるのだからしょうがないと斬り捨てられてしまった。


まあ確かに望んだのは俺だがな・・・。


「お手柔らかにソッとお願いしますよ!マルーシャ様!!」とダメ元で懇願しておいた。


「一応、努力はするがの? まあ気は心程度じゃ。男じゃろ?気合い入れい!あと、その英知で美味い・・・そう、ポロン? いや、プロン?じゃったか、極上の舌触り?あれを忘れずにな!」と叱咤激励からの見返り要求をされたのだった。されたのだった。


「プロン? ああ、プリンでございますね? 判りました。お楽しみにお待ちを!」と了承してから接続がブチッと切られたのであった。

マルーシャ様には内緒だが、実際のところプリンなら現状のままでも作り方は知って居る。

それだけなら特に痛い思いをしなくても大丈夫なのだが、他に知りたい英知もあるので、腹を括って気合いで乗り切るしかないのだ。

何を大袈裟な!?と思われるかも知れないが、予告なく襲って来る激痛より予告在りの激痛の方が数倍痛いと思うし・・・。


とは言うものの、やだなぁ~痛いのは。

元々男は痛みに弱いって言われてるじゃん!?と内心愚痴りつつ、憂鬱な気持ちと一緒に自宅に戻って夜中のインストールに向けて早めの就寝準備に入るのであった。


どうしよう? やっぱり、これって事前にアリーシアさん達に言っておくべきだよな?

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