第70話 アップデート

10分程考えた結果、彼女らに迷惑掛けそうなので、予告して置く事にした。


風呂上がりでホッとして涼んでいる女性陣に声を掛ける。


「アリーシアさん、ソフィアちゃん、ソリアさん一応慌てない様に事前に言って置くけど、今夜夜中に俺がもしかすると、絶叫したり、のたうち廻るかも知れないけど、予定通りの事なので心配しないで。

死にはしないから。 そう、単なる成長の痛みだから。慌てないでね。実際どれ位の痛みかさえ判らないけど、成長に伴う痛みらしいので大丈夫だからね!」と俺が言うと余計に心配をさせてしまったのだった。

逆効果だったか?と思ったが何故か子供達を除く、アリーシアさん、ソフィアちゃん、ソリアさんの3人が何故か俺の部屋で経過を観察すると言い張り、残念ながら拒絶する事が出来なかったのだった。


ん?師匠?師匠は何か勘違いしたらしく、ニタニタしながら「おう、若人よ、頑張れよ!」って言って、サッサと自室に籠もってしまったのだった・・・。


そう言う方向の勘違い、本当に止めて欲しいよね。 そんなんじゃないから! 別に彼女達を部屋に引っ張り込む為の口実じゃねぇ~し!!と心の中で声を大にして抗議しておいたのだった。


そして、風呂にも入って、夜の10時を過ぎた頃、就寝の為に部屋に戻ったのだが、ゾロゾロと3人が枕を掛けて着いて来て俺を取り囲む様に各々の枕を配置してベッドに横になって来た・・・。


これはいったい、何の儀式だ? 3人の視線と言うか、意識が俺に向いているのを察知してしまい、気になって眠れない・・・。


早く眠って寝てる間に終わらせてしまいたいと言う気持ちの焦りもあって一向に睡魔が来ない。


そんな俺の状況を察したのか、アリーシアさんの手が俺の頭に伸びてきて優しくあたまを撫でてくれた。


頭を誰かに撫でられるなんて、何十年振りだろうか?小学校以来?そんな事を考えてる内に意識を手放したのであった・・・。



「ガャーーー!!!」と激痛で悲鳴を上げつつ意識が一気に覚醒するが、激痛過ぎて、何も考える事が出来ない。


「アガガガガ」と声にもならない悲鳴が喉の奥から迸る。


当初頭が痛いのかと思って居たが違った。身体では無い。もっと根底の奥底・・・魂?が痛いのだ。魂と言う外壁が内容物が無理矢理押し込められる事によって張り裂ける様な痛みと言えば伝わるだろうか?


雛が生まれる際の卵の殻の気持ちと言うのだろうか?形容し難いこの苦痛は酷い。



・・・・


・・・


30分?


いや、1時間?


全身にグッショリと汗を掻いて、息をまともに出来る様になるまでにどれ程掛かったのか?



激痛が治まったのか、俺は知らぬ内に完全に意識を失ってしまったのだった。



 ◇◇◇◇


ぐぁ~何か、全身が筋肉痛で痛いし気怠いしスースーするって、あれ?? 俺って何で裸なの?

裸の上にシーツが掛けられている様だけど、寝間着の上着もズボンもパンツさえ履いてないのだ。


徐々に意識が覚醒し周囲を見回すと3人が俺を取り囲む様にくっついて寝て居る・・・。


そこでおれは昨夜のインストール?アップデートの事を思い出したのだった。


何この状況? パンツ何処? 着替えないと!!

若く健康的なこの身体、やはり、男性特有の自然現象は起きる訳で、そう言う欲が希薄になったと言ってもそう言う自然現象は普通にあるので・・・。


彼女達が目覚める前に早くこの裸族状態から脱出しなければならない。


取りあえず、ベッドのマットを揺らさない様に無属性の足場・・・所謂『レビテーション』で自分の身体を持ち上げてシーツの中から脱出し、ゲートでベッド脇に移動してっと。


全身に汗を掻いた記憶があったので、『ウォッシュ』を掛けて『保管庫』から着替えを出してソソクサと着用したのだった。


さて、激痛の代償(『日本の食の英知』)の具合はどうだろうか? とウスターソースやトンカツソースを検索してみると、ヒットした!!!


思わず渾身のガッツポーズ出声に出さず大喜びする俺。そしてこの世界に来て初めて心底マルーシャ様に感謝の祈りをしたのであった。


こうなったら、約束のプリンを献上しないとな・・・。



朝のルーティーンを済ませ、朝食の準備と『約束』のプリンをマルーシャ様の分だけでなく、我が家の分~ラルゴさんへのお裾分けの分まで大量に作り、家の冷蔵庫や『保管庫』に仕舞って行く。


8時を過ぎた頃、アリーシアさん達も起きて来て、急ぎ足で俺の所へ寄って来て

「トージ様、もうお加減は宜しいのでしょうか?」と心配気に聞いて来た。


「おはよう。そして、昨夜は心配掛けてゴメンね。3人共・・・。もう身体も精神面も全部OKだから心配要らないよ。」とお礼を言うとホッとした表情を見せて微笑んでくれたのであった。


暫くすると、師匠も起きて来て、


「トージよ、昨夜の絶叫はお主か? 大丈夫じゃったか?まさか、本当じゃったとはのぉ~・・・最初は特殊なプレーかと思ったんじゃが、余りにも迫真の絶叫じゃったからの?」と少し心配してくれていたらしい。


「ええ、お騒がせして申し訳ありません。もう平気です。完全に元通りと言うか、非常に良い状態になりましたので。」とお詫びと報告をしておいた。



子供達も起きてきて、全員で朝食を食べて食後に初お目見えの『プリン』をデザートとして出してやると、男の子も女の子も歳も関係無く、全員がその初めての美味しさと蕩ける様な食感に打ち震えたり、暫く目を瞑っていたり、感動してくれた様であった。


食べ終わるのが切ない様な表情を皆していたので、「まだプリンは冷蔵庫にも入れてあるから、そんなに切なそうにしなくても大丈夫だよ!割と簡単に作れるし。」と言ってやると大喜びしていた。師匠でさえも。


その後、俺は真っ先に神殿でマルーシャ様にお礼の祈りを捧げつつプリンを献上し、プリンのポシピを商人ギルドに登録するのであった。


勿論、信者2人にプリンを試食させたのだが、騒々しい程に美味しさを讃えてくれたのだった。



この先の俺のプランは幾つかの目標がある訳だが、マジックバッグの製造の他には、ウスターソースやトンカツソースの製造、そしてケチャップの製造工場を作る事である。


まあ場所は既に醸造所街にあるので、まずは自宅で試作してからである。


だが、今の俺にはアップデートで得た『日本の食の英知』があるので大丈夫!? まあ、似た材料で真似て作るのだから同じ様な味になるかは俺の頑張り次第だろうけどな。


大きな寸胴を幾つか追加で購入し、裏の倉庫にあった日本酒の醸造施設は既に工場に移動してあるのでがらんどうではあるが、ここに作業台や魔動具のコンロを設置して、材料になる野菜類や果物類を買い集める事にした。


3人を連れて王都の台所』である都市ランゼンへ行って、人参、玉葱、トマト、セロリやリンゴ等の果物等、スパイス類グローブや胡椒、シナモン、ショウガ、香草類『日本の食の英知』に記載のありそうな物や代用出来そうな物などをドンドン購入して行く。


何か『ぶどう糖果糖液糖』とかって聞き慣れない単語出てたけど、葡萄じゃないし・・・要は果実の糖分を濃縮した感じかな?って思って一応葡萄も沢山購入しておいた。



「沢山買ったな。そろそろ昼時だから、こっちで食べて行くか?」と3人に聞いてみると、「いえ、どうせ食べるなら自宅で食べた方が美味しいですし。」とヤンワリ外食を却下されたのだった。


まあ、確かにマッシモ以外で食べる外食って本当に美味しくはないんだよね・・・。マッシモはもの凄い勢いで俺のレシピが浸透して行ってるから、チョイチョイ外食してるけど、割と安心して食べられる店が増えてるんだよね。


そんなこんなで、自宅に戻ると、子供達が俺達の分まで昼ご飯を作ってスタンバイしてくれていた。


「お帰りなさい! 昼ご飯出来てますんで、今温め直しますね!」とリンダちゃん達がテキパキと動いてセッティングしてくれたのであった。


「おお、ありがとうね。」とお礼を言って子供達の作った昼食を頂く。

オーク肉入りの野菜炒めは非常に美味しく、

「美味しいよ! 本当に料理上手になったね!」と褒めてやると子供達全員は大喜びしていた。


家に来た当初に比べ、変な緊張も無く市全体で子供らしい笑顔を見せてくれるようになった6人。


子供ら6人と俺達大人4名で1つの大きな家族みたいだな。あ!いけねぇ、師匠をカウントしわすれていた!! 全員で11名だな! と頭のなかで考えて微笑むのであった。



午後から全員で裏の醸造所改ソース試験場で全員手分けして作業を行う。


野菜や果実類を綺麗にあらって、魔動具のジューサーに掛けて摺り下ろし、寸胴に投入して行く。


葡萄の実を搾って葡萄ジュースを作り、味見で全員分をコップに入れて試飲して、「美味しい!」と微笑んで、魔法で少し水分を飛ばして濃縮した。リンゴも摺り下ろして寸胴に投入し、水をいれて塩を入れてビガーも入れて、香草類(タイムやセージやローリエ)を入れて唐辛子やしょうがを摺り下ろした物を入れて弱火に掛けて掻き回しながらジックリと煮込む。


砂糖で作ったカラメルを入れて良く梳かしながら先程の葡萄ジュースを少し加え、沸騰しない程度に加熱してよくかき混ぜてここで事前にブレンドしておいた香辛料類をドンと投入し火から降ろして冷ました後、殺菌済みの密封可能な壺に移し替えて、冷暗所に3日程寝かして置いた。


そして、3日後、密封壺から他の壺に布で濾して移し替えて完成らしい。


もう、この最後の行程で判る事だが、既に香りがウスターソースになって居る。なんとも言えないスパイシーな香りである!

溜まらずにポテトコロッケを取り出して、出来たてのウスターソースを掛けて全員で試食すると、「「「美味しい!!(です)!」」」」と全員が絶賛して居た。


こうなると、焼きそばを食べたくなるのが日本人故の人情と言う物だ。


どうせ、防腐剤等無いので賞味期限も短いし、こうなったら、焼きそばを作るしかない。


『日本の食の英知』で焼きそば麺の製造方法を検索し、小麦粉を使って自作カンスイを使った麺の生地を捏ねて行く。


カンスイは、草木の根の部分を灰にして溶かした水で代用したので大丈夫な筈?

やや太めの焼きそば用の中華麺を打った後、

土魔法で作った石の板の上で、ソース焼きそばを作ると辺りに漂う、ソースの焦げる魅惑的な香りに家の門の前に人集りが出来てしまったのだった・・・。


出来上がった焼きそばに青のりならぬ、岩海苔粉と煮干し粉を振り掛けて全員で試食したが、全員から最高の賛辞を頂いたのだった。


「トージ様、この焼きそば最高ですよ!是非市販すべきです。」と子供らも女性陣も強くプッシュして来る。



だけど、これを市販したり、するには些か高いハードルが幾つかあるのだ。


まず、ウスターソースの市販化と中華麺の市販化が必須である。


その上で初めてソース焼きそばのレシプ公開が可能となるのだ。


日本の様に製麺工場でオートメーション化が出来る訳でも無く、工員を雇うにしても日保ちしないので、作り置きが出来ないのも問題である。


よって、本格的には、マジックバッグを作れる様になってから。と言う事になってしまうのだ。


と言う事を説明すると、悲しげな顔でトーンダウンするのであった。


いや、まあ俺だって作れる物なら直ぐにでも作りたいのだ。


一応、冒険者ギルドにはシャドー・スネークかビック・イーターの出没情報を集めて貰っているのだがダンジョン以外での目撃情報も無く。


『マッシモ東ダンジョン』の34階層まで行かないと駄目だと言う事は現状判明しているのである。


ゲートで日帰り出来るとは言え、34階層までの道程は非常に長く遠いのだ。


「いよいよ、マジックバッグの為にダンジョンに潜る時かも知れないな。」と俺が呟くとアリーシアさんがハッとした表情をしていたのだった。

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