第67話 キャンペーン その2
子供らと約束した日になった。8つの鐘が鳴ると、子供ら6名がワイワイと話ながらやって来た。
「トージ様、孤児院から来ました!」とあの時最初に給金の質問をした少年が玄関をノックして声を掛けて来た。
「おー、いらっしゃーい。良く来てくれた! ささ、まずは入ってくれ。」と言って家の中に招き入れ、改めてこちら4人の名前を教えてから食堂の椅子に座らせて自己紹介をして貰った。
男の子2人、女の子4人で、全員10歳だが、やはりこの世界でも女の子の方が成長が早い様で、男の子よりもやや大人びた雰囲気がある。
しかし、小さくても流石は男、ちゃんと先日の質問の口火を切った少年がこのグループのリーダー格を努めて居るらしい。
「じゃ、じゃあ、俺、いや僕から・・自己紹介します。マッシュです。10歳です。」と何とか言葉を丁寧にしようとしてみるマッシュ君。
「ああ、別に『俺』で良いぞ、家はそんなに面倒な所じゃないし、冒険者なんてみんなそんな物だから気にしなくて良い。貴族様の前で喋る訳じゃないから、先も長いし気楽にな。」と俺が間の手を入れたら、次の少年がちょっとホッとした表情をしていた。
順に名前や得意な事なんかも教えてくれた。
男の子のもう1人はクリス、女の子のリーダー格のリンダ、アーニー、サリー、ロジェである。
感心な事に、6人共に読み書きは大丈夫で、得意では無いけど計算も出来るとの事だった。
「そうか、6人共、かなり優秀じゃないか。勉強頑張ったんだな。偉いぞ!」と一通り褒めてから作業についてを話を始めた。
「今日からある程度の量が出来るまで毎日お願いする事になるが、料理に一番大切なのは清潔にして、衛生に気を付ける事だ。
なので、申し訳無いけど今から1回俺の魔法で綺麗になって貰って、こちらの用意して作業着に着替えて欲しい。」と言って全員を1回立たせて、全員に
ウォッシュと念の為の浄化を掛けておいた。
「ウヒョ!」「キャー」と驚きの声が上がったが善見違える様に綺麗になった。
「おし、全員綺麗になったな。あと、1日の作業終わったら、帰る前に我が家の風呂に入って行きなさい。気持ち良いから。」と言って、合図すると、アリーシアさん達が子供らを男女に分けて着替えに連れていった。
俺は、一足先に庭の方に出て、土魔法でキャンプ場の炊事場の様な屋根付きのエリアを作り、子供らの身長に合わせた横長で蛇口の付いたの洗い場とその後ろには作業用のテーブルと長椅子を作ってその上に、芋の入った麻袋を出して行った。
着替えの終わった子供達がさっきまで無かった洗い場や東屋の様な炊事場に驚いていたが、そこはするーしつつ、手順をアリーシアさん達から教えて貰って、芋を洗い始めたのだった。
何かこう言う大人数で作業するのも子供らと
芋を蒸して、一周皮に切れ目を入れ冷水につけて皮をつるんと剥いたりしつつ、2時間程頑張った所で、一回お茶とお菓子で休憩を挟み、特に問題もなく順調に進んでいった。
俺は俺で、離れた所に作業台を置いて、アリーシアさん達と一緒にマヨネーズ作りである。
今回芋蒸かし部隊(子供達)が居るのでポテトサラダも大量に作れそうだし、この機会に沢山備蓄して置こうと思っているのである。
沢山作ったら、孤児院にお土産で持って帰らせてお裾分けも出来るしな。
やっぱ攪拌とかって、ミキサー的な魔動具作るべきだよね?
師匠に提案してみよう。
あ、師匠? 年寄りには子供の声は響くから・・・とか言って朝から店に行っちゃったんだよね。特に子供嫌いって感じでもなさそうだけどなぁ。
大量のマヨネーズが歓声したら、タルタルソースの為に玉葱のみじん切りを子供2人に手伝って貰って作ったり、ポテトサラダ様の人参を切ったりトウモロコシを湯がいて粒をバラしてもらったり、何だかんだで
丁度ひる時になった。
「よし、一旦作業は中止して、昼飯にしよう!」と言うと子供らの目が嬉し気に輝いた。
食い盛りの子供らの事だから、ガツンとした物が良いだろうと、ご飯にオーク肉の焼肉(甘辛のタレに漬け込んだ物)を焼いて、目の前に出したBBQグリルでジャンジャン焼きながら、作り置きのポテトサラダを出してやって、今自分らが手がけている物の完成形を一先ず先に
味合わせてやった。
肉を前にした子供らのテンションが凄い事凄い事。
わーわーと大はしゃぎである。
手を合わせて頂きますをさせて、大皿にドンドン運ばれる肉の山をみんなで嬉し気に食べて居る。
これでこんなに喜ばれるのであれば、早めに本物の焼肉のタレを完成させたい物だな・・・。
「お腹と相談しながらドンドン食ってくれ!お替わりも沢山あるぞ。」と言うと初めてのマイマイが気に入った様でみんなお替わりを要求してきた。
いやぁ~食べ盛りの子供ってこんなに凄いんだね? 自分もそんな時代があったのか?と記憶を探したがそんな覚えはなかった。
「こんな肉、彼奴らにも食わせてやりたいな・・・」とポツリと呟くマッシュ君。
「ああ良いぞ。折角だし今日の夕方に持って帰ってやれよ。 いや、重いし冷めると美味しさが落ちるから、早めに上がって、向こうで焼くか!」と言うと、嬉しそうな笑顔をみせて、
食べる事を再起動させたのだった。午後の作業は昼飯で食い過ぎた様で少し速度は落ちて居たが、それでも頑張ってくれたので、鐘3つで切り上げて、女子チームから、お風呂に入らせてやった。
アリーシアさん達が女の子達にお風呂の入り方を教えてやり、俺は男の子2人と一緒に入る事になる。
女子チームが上がるまで、マッシュ君とクリス君の2人と話をして時間を潰す。
「君らは将来何をしたいって思っているの? 冒険者とか?」と聞くと、
「うーん、トージ様、小さい頃は冒険者も憧れたけど、俺の父ちゃん冒険者で護衛依頼の時に盗賊に襲われて死んじゃったからなぁ~。
もっと魔法とかでスパスパって出来るなら話は別だけど、無理かなぁ。」とちょっと遠い目をしていた。
「そうか。クリス君は?」と聞くと、「何処かの商会とかに入って商人になりたい。」と。
なるほど、それだと俺と言うよりラルゴさんの所かな?
まあうちの商会も商品増えてくるし、それもアリか? 等と考えながら話をしていた。
「やっぱり、魔法って憧れる物か?」と聞くと、商人を目指すと言っていたクリス君でさえ、2人揃ってウンウンと頷いていた。
「じゃあさ、今回の一連の仕事終わったら、ヤル気のある奴らで少し修行してみるか? 出来るか出来ないかは、本人の素質次第だから。目の良い奴、鼻の良い奴、耳の良い奴、魔法の才能のある奴、人それぞれだから。
ちょっとやって出来なかったからって、恨まないし出来た奴を妬まない事が条件だけどな。」と言うと「約束するよ!トージ様!!」と2人共に大喜びしていた。
「ああ、先に言っとくけど、俺でさえ、最初の魔法が発動するまでに毎日やって2年掛かったからな。」と言うと少しトーンダウンしていたのだった。
「だって、考えてみろよ、そんなに簡単にイケるなら、世の中魔法使いだらけだろ? そう甘く無いって事だよ。だがな、お前らは運が良い方だぞ。魔法を身に付けるなら子供の内の方が断然有利だからな。それに俺が教えてやるんだし。」と言うと少し持ち直していた。
30分以上掛かって、グッタリとしたアリーシアさん達に引き連れられてピカピカのホカホカになった恩の子4人が出て来た。今朝来た時に来て居た服だが再度ウォッシュを掛けて綺麗にしてやっている物を着ている。
風呂上がりの冷たいミルクを出してやった後、
バトンタッチして俺達男子チームが風呂に行く、髪の毛の洗い方や、身体の洗い方を教え、身体中を綺麗に洗ってやって3人で湯船に浸かると「あぁ~♪」とどこぞのオヤジの様な声を上げていた。
「どうだ? 風呂気持ち良いだろう?」と聞くと、2人共に頷いていた。
「今度孤児院にも作ってやるから、下の子達を入れてやれ!」と言うと「はい!」と良い返事をしていた。
孤児院では、良くてタライで水浴び程度らしく、お湯なんかを使う事も無いらしい。
だろうな。人数多いと不可能と言う物だ。
俺達も上がって、冷たいミルクを飲んで一息付いたら、全員に今日の給金を1人銀貨1枚1万ギリーを渡して、孤児院まで一緒に行って肉をやるのであった。
幸い夕飯の支度前に到着したので、司祭様も加わって、全員でワーキャーと歓喜の声を上げながら食べていた。
帰りにオーク肉のブロックを置いて来たので、暫くは食卓に肉が出る事だろう。
やはり子共は子共らしいフクフクとした肉付きになって貰わないとね!
マッシモの孤児院の子は他に比べれば良い方だと思うけど、ガリガリの栄養失調とかでは無いものの、この世界の一般の家庭の子供に比べると若干肉付きが悪い。
成長期にはちゃんと十分なタンパク質やカルシウムを取ってきちんと成長して貰わないとな!
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