第64話 ポンプの作成
何だかんだで、マッシモが気に入ったのか、それとも俺の所の飯が気に入ったのか、メリンダ師匠がマッシモに居着いてしまった。幸いベッドルームは余っているので問題無いし。
全然にても居ないし、そんな雰囲気さえ無いのだが、死んだお袋に出来なかった孝行が出来て居る様な気分になる。
「ねえ、師匠、どうせなら、あっちの店正式に閉じて、こっちに店出さない? あっちあのまんまじゃ拙いっしょ? ほら使える錬金関係の道具もこっちに欲しいし。」と俺が提案すると、
「それもそうじゃのぉ~。留守中に盗まれる前に持って来るか!」と乗り気になってくれて、本格的に移住計画が始動したのであった。
2日掛かりで荷物を収納して廻り、店の中を空っぽにして、師匠の数少ない私物も入れて閉店準備も全部完了師店のダラス戸の内側に、
「メリンダ錬金術店はマッシモの街へ移転致しました御用の方はマッシモまで!」と言う移転のお知らせを貼って置いた。
最後に俺がソーッと『メリンダ錬金術店』の看板を剥がしてお終いである。 そのシーンを何とも言えない目で見つめる師匠の目には、涙が光っていた。
「師匠!? 何シンミリしてるんすか? 早く戻って手頃な物件抑えましょう!最悪家の庭になりますからね?」と俺が言うと嬉しそうに笑って居た。
一応、念の為商人ギルドにマッシモへの移転のお知らせをして、全部終了である。
引き攣った顔で驚きつつ引き留めようとする王都の商人ギルドの職員を振り切り商人ギルド出て、師匠と2人でハイタッチし、物陰から一気にゲートでマッシモに戻ったのだった。
「しかし、トージよ、お主本当に便利じゃの!? 一家に一人欲しいレベルじゃぞ。」と俺を褒める師匠。
一瞬褒められた気になって喜びかけたが、冷静に考えると「それって、所謂『都合の良い足』って事なんじゃ?」と俺が呟くと・・・。
「なんじゃ、お主、割に細かいのぉ~。細かい男はモテんぞ?」と言われるのであった。
一昔前だとアッシー君だっけ? いや飯も作っているからメッシーでもあるのか・・・。
何か理不尽な言われ様だが気を取り直して、
「さあ、店を見つけに行きましょう」と言って、まずは師匠部屋に師匠の私物を出してから、アリーシアさんと一緒にマッシモの商人ギルドにやって来たのであった。
「あ、トージ様、お久し振りですね。」と久々のルミーナさんが笑顔で挨拶してくれる。
「ルミーナさん、ご紹介します。私の錬金術の師匠で、メリンダさんです。この度王都の店舗を閉じて、こちらに移転して来ました。と言う事で、良い店舗紹介して!!」と俺が言うと、
「え?王都のメリンダ様とはもしかしてあの『メリンダ錬金術店』のメリンダ様ですか!?」と軽く混乱しておいでだ。
「ああ、私がそのメリンダで合ってると思うぞ? 宜しくな。可愛いお嬢さん。」と初めての商人ギルドと言う事で、(毒リンゴとは無縁そうな)魔女成分少なめのメリンダ師匠。
「わぁ、光栄です。流石はトージ様です。こんな大御所に師事されるとは! こちらこそ末永く宜しくお願い致しますね。 あれ?と言う事はトージ様ももしかして、錬金術師の資格をお取りになったんですか?」と聞いて来たので、嬉し気に紫色の錬金術師のカード見せると、「特級ですか!?」一頻り褒めてくれたのだった。
そんなやりとりを師匠から冷ややかな目でみられ、コホンと咳払いして空気を変えてから、店舗を紹介して貰うのであった。
丁度良い店舗の空きがあり、安かったのでそのまま購入し、直ぐに開店準備を始めて店の内部に元の店の商品等を飾っていって、一通り形にすると、屋根の所に元の店の看板を綺麗にウォッシュしてから固定するのであった。
「師匠、閉店から完全移転、正味1日。凄いっすね。」と俺が笑いながら言うと、まったくじゃ!」
と言いながら、店の奥の整理をゴソゴソし始めるのであった。
どうやら俺の言っていた、井戸の水汲み用のポンプを一緒に考えてくれるらしい。
ふむ、これはありがたい。
俺が今回考えて居たのは上から真空引きするポンプではなく、井戸の内部の水中から、みずを水流で押し上げるタイプの所謂水中ポンプである。スイッチ部分から、ちょっと遠くなると言うデメリットがあるが、吸い上げる方式より効率が良くて消費魔力も小さい筈である。
それに何よりも10m以上でも水を押し上げる事が出来るだろうから、深い井戸でもある程度大丈夫な筈なのだ。
問題は配管を何で作るかで、耐腐食性を考慮したら、銅となるのだが、銅パイプを作れる鍛冶師がマッシモに居るか?が非常に問題である。もし駄目なら、結局は悔しいが王都に行く必要があるのだ・・・。
師匠に水中でも腐食しない金属を聞くとやはり、銅が一推しであった。
まあ、幸いにも『魔の森』に近いここの鍛冶屋の腕は良く、銅管の製造を請け負ってくれた。
数日後、納品された銅管の中に魔方陣を刻んだ水流発生の魔動具のスリーブを圧入し、地上に露出している排水口の付いた出すヘッド部分と接合し、早速大豆畑に設置してテストしたが、初めての作品の割にスムーズに動いてくれた。
「トージ、初作品にしては良い出来ではないか!良くやった。」と師匠からもお褒めのお言葉を頂いた。
気を良くした俺は、更にガルダさんの集落の井戸へも設置してやると、大喜びしてくれたのであった。
早速商人ギルドに井戸用ポンプを登録するのであった。
このあと、この井戸用ポンプが農家や農村の心を鷲掴みにしてしまい全国的にヒットする事になったのだった。まあ、値段設定が割と良心的な価格だったしね。
そうそう、漸くマッシモ辺境伯が王都から戻って来て、より本格的に街の衛生面の改革や醸造所街の方も正式に許可や税金面の契約も行われたのだった。
既に醸造所の建物の第1棟は完成して、ダークエルフの監督の下、醸造所として稼働して居る。
そんな醸造所の行程に触発されて、俺は俺で、家の裏の倉庫で、日本酒を造るべく必死にトライ&エラーを繰り返して居る日々である。
こんな苦労も日本の食の英知さえあれば無用かも知れないのにな・・・。
そんな日々だったが、エルフの里でビネガー作りの際のレクチャーを受けた事で、上手く白米を発酵させる事に成功したのだ!
こうなってしまえば、こっちの物だ!!と一頻り小躍りした後、発酵成功した麹を壺に入れて、多めに収納したのだった。
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