第62話 人材確保

王都の匂いの酷い場所・・・ここは王都の『廃棄街』だ。見るからにガリガリで食うに困った者達が溢れている。


ここにも顔役とかって居るのだろうか? 如何せん、ここまで悲惨な状況を目にしてしまうと、放置も出来ないと、人員確保の事もあるので、ラルゴさんとマッシモで待機している3人に救援を要請した。


大量の肉巻きおにぎりや、普通にマッシモで売っているパン、それに具材を挟んだサンドイッチ具沢山のスープ、オークの肉串等を沢山用意して、王都に乗り込み、リヤカーの様な荷台のある台車に乗せて誇りが付かない様に布を被せてラルゴさんの手配してくれた助っ人7名と護衛役のマッシモの夜明けの5名、うちの女性陣3名で『廃棄街』へとやって来た。


え?平然とゲート使って良いのか?って? ほら、先日国国王陛下から、(そのお言葉を信じるのなら)大層な印籠を頂いたし、余計な事にならんだろうと言う甘いと言われそうな根拠だけど。



俺達を見る目が獲物を見る目になっているが、其処は俺が威圧を掛けつつ『廃棄街』の丁度広場になっている場所に陣取り大声を張り上げた。


「おーーい、ここの『廃棄街』に居るみんなー!聞いてくれ、これから、無料で食事の炊き出しを行う。多めに持って来ているが、みんなでルールを守って食べて欲しい。順番を守れない者、ルールを破る者、人の食べ物を取ろうとする者にはやらんし、次回以降絶対に食わせん。みんなで仲良く分け合って欲しい。食べたい者はここに一列に並んでくれー!」と言うと「うおーー!」と歓声が上がった。


「良いかー? 押すなよあわてるな!? 体調悪い者や病気の者が居たら、ここに連れて来て欲しいが、動かせない者なら、案内してくれ、出来る限り治療してやる!俺が出向くから。」と宣言すると、ドヤドヤと並び始めた。


土魔法で作った石のテーブルの上にドンドンと並べられる寸胴や、美味しそうな匂いを放つ肉串等に飛び掛かりそうになりつつも、ちゃんと俺の言う通りにならぶ人々。


そうして、並んだ者に順にスープの器とサンドイッチや肉串を渡して行く訳だが、思った以上に人が多く、肉串の方が尽きそうだったので、その場で焼くことにして、テーブルの横に魔法でBBQグリルを作り、木炭を並べ火を点けた。


もう、串に刺すのも面倒なので、トングで焼いたオーク肉を皿の上にドンドンと盛り上げて行って、取り皿を追加で出して置いて助っ人と女性陣を合わせた10名で配って貰った。

まあ、一応マッシモの夜明けの5名には護衛兼整列誘導をお願いしていたが、驚く事に行儀良く、割り込む事も騒ぐ事も無く、大人しく順番を守って居る。


俺は肉を焼く合間に彼らにウォッシュと浄化を掛けてやっっていたが、途中から、マッシモの夜明けのメンバーの1人に肉を焼いて貰って、俺は専らウォッシュと浄化の専任となった。


肉やスープの皿を受け取るとお礼を言って、横にズレて嬉し気に肉に齧り付きスープを啜っている。混乱も無く、ちゃんとお行儀良くルールを守って食べてくれている。

2回目にコッソリと並ぶ者も居無い・・・。

暫くすると、ちょっと、威厳のありそうな強面のオジサンが俺の所に来て挨拶をしてきた。

「兄ちゃん、今日は、食い物配ってくれるのはありがたいんだが、何か良からぬ算段あってじゃねぇよな? オラ、ここ一帯の顔役やっている、オーリンって者だ。」と威嚇とも何とも言えない挨拶をして来た。

「ああどうも、オーリンさん、初めまして。俺はトージと言う者で、冒険者だが商会もやっている者だ。 良からぬ算段ではなくて、建設的な提案も兼ねてやって来たんだけど、ほら、それどころじゃない人が多かったからさ、まずはお腹に何か入れてからじゃ無いと、良い話も頭に入らないだろ?」と俺が言うと、ちょっと安心した様な表情を見せた。


「オーリンさん、簡単に言うと、こんな住み難い王都から移住して、心機一転頑張って働かないかって言う提案なんだ。 向こうには住居も用意してあって、ちゃんと働けば3食と温かい寝床、そして清潔な風呂にトイレ、それに勿論給金が出る。 不当名ピンハネなんかしないし。

その代わり、真面目に働く気のある奴だけで、悪党や犯罪者は要らない。」と言って提案の内容の概略を簡素に説明したらゴツい顔を綻ばせて凄く嬉しそうな笑顔を見せてくれた。


オーリンさんにも食い物を渡して、更に踏み込んだ仕事内容を話すと、かなり前向きになってくれた。


「まあ詳しい事は、後日になるが、希望者を募って纏めて貰って良いか? その代わり、その間の食料は俺の方で提供しよう。」と言うと「任せとけ!」と胸をドンと叩いていた。


一通り食事が終わると、病人や怪我人の治療をして廻り、ここに来て初めて部位欠損のある青年に巡り会ってしまった。


「流石にこれは俺にも未経験で判らないが、出来る限りやってみる。駄目でも恨まないで欲しい。」と俺が言うと、「ああ、こうなっちまったのは俺の所為さ。恨むなんてありえねぇ~。」と言ってくれたので、

魔力を練り上げて、細胞の中のDNAの情報に従って修復させる様なイメージで魔力を放った。


手首から先が無いのだが、失った手首の先が白い輝きを放ち始める。グングンと大量の魔力を持って行かれる・・・。


何か上手く行きそうな気がする。


俺の残存魔力の1/3を持って行かれた所で、白い輝きが徐々に収まりその後には汚れ1つない真っ白な手の平が出来ていた。


「おーー!キツかったけど、上手く行ったな!! おめでとう!!」と俺が言うと、その青年は大泣きして俺に抱きついてきた。

「だ、旦那ーーー!ありがとう! 夢じゃ無いよな!? これ俺の手だよな!?」と大喜びする青年を一度、制し、ウォッシュと浄化を今更ながら掛けてやり、匂いを取ったのだった。


ごめん、ちょっと我慢出来ない程の悪臭だったので。


「俺は、トージだ。働く気があるなら、オーリンさんの所に纏めて貰ってるから、行くと良い。3食温かい寝床付きで給料もでるぞ! あ、お前、飯食ったか?急いで広場に行けば飯が在るぞ!」と言ってやると、


「ありがとう、トージ様、俺はアランって言う者だ。是非働かせて貰うぜ!この恩は一生忘れない。」と言いながら、広場の方へと向かって行った。他にも何人か部位欠損者が出て来て、流石に本日だけで全員は無理と言う事で、治療に関しては3日間に分ける事となったのだった。


『情けは人のためならず』とは良く言った物だ。この3日間の部位欠損者の治療のお陰で目や足、耳等の絶望的な部位欠損や更に声を出せなくなってしまった者、指を失った者達を治す事が出来たのだった。


何気にこの前例は非常に嬉しい。無くなった部位が元に戻って大泣きして喜んでくれるのも嬉しいが、ラノベにある様なそう言う魔法がちゃんと使えたと言う事も非常に嬉しいのだ。


そう思いつつ、我ながら酷い性格だよなと思うのであった・・・・単純な善意と言うより、これじゃあ、実験じゃないか!?と。


結局マッシモ移住希望者の人数は全員で345名になり、少々予定をオーバーする事となった。


しかし中には元農民も居り、大豆の栽培やマッシモ・マイマイの栽培の方に従事しても良いと言う事だったたので、仕事が無いと言う事にはならなさそうである。


醸造所の方はもう少し掛かりそうなのだが、一応、宿舎を増やす様にとお願いしておいた。


そんなこんなで、俺は王都とマッシモを忙しく行き来しつつ、それでもちゃんと師匠所で講義も受けている。


「トージよ、何かお主最近『廃棄街』の方で何やら面白い事をして居らぬか?」と聞かれ、

「ああ、マッシモに新しく出来る工場街というか、醸造所エリアがあるんですけど、そこの従業員の募集で少々動いてましたね。」と答えたら、

「なんじゃ、マッシモは食い物も美味そうじゃし楽しそうじゃの?」と少し羨ましそうな感じのメリンダ師匠。


「じゃあ、この修行が終わって、俺が錬金術師の資格取ったら、師匠もマッシモに移住しませんか?店を作るのも良いし、当面家のゲストルームもあるから。」と俺が誘うと、


「ふむ。それも悪く無いのぉ~。アクセク働かんでも死ぬまで十分に生きる程度には蓄えもあるしのぉ~。」と呟いていた。


「なら是非に!」と俺が言うと、「まあ考えて置くわい。」と言って話が途切れたのであった・・・。



2週間が経った頃、漸く追加の宿舎も形になったので、土木作業の出来る者も多数居るので、ここ『廃棄街』で俺の食料提供をボーッと待つよりは良いかと、一歩早めだが、345名をマッシモに送り込む事にした。


どうせ、家財道具も含め諸々足りないので、作れるのであれば、先に作って貰おうと言う事である。

悲しい事にここの殆どの者が身分証を持っていないので、今回は特例でマッシモ辺境伯より、マッシモ領民の身分証を貰える事になっているのである。


全員を集め、それっぽい、石出出来た門を作って、丁度どこに合わせる様に『ゲート』を発動して見せた。まあ子供騙しに近いが知らない者がみれば魔動具かと思うんじゃないかと。


これだけ大人数を一気に移動させるのは初めてではあったが、何の問題もなく、スッと移動は成功したのだった。醸造所街の方では、アリーシアさんやラルゴさんが待ち受けて居り、オーリンさんと一緒に事前の打ち合わせ通りに宿舎を割り振って行く。



移動した345名は非常に素早くここに慣れて2日後からは実際に働き手として力を発揮してくれた。


意外と言うと失礼かも知れないが、『廃棄街』に燻っていた者達とは思えない程には有用な人材であった。


農業経験者の15名がここ醸造所街の近所で大豆の栽培を行う事となった。


そんな訳で、急遽畑になる土地を耕し直ぐに豆を蒔ける様にフンワリの土地にしておいた。

畑の横に作業小屋と井戸を掘って置いたが、早々に魔動具のポンプを作るべきかも知れない・・・。


一応ラルゴさんに魔動具のポンプの存在を尋ねたのだがそんな物は無いらしい。


師匠にも聞いたが答えは同じであった。


水を出す魔動具があるから、要らないでしょう?って事らしいが、そんな高価な魔動具を農民達が使える筈も無く、紐に括り付けた桶を落として組み上げると言う力技でやっているのが普通らしい。


ガルダさんの方も同様らしいので、これがこの世界の標準なのだろう・・・。


ポンプの事はさて置き、必要な道具一式を揃えてやって、行き帰りの竜車も用意してあげて、後はお任せで在る。


彼らの為にも早めにポンプの魔動具を作ろう!!と意気込んでいたのだが、

「おやおや、トージ、その心意気は買うけど、お前さんはまず最初に国家資格を取らないとね?」とメリンダ師匠に釘を刺されるのであった。


最近は魔動具の魔方陣作成から趣が変わり、精錬や、抽出、それに生成等の化学的な錬金術を主にやっている。これでポーションなどを作ったり、鉱物から純粋なミスリルや、目的の成分を抽出して精錬出来る様になるのである。


意外や意外、この抽出、俺が無意識に岩塩層から岩塩を取り出したのと同じで、より緻密なフィルタリングしたのが錬金術で言う抽出と錬成であった。


余りに引っ掛かる事無くホイホイと俺が『抽出と錬成』を熟すので、

「あんたって子は面白く無いねぇ~。なんでそんなにホイホイ出来てしまうかね?」とボヤかれてしまったが、


「そりゃあ、優秀な師匠の唯一の優秀な弟子っすから!」って胸を張って返すと笑い飛ばされてしまった。おかしいな。ソコソコ優秀だと言う自負があるのだが? 納得いかない・・・。



この世界のポーションには幾つかの種類がある。治癒を目的とした治癒ポーション。エナジードリンク的なスタミナポーション、それに魔力の回復を早めるマジック・ポーションである。


グレードはそれぞれ、低級、中級、上級の3段階である。


生成方法はほぼ同じで、単に使う素材の薬草の違いで出来上がるポーションの種類とグレードに違いが出る。


実際に作る際の肝となるのは、最初の機材の浄化や混ぜ込む魔力を含んだ魔力水の魔力量の様で、俺の作ったポーション達は恐ろしく効果の高い物になってしまった。


それこそ、師匠が驚く程であったと言って置こう。ふふふ。


「な?やっぱり優秀な弟子じゃん!?」っと思わず呟いたら、聞こえて居たらしく、「まあ確かに規格外に優秀過ぎる弟子じゃな。」と言ってくれたのだった。


良かったよ。俺は褒められて伸びるタイプだからな!!


そして、今日、師匠から、とうとう、免許皆伝ではないが、一通りの修行の終わりと国家試験を受ける許可とメリンダ師匠の弟子であり十分な実力を有する者と言う証明書と言うか紹介状を頂いた。


なんでもこれを持って、王城の宮廷魔法局の錬金術課に提出したら、国家試験を受けさせて貰えるらしい。


「長かった修行の日々に漸く終止符が打たれ、やっと魔動具作れる様になるのか!?」と俺が感慨深そうにその紹介状の封筒を眺めていると大笑いされた。


「何言っているんだい。普通はどんなに早くとも3年は掛かるんだよ? 半年掛からないくらいで修了証書貰っといて何言ってるんだい!?学校なら、4年から5年だよ?」といわれたのであった。


どうやら、俺は錬金術界の韋駄天君だったらしい。


「しかし、師匠、ありがとうございました。」と頭を下げてお礼を言うと、「お礼は合格してから言うんだね! この私の唯一の弟子だ、一発合格意外認めないからね!ミランダの弟子の凄さを見せつけておやり!」と激励ともプレッシャーとも取れるお言葉を頂いたのであった。


「とは言えまあ心配は要らないよ。あんたを落としちまったら受かる子が居無くなるし、現役の錬金術師すら怪しい物だしね。ケケケケ」と毒リンゴを作っていそうな笑い声を上げていたのだった。

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