第56話 さらば王都よ!
翌朝目覚めた俺は、直ぐに王都邸の戸締まりをして、
アリーシアさんと姉妹達の3人を連れて、王都の城門の方へと徒歩で向かった。
面倒ではあるが、一応、記録の有無は判らんけど、門から外に出たって既成事実作って置くべきだろうと言う判断だ。
まあ昨日一悶着あったけど、俺の個人情報までは把握されてないだろうし、出たと言う事実さえ残せば大丈夫だよな?
7つの鐘の直後なので、割とスムーズに衛兵の検問まで到着した。
前に並んだ冒険者が検問をパスして俺達の番となった。
「はい次、身分証を見せて!」と事務的に伝えて来る。
俺達は一歩進んで冒険者ギルドのカード等を各々提示して見せると、
「ちょっと待ってろ。」と言い残して、奥へと引っ込んでしまった。
「あら?」って思わず声が出る俺。
「あらら? 普通ならほぼスルーですよね?」とアリーシアさんも戸惑いの声を上げる。
「も、もしかして昨日の?」と身に覚えがある事で顔色を青くするソフィアちゃんだが、俺は
「えー?昨日の? いやいや全然問題無いだろう?人命救助したんだよ?褒められて然るべきだろ? あれで罰するってなら、終わってるだろ?(この国が)」と俺が呟くと少し持ち直して居た。
・・・だが、現実はちょっと違った。
「えっと、と、トージ? さん? とその御一行?」とちょっと衛兵も困惑気味に問うてきた。
「あはい、俺がトージだけど何か? この3人は俺のスタッフなんで。 何か問題ありました?」と聞いてみるが、非常に歯切れが悪くモゴモゴ言っているし。
「で、通って良いんだよな?」と語気を強めて尋ねと、
「も、申し訳ありませんが、王宮の方に確認して頂かないと・・・」と言いやがった。
そこで、やっと俺はラルゴさんが言い難そうに帰る事を延期している理由を察してしまったよ。「なんだよ、水臭い!同じ釜の飯食った仲なのに・・・言ってくれれば良いのにさ。 いや口止めされたのか?」とちょっと先日強く言ってしまった事を後悔し、心の中で詫びるのであった。
「ああーー何も悪い事して無いのに、なぁ~! どうしようか? サクっと帰るか!? いやそれだと、ラルゴさんが板挟みか。」とウダウダしてしまったが、「衛兵さん、じゃあ、衛兵さんが『そう』言った『から』って事で王宮にねじ込みに行けと言う事で良いですね? ファイナルアンサー?」とまるで質の悪いクレーマー?見たいな言い草したら、目に見えて狼狽していた。 あれ?最近だと『カスハラ」って呼ばれる事が多いんだっけか? まあ、あれだ、自分でかれに非が無いのは重々理解してるけど、少し八つ当たりさせて貰ったのだ。
自分で言って、ああ、俺カスじゃん。って思ったし。
「すまん、衛兵さん、あんたの所為じゃないのは重々判って居るが、この怒りの持って行き場所は王城って事になると、この国の象徴なくなるじゃん? やっぱり、国の運営麻痺させて関係無い人を巻き込むのも人としてアカンし。 まあ良いや。王城に『文句言いに』行けば良いんだな?」と言って3人に合図して回れ右してUターンしたのであった。
そうそう、特に言って無かったけど、姉妹達は俺の『ゲート』を既に知って居る。ゴザレオの家を管理していた筈の彼女らがある日突然ここに居たって事がその証でもある・・・。
先日の王宮での事や交通事故等、諸々を経て、俺の中で多少考え方に変化があったんだよね。
別に敵を作りたい訳でも、よくある俺TSUEEEEムーブをしたい訳でも、ハーレムウハウハをしたい訳でも万能感に酔いしれたい訳でも無い。ただ新たに頂いた命と人生を有意義に前世で成し得なかった事を好きにやって美味しい物を食べて
日々を楽しく!が俺らしいと。 『だから』その為にはコソこそと生きるだけでは駄目かもって思ったんだ・・・。 大事な仲間を危険に晒さない様にする為にもね。
そんな訳で、サクっとラルゴさんの所にやって来ました。
面会を申し込んで通された応接室で凄く申し訳無さそうな表情をするラルゴさんに俺は話し掛けた。
「ラルゴさん、水臭いよ! この帰郷延期って王宮指示なんでしょ? 俺の所為なんでしょ? 先日はゴメン!、いや本当に申し訳無かった。」と頭を深々と下げる俺。
「え?」と驚いていたが、おれが先程城門の検問で止められた事を簡素に伝えると、あーー!?なる程って顔をしたのだった。
「ところでラルゴさん、実際のところ、ラルゴさんだけなら足止め無いの?だったら話は早いんだけど、実際マッシモでヤル事多いのに、拙くない?」と尋ねると、実際にヤバイらしい。
「で、同じ釜の飯を食ったラルゴさんを信用して告白するんだが、内密にしてくれる?」と言って、『ゲート』披露したのであった。
「トージ様!!!!水臭いですよ!!何が同じ釜の飯ですか!? こんな裏技!!!物流の大革命じゃないですか!」と言いながら、マッシモのラルゴ邸の書斎でなにやらプンプンとお怒りである。
「だからこそ、言えないだろう?しかも俺しか使えないんだし。碌な未来にならない展開しか浮かんで来ないよ?」と俺が言うと「確かにヤバイですね。」と頷いていた。
まあ怒られる序でに「まあラルゴさん達の食い過ぎで材料の在庫がヤバかったのは事実だけど、あの後、マッシモで追加購入したんだよね!」と告白すると余計に怒っていた。
結局その日はラルゴさんのご機嫌を取る為にゴザレオ産の生魚や煮干しを使った焼き魚定食をご馳走する事になったのだった。
あ!そうそう。
俺とラルゴさんがマッシモで本格始動を始めようと言う時まで、マッシモの夜明けのみんあの存在をスッカリ忘れてしまっていて慌てて迎えに戻って取り繕ったのは俺とラルゴさんだけの秘密である。内緒である。
■■■
さて、マッシモに戻った俺達がすべき事は、マッシモ辺境伯から託されているお達しの書面というか指示書を領主館を預かっている代行役に渡し、後はその指示書にも記載されていた事は先行して行う事である。既に許可と裁決のサインもオタ抱いているので、ガルダさんやその周囲の方達に計画を話して、ガルダさんの集落で開拓を始める感じである。
勿論その開拓には俺も助っ人で参加する予定なのでこの先かなり忙しくなるが、荒れ地というか、畑として掘り起こされてなかった土地なので土を耕し栽培にてきした畑にしてやる必要があるのだ。
まあ、そんな場面でも俺が居れば、魔法でサクサク耕して、邪魔な岩や切り株の除去もサクサク終わる。 やっている俺自身でも、非常に便利過ぎる能力だと思う。
猟師とか、冒険者や兵士は当然だが、農家こそ、魔法を学ぶべきだと強く感じるよ。
3日間で開拓時の面倒な作業を完遂してガルダさん達に引き渡してここでの俺のお役目は終了だ。
それが終わると、今度俺1人でエルフの里へ向かう空の旅である。
例の連続ゲートと空気抵抗軽減する風シールドの恩恵で、驚く程に移動速度が速い。実際にエルフの里を発見するまでに1時間でお釣りが来るぐらいであった。
で、里を発見した俺の仕事はラルゴさんとアリーシアさんを呼びに一旦マッシモに戻ってエルフの里へ行く事である。まあ簡単に言えば運び屋だな。
サクっと話を纏めて、作業に入らねば、在庫切れで禁断症状が出てしまう人が俺の周囲に続出しちゃうし、醸造所の建設は急務である。
ただ問題はエルダさんの話では、エルフの里には人が少ないと言う事で醸造所で働いてくれる人員の確保も考え無いといけないのだ。
2人を連れてエルフの里の近所に出て徒歩で里行くと里の入り口を警備しているイケメンのダークエルフがこちらに気付き声を掛けて来た。
「よう、おめーさん達見ねぇ顔だな? 里に何か用か?」と。
「ああ、初めまして!トージと言います。エルダさんに以前打診しておいた話をしにやって来ました。 エルダさんいらっしゃいますかね?」と俺が言うと、
「ああ、あんたがトージか! エルダから聞いてるよ。ソイやソイペーストのお得意さんだってな!!人族なのに珍しい。 多分、家に居ると思うから、ちょっと呼んで来てやるよ!」と言い残しピューッと里の奥へと走り去った。
流石は警備を担当しているだけあって、非常に運動能力が高い。
感じた気配での判断になるが他の街や都市の衛兵であのレベルの者は見た事がない。 もしかして、俊敏な動きはダークエルフの種族的な特徴なのかな?
暫くすると、寝起きかと思う様な雰囲気のエルダさんがやって来て、里の長老と合わせてくれたので、序でに里の醸造所の責任者も呼んで貰い、全員で会議を始めたのであった。
「どうも本日は突然にも拘わらずお時間作って頂きありがとうございます。」と挨拶をして、話をはじめる。
こちら側の面子の自己紹介を終え、エルダさんから順に紹介されたのだが、やっぱエルフって凄いわ!!一見エルダさんのお姉さん?って思える20代後半に見える女性が長老らしい。 いや、見た目で言えば渋谷とかに彷徨いてそうな感じのギャル風の女性が長老なんだって、驚くっしょ!?
「エルダから聞いておったが、あんたがトージかい? わたしゃ、このエルフの里の長老やってるリーフって者だ。周囲からは『リーフ婆』って言われてるよ。歳は秘密さね。フフフ」と何とも雰囲気のある自己紹だった。
「俺が里の醸造所を仕切ってる、トリオンだ。 一応里のみんなには『親方』って言われてる。好きに呼んでくれ!何でもジャンジャン作れって言われてっけど、人手不足で難しいぞ?」とカッコ良いのに捻りはちまきしてて大工の棟梁と言った方がシックリ来るトリオンさん。
「醸造所をマッシモに作るのは良いが、そうなると、監督出来る奴をそっちに派遣擦る必要あっからなぁ~。それと、豆はどうする?大量に作るなら豆も大量に必要だぜ。」と更なる問題点を指摘してくれた。
一応念の為確認したが、トリオンさんの言う豆とは俺が大豆と呼んでる物で間違い無かった。
「豆は何処かの農家にお願いして委託でガンガン作って貰いましょう。最悪余所の領からの購入もアリかな。何れ、全国制覇するだろうし、沢山在っても困らないからね。」
結果どのくらいの規模にするのかまで話を煮詰め、醸造所1棟当たりに必要な人数を教えてくれた。
最初の打ち合わせが終わった後、里の醸造所の内部等を見学させて貰って、醸造所を作るに際しての注意事項等を教えて貰ったのであった。
ザックリとした内部の構造や、通気口の仕組み等を確認し、イラスト図の様な物を何枚も描いておいた。
醸造所の中は、昔近所にあった醤油屋さんと同じ匂いがしており、少し懐かしい気がした。
序でに『ビネガー』作りの部分も見せて貰ったがどうやら雑穀を使って作って居るようだった。
もしかすると、マイマイを使って貰えば米酢になったり、日本酒になったりするかも知れない・・・・。本件が落ち着いたら相談してみよう。
米酢出来たら酢飯作って、寿司だろうか? いや生で魚怖いかな? 寄生虫とか判らないからね。
菌の場合もそうだけでど、ウィルスとかの何かが原因の場合明確にそれらを排除する意識持たないと治癒とかの結果が言い方向に出ない。
下手に菌を活性化しかねないからね・・・。
こうして、エルフの里の階段は成功し、計画が本格始動するのであった。
そしてホクホク顔でマッシモに戻るのであった。
なんでホクホク顔かって? そりゃ、自分達の大事な調味料製造の秘密を外に出す事になるからね。 拒否されても文句は言えないし。
監督役とそのサポート役を若干名常時在駐として派遣してくれる事になったのも幸いだった。
で、今回の交渉の決め手は俺の作った料理で、ソイやソイペーストを作っているエルフ達が食べた事も無い様な美味しさに撃沈してくれて、マッシモ・マイマイの安定供給やこれから増えるであろう料理の話とかで盛り上がってしまい、その後は驚く程にサクっと話が纏まった。
どうやら、長寿故に『里の料理』に飽きていたらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます