第51話 王家の眠れぬ夜
儂はこの国、ローデル王国の国王、ハイドフェルト・フォン・ローデルだ。儂が王に就任して約41年が過ぎた、今日程国の存亡の危機を感じた事は無い。
帝国との小競り合いやいざこざ程度は国境が接しておれば日常茶飯事である。しかし、そんな事で存亡の危機は感じないしどちらか一方が滅亡する様な対戦にはならないだろう。
幸い綺麗で聡明な妃に恵まれ、やや若い側室2人を設けてもこれまで仲睦まじくやって来られた。子供にも恵まれ3人の王子と3人の王女だ。
次期王となる長男は慎重な性格で、ある意味安心感があるが、元来の真面目で慎重な性格が徒となって、人付き合いと言うか、砕けた付き合いと言うのが上手く出来ない。
つまり、言い換えると、腹心と呼べる者を作るのが下手なのだ。これは王となる者にとってかなり致命的に思える。そう、何でも自分1人では国の運営は出来ない。
ある程度ここを割って話し合える腹心の支えが無ければ、国王なんてやってられない。
だが、そんな長男は非常に的確な政策を考案し実行する能力に長けているのが大きなアドバンテージである。
まあ、長男はそんな感じなのだが、困ったのが次男である。此奴は長男と人付き合いに関して真逆で多くの家臣の心を掌握している様だ。
特に同世代の近衛騎士と仲が良い。
もし長男に次男の対人コミュニケーション能力の1/10でもあれば、もっと安心出来るのだがな・・・。
ただ、次男、こいつは、調子は良いが、兄のスペア的な存在として育って来た所為か、どうしても秀でた能力を持つ人物を頭から抑えに掛かると言う悪癖がある。
所謂マウントをしたい病と言おうか?
自分より優れた者に辛く当たったり、落ち度を探して追求したりして堕とそうとする短所がある。
だから、次男の周囲には人は集まっても、秀でた所の無い者、愚鈍な者や、おべっかだけが得意で産まれ意外誇る物が無い者が多いのだ・・・。
して、そんな次男と次男の側近の近衛騎士が一番やっては行けない事をヤバイ相手にやってしまった。
名前はトージ17歳か18歳らしいが、モロに次男世代である。ただこの男、ただ者では無い。影からの報告では、何時もの様に王宮の各所に潜んで、招待相手の監視を行って居たが、悉く気配を察知して、居場所まで特定して、視線を合わせフッと笑うらしいのだ。
しかも、それは影だけに非ず、一般メイドに紛れている非常時の頼みの綱とされて居る、戦闘メイドも完全に判別しニッコリ微笑むらしい。
折角帝国を出し抜いた目出度い日なので子供らを含め良い出会いの場とな友になればと呼んだのだが。本気で内々の気楽な食事会と思っていたのにだ・・・。
次男の太鼓持ち近衛騎士が次男の否定の声に呼応して、喧嘩ふっかけやがった。
トージは一見して温和な表情で常識や礼儀を知らないので、意図せず無礼を働くかも知れないと予防線を張って、尚どうして堂に入った好ましい受け答えをする若者であった。
しかも彼の生い立ち?経歴が凄まじい。確認出来た範囲でも嘘で無く全て真実を話して居る様だった。
それを次男とボンクラ太鼓持ちが、扱き下ろした。
温和な対応を心がけつつ、カチンと来たのか次男達が尾を踏んでしまったのか、今日手にした我が国の濃っ予算20年分以上の手数料を引いた取り分・・・16年分の国家予算を平気で賭けると言い居った。
しかし、奴の賢いところはだ。穏便な落とし処を一瞬で算段したのであろう。発言を取り消し、次男達は逃げる穴を提供し居ったのじゃ!17,18の若造がだぞ。これには俺も恐れ入った。
だがトージの思惑を理解しようとすらしないバカ共は其処に付け込み形成逆転を謀りおった。最早点ける薬が無いアホ共だった。残念な事に儂は次男の教育を間違って仕舞ったらしい。
バカでも、人望が在れば長男の補佐なと出来るかと今まで様子を見ておったが、失敗じゃった。
彼奴は国に危機を招く。もっと前に廃嫡しておくべきじゃった・・・。
でじゃ・・・。可愛い王女の言葉が元で嘘か本当かを実演して見せると言う事になってしまったのじゃが、あれはヤバイ! 儂はこの歳になって初めて触れてはならぬ者の存在を体感した。
あれじゃぞ!?最初に聞いておった『魔の森』での生活の話なんぞ、子供のお遣いレベルの話じゃったし。詠唱すらなく、一瞬で発動する訳の判らぬ魔法で、瞬時にドームを作り、内部には綺麗な大理石のタイルまで貼って、どうかすると、王宮の湯船よりも立派な大理石の湯船を作り、魔動具では無く時前の魔法で丁度良い音頭のお湯を大きな湯船に張り居ったのじゃぞ!?
もう儂はあれを見ただけで気を失ないそうじゃったぞ。
更にじゃ! ブラック・ウルフの数十匹や盗賊20人を瞬殺したのと同じ魔法を見せてくれると言う・・・。
王宮魔術師団の訓練場に移動して的を20個程集めてランダムな位置に配置させたらじゃ! ヤルと言う宣言の直後に全ての的が粉々になっておったのじゃ。一瞬じゃ一瞬。
つまり、トージはあいてが20人でも瞬き1つも無い時間で瞬殺出来ると言う事じゃ。後で王宮魔術師団の者が的を検査すると、1つの的に対し、頭と足の部分に丁寧に1発ずつ撃ち込まれていたらしい。
つまりじゃ。奴は都合40発を一気に狙って撃ち抜いたと言う事じゃ。 恐らく儂の勘では敵が倍の80人居ても同じ結果じゃろう。
今の王国に奴に勝る者も押さえ込める者も居らん。恐らく帝国にもおらんじゃろう。
■■■
最後に奴と話して、謝罪の言葉を告げ、詫びになる何か、望みがないかとを聞いたのじゃが、息を飲む様な例え話をされたのじゃ。
あれじゃ。暗にお前と王国は敵か?味方か? お前なら自分や身内に手を出す『敵』をどうするのだ?と。しかも『簡単にひねり潰せる敵』をじゃ。
せめてもの、救いは、まだ何処かで儂を、いや、マッシモ辺境伯の所属する王国を信じたい だが、それ以外の王侯貴族までは信用出来ない。敵対すれば潰すと宣戦布告されたのじゃ。
勿論、儂も王国も、敵対は望まんぞ!!!絶対じゃ!
そうじゃ、王宮魔術師団の隊長が、トージの作って残して行ったドームも湯船も破壊も解除も出来ず、どんな攻撃も撥ね除けると頭を悩めておったのぉ~。
我が王宮の庭園に非破壊の神具の様な物が残ってしまったのじゃ。
ああ・・・今夜は眠れん・・・。
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皆様、いつもお読み頂き誠にありがとうございます。
漸く50話をこえました。
誤字脱字、発見次第、随時修正を入れておいりますが、もし漏れがありましたらご一報頂けると助かります。
今後も宜しくお願い致します。m(__)m
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