第50話 王都での平和?な朝 その2

師匠の店を出た俺達2人は、先日の置き時計のある店に行って新居用の置き時計を予備も含めて2台購入し、通行人に聞いた神殿へと向かう。どうやら、王都には2箇所に神殿があるらしく、俺は勿論トラブルの予感のする貴族街の神殿を避けて平民がメインの『廃棄街』と市民街の境にある神殿に向かったのだった。


商店を散策したりして買い物をしたりしていたら『また』反応を察知した。今度は影では無く、普通荷町娘の格好をした昨日見かけた戦闘メイドである。上手く化けているが、何となく『害意はありませんのでご容赦を!』と訴えて居る気がした。


俺はチラリと町娘の方を視界に入れて、微笑みながら、頷いたのであった。 どうやら、意図を察した様で、一瞬にして緊張が緩和したのが伝わって来た。俺はその存在を居ない者として普通に行動し、お目当ての神殿に到着したのであった。


この国の人の宗教観がどの程度の物なのか不明だが、平民向けの神殿は綺麗ではあるが、少し寂しげで寂れた印象を受ける。


マッシモの神殿と同じ作りで、ヒョイとその奥をみると同じ様に孤児院らしき木造校舎の様な建物・・・非常に傷んでボロい が在った。


これは、ちょっとな・・・と思って帰りに立ち寄る事を心に決めた。


前回同様に礼拝等を行いう様な祭壇と像が置いてある広いホールに入って、一礼して、祭壇の前で両膝を着いて、前回の様に女神像の方を見て手の指を組んで合わせてお祈りを始めた。


『ナンシー』様聞こえますか?トージです。『ナンシー』様!」と頭の中で声を掛けると、「妾じゃ!来たか!どうじゃ?調子は?何やら凄い勢いでポイントが貯まって居る様じゃて、ウハウハしておるぞ!その調子で邁進するのじゃぞ!」と調子の良い感じの『ナンシー』様に再度確認をした。


特に好んでトラブル起こしたいとは思っておりませんが、下手すると、この国の王侯貴族と揉めるかも知れません。確認ですが、振って来る火の粉は払っても良いのですよね?」と聞くと。

「良い筈じゃぞ?世界は壊したらイカンのじゃ!それ以外は主題さえクリアすれば良いはずじゃぞ。 まあお主なら、虐殺せずとも収める事もできようぞ?」とのお言葉だった。


「あとじゃ、前回気にして居った他の手駒の存在じゃが、別の大陸に送り込まれて居る様じゃな。まあ離れて居る故遭う機会はないじゃろうて。」と言う事であった。


「そうですか、じゃあ双方で文明発展を食い合う事もなさそうですね?」とちょっとホッとして呟くのであった。


そして、『ナンシー』様との接続が切れると、当然の如くに英知の女神マルーシャ様がインターセプトして来る。

「お!来居ったか。トージよ。お主、頑張って居る様じゃの?非常に良い調子じゃぞ!」と英知の女神マルーシャ様の声が頭に広がる。

「ご無沙汰して居ります。マルーシャ様! 早速では有りますが、一つお願いが! 頂いている『女神の英知』に私の居た世界、日本の知識、主に食事に関してだけで結構なんですが、追加出来ませんか? もう滅んだと聞いて居りますが、折角の美味しい食べ物や調味料に関する知識が欠落してまして、あと一息なんとかヒントになればと。」と駄目元でお願いしてみた。


「うむ、気持ちは判るが、もう一人別の大陸にお主と同じ条件で放り込まれた者もおるでの。お主だけ優遇は出来んのじゃて。」と釣れない返答のマルーシャ様。


「では、もう1人と私の両方に授ければ良いのでは?」と聞くと、「そうすると、お主のポイント減るが良いのか?」と。つまり、説明によると、現時点のこの星の文明の進化であって、どっちの手駒の貢献でも器は同じ。様は向こうで先に進化ポイントに計上された物は俺が後で世に出しても意味が無いと言う事だ。


「えーー!?そんな・・・殺生な。」と俺が嘆くが、まあ、妾も鬼ではないからの。可憐な女神じゃし。お主のポイントに応じて褒美を使わすぞ。


しかし、ちょくちょく見ておるが、お主の作る食い物は本に美味そうじゃの?」と言うマルーシャ様。


「良ければ、献上致しましょうか? まあ手段があればですが?」とからかう気半分、食べてみて、日本の知識補完を決断して欲しい気が半分である。


「何?出来るぞ!妾の像の前に置いて、『マルーシャ様献上致します。』と言えば良いのじゃ!」と速攻で食い付いて来た。マジか!?可能なのかよ。


「最後に1つ、もう1人の手駒は元日本人なのですか?苦労してませんか?」ともう一人の状況を聞いてみた。


「うむ、大変苦労しておるな。まだ森を彷徨っておるぞ。」と元同胞の悲しい現状。 俺の居た『魔の森』と同じ環境なら、苦しんでいるに違い無い。

「可哀想に・・・何とか手助けや救援物資届けられないのですか?」と聞くも、「それは出来ん。お主は独力で物にしたしの。試練と諦めて貰うしか。本来なら既に亡くなっておる身じゃし。ミジンコスタートの来世よりマシじゃろう?」と厳しいお言葉。


「お!ソロソロ時間じゃの。ええか? 『マルーシャ様献上致します。』じゃぞ!!」と言ってプッとマルーシャ様の声が消え、また俺の目の前に覗き込むアリーシアさんの可愛い顔があった。


「大丈夫だよ?今回も。大丈夫。」と俺が語り掛けるとホッとした表情で、接近し過ぎた所為か少し赤く染まった顔を離したのであった


俺は、マルーシャ様が試食後に方針を変えてくれる事を切に期待して、コッソリ取り出した肉巻きおにぎりを置いた皿や、コロッケを置いた皿、オーク汁を置いたお椀を像の前にお供え用の小さいちゃぶ台を置いてその上に並べると、『マルーシャ様献上致します。』と言って頭を下げたのであった。すると俺が魔法で作ったちゃぶ台事全部がパッと消えて像が淡く光ったのであった。


隣で俺の突飛な行動を見ていたアリーシアさんは、小さく驚きの声を上げたが、直ぐに察した様に辺りを見回し微かに微笑んでいた。


丁度一連の出来事が終わる頃、また見計らったかの様に司祭様が現れ、

「ご祈祷ですか?何かありましたらお声をお掛け下さい。」と言ってくれたので、思い切って聞いてみた。


「司祭様ですか? トージと申します。ちょっとお尋ねしたい事が、神殿の裏の建物は孤児院で合っておりますでしょうか?かなり傷んで居る様にお見受けしたのですが?」と聞くと、

「ええ。孤児院でございます。皆様のご支援と王家からの補助金で賄っておりますので、どうしても日々の生活費に追われており、建物の補修にまで手が回らないのが現状でございます。」と心苦しい表情をする司祭様。


「なるほど。例えば、私がここで寄付した分は孤児院にも回りますか?それとも別会計になりますでしょうか?」と聞くと、同じ会計との事。なので俺は安心して、お金の入った巾着袋を手渡し、

「これを寄付致しますので、子供らに使ってあげて下さい。 あと、司祭様さえ許可して頂けるのであれば、孤児院の傷んだ建物を補修致しますが如何でしょうか?」と聞くと、


「トージ様、本当ですか?是非お願い致します。」と大喜びで許可してくれたのだった。

その後、神殿の裏に回ってまずは一旦建物の外部と内部にウォッシュと浄化を掛けてから、ポカンとしている司祭さんをほうちして、土魔法のストーンウォールをつかって、隙間だらけの壁を補修&補強し、更に屋根に空いた穴をストックして居た座木の板で、綺麗に塞いで廻り、雨樋を作って水が溜まらない様に工夫して、

割れた窓はガラス屋に頼む事にして、内部の補修を敢行した。子供達がワーキャーと騒いで修繕されて行く自分達の家に興奮していたが、その隙にアリーシアさんには、ガラス屋の手配や衣服等の手配をお願いして置いた。


半日掛かりで、アリーシアさんの手配したガラス屋も来て、孤児院の建物が人の住める場所へと生まれ変わった。栄養状態の良く無かった所為か、発育の悪い子が多く心が痛かった。

ただ、女神に見守られた地だからか、大病を患って居る様な子が居無かったのだけは救いであった。

よく異世界物では、回復魔法で無くなった腕を生やすとかあるが、俺に出来るのかは判らないし、出来たとしてもどれ程の魔力が必要なのかも判らない。


まあ、様はそう言う部位欠損した様な子が居なくてホッとしたって事だよ。


まあこれから、彼らの生活が多少はマシな生活に変わる事を期待しよう・・・。


最後に風呂場とトイレも増築して、小屋『魔の森』に使おうと思っていたお風呂のお湯の出る魔動具や、トイレの魔動具をそのまま取り付けてやった。

これで清潔な生活を送れるだろう。

魔石は大量に持って居るのを適当な箱に入れて渡しておいた。


最後に食料や、タオルや石鹸、新しい衣服も届き、良い感じの時間になったので、子供らの笑顔に見送られながら孤児院を後にしたのであった・・・。


ああ、やっと少し心の痼りが消えた様な気がする・・・。

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