第47話 強制連行イベ

Noもリタイヤも許されない強制連行中の竜車の中。


「トージ様、何ですか、その悲しげなメロディーの曲は?」と俺が口ずさむドナドナの歌にいち早く諦めきった表情のラルゴさんが興味を示す。


「これは飼っていた可愛い子牛、まあ家畜だ。それが売られて行く際に口ずさむ俺の故郷の歌だ。」と俺が説明すると、「まあまあ、今回は買われて行くんじゃなくて、ある意味売った側ですし。」と何か上手い事言った様な顔をするラルゴさん。


そうだ、確かに売ったけど、こう言う展開はノーセンキューなのだ。

「まあまあ、良いではないですか・・・。マッシモのプラスになる事があるかもしれませんし。」と切替の早いラルゴさんであった。


アリーシアさんはと言うと、既に我関せずの姿勢らしく『借りてきた猫サスペンドモード』の様に大人しい。


だってさ、宴会だー!とか言われても、あんまし期待出来ないしなぁ~。

それでいて、ちょっとでも不敬にな事や気に食わないと処刑イベにチェンジだろ? 全くメリットが無い・・・。


「あ!そうだ!! 2人共、絶対に俺の料理が美味しいとか振ったりするの止めてくれよな!マッシモに帰れなくなると困るから。」と俺が釘を刺すと、判ってますがな!と言わんばかりに2人共ウンウンと頷いていた。


流石に隣の王城へは非常に近くて、5分も掛からずに俺達3人は王城に入り込んでいた。


うはぁ~凄いな。西洋の城なんて某ネズミ園のシンデレラの城ぐらいしか知らんけど、これは凄いな。陛下に先導されて、真っ赤なカーペットが敷き詰められた豪華な廊下を静かに着いて行く。


所処に警備の騎士が居たりするが、それ程強敵と言う気配は無い。


ただ気になるのは、数カ所に隠れてこちらを伺う存在。1,2,3・・・5名か。凄いなぁ~。

気配に悪意無さそうだから影の護衛って感じかな。流石は王家!

と感心しながら影の居る場所をスッと見つめ見つけるとフッと笑う。


何気に楽しいなこれ! ふふふ・・・。


滅入る精神の安定剤代わりに忍び当てならぬ影探しゲーム。


これがなかなかに奥が深く、非常に勉強になるのだ。

気配の消し方、不自然に見えない気配の同化や偽装等、流石は影である。


更に面白いのはこの王宮に居るメイド達で、普通のメイドの混じって下手な騎士よりも強者の気配を漂わせている、所謂異世界物で言う所の戦闘メイド?らしき者が10名に1人ぐらいの割合で混じって居るのだ。


俺達が連れられて辿り着いた場所は何か知らんけど、王族のラウンジなる場所で、王族・・・王子や王女、正妃、側妃達が寛ぐ広々としたラウンジで、適当なソファーに座らされた俺達は逆らう事無くスッと座った。


「なんじゃお主ら、暗いのぉ~。何兆も稼いだのじゃ、もっとパーッと明るくはっちゃけんか!若いのに!!」と言ってから、ハッとした様な表情をして、「そう言えば名乗りがまだじゃったのぅ~。儂はこの国、ローデル王国の国王やっておる、ハイドフェルト・フォン・ローデルじゃ。」と自己紹介を始め自分の家族サッサと紹介して廻り、「ささ、ラルゴは既に見知って居るので後の2名、順に自己紹介をせい!」と軽い調子で命じられてしまった。



俺は半ば諦めてスッと立ち上がり、自己紹介を始めてた。

「お初にお目に掛かります。トージと申しまして、冒険者をやって居りまして、その傍ら、『オオサワ商会』と言う屋号で商いもしております。何分、森育ち故、礼儀やこの国の十式に疎くもしご無礼がありましたら、寛大なるお心でお許し頂けると幸いです。

そして、こちらの女性は私の補佐をしてくれているパートナーと言いますか、スタッフのアリーシアと申します。」と締め括ってスッと日本式のお辞儀をしてソファーに座った。


すると、腹を括ったアリーシアさんも俺の真似をして、スッと立ち上がり、「トージ様から助けて頂いた縁で、現在もお側に仕えさせて居りますアリーシアと申します。出身は、こちらの近くのコーダ村で、昔父と何度か王都にも来ておりました。現在はマッシモの街にトージ様の庇護下にて暮らして居ります。」と言ってニッコリと微笑んで俺と同じく日本式のお辞儀をしてソファーに座ったのだった。


「ほう、面白いの、お主達、何トージは、もしかして異国の貴族の出か? いや森の出身と言っておったの? ん、森?あの『ホーラント輝石』は『魔の森』産とか言っておったの・・・まさか、森って『魔の森』か!」と目をクワッと見開くハイドフェルト王(以降王様と略します)

「はい、お察しの通り、『魔の森』に住んでおりました。」と答えるとラウンジに居る全員が驚きの声を上げる。


「ほほう、誠か?あのような帰らずの魔境と呼ばれる所で人が暮らして行けるのか?」と俺の言う事が真実なのか見極めようとでもいうのか、クワッと目を見開き興味を示す王様。


「まあ、気付いたら、森の中に1人だったので、否応も無かったのですが、確かに最初の数週間は大変でした。」と当時の事を簡素に伝える俺。


「特に困ったのは、飲み水でして。泉を探し当てるまでが、本当に地獄でした。まあ、当時15歳でしたが、幸い、近くに果物の成る木を発見して、その実を食べる事で空腹と喉の渇きを抑える事だ出来たのは不幸中の幸いでした。」と俺が言うと

「何と、15歳と言えば成人したばかりではないか!親は?大人は居らんかったのか?」とやや声を荒らげる王様。そうだろう・・・大人が子供を森の中・・・しかもあの悪名高い『魔の森』の中である。普通の大人であれば考えられない様な非道な行為である。

お怒りは当然と言えよう。

「いえ、気が付いた時には私は1人で木の下に居り(降り)ポケッとに折りたたみ式のナイフが1本だけしか在りませんでした。」と言うと、王妃様や側妃差や王女様からもアー軽い悲鳴が上がる。

「そ、れでお主・・・トージはどうしたのじゃ?」と身を乗り出して尋ねて来た。


「まあ、そうですね、まずは水源を探しつつ、食料を確保し、そから只管に日々鍛錬して鍛えました。只ある日を境に生活に大きくゆとりが生まれました・・・。」と言うとゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえ、全員が次の言葉を待つ。


「して、続きは?」と急かす王様。それにウンウンと頷く若い王子や王女達。

「ええ、ある日を境に自分の中にある魔力を発見しまして、それから魔法が使える様になって劇的に生活が楽になったのです。ズッとそれまで果物だけの生活、ああ湧き水は先に見つけてましたけど食べ物は果物だけでしたので。それが肉を手に入れる武器を手にしてからは、一気に食事の質が良くなりましたよ。天然の胡椒等も手に入れて、塩胡椒でビックボアの肉を食べたり、いやぁ~、最初に倒したビックボアの焼肉は最高でした。」と俺が言うとアングリと口を開けて居る王様。


「お主、誠に魔法を習得出来たのか? しかも独学で?」と非常に驚いていらっしゃる。


「ええ、最初に発動させたのは簡単なライト ただ光るだけです。その後色々試して水を出したり、小屋を作ったり、風呂を作ったり」と言った所で、えー!?と俺と同じ年頃の王子様から、信じられないと言う様な否定に取れる声が上がる。


「あ、話を遮るつもりではなく、どうにも信じがたくてな。家を建てる?魔法でか? それに風呂だ?魔法で水を出すのか?」と率直に聞いてきた。


ええ、木材も使いましたけど、石の壁や材木の屋根にベッドやドアを作りましたよ。恐らく王子様は、そんなに魔力が保たないとご指摘されたいのでは?と尋ねると、その通りとばかりに頷くイケメン王子。


「経験を元に言うと、魔力は使ってナンボです。筋力を付けるには皆さんどう致します?多くの方が走ったり、素振りをしたりして筋肉を痛めつけ酷使して筋力を付けて行くのではないですか?魔力も同じなのですよ。」と


枯渇まで使えばドンドンと魔力が増えて行く事を教えると、全員が驚いた、信じられない者を見る様な目で俺を見て来た。


何と、この国の常識では、魔力枯渇は自殺と同じ行為と見なされているらしい。

「えーー?そんなの嘘だー! し、失礼、言葉が乱れちゃいましたが・・・それ、間違ってますよ。確かに意識を失ったり気分悪くなったりしますが、安全な家の中でなら、幾ら枯渇しても安全でしょう?倒れた際に怪我しない様にベッドでやれば良いんですよ。毎日やれば、如実に数字で確認できますし。」と思わず本音を漏らしてしまう俺。


「それが本当なら、我が国の有史以来の大発見に繋がるぞ!」と興奮気味の王様。

そして話はややおかしな方向に向かってしまい、そもそも本当に魔法が使えるのかも怪しいとラウンジ内を警備していた騎士の一人が王様に言う。


本当に魔法で家が建てられるのか、風呂に入れる程の水が出せるのか、試せば良いのでは?と。


何故か敵意の籠もった目で俺を睨む騎士・・・。

何か、この騎士、結構喧嘩腰と言うか、当たりがキツイ気がする。


「いや、良いですけど、只で建てるのは厭でございます。労働にはそれに見合った対価が付き物。そちらの騎士の方、何やら私に思う所がある様子。発言に対する責任をお取り頂けるので有れば、今回のオークションの私の取り分を賭けて良いですが、そちらの騎士様は如何されます?」と。


ちょっとイライラッとして言ってしまった。イカン・・・余計な事を・・・面倒事になるじゃん。

「すみません、先程の発言取り消し致します。大事にしても誰も得を致しませんし。」と丸く収めようと思った俺の意図を汲まないバカがここに2人居た・・・。

「やはり、嘘で王家の関心を引こうと言う腹か、陛下、やはりこの様な下賤の者のホラ話信じては成りませんぬぞ!此奴王家にホラ話をした不敬罪で処しますか?」と言うと、強気に転じた。それに呼応するかの様に先程否定的な声を上げた同じ年頃の第二王子もその騎士の言葉に乗っかって来た。


俺は、ここまでか・・・。とガックリしつつ、青い顔をしているラルゴさんとギュッと拳を握ってプルプル肩を震わせるアリーシアさんを見て、心の中で謝ったのであった。


しかし、俺が何か行動を起こす前に王様が手でエキサイトする騎士と第二王子を制し、「まあ待て。お主らトージの発言の意図を誤って解釈した様じゃの?」と静かに諭す様に告げた。


おーー、流石はこの国のトップを張るだけの事はある。「トージは、お前(騎士)が抜き差しならぬ事態になって、人生を棒に振らぬ様に、中止と訂正を言ったのじゃないか?」と俺の意図を見抜いてくれていた。

一方トージは自信の得た我が国の国家予算の10年分以上を賭けて良いといったのじゃぞ? それに見合った物を同じ壇上に並べて初めて成立する賭けと思わぬか?お前達2人に用意出来るのか? 儂は金貨一枚も出す気は無いぞ!

負ける賭けに乗る様じゃ国王はやっておられんからの!賭けるのであれば、お主ら2人で用意するんじゃな。トージ、お主の掛け金は幾らじゃったかの?」と青白く血の気を失ってしまった騎士と第二王子にチラリと目をやってから俺に尋ねる王様。

「えっと、今日の当方の取り分は確か、112兆7000億ギリーだったかと思います。ちょっと桁数多くてうろ覚えですが・・・。」と答えてニヤリと悪い笑みを思わず溢してしまった。ちょっとスーッとしたからね。


本当なら今頃美味しい飯食って祝杯挙げてた頃なのにな・・・。


「陛下、もう賭け事態はどうでも宜しいので、王城の庭先をお借りして良いのであれば必要な材木・・・そうですね、丸太で30~40本ぐらいご用意頂ければ当方の魔法で小屋を作りましょう。如何でしょうか?」と俺が言うと、

これまで黙って震えていたラルゴさん。がさに手を小さく挙げて発言の許可を求めた。


「何じゃ、ラルゴよ、何か意見あるのか?遠慮無く申してみよ!」と発言の許可を出す王様。

「発言の許可ありがとうございます。 トージ様、丸太無しでもほら、あの夜のブラック・ウルフの数十匹の襲撃の時に作って頂いたあの岩のドームの家を軽く作ってお見せして、中にお風呂作れば、簡単なのでは?」とない素な提案を出してくれた。


「何?ブラック・ウルフ数十匹の群じゃと?何名命を落としたのじゃ?」と深刻な表情をする王様に、「僭越ながらこちら側の被害0にございます。殆どトージ様お一人で倒されましたので。」とラルゴさんが答えると、


今度は絡んで来ていたバカ2名以外がおーー!と歓声を上げていた。


「そもそも、トージ様は大変お強いのです。私共との出会いも盗賊に襲われて居て絶体絶命のところをあっという間に盗賊20名を活かしたまま引っ捕らえたぐらいですし。」と鼻息荒くベタ褒めするラルゴさん。そしフンスと胸の前で拳を握るアリーシアさんもそのラルゴさんの発言に何度もウンウンと頷いている。


「そうじゃな、そのラルゴの言うドームのプランが一番手っ取り早いの。どうじゃ、庭先に作ってみんか?」と気安く提案する王様。


俺の意図を賢く理解し、更に俺の片を持ってくれる温かい2人に気分も軽やかになった俺は王様の提案を承諾したのだった。

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