第46話 オークションその2

老紳士がハンドベルをカラ~ンカラ~ンと鳴らすと、それまでザワついて居た会場が一斉にシーンと静まり返り、


息を吸う音さえ立てるのを憚られる様な重苦しい空気となった。


司会進行の老紳士が満を持した様に口を開く。

「皆さん!呼吸してますか? 入札して支払い完了まで、死んでは駄目ですよ!さあ、息を吸ってー!」と茶化してきた。


しかし、強ち的外れでは無かった様で会場の彼方此方で、慌てて深呼吸する者と笑う者と出て会場がドッと沸いたのだった。


「流石に場の空気掴むのが美味いな。」と呟くと、「この道のプロ中のプロですからな・・・。」とラルゴさんが説明してくれた。


初めてみるオークションは競りにさんかする人は受付で番号の書かれた棒の付いた丸い札と言うか看板みの小さい物を渡される。

これを掲げて金額を競って行くのらしい。


俺?俺は、下手に手を出してとんでもない金額の支払いとか厭なので受け取りを拒否したんだけどルールで駄目とかで、リュックの中に仕舞い込んでいる。


よくあるじゃん、ルール知らずに競りに加わっちゃって落札しちゃって青くなるパターンの話。触らなければ、何て事は無いのだよ! フッフッフ。


ザックリ見た限り、本日の出品リストには欲しい物とか無かったし。


そんな、知らない誰々さんが愛用した○○でぇ~!とか言われてもな。

早速始まったオークションは最初は由緒正しい誰かとかのアクセサリーで、と言う口上から始まり、ネックレスらしいが、魔動具と言うか、付与されていて、咄嗟の危機で一発シールドが貼れると言う代物らしい。


100万ギリーからスタートし、誰も居ないだろうと高を括って見て居たら、意外や意外。徐々に白熱して行き、とうとい、1千万ギリーで落札されよった!!びっくりだよ。


アリーシアさんもビックリしていた。


そして、食器や壺、絵画、ダンジョン産のアーティファクト(これは野営時に半径5m程の魔物避けの結界を貼れる魔動具らしい)等々。


中でちょっとだけ、お!って思ったのはドワーフの名工の打ったミスリル製の剣二振り。これは非常に美しく素晴らしい物であった。まあ使わないので買わんけど。


漸く大取の俺の出品物『ホーラント輝石』2個の登場である。


主催者から、1個ずつの出品にしないか?との打診があったらしいが、面倒なので早く手放してホッとしたいと言う事もあって、2つ同時に出す事にしたらしい。


多分その方が高値になるとラルゴさんの読みである。


近年市場に『ホーラント輝石』が出回ったのは、80年以上前との事。


今回を逃すと次は何時出回るか判らないとなれば欲しい人は頑張るしかない。


しかも態々産地を『魔の森』と好評しちゃう厭らしさ。 一般的に不可能とされて居る場所で見つかったと言われても参考にすらならないのだ。


行けば確実に死人続出だろう。



「さて大取りを飾るのは、もう何も言いますまい。最後に市場に出てきたのは、80年以上前とされているこちら・・・しかも同等サイズで2つセット! この機会を逃せば次は何世代先になるか・・・さあ皆さん張り切ってどうぞ!1000万ギリースタートです!」

他の物の10倍の価格から開始された。


これまでの前座の競りとは空気も違い

恐ろしい勢いでドンドンとネガ吊り上がって行く。

「正気か?」と俺が思わずツッコみ入れる程である。


もう既に桁が多過ぎて、何だか判らない状況になっている。


この国の国家予算が幾らかは知らんけど、ヤバイ金額な事は判る。そして・・・・その時は訪れた。


最後まで競っていた『やんごとなき雰囲気のお方』が勝った様だ。落札価格230兆ギリーらしい。


後で聞くと最後まで競っていた相手は隣国の帝国からの依頼で動いていた代理の商人だそうで・・・。


どうやら、『やんごとなき雰囲気のお方』は、本当に我が国の『やんごとなき雰囲気のお方』らしく、国の威信に賭けて落札したらしい・・・。


そこまでなの?と疑問に思うが、まあその収益はありがたくマッシモ経由で還元するので、許して欲しい物だ。


知らず知らずの内に力を込めて居たらしく、俺も含め3人共に、力の入れすぎで真っ白になった手の平の指をのばしてす。

そして、「「「フーー!」」」とほぼ同時に息を吐き出したのであった。


いやぁ~凄かったですね!と零れそうな笑みのラルゴさんとポカンと放心状態のアリーシアさん。


拍手の中で閉会した怒濤の入札劇のオークションが終わり、それぞれワイワイと興奮鮫やらずと行った雰囲気で去って行く。


「さて用の済んだし帰るか!?」と言って席を立とうとしたら、ラルゴさんに無理矢理引き留められた。

「そんな、落札金額受け取りの手続きまでご一緒して頂かないと!!!と焦っている。」なんでもその場で手数料のマージンを引いておれのカードに入れると言う。


例えキャッシュレスであっても余分に預かっていると、落ち着かない、後生です!と懇願されたので、しょうがなく了承したのだった。


主催者に案内されて豪勢な応接室に通されて、出されたお茶を美味しく頂いていると、何やら俄に廊下の方が騒がしくなって、

「陛下それは困ります、殿下、陛下をお止め下さい。」等と言う不穏な気配と声がグングンちかづいてきて、ノックすらなく、バーンと計器良くドアが開け放たれた。

その後ろでは主催者側の偉い感じの人が青い顔でオロオロしながら。


「其方達か!?良くやった!80年振りの『ホーラント輝石』よくぞ見つけてくれた!じれで、バッケルガー帝国の奴らに一泡吹かせてやれたわい!」と言って豪快にガハハハと大笑いして居る。



横を見ると、真っ青な顔で、「へ、陛下!」と小さく叫び、スッとかたひざを付くラルゴさん。が居た。


あれれ、これ、俺も跪く感じ必須のパターン?と首を傾げつつ、直ぐにラルゴさんに倣って片膝を付いて、頭を下げたのだった。

俺の隣を見ると、俺よりも先にアリーシアさんが、同じ様に片膝を付いて頭を下げて居た。


いやいや、先に教えてくれよ!と心の中で叫んだが。


「よいよい、そこな3名頭を上げよ!さあ、早く手続きを終わらせて、行くぞ!!」と何やら不穏な事を仰っている。


何であの時問答無用帰らなかったのか、己の同情心を呪うのだった・・・。


何か兆高額落札の喜びとかすっ飛んでしまったが、俺達の隣でウズウズ落ち着かない陛下の監視下で、230兆ギリーの支払いからの家取りの儀が行われた。


まず、オークション主催者側が豪勢に3割持って行く。


つまり、ラルゴさん。の所に入って来るのは161兆ギリー。そこから、ラルゴさん側の手数料3割を差し引くと残る金額は112.7兆ギリーつまり、112兆7000億ギリー?あれ合ってるかな?桁が多過ぎて良く判らんよ。


「じゃあ、アリーシアさん、分け前半分行っとくか!?カード出して」と俺が言うと青い顔をして、プルプルと首を横に振るアリーシアさん・・・。

「じゃあ少しだけでも!?」と俺が粘るも「十分にお給料頂いて居るし幸せなのでこのままで!!!」と拒絶されてしまった。

「特に守る力の無い様な女が余計なお金持つと、碌な事にならないので勘弁して下さい。」(※注意1)と懇願されて、ハッとした。


そうか、誘拐や犯罪や恐喝とか何が在ってもおかしくない世界だった・・・と納得し、変な事件に巻き込まれない様に無理を言うのを止めたのだった。

「じゃあ、必要になったら、何時でも言って。直ぐに渡すからね!」と言うと、「お気遣いありがとうございます。トージ様のお側において頂けるだけで日々十分に幸せを満喫して居ります。」と嬉しそうな微笑みを見せてくれるのだった。


そんな余韻を吹き飛ばすかの様に、「じゃあ、行こうかの?ラゴス、トージ・・・トージの奥方?行くぞ!」号令を掛けて、俺達3人の意思関係無くドナドナされて行くのだった・・・。


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※注意1:ここではこう言う表現をして居りますが、男尊女卑的な意図は全く無く、単に『力無い様な女』は自衛手段も武力も無い一般的な自衛力の無い平民と言う意味で書いて居りますのでご了承下さい。m(__)m

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