第43話 ゴザレオの街 その1
再来週の水の日のオークションまで、完全に用事の無くなった俺は、早速海辺の『ゴザレオ』買い出しを決行する事にした。
ラルゴさん。に4日程、外出します。と伝え、ラルゴ邸を出発した。
2人で、一旦マッシモの自宅に戻って、アリーシアさんはここでノンビリ待機して貰う予定。
勿論俺も毎晩ここに泊まるつもりである。
何時ものローブを身に着け、準備を済ませると、王都上空にゲートを繋げて飛び出し、ウイングスーツで北方向へと滑空を始める。
こうして上空から眺める王都の景色は壮観ではあるが、やはり上空から見てもハッキリと判る程に、スラム街(『廃棄街』)は汚く劣悪な環境だった・・・。
俺は王都の北門の上空を通過して、滑空からの連続ゲートによる滑空を続け凄い速度で北に続く街道の上を飛んで行く。
やはり、この移動方法は素晴らしい。竜車だと、大体時速30kmが精々だが、ウイングスーツによる滑空だと体感では時速200kmぐらい出て居るのではないかと思う。
今回採用した連続ゲートによる持続滑空方式だが、一旦地上に降りずに高度が落ちて来たら一旦止まる事無く前方上空へゲートで繋ぐ事によって、速度の低下が全く無いので、グングンと速度が増すのである。
更に気を良くした俺は上がる速度によって激しくなる空気抵抗を軽減為べく試行錯誤を繰り返し、ついに遮音に使った風の層によるシールドを改良して、空気抵抗を0にする事に成功した。
これによって、一気に滑空速度が上がって、測る事は出来ないが、後方に流れる地上の景色を見る限り軽く時速250kmぐらいなんじゃないかと推測。
ただ、速ければ速い程、筋力も使う訳で、疲労は溜まるのだ。
途中何回か、魔物に襲われている竜車の一行を見かけたが、ゴブリン程度であったのと、護衛の冒険者が危なげ無く処理して居たので特に手を出す事とも無く上空を通過した。
王都上空を飛び立って、1時間もした頃、遙か前方に懐かしの海が目に飛び込んで来た。おそらく、ゴザレオの街であろう、かな大きな城壁に囲まれた街も見える。
後少しで到着と喜んでいたら、『また』しても良く無い現場を目撃してしまった・・・。
盗賊では無さそうだが、数人の冒険者風の男共が、女性の冒険者を森の浅い所で追い回して居る。
またこのパターンかよ・・・。流石にこれは拙いので俺は減速に取り掛かる。
空気抵抗軽減のシールドを解除し、無属性のスポイラーを展開して、更に空気抵抗を増やして行く。
急激に落ちる滑空速度を調節しつつ、許容範囲になった所で地上付近にゲートで繋いで飛び降りる要領だ。
一応、念の為に捕捉して置くと、速度はゲートで影響されない。つまり時速10kmでゲートに入った物体は、ゲートから飛び出す時も時速10kmのままなので、無闇に高速のまま地上に繋ぐと大怪我をしてしまうので要注意である。
連続ゲートによる滑空方式はその特性を活かした技法だ。
そして十分に速度を落とした俺は、追いかけられている女性冒険者の逃げている先に降り立った。
「ガハハ、いい加減、観念して大人しくしやがれって!!こんな所に誰も都合良く居ねぇ~ってよ。気持ち良くしてやっから、楽しいぜぇ~。」と下卑た笑いをする見た所25歳くらいの4人組の男達。
「お、尾根がします、止めて下さい!!勘弁して下さい。お姉ちゃんのお薬の薬草取らないとイケないんです。」と躓いて転けてしまって立ち上がれない女性・・・いや、少女だな。少女冒険者?に迫る男共は、「おい、死にたくないだろう?天国逝かせてやっから。おい、手足抑えろ!!」と他の3人に師事を飛ばし、ナイフを抜いて少女を脅すリーダー格の男。
「だ、誰かーーー!!助けてーーー!」と必死に叫ぶ少女。3人の男が手足を押さえ、殴ろうと拳を振り上げた所で、俺が背後から声を掛けた。
「イカンな、女性に暴力は。婦女暴行の現行犯だな。大人しく捕まるなら、怪我程度で済ませてヤルよ。」と俺が宣言すると、少女も4人組もギョッとして俺の方を見てきた。
「だ、誰だおめぇ~?何時から其処に居やがった?」と焦って聞いてる。
「ああ、お前が下卑た笑いで『こんな所に誰も都合良く居ねぇ~』って豪語してた辺りかな。間抜け共、覚悟して捕まれよ。」と俺が言うと、「野郎・・・みんな殺(や)っちまえ!」と号令を飛ばした。
俺はまたか・・・と思いつつ、3人の股間を狙って魔弾を発射し、4人が「アギャー! 痛ぇ~。」と言う悲鳴と共に吹っ飛んでのたうち廻っている。
ポカンと状況側からずに地面に転けた格好のまま固まって居る少女。
「大丈夫か?」と声をかけつつ、膝を擦り剥いてしかも汚れている少女にウォッシュを掛けてやり、色々恐怖で汚れてしまった粗相事態無い物にして、膝の怪我も回復させた。
「あ!」と小さく声を漏らして、漏らした事跡すら無くなった事で驚きつつも徐々に状況を把握して、「あ、ありがとうございました!!! わ、私、ゴザレオのFランク冒険者で、ソフィアと申します。」とお礼を言ってペコペコと頭を下げていた。
話を聞くと、ソフィアちゃんは病気で寝込んで居るお姉さんの治療に使う薬草を集める為に薬草採取の依頼を受けて街の近所の森にやって来たらしい。実に健気だ!!
お姉さんの症状を聞くと、良く判らんが、結核っぽい。抗生物質の薬とか在れば治るんだろうが、この世界でそれは望めず、効くか効かないか微妙な薬を大金払って買うぐらいしか方法が無いらしい。この世界の病名だと『無限咳病』と言うらしい。
両親に先立たれ、姉妹2人で暮らして来て、必死に働いて自分を養ってくれた姉を何とか助けたいのだと、涙ながらに語っていた。
これで、心を打たれない奴が居るだろうか?
しかし、折角健気な少女の心洗われる様な話を聞いて居ると言うのに、五月蠅い騒音発生源が傍でのたうち回って居やがる・・・。このゴミ共、本当に邪魔だな。
「ソフィアちゃん、ちょっと先にあいつら、突き出して来るから、ここら辺でその薬草採取の依頼をやっておいてくれる?10分くらいで片付けるから。」と言うと「はい。ありがとうございました。」と言って、立ち上がって、薬草を探し始めた。
俺はソフィアちゃんが地面に集中して居るのを確認して、4人の男共に電撃を撃ち込んで気絶させると、彼らを一塊にしてゲートで『魔の森』の昨日の廃棄場所へと繋いで男共置いた。
ソフィアちゃんへの慰謝料代わりに身包みを剥いで、所持金と、奴らの装備を分を俺の懐から足して巾着袋に入れて纏めた。
一旦アリーシアさんを迎えに行って、2人でソフィアちゃんが薬草を探している森に戻り、ソフィアちゃん、に声を掛けた。
「ソフィアちーーゃん、何て薬草を探して居るの?」と声を掛けると「キュアリ草です、あ!女性の方も・・・?」と俺達2人を見て驚いていた。まあさっきまで俺1人だったしな。
「ああ、この女性はアリーシアさん。悲鳴聞いて、俺だけ急いでこっちに来たから、合流したの。ああ、俺の名は、トージね。」と自己紹介も済ませて置いた。
それから3人で、必要な『キュアリ草』を20本見つけて、ゴザレオの街へと急ぐ。こちらに来る前に先に事情をアリーシアさんに話してあるので、アリーシアさんとソフィアちゃんが打ち解けて話す様になるまでにそう時間は掛からなかった。
丁度昼時ぐらいに街の城門に辿り着き、場内に入ると、ゴザレオの街は潮の香りのする海産物に溢れる街であった。
海独特の匂いと屋台で売って居る焼き魚の匂いだけでウズウズしてしまうが、グッと我慢し、ソフィアちゃんに話し掛ける。
「ソフィアちゃん、冒険者ギルドに行く前に先にお姉さんの症状を診させてくれないかな?やってみないと判らないがもしかしたら、治せるかも知れないし。」と俺が申し出た。
『女神の英知』によると、『キュアリ草』自体は殺菌効果や滋養強壮や疲れた体力の回復等にも効く効能があるが、お姉さんの『無限咳病』が直ちに治る程の効果は無く、自己治癒力は高めて身体内部のばい菌やウィルスを撃退するのを微かに高めてくれる程度だ。
『無限咳病』も結核と同じ様な物で菌を吸い込んで肺に菌が蔓延し咳によって飛沫が飛んで周囲の者も感染する可能性が高くなる様だ。
つまり、潜伏期間が過ぎると、一緒に暮らすソフィアちゃんも発症する可能性は高いと言う事である。
それ程感染性の高い菌では無いけど、体力の落ちた時や栄養不足の時や免疫力の落ちた時には発症しやすい。完治せずにキャリアとなる事が多いみたい。
だが、殺菌すれば良いのであれば、俺の魔法で何とか出来る可能性が高いのだ。
だから先に治療してみて、様子を見た方が良いと判断した訳だ。可能性も無いのに、希望を持たせる様な非道な事はしたくないので、「まだ判らないから、期待し過ぎないでね!」と一応釘は刺しておいた。
「本当ですか!是非!是非!少しでも可能性あるなら、是非!!!お代は如何様にでもしてきっとお支払いしますから!」と土下座せんばかりの勢いで縋り付いてくるソフィアちゃん。
「ああ、お代なんて要らないよ。ああ、そうそう、さっきの男共が、ソフィアちゃんに迷惑掛けた詫び料だって、これ渡してくれって逝っててたよ。」と先程用意した巾着袋を渡してやると、ジャリっと多少重い巾着袋に驚いた顔をしていた。
まあここで暫く歩きながら受け取る受け取れないのややこしいやり取りがあったんだけど通りでやる事じゃないですとアリーシアさんに窘められて、改めて家で渡す事にして引っ込めた。
確かに不用心だった。
そして連れられていった先は、やはり、貧相な小屋が建ち並ぶアンモニア臭も漂うスラム街・・・ここにもやはり、『廃棄街』はあるらしい。
一軒の傾き掛けた小屋に辿り着くと、小屋の外にも聞こえる苦しそうな咳の音、俺は、駆け込もうとすソフィアちゃんを制止し、俺とアリーシアさんの3人の口と鼻を覆布のにマスクを着けさせてから、ソフィアちゃんに続いて小屋の中に入った。
イキナリ現れたマスク姿の3人に驚くお姉さんだったが、直ぐに1人が自分の妹と判りパニックは起こさないでくれた。ソフィアちゃん、が姉に事情や経緯を説明し、理解が得られたところで、行動を開始した。
まずは、小屋内部の殺菌と清掃である。生卵でマヨネーズ作っているけど、毎回一応魔法で殺菌掛けているんだよね。その要領で、紫外線や熱波的な物で完全殺菌とお姉さんごと部屋全体にウォッシュを掛けた。
さていよいよ治療である。肺の内部の『無限咳病』の細菌を殺す様に内部の浄化を行って、肺も含め各臓器の疾患箇所を回復させる。同じ事をソフィアちゃんにもおこなってやると、まさか自分もされるとは思わなかった様で、大変驚いていた。
「ああ、ゴメン、これ、咳と一緒に細かい『無限咳病』素(菌)が飛んでそれを吸い込むと何時発症するか判らないんだよ。だから一緒に暮らしていたソフィアちゃん、も念の為にね。」と説明すると納得してくれた。
勿論、俺とアリーシアさんも念の為にやっておいたけどね。
先程まで、外に聞こえる程の咳をしていたお姉さんはピタリと咳が止まって苦し気でもなく楽に息をしてる。病気と栄養が足りずに居た事で窶れたお姉さんだが元は綺麗な女性でソフィアちゃん、同様に金色の髪で、整った顔立ちをして居る。
「さあ、治療は終わりだ。栄養着けようか。」と言って、小屋の中には何も無さそうなので、俺のリュック『時空間庫』の中から、野菜と肉の入ったスープと肉巻きおにぎりを出してやった。
本当なら、雑炊とかおかゆとかから始めるべきなんだろうけど、作り置きして無かったので、しょうがない。
涙を流しながら食べる姉妹の様子に安心しつつ、気になったので、ソフィアちゃんに聞いてみた。
「もしかして、この近所に『無限咳病』が流行ってない?他に患者居ないか?」と。
案の定、やはりかなりの数の患者が居た。
このままにして置くと、ゴザレオの街自体に宜しくない・・・つまり俺の海産物の仕入れに支障を来す恐れがある。
一旦ソフィア家は良いとして、このままでは何時までも蔓延するので、大々的に治療する事に決めたのであった。
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