第42話 マッシモ辺境伯

翌朝、昨日の試食以来俺の事を何故か『師匠!』と呼びこの家の主人たるラルゴさんと同等に丁寧に対応してくれる様になった料理人のオジサンの作った可も無く不可も無い朝食を頂き、

早速領主様の王都の邸宅へと太郎次郎の曳く竜車に乗って訪問する。


ラルゴ邸から出発して少し進むと、イキナリ周囲の雰囲気がガラッと変わり否応なく『貴族街』へ突入した事が判る。


竜車の中では、失礼のない程度の対応で許して貰える珍しく緩い雰囲気の方なので大丈夫ですよ?と緊張を解してくれた。



そして、太郎と次郎は一軒の豪勢な屋敷の前で停まり、門番の兵士の検査確認後、屋敷の敷地へと招き入れられたのだった。


ヨーロッパにある貴族の屋敷の映像はよくめにするが、キチンと整備された庭園と玄関までの通路の長さは笑ってしまう程の距離だ。


仮にトイレが屋敷の建物の中にしか無いとするなら、先程の門番の兵士は尿意を感じてギリギリでトイレに向かっても間に合わないのではないだろうか?と、緊張の余り下らない事を心の中で考えて静かに笑うのだった。


昔金持ちの家の敷地の広さを揶揄した小話で、マニュアル車で門から1速でスタートして、玄関に付くまでに3速に入るってのが在ったが、そこまでは無いにしても十分に広い。


まあ貴族って見栄もあるだろうからここまで広いのか知らんけど、広過ぎると不便じゃないのか? と貧乏症の俺は思ってしまう。


日本で住んでた実家も、結構3人家族でギリギリだったからな。

尤もその反動で1人になった後、妙に広々と言うか寒々しい空間だった。


玄関から屋敷に入ると、老執事が出迎えてくれて、緊張しつつ、その老執事に頭を下げる俺。


「トージ様、緊張し過ぎです。深呼吸深呼吸」と笑いながらラルゴさんに言われ、ぎごちなく深呼吸を数回して気合いを入れ直したのだった。


ラルゴさん曰く、マッシモ辺境伯は大丈夫な方と言うが・・・

不敬罪なる物がある王制の国において、王侯貴族の気分一つで無礼討ちが許されるって、怖くね? 本日の気分次第とか・・・。


ラルゴさんの話だと、人によるが爵位の高い貴族より、低い貴族の方が要注意との事だった。


緊張すると、余計な事を色々考えてしまう物だが、そんな俺をあざ笑うかの様に、初めて遭遇したこの国の貴族であるロベルト・フォン・マッシモ辺境伯は気さくな方だった。

王城にある様な謁見の間では無く、お抱え商人との会談と言う体の為普通にちょっと広めの会議にも使えそうな応接室で和やかにスタートする、街のボスとの会談。

「マッシモ辺境伯様、早々にお時間を作って頂き誠にありがとうございます。こちらに居ります、トージ、アリーシアの2名が先の手紙にてお伝えした街の救世主であります。」と俺達を紹介するラルゴさん。


「冒険者であり、『オオサワ商会』をやっております、トージと申します。この度は、機会を設けて頂き誠にありがとうございます。何分、森育ちの常識知らず故、この様な場に慣れて居らず、もしご無礼な事がありましても寛大なお心でお許し頂けると幸いです。こちらのアリーシアは私の補助をしてくれる者です。何卒宜しくお願い致します。」

と恭しく日本式のお辞儀をして挨拶をした。


「よいよい、儂も堅苦しいのは嫌いじゃ。冒険者は本来無法者や不調法な者が多いのだから、この場は気楽に話して良いぞ。それより実のある会話を希望しておる。」と非常にフランクな印象である。


まずはどういう風に話の流れを持って行くのかと思いきや、ラルゴさんったら・・・


「では、まずは論より証拠、百聞は一見にしかず(と言う意味のこの国の諺)と言いますし、一度食して貰ってからの方が話が早いかと存じますので、トージ様、早速ですがお願い致します。」とイキナリ試食会になってしまった。



俺が、肉巻きおにぎり、ポテトサラダ、オーク汁、コロッケに厚焼き卵や煮物にオークカツ等をアリーシアさんと2人でテーブルの上に並べて行くと、初めて見る良い匂いを漂わせる料理の数々に待ちきれない様で、早速手を伸ばすマッシモ様。


俺とアリーシアさんで食べ方やマッシモマイマイの説明等を聞きながら、「これは美味いな! これも素晴らしい、おっこれもじゃ!」とガンガンに凄まじい勢いで食べて行くマッシモ様。


結果、食後の正式な打診と言うか、お願いや提案は驚く程にスムーズで、特に良かったのが、このマイマイがマッシモ辺境伯領固有の品種っぽいと言う話とソイやソイペーストもマッシモ領の黒エルフ族固有の調味料と言う事で、「これはこの食事だけで、国が揺れる程に流行るの!前面的に許可し、協力するので、宜しく頼むぞ!」と言う嬉しい言葉を引き出せたのであった。


そして、更に『落書き理論』に納得し、街の美化の為にゴミ問題を抜本から改革すると言う話に落ち着いたのであった。

トントン拍子に話が決まり、マッシモの街の近郊に建設する醸造所の大体の位置や規模、それに人員の確保に至る所まで、大筋が決まったのであった。

まあ、ほぼ俺の提案にラルゴさんやアリーシアさんの捕捉や補助が加わった感じである。


最後に、「ラルゴには既に渡して居るが、トージ、アリーシア、其方達にも渡して置く。今後も何かあれば、遠慮無く当方の屋敷を訪れる様に。」と言って、何か記念メダルの様な紋章入りのメダルを渡されたのであった。


どうやらこの『記念メダル』はタダのメダルでは無く、帰りの竜車で聞いたラルゴさんの説明では身分を保障と言うか『ケツ持ち』的な意味を持つメダルらしい。

つまり、あれだ、「この印籠が~」的な効果を持つメダルって事だ。

但し、対貴族の場合、双方の爵位によって効果が変わるので要注意だが・・・。



まあ、終始和やかな雰囲気の中で終わったとは言え、精神的にかなり疲れて居た様で、ラルゴ邸に戻った後、久々に昼寝してしまうのであった。

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