第32話 王都へ その1

2日間で怒濤の様に料理を作り、2人共にグッタリしたが、家から漂う美味しそうな香りにおびき寄せられた近所の人や通行人が、度々家の敷地を覗くと言う珍事が発生した。


ラルゴさんからの呼び出しで、運ぶ荷物を受け取り、『時空間庫』に全部回収すると、凄く驚いて居た。


早く時間を取って錬金術をマスターして、マジックバッグを作って売りたいところである。


ラルゴさんにマジックバッグの事を聞いたところ、やはり、ダンジョンからドロップする物だけで、大昔には作れる者も居たらしいがその技術は途絶えたと。


所謂、ロストテクノロジーって奴だ。 確か記憶では、太古の日本刀の製法も現在では再現出来ていないロストテクノロジーって聞いた事がある。


よく異世界物では日本刀でスパスパ斬ってドヤ~ってのを目にするが、首を刎ねると人間の首でさえ堅くて切れなくなったり歪んでしまって駄目になると聞いた。


そんなデリケートな物・・・ちょっと物としては憧れるけど、実際にメインウェポンとして使うのは精神的にキツかろう?って思うよ。ロマンはあるけど、俺には無理。ダミーで腰に小剣と腿にナイフを装備して居るが、


基本魔法スナイパーである。一応、魔法の超高周波ブレードも使うけど、共鳴音というか、ブーンブーン♪と五月蠅いので、余程じゃないと使わない。


ちなみに、購入した小剣に高周波の振動を魔法で与えて超高周波ブレードにして実験したのだが、3本壊して諦めた。一発芸には使えるし、最高の斬れ味になるが、太さ50cmぐらいの木を切り倒しただけで粉々に砕け散ったし。


相手をビビらせる効果はありそうだ。ちなみに、粉々に砕け散った小剣を掻き集めて購入した鍛冶屋のオヤジの所に『成れの果ての姿(粉)』を持ち込んだら、思いっきり泣かれた。


オヤジ曰く、普通の鋼鉄の剣ではこれ以上は無理だし、ミスリルの剣でも厳しいんじゃないかって。


「あ、やっぱあるんだ!?定番の不思議金属ミスリルの剣!?って事はオリハルコン剣とかもあるの?」と聞くと、「国宝級だからダンジョンでドロップした物くらいで市場には出回らない。」と言っていた。


えーっと、俺の『時空間庫』には、先々錬金術に使えるからって思ってストックして居る『魔の森』で拾ったミスリルとかオリハルコンの原石を持ってはいるのだ。


例の岩塩を見つけた断層、彼処って結構凄くてさ、当時は岩塩>ミスリルって感じで岩塩の方が俺的に価値あったんだけど、『魔の森』を出発する前に金策用に一応纏めて拾っておいたんだよね。


最初にラルゴさんに金策で『ホーラント輝石』や他の宝石を見せた際の興奮度合いがヤバかったので、提出しなかったのだけどな。


話は戻るが、小剣は携帯しているものの、俺には剣の才能は無い。所謂雰囲気作りの為のコスプレのアイテムの一つだ。


そりゃあ、この高性能なボディーの反射神経と身体強化によるゴリ押しで、強引な出たとこ勝負でそれっぽい立ち回りは出来るけど、お世辞にも剣技って物じゃないのだ。


出発当日の朝、前日早めに就寝したのが良かったのか、はたまた日本に居た時の癖で、遅刻しちゃイカン!って強迫観念の恩恵か、日の出前の5時くらいには目覚め、念の為にアリーシアさんの部屋のドアをノックして声を掛けて起こしておいた。


やはり、遠足に行く小学生の様な気分ではある。


10分ぐらいで着替えて支度を終わらせたアリーシアさんとサクっと朝食を済ませて、食器類も片付け、居ない間に虫が大量発生しない様に食べ残しや生ゴミも全部コンポストに入れて片付けておいた。


「さあ、これで、準備は万端かな?もしも途中ではぐれた際の非常食とポーション、それにナイフも持ってるね?」とアリーシアさんに確認すると、自分の前に担いだリュックをポンポンと叩いて「はい、ここにちゃんと。」と言って微笑んで居た。


「よし、じゃあ1ヵ月ぐらい留守にするけど、無事に戻って来よう。」と言って2人で玄関から外に出て、鍵を閉めたのだった。


約束の時間よりちょっと早くに着いたが、流石はラルゴさん。既に竜車の横に立って慌ただしくスタッフに声を掛けて居る。


「おはようございます。本日は宜しくお願い致します。」と挨拶をすると、「ああ、トージ様、アリーシア様、おはようございます。今回は長旅ですが宜しくお願いいたしますね!お陰様で、今回は広々としてて、軽い状態で行けるのでありがたいです。一応『マッシモの夜明け』の皆さんにも余計な情報を漏らさない様には確約して貰って居りますのでご安心を。」満面の笑みで迎えてくれた。


挨拶が終わる頃には『マッシモの夜明け』のメンバーも全員揃い、久々に挨拶を交わした。「トージさん、先日は、俺らに過分な分け前貰って済まなかったな!ありがとう。お陰で、防具の新調も出来たし。」とメンバー全員ニコニコ顔である。


「いや、当然だ。俺だけだったら、斬り捨てて終わりだったんだから。今回はまた宜しく頼むな!」と再会を喜びあったのだった。


一応、最初に、街の外に出た後は、俺は早期警戒の索敵をメインにする事を打ち合わせして、出来るだけ停まらずスムーズに移動出来る様に務める事を宣言しておいた。


まあ、殆どは上空に居る事になると思うのだが・・・。 こうして考えると、この真っ赤のローブっって目立つな。今度黒の皮を見つけてローブ作るかな。



そして、朝6つの鐘が鳴り、、ラルゴさんの号令と共に竜車が動き始めたのだった。


やはり、街を出るまでは乗って行ったのだが、この竜車、本当にダイレクトな振動で、白蝋病だっけ?なんか神経や脳の血管何本か切れそうなぐらいに揺れる。


俺が凄いと思ったのはアリーシアさんもだがみんな、この揺れを当然の様に穏やかな顔で受け入れていて、特に疑問にも思っていなさそうな事だ。


マジか!?って思わず突っ込みたくなるが、一応、アリーシアさんのお尻の下には無理言って急遽特注したベッドのマットと同じ高級なクッションを敷いている。


だが、揺れを吸収する程の効果は無い。良くて尾てい骨に直撃が来ない程度である。

城門出る時、先日の衛兵の兄ちゃんに片手を挙げて挨拶して、そこからは、竜車の横を小走りに走って着いて行く。早朝というのに、同じ様に開門と同時に出発する竜車が多く、同様に王都方面に向かうと見受けられる。


俺は、脅威となる物の気配を察知しつつ薄暗い朝の街道を進んで行く。


基本的に、これだけの竜車の列、コンボイに突入して来る程バカな魔物も盗賊も居ないのだ。


実際のところ、100m圏内に魔物の反応はチョイチョイと感じるがホーンラビット程度である。


竜車がバラけてからが護衛の真価を問われる事になるのだ。


ラルゴさんとの事前打ち合わせで移動時の休憩のタイミングは聞いてある。基本、竜車の場合、1時間置きの休憩を挟むらしい。

トカゲと言うか竜?の休憩もあるが、主に乗って居る人間の休憩らしい。揺れると、トイレに行きたくなるとか・・・。


街道には一定距離毎にドライブインと言う、パーキングエリアの様な場所があって、夜になると、大体そこで野営するらしい。


ほら、夜間は固まって居る方が魔物や盗賊対策になって安全なのだ。


ただ、これも闇雲に安心してはいけないと言う教訓があり、3台の一見商会の一団が実は丸っと盗賊で、夜中に襲われるケースもあると言う。

恐ろしいな。


唯一気が少し抜けるのは街や村の宿らしいが、それも万全とは言えないと・・・。


城門を出て30分も走ると、徐々に後続とに差が出始める。ラルゴさんの殆ど空荷の竜車とは重さが違う為に、普通に進んでも速度差が出るのだ。


俺はこの時を待っていた。ラルゴさんに先の様子を偵察して来る事を伝え、街道傍の木々に紛れ込んで上空へと移動して、ウイングスーツを展開して滑空を始め索敵を始めた。


ゴブリンが居るがかなり森の中だし、街道までは出て来ないと思う。『脅威』対象ではないな。


おっと、これは、宜しくないな・・・10匹程のウルフ系の群だ。


俺は群の上空から、魔弾でスパンスパンと狙撃して行き、12匹のフォレスト・ウルフを仕留めたのだった。


一応、血抜きだけ手っ取り早く済ませて。収納したら、その先の偵察を終えて、竜車に合流した。


「取りあえず、先に12匹のフォレスト・ウルフの群居たので排除して置きました。後はこの先20分ぐらいは大丈夫かと。」と短く報告を済ませる。


そして、次の偵察で、休憩予定のパーキングが視界に入った。


パーキングも問題無しである。


合流し、先程上空から見たパーキングまで更に20分程掛かった。


パーキングには水場が着いて居る事が多いが、この竜達は、俺の出した水を喜ぶのだ。恐らくは、魔力を多く含む事が理由だと思う。置かれた桶に俺の魔法で見ずを出してやると、太郎も次郎も喜んでキューキューと鳴きながら飲んで居る。


ああ、太郎も次郎も俺が心の中で付けた名だ。


ラルゴさん達にも飲み水を出してやって、暫し談笑する。


「今回は本当に恐ろしいぐらい順調です。」と嬉し気に語るラルゴさん達。

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