第30話 護衛依頼受託の落とし穴 その2

大きなズタ袋を肩に担いで漸く城門まで戻って来て、先の衛兵のお兄さんに冒険者カードを見せて意気揚々と場内に入る。


後は冒険者ギルドで依頼達成の報告と提出をすれば、完了だ。


時間の頃は午後4時過ぎと言った頃合いか。冒険者ギルドの中にはもう既に結構な人数の冒険者達が戻って来ており、ごった返しのちょっと前ぐらいの混雑っぷりである。


俺は受付嬢前の長蛇の列をスルーして、ズイズイと奥に居るゲンダさんの所へと進んで行くのだが・・・ゲンダさんの直前の受付嬢の列に並んでいた冒険者パーティーのメンバーらしき見た感じ俺と同じ位の背格好の若い冒険者の男が一人、俺の進路を塞いで来る。


「あーと、ちょっと奥へ通してくれるか?ゲンダさんに用事あるんで。」と俺が言うも、ニヤニヤしながら進路を明ける様子がない。


ふふ~ん、これが、俗世間に言う所の冒険者ギルド定番『あるある』ウザ絡みって奴か? 予期せぬテンプレイベントの遭遇に思わず顔が二やけてしまう。


雑魚のウザ絡みフッフッフ♪ ・・・


「てめぇ~、何笑ってやがる? 誰が雑魚だこの野郎!ド新人の癖しやがって!」と青筋を立てて怒る目の前の男。

「イカン、イカン、思わず面白くて気が緩んで口から本音が漏れて居たらしい・・・。 すまん、本音だ忘れてくれ!」と一言謝った後、ゲンダさんの方に向かって大声で質問した。


「おーい、ゲンダさーーん、雑魚が通せんぼして、邪魔してウザ絡みして来るんだけど、こういう場合って、この雑魚は燃やして滅しても良いのか?口で言っても退く気ないらしいんだけど、どうすれば良い?キッチリ仕込んだ方が良いのか?」と冒険者ギルドの1階中に聞こえる様な音量で話し掛けた。


「ああ、トージか、いや、燃やしたら、火事になるから、中で魔法使って滅するのは止めてくれ。ここは燃える物多いからな。ヤルんなら、裏の訓練場で燃やして灰は自分で片付けてくれ。裏の訓練場なら、訓練中の不幸な事故だから、罪にはならんからな。まあ出来れば面倒だから、手足1本づつ滅するぐらいで許してやって欲しいがな。」とこれまた冒険者ギルド中に響き渡る様な声で『魔法』を強調しながら答えてくれた。


「と言う事だ、裏の訓練場に行こうか、兄ちゃん!?フッフッフ」と悪い笑顔になっている事を自覚しつつ全力の殺気をはなちつつ目の前でかなり青い顔で足を震わせてるお兄ちゃんに俺が語り掛けると、


「兄さん、すまねぇ、うちのメンバーが絡んじまって・・・ おい!タジール、さっさと、足退けて、謝れ!!お前マジで瞬殺されるぞ!ちょっと前に話題になってたろ!『マッシモの夜明け』のケネスさんを助けて10人の盗賊瞬殺した英雄の話!! お前、マジで瞬殺だぞ!?」と受付嬢とさっきまで嬉し気に話していたこのパーティーのリーダーらしき青年が謝罪して来た。


さっきまでは、青い顔色だったが、今は血の気が更に無くなって真っ白になっているタジール君。


俺はニヤリとしながら、「まあ邪魔しなければ無理に燃やしたい訳じゃないけどな。どうする?タジール君」と問い掛けると、瞬時に足を引っ込めて「す、すいませんでしたーー!」と頭を下げて来た。


「おう!」と一言だけで、応えて前を通ってゲンダさんの前に、ドカンと、肩に担いだロック・バード入りのズタ袋を置いて、りゅっくを降ろして、マギ・マッシュ5個入りの巾着袋にゴブリン30匹分の桃原証明部位と魔石の入った袋を置いて、更に、ホーンラビット7匹入りのズタ袋を中から引っ張り出して見せたが、既にカウンターはイッパイイッパイ。


「ゲンダさん、あとは、ホーンラビット7匹が在るんだが、どうしたら良い?」と聞くと。


「おう、ちょっと待ってくれ。応援呼ぶから。」とイソイソと立ち上がって、奥の方から、同じく厳ついオッチャン2名を連れて来た。


「おう、兄ちゃんかい?大量に狩って来てくれたのは?ほう、これは凄く新鮮なマギ・マッシュじゃなねぇか!!!5個もあるぞ!!すげーんな!おい!! こっちはロック・バードかよ!?何!?5匹だと?しかもどれも完璧に血抜きされて極上じゃねぇ~かよ!?すげーなおい!!」とオッサン3人でワイワイと楽しそうにやっている。


「ああ、取りあえず、血抜きだけは先にしとかないと、肉が不味くなるからな。プロなら然の措置だ。」と俺が平然と応えるとウンウンと頻りと頷きつつ。


「そうなんだよな!本来ならそうなんだけどよ? 最近口ばっかでボロボロにした素材持って帰って来て偉そうにするバカが多くてな・・・。」と態とらしく結構響く声でフロア全体に聞こえる様に言っていた。


「止めろよ、オッサン、回り回って俺へのヘイト稼ぎになるだろ!! 絡まれたり逆恨みされたら、マジで滅しちゃうだろ!?」と慌てて俺をダシに使うのを止めさせたのだった。


「まあ、良いじゃねぇか、これで晴れて、Dランク冒険者様だ。序でにCランクも行っておくか? オーク2匹丸ごと納品でイケるぞ?」と美味しい事を仰る・・・。

「マジか!?たった2匹で良いのか?」と思わず嬉し気に身を乗り出す俺。 うーーん、どうすっかな~。


「ゲンダさん、ここじゃ狭すぎるが、オークを出しても良い人目に付かない場所は無いか? あんたらのお陰で、注目集めてしまってるからな!」と小声で問い掛けると、

「何だ、あるのか?」と嬉し気に小声で聞いて来る。俺が静かに頷くと、「おい、この獲物達全部地下の解体倉庫に運ぶから、トージも手伝え!と言いながら俺にウィンクして来た・・・。


「ああ、しょうがねぇ~な。」と言いながら、最後に出したホーンラビットのズタ袋を担ぎ、リュックを手に持って着いて行く。


奥の階段を降りると、買いたい倉庫に繋がっていて、ゲンダさんはそこのにドンと置いてあるテーブルを指差して、其処らに出せるか?一応、冒険者ギルドは冒険者の望まぬ秘匿情報を外部に漏らす事は御法度なので無いから安心してくれ。」と言って来た。


「ふむ。信じるぜ!」と言って、俺は本来公開する予定の無かった、『時空間庫』を開き、中から、オークの亡骸を3つ取り出してテーブルの脇に並べた。


その後、ゲンダさんを含んだオッサン3人が興奮しながら、俺の『時空間庫』について質問してきた。


内部の時間経過が無い事を伝えると大層驚いていたが、「トージ、これ大っぴらにしちゃダメだ。極力、その黒いリュックがマジックバッグって感じで誤魔化せ!」とアドバイスしてくれた。


次回から、大量に出す場合は、ここ、解体倉庫に出す様に言われ頷いた。


結果として、俺はDランクの冒険者カードを手にする前に一気にCランクのカードを手に入れたのであった。


一応、Dランク以上になると、中堅と呼ばれる冒険車の仲間入りとされて、世間的にもかなり信用度が上がるらしい。


「ちなみにに、Bランクに上がるには、最低でもCランクの依頼1回、Bランクの依頼5回となる。まあ、お前さんの場合、Cランクの依頼はさっきのオーク3匹で熟しているから、後はBランクの依頼5回だな! ッ夢は広がるなぁ~。」と源田さんが嬉しそうにガハガハ笑いながら、バシバシ俺の背中を叩いて来たので何気に痛かった。

どうやら、Aランクも同じ様にBランクの依頼1回とAランクの依頼5回らしい。


ギルドカードの更新が終わり、帰る前にそれとなくBランクとAランクの依頼を確認すると、場所柄なのか殆どが『魔の森』に関す物や、俺の見知った『魔の森』に生えて居る薬草等の採取が多く、


『時空間庫』の中の物だけで簡単にBランクに昇級出来る事が判明してしまった。


ただ、Aランクの依頼になると、『魔の森』だけでなく、ダンジョンに絡む依頼が多かった。


俺は良く知らなかったが、このマッシモの街より先に進んだエルフの里にも近い辺りに『ミーランの迷宮』と言うダンジョンがあるらしい。


ほほう、ダンジョンか。一度は行ってみたいものだ。『ゲート』のある俺にとってみれば、日帰りダンジョンツアーも夢じゃ無い。最初の1回さえ、熟せば良いのである。



今度の護衛依頼の際、ケネスさん辺りに聞いてみよう・・・と心に決めて、愛しの我が家へと戻ったのだった。

家に戻るとアリーシアさんが「お帰りなさい。」と笑顔で迎えてくれた。

「ただいまー!冒険者ランクがCランクになったよ! 大変だった。」と本日の経緯を細かく話しふとテーブルを見ると、俺が作ってあげたアリーシアさんのお箸と小皿に入った大豆。

どうやら、お箸の練習をしていたらしい。


「お箸を使う練習していたの? ちょっと使って見せてくれる? 変な癖を間違って付けちゃうと、修正が大変らしいから。」と日本で上手く箸が使えない人の話を思い出して思い切って告げると、

緊張しながらも、辿々しく豆を箸で摘まんで横の小皿へと移して見せてくれた。


「うん、大体近い感じになっているけど、ちょっと違和感あるな。ちょっと俺の使う所見て居てくれる?」と言って、自分の箸を手に持って挟んだり開いたりを繰り返して指使いなどをゆっくりと見せてあげると、


「あ、ここの指の使い方が違ったんだ!」と自ら間違いに気付いて修正に入るアリーシアさん。

「ああ、良い感じに違和感が消えたよ。そうそう。そのスタイルだと、箸が安定するでしょ?」と聞くと嬉し気に頷いていた。


「さあ、そろそろ夕飯の準備しなきゃだけど、先に風呂入っちゃって良いかな?」一日森の中駆け回って汚れてるから、綺麗にしてから、一緒にご飯作ろう。」と提案して、速攻で風呂に入るだった。

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