第28話 ラルゴさんからの打診

先日の鋏等やフォークの件も含め、ラルゴさんから連絡を貰って、ラルゴ商会へと訪問した。


「ご無沙汰してます。お世話になっております。ラルゴさん、お元気そうで。」と俺が挨拶すると、ラルゴさんが笑顔で出迎えてくれた。


「どうも、トージ様、アリーシア様、こちらこそ、お世話になっておりまして。しかも、今回は素晴らしい製品の案件にまで混ぜて頂いて。フォークの件と言い、感謝しても仕切れません。」とラルゴさんが満面の笑みで返してくれた。


4つ股フォークの試作も終わって、その優位性を確信したラルゴさんが丁度俺の方と登録やロイヤリティーの件で連絡しようとしていた矢先の今回の鋏や爪切り、そして毛抜きの件だったそうな。


更に先日預けたの『ホーラント輝石』をオークションに出す件で丁度王都へ赴く予定もあった様でその件でもお話しがあったらしい。


フォークや鋏~毛抜き等のロイヤリティーは安めに設定し、世に普及する事を主眼とし、その方向でアリーシアさんへ一任した。仮に1個当たり100ギリーのロイヤリティー料金であっても、俺としては莫大な数が売れれば十分に潤うのだ。

まあ%制にせず固定料金としたのは、ちゃんと職人や末端へ販売する者達にもある程度利益が出る様にとの配慮である。しかし、ラルゴさんにしてみれば驚きだったようで「そんな少額で宜しいのでしょうか?」と書くにして来た。


だって、鋳造で作るにしたって、材料費や諸々のコストが掛かる。そこに関わった人々の利益を乗せると・・・ね!? ただがフォークを幾らで販売するか知らんけど、やはり、そんな物だろう。


日本では錆びないステンレス製のフォークが100均で売られて居たって事もあって、余り強烈に利益を得ると、他に皺寄せ行きそうだしね・・・。


勿論、鋏、爪切り、毛抜きは、ある程度頂くけどね。でも1個当たりのロイヤリティーは固定金額制のままだ。フォークと同じにこれら3製品にも俺のトレードマークを刻印する事にして正規品を謳って行くらしい。

この手法も「こんな方法があったとは!」と滅茶滅茶褒められて、非常に居心地が悪かった。


だって、発想元は俺じゃ無いし、日本で言う所のJIS規格のマーク的な物そのものだし。

胸張ってドヤれる程に厚顔無恥ではない。


ズルイよね? って、これって、やっぱり、『知識チート』になるんだろうか?



尤も、女神マルーシャ様の望む文明の発展に繋がるとカウントされれば、おれは十分である。



■■■


おっと、話が逸れたが、契約的な打ち合わせが一段落着いた頃、ラルゴさんがスタッフを呼んで温くなったお茶を替える様に命じてから、俺達の方に向き直って、『ホーラント輝石』のオークションの件について話始めた。


どうやら、今までのロイヤリティーの話は前菜で、ここからが本題の様だ。


端折って簡素に纏めると、王都まで『ホーラント輝石』を運ぶのが非常に怖いと言う事だ。この街で一番腕利きの『マッシモの夜明け』でさえ、前回の有様だったし。


俺が偶然に通り掛からなかったら、今日のこの日は無かっただろう。


普段かなり頻繁に王都と、ここを行き来しているがラルゴさんだが、今回は運ぶ物が物なので、ビビりまくって居る訳だ。


例えば全幅の信頼を置いて居る配下の者の誰かが裏切って、商売敵や悪質な貴族に『ホーラント輝石』の運搬情報が漏れたとしよう・・・。


そうすると、完全に鴨葱状態となって、一攫千金を夢見る盗賊だけで無く有象無象が寄って来る可能性が高いのだ。


その有象無象を蹴散らすには、『マッシモの夜明け』だけでは、生きた心地がしないと暗に訴えているのである。


尚、マッシモから王都までは竜車で約1週間の距離らしい。


丁度、来月(約5週間後)の第3水の日に王都で毎月恒例のオークションが開催されるらしい。


近々に出発すれば余裕を持ってオークションに望めると言う。


「もし私が途中で襲われて、『ホーラント輝石』を奪われてしまうと、私共の残った全てをお譲りしても、その弁償代金の半分にも満たないでしょう。」と自分が死んだら丸損と言う卑怯な論調で俺の良心をグイグイ攻め込んで来る。


そう言われると、元日本人として非常に弱い。まあぶっちゃけ、『ホーラント輝石』なんかまた落ちてるのを見つければ良い話だから、良いのだが、ラルゴさんに何かある方が寝覚めが悪い。



「どうか、トージ様、王都までの護衛の指名依頼受けて貰えませんか?」と懇願されたのである。


ほほう、なる程。そのビビる気持ちは十分に理解出来る。


ただなぁ~、俺はあの竜車に乗りたくないのだ。路面のショックをダイレクトに乗客に伝えるあのリジットなサスペンションを何とかして欲しい。


俺が、うーーんと唸って言葉に詰まっていると絶望的な表情をするラルゴさん。


「えーっと、急な話だった物で、いつかは行ってみたいとは思ってはいましたが、俺、乗り物酔いが酷くてですね、あれだけ派手に揺れる物に乗るのはちょっと厳しいのです。」とヤンワリと納得して貰えそうな理由を口にする。


実際の理由はそれだけでは無いのだが・・・自分だけで移動すれば、恐らく2日間ぐらいで王都に辿り着くと思っているからである。

てか、竜車もっと改造しようぜ!!と心の中で叫ぶ俺。


いやぁ~困ったな。例えば俺が『ホーラント輝石』の運搬だけを請け負う事は可能だが、個別で王都に来る道中でラルゴさんが襲われ亡くなってしまわないとも限らないのだ。


そうなると、とてもオークション処ではなく、本日話した計画全てがフイになる・・・イカンイカン!!それはイカン。


結局「わ、判りました・・・・。同行します。」と絞り出す様な声で同意したのだった。


「せめてもう少し、ノリ心地を改善出来ない物でしょうかね?路面の凹凸がダイレクトに伝わらない様な緩衝材とか、車輪当たりに組み込めませんか?」とヤンワリとサスペンションで路面のショックを吸収する方法を提示してみた。


「なる程、緩衝材ですか!面白い発想ですな。興味深い。」と考え込む様子のラルゴさん。


例えば、板バネ(トラックとかに使われているリーフスプリング)を車軸と車体の間に挟めば地面の直撃は緩和されるだろう。但し、ショックアブソーバーが無いと、悲惨な揺れ続けになるのは必至。


何か良い手を思い付けば、良いのだけどな。


というか、さっきの日程だとそもそも、サスペンションとか考える猶予なしじゃん!


俺は、潔く諦めたよ・・・。


その代わり、アリーシアさんの同行を許可して貰った。

あれ?勝手に決めちゃったけど、良かったのかな?


「あ、すみません、勝手に同行とか言ってしまったけど、ちょっとだけ、アリーシアさんと打ち合わせの時間頂けますか?」とラルゴさんに断りを入れてから、ソファーを立って

応接室の隅にアリーシアさんを誘導し、2人を包む風の結界と言うか、遮音シールドを展開して、音が外に漏れない様にした。


「ゴメン、勝手に言ってしまったけど、今遮音の魔法を使っているから、外に話声は漏れないよ。アリーシアさんはどうする? お留守番でも良いけど王都行きたくない?若しくは、俺が王都に着いた段階で、アリーシアさんを呼びに例のあの方法で戻ってつれて行くのも1つの手なんだけど。」と遅まきながら意見を聞いてみた。


「ええ、私、元々王都の近くの街の出身で、亡くなった父とよく王都にも行っておりました。それに、王都の先に海辺の街もありますから、ご案内も出来ますよ。1人であんなに広い家に居るのも寂しいですし、ご迷惑で無ければご一緒したいです。


でも、トージ様、ラルゴさんに全く能力開示せずに旅をするのは辛すぎると思いますよ。特に食事や野営の面でも。」と俺に言って来た。


つまり、ラルゴさんには快適な旅に出来る様に『時空間庫』ぐらいは開示すべきかもと言っている訳だ。なるほど・・・確かに1週間も携帯食だけじゃ死んじゃうよな。


「ところで、今ここで聞く内容じゃないかもだけど、この世界にマジックバッグってあるの? 見た目以上に空間が拡張されている魔動具的な鞄だけど、知ってる?と質問してみた。


「マジックバッグですか。沢山物が入る鞄はダンジョンとかから希に出て来ると聞いた事がありますよ。」と良い情報を教えてくれた。


『女神の英知』によると、マジックバッグは適切な素材と錬金術の知識があれば作れるって出てるんだよね。やっぱりあるのか。


じゃあ、今後の事もあるが、上手く誤魔化せば、ワンチャンイケるか?と思いニヤリとしてしまう。


俺は今回のこの護衛依頼を受けるに際して、斥候として行動する事を考えていた。気配は大体半径で200mぐらいの悪意ある生物を察知で出来るが、盗賊共を警戒するなら、上空からの方が広範囲に確認出来るし断然有利で早いのだ。


よって、今回このウイングスーツによる飛行を見せてしまおうか?と考えて居るのだ。


警戒の為と言えば竜車に乗らない言い訳にもなるし。


「じゃあ、、アリーシアさんも同行って事で返事しちゃって良いね?それと、マジックバッグ的な感じで、食料を持ち運べる事も公開しちゃうね。」と打ち合わせを終えて、遮音のシールドを解除したのであった。


「すみません、お待たせしました。こちらはアリーシアさんも同行すると言う事で参加させて頂きます。


あと、参加するに際して、勿論知り得た私達の能力的な情報を秘匿して貰う事が前提となりますが、こちらも一部情報を開示する事に致しました。一行の護衛は、致しますが、常に同乗する訳では無く、基本斥候として周囲の索敵や脅威の接近をを警告したり事前に排除可能な場合は排除する事をメインに務めますね。」


なんて、キリっと言う感じに纏めて居たのだが、この翌日には俺もラルゴさんも愕然としてしまうのであった。


危うく、忘れてしまう所だったが、ラルゴさんの所のキッチンについて聞いたところ、やはり『換気扇』は無かった。何でも、ドアや窓を開けっぱなして、調理するらしい。


やはり、実際に調理しない人だと、気付かないし、そう言う発想にならないのだろうな・・・。


換気と言うか、排気として考えると、排気の出口の煙突とまでは言わなくても、ソコソコの空気の出口が必要になるし、結構大掛かりな改築工事が必要になると思うから、もしかすると『空気清浄機』的な方向性の方が良いのかも知れない。

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