第25話 日本酒作りの準備

そして、俺は今日ここに来たもう一つの重要事項を尋ねる事にした。

「ロバートさん、4点程お尋ねしたい事が。お酒を漬け込む様な大きな樽が欲しいのですが、この街で樽職人とか、樽や桶が作れる職人って居ますか?

 それと、お酒造りや販売って、特別な許可や申請が必要ですか?」と尋ねた。

ほら、日本だと密造酒って違反だったよね?

何か許認可が必要な事が後で発覚すると面倒だかね。

「酒樽ですか・・・普通の樽や桶の職人は居ますけど、それで良いでしょうかね? 一度直接会ってご相談された方が良いでしょうな。ルミーナにその職人の工房まで案内させますので。」と言ってルミーナさんに目で合図を送っていた。


「あと、酒の製造や販売は特に制限も許可も不要です。ご安心下さい。」と教えてくれた。


「最後の質問ですが、この街で、図書館の様な一般に本を読ませてくれる様な施設って在りますか?私の故郷では、領主や国王の管轄する一般公開された図書館と言う沢山の色々な蔵書を一般に公開している施設があったんですが。それと、購入出来る地図とかってございますでしょうか?」と聞いてみた。


「ほー、本の一般公開ですか!?・・・本は高価ですからな。破かれたり汚されたりすると拙いので、領主様のお屋敷には蔵書室はあると思いますが、残念ながら一般公開はありませんね。

地図と言ってもこの街の地図ぐらいなら安く販売しておりますが、そう言う地図ではないのですよね?」と。


「ええ、この街の地図は1枚欲しいですが、この国やこの国の周辺国とかの位置関係が判る地図が欲しいのです。」と答えると、

「そうですか、周辺国家までの地図ですか。もしかして、本を調べたいと言う件も周辺諸国の情報を知りたいと言う事も含まれて居りますでしょうか?」と察したみたいだった。


「ええ、概ね合ってます。何せ、森に住んでましたので、全くと言って良い程に何も知らなくて、周囲にどんな国があって、何処に行けば海に面しているのか?とか。海で欲しい物もありましてね。」と俺が海産物を頭に思い浮かべてニヤリと微笑む。


「商人ギルドには会員の皆様のご商売に役立つ簡易地図やザックリとした周辺諸国の情報もお売りしております。ご存知の通り、地図自体は軍事的な意味合いや価値が在りますので、ザックリとした都市の位置関係や街道等が印されて居る程度ですがご用意出来ます。少々お高いのですけど・・・。我が国を中心とした周辺諸国の位置関係を印した『世界地図』もございます。

周辺諸国の情勢や特色や注意事項等を纏めた資料も販売する事が出来ます。」と教えてくれた。


俺は直ぐに飛び付いて、纏めて購入したよ。アリーシアさんの交渉で端数を値引きしてくれたのだが・・・お値段爆笑の2千万ギリー!!! 我が家と同じ値段だってよ!?


ネットで欲しい情報が瞬時に取得出来て、何ならナビゲーションやコンサルジュサービスまでしてくれる現代日本から来た身としては驚愕の値段だったが、中世ヨーロッパの時代やコロンブス等の『大航海時代』を考えれば、情報が高価なのは当然頷けるのだ。


値引き交渉をしてみた物の、思う程には安くならず、本当に購入するんですか?って顔で俺をチラリと見て来るアリーシアさん。

「まあ、確かに結構な値段ではあるが、しょうがない、必要経費だな・・・。情報とは古来高価な物なのだよ。」と俺が呟いて首肯したら、納得してくれた。

地図と周辺諸国を纏めた冊子をホクホクした表情で受け取って何でも収まっちゃうリュックに入れる感じで『時空間庫』へと保管した後、ルミーナさんの先導で桶職人?の工房へと向かうのであった・・・。


道中に「如何ですか?お住まいの住み心地は?」とは話を振って来る自分の憧れた住処の感想を聞いて来るルミーナさん。 知ってるだけに答え難いじゃねぇ~かよ!と内心毒突きつつも笑顔で、「お陰様で、大変素晴らしいです。ルミーナさん、あの家を紹介してくれて本当にありがとうございました。」と改めてお礼を言ったのだった。


「お聞きして良いのか不明ですが、お酒を造られるご予定と言う事ですよね?別に詮索したいって事ではなく、何か私共でお役に立てる事があれば、お気軽にお申し付け下さいね。質問やご相談だけでも大丈夫です。」と笑顔で申し出てくれた。


「ありがとうございます。そう言って頂けると心強いです。まずは、自分の料理用に狙った物が出来るまでは研究して、その後大々的に普及させる感じですね。これが成功したら、料理に革命が起きるかも?」とちょっと大袈裟に言ってみた。照り焼きとかタレ類、煮物類、色々とメニューが増えるし、街の肉串が劇的に美味くなるだろうし。強ち嘘では無いと思う。


そんな俺の食欲に忠実な願う未来に嬉し気に「流石はトージ様ですね!」と疑う感じもなく頷いていた。


「いや、あくまで、俺の希望であり、願いって段階だからね? まあ、俺の方はこんな感じだけど、それより近い将来、エルダさんの里で造って居るソイやソイペーストの供給増大の為の工場と言うか、『醸造所』を建てる事になるんじゃないかな。これは凄く近い将来だと思うよ。製造に時間掛かるから、一気に増産って訳にもいかないし。


出来れば、この街かこの街の近郊に作って欲しいよね。俺の料理の要の1つだし。」と俺が言うと、「なる程・・・」と頷いていた。


「後は『マイマイ』の増産だな! 領主様に進言して『マイマイ』増産する方向に農家を誘導したり出来ないのかなぁ?」と欲望ダダ漏れのプランを頭の中で考える俺だった。


今後の展開に妄想を膨らませたりしながら3人で15分程歩いた一角は、そうやら職人の工房等が集まる工業区画らしく、近辺から金槌で叩く音や職人の怒鳴り声等がしていて結構賑やかな場所であった。


ルミーナさんは、颯爽とそんな区画の大きな工房へとズイズイ入っていって、「こんにちは!商業ギルドから、お客様をお連れしました!ロベルトさーーん!」と大きな声で叫んだ。

「うるせーなぁ~。何だ、ルミーナ嬢ちゃんか! 珍しいじゃねぇか、上客か?」と茶褐色の肌に黒茶っぽい天然パーマのくせっ毛のズングリと言うよりもマッチョなオッチャンが出て来た・・・・。


どうやら、この世界のドワーフは、背が低いとと言う方向性では無く、人族の標準身長よりは低いものの、小人と呼ばれたり子供に見えたりする程の小ささでは無く。筋肉質でマッチョな方向の様だ。


「おーっと、もしかして、ドワーフなのか!?スッゲー!」と驚きと天然の職人種族登場にテンションが上がってしまい思わずボソッと呟いてしまう俺。


そして、いかん・・・と直ぐに反省し、「藪から棒に申し訳無い。ドワーフの方とお会いするのが始めてな物で、思わず感動でテンション上がっちゃって!悪い意味じゃないので許して欲しい。 つい先日からこの街に住み始めた『オオサワ商会』のトージと言う者だ。俺の秘書兼スタッフのアリーシア、宜しく頼む。」と速攻で謝罪して自己紹介をした。


「お、おう、気にすんな!如何にも、俺はドワーフだぜ。そうかドワーフは始めて見るのか? じゃあしょうがねぇ~よ。ガハハ。 あ、俺はロベルトって言うんだ。ご両人ともに宜しくな!」と気安い感じで許してくれたのだった。


俺はロベルトさーーんに酒を漬け込む酒樽が欲しい事を伝えたが、流石はプロで、大きさ等を決めただけで酒造りに最適な木材での見積もりをサクっと出してくれたので、取りあえず寿いぃせい用の樽を10つと最初に発酵させる直径2m程の大きな木桶を2つ、更に原料の米を蒸す為の蒸籠を40個を注文しておいた。


完成したら、自宅まで持って来てくれるらしい。


ちなみに、この世界には蒸籠自体、存在して居らず、当然の様に蒸すと言う調理方法は知られて居なかった。


それを聞いて、俺は蒸籠の注文数を当初考えて居た20個から倍の40個に変更したのだった。 ふふふ、肉まんとか小籠包とかも良いかも知れんな・・・と作り方等を頭の中で思い出しつつニヤリとほくそ笑むのだった。



注文に関する全ての話が終わった後、「トージ、酒作るのか? 出来たら少し飲ませてくれ!!」と真剣な表情のロベルトさんからで懇願されたのだった・・・。


どうやらこの世界のドワーフも酒好きがデフォの様である。


これで、日本酒作りの最初の一歩は完了だ。

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