第20話 楽しい爆買いツアー その2

そんなアリーシアさんの燻製と干し肉のフレーズで思い出した俺は、

「そうだ、スパイス類も欲しいし、料理用の料理酒やビネガーとかもあれば欲しいな! アリーシアさん、お酒を造る過程で酸っぱいお酒の失敗作みたいな調味料ってあったりする?」と聞くと、うーんと唸りながら考えていたが、「ごめんなさい、私の記憶にはなくて。料理人かお酒を扱う商人に聞いた方が良いかもですね。」と役に立てず申し訳無さそうに応えて来た。


「だな。そうしよう。酒屋?を探して、判らなければ、ラルゴさんの所の料理人に聞いてみよう。」と切り替えて市場の中を歩いて行くと、刺激的な香りのする店を見つけた。


「おお、スパイス屋さんかな。色々みてみよう。」とアリーシアさんと店の前に立つと、日に焼けた小麦粉色の肌で耳の長い女性が店主をしている露天だった・・・何?エルフ!? いや、小麦粉色の肌だしダークエルフなのか?

もしかしての初エルフ遭遇かも知れない。 やっぱり居るんだ、エルフも。って事はドワーフや獣人(ケモ耳さん)にもその内お目に掛かれるかも!? ワクワクするな。 すげーよ、異世界。


「こんちは、ここは香辛料や調味料の専門店かな?」とエルフに尋ねると、


「ああ、いらっしゃい、調味料を取り扱ってる。」とぶっきらぼうに応えてくれた。


「このスパイシーな香りは・・・胡椒、それにターメリックか?ガラムマサラもありそうだな・・・。なあ、スパイス類って何種類持って来てる?全種類、欲しいのだが?」と俺が尋ねると、「は?全種類?しょうりょうずつでも相当な金額になるぞ?正気か?」とそれまで眠そうに目を細めて居たのだが急に目をクワッと見開いて聞いてきた。


「一応、かなり本気だよ。香辛料とかちゃんと嗅いだり使って見ないと組み合わせとか判らないからね。そりゃあ白金貨1枚とか言われると多少困るけど買わないとは言わないぞ!作りたい料理あるしな・・。」と解説すると、俺の本気度を理解してくれたらしく、

立ち上がって、背後の竜車から、スパイスを小分けにした箱を取り出し、「今回持って来たのは、全部で10種類ぐらい、砕くと香りが抜けるから、実のままになってるから、自分で砕いて調合する必要があるってのは判って居るみたいだな?」とおての様子を見て頷いている。


自作しても良いが、序でに擦り潰す道具もあれば欲しいんだが? すり鉢作っても良いけど、あの小舟とローラーみたいなの欲しいよね。


アリーシアさんが交渉してくれた結果、唐辛子~各種スパイス10種を小袋に分けて貰って、大金貨1枚で購入したのだった。


自分で売っておきながら、「まさか本当に買うとはおもわなかったぞ。ふふふ、わたしはエルフ族のエルダと言う。また追加で必要になれば言ってくれ。それぞれの袋に名前書いているから。」と初めて笑顔で話してくれた。

「そうか、エルダさんか、俺はージ、こちらはパートナーのアリーシアさんだ。そうだ、聞きたいのだが、料理に使う酸味のあお酒みたいな調味料って持って無いか?」と聞くと、「あ、もしかして『ビネガー』の事か?あるぞ!」と。


「おお!それも欲しい!」と俺が食い付くと、「あんた変わってるな。人族は殆ど買わないんだがな・・・。他にも面白い調味料もあるぞ。ビネガーを買うぐらいだから、もしかして・・・ソイも欲しがったりするか?」と言い出した・・・まさか?

「おお、そのソイって豆を使って作る黒っぽい液体とか言わないよな?」と期待を込めて尋ねてみた。


「おお、やっぱしってたか、舐めてみるか?少々塩っぱいけどな。」と竜車から、小さい樽を持って来て、コルクの栓を抜いて、きれいな、木の筒を出して来て小皿に数滴取り分けてくれた。


「うぉーーー!あったのかーー!」と思わず絶叫する俺。 ああこれで人生勝ったも同然である。


俺は驚くエルダさんとアリーシアさんをそっちのけで、小皿を半ば奪い取り、小指に赤黒い液体を付けてペロリと舐めたのだった。


あったよ。あった。これだよ、醤油だよ!!!!


「買う! ソイだっけ? この樽1つで幾ら?まだあるなら、今日ここで買える分全部買うけど? でもソイあるって事はちょっと見た目はアレだけど、味噌もあるんじゃ?」と聞くと、「お?もしかしてソイペーストの事を言ってるか?」と言いながらまたもや竜車から、ちょっと重そうな樽を回しながら移動させて、

「悪い、これ重くて、降ろすの手伝ってくれるか?」と言って来たので、「おお任せろってか、降ろしちゃうと帰り支度が大変だろ?」と聞くと「ああ、大丈夫さ、どうせあんたが買ってくれるだろ?」とニヤリとしながた微笑んで見せて来た。

「いや多分買うけど、味見してからだ。」と言う俺に木べらに見た目『アレ』な味噌を付けて俺に渡して来た。ペロリと舐め取り「ああ、味噌だな。ふふふ、買うよ。買わせて貰うよ。やるな、エルフ!フッフッフ」と言いながらお互いに笑い合うのだった。

「なあ、ビネガーではないんだが、マイマイを酒にしたちょっと甘味とトロ味のある調味料とか知らないか? 俺達の故郷だと『みりん』って名で呼んでたんだがな。」と聞いてみたが、流石にそう都合良く『みりん』は出て来なかった。

残念である。

やはり、まずはマイマイで日本酒作りから始めるか・・・。


アリーシアさんが値切ってくれたので、お陰で醤油の小樽は合計4樽に増えたし、ビネガーの小樽も2樽に増えた。


更に砂糖も売っていると言うので、調子にのって砂糖(ザラメ)も中壺1つ分を購入した。確かにこれで金貨3枚はお高い。だって白ではなく茶色がかった色のザラメを細かく砕いた様な物、ただ黒糖程に黒っぽくはない物だし。

味は、そうだね、雑味があって、黒糖よりザラメ寄りかな。日本だと其処ら中で手に入った白糖が懐かしい・・・。まあ、料理に十分に使えるよ。スイーツに使うとすると判らん。


「いやぁ~今回はトージのお陰で、身軽に帰れるぞ!」と喜ぶダークな笑いの似合うエルダさんに、「いやこちらこそ。序でに少し教えてくれるか?俺、先日この街に出て来たばかりでな、よく世間の事を知らないのだが、エルダさんって、普通のエルフ族なのか?ダークエルフじゃなくて?」と聞くと、

「ああ、エルフはエルフだが黒エルフって呼ばれるエルフ族だな。他には白エルフってのも居るぞ。」と教えてくれた。なるほどな!


ちなみにこのソイやソイペーストはエルフのご先祖が、ある時天啓を受けて編み出した手法で作り出した調味料らしい。なる程天啓ねぇ~。


まあ良いさ、重要なのは俺が生きて行く上で欠かせない調味料が安定供給される環境だ。


「エルダさん、その内ここの街やこの国でソイやソイペーストの需要が急激に高くなるから、少しずつ・・・いや大幅に増産しといた方が良いぞ!。増産するって言っても発酵熟成を考えると年単位で掛かるだろうし。」と俺が製造過程を思い出しつつ言うと「お、詳しいな、需要が急激に高くなるって、本当か?」と聞いて来たので、「ああ、間違いないぞ!ほぼ確定事項だ!俺が流行らせるからな!」と笑顔で応えると。本気にしてない様子で笑っていた。


「ところで製造ってエルフの里とかでやってるのか? 次に欲しい時はどうすれば良い?」と聞くと、月に1回のペースでエルフの里から行商に来てので1ヵ月後にはまたここで店を出しているさ。と言っていた。


「良かった!そうか、道中呉々も気を付けてな!また購入するから、頼むぞ!」と言うと、『ソイ』の購入の為って事が判っているので苦笑いしていた。


「ああ、今日は本当に良い日だ。じゃ、またな、エルダさん!」と言ってその場を離れたのであった。


そう、俺は今日と言う日を2年間辛抱して待ちわびて居たのだ。


俺の『「ああ、今日は本当に良い日だ。』の意味に自分とのお買い物デートが含まれて無い事を敏感に察知しているアリーシアさんから怒りと悲しみの入り交じった視線を感じて居るが、ドンマイである。


そんな心境も、白米と、美味しい食事でぶっ飛ぶからな!! フッフッフ!!


次に調理器具を少し購入したいところである。お米は俺の作った土鍋ならぬ石鍋で炊けるし、後は、ザルや木のボールとか調理様の小道具類等だ。


「アリーシアさん、近々に今まで食べた事無い様な美味しい食事をご馳走するよ。楽しみにしていて!!」と自信満々に宣言し、見つけた店で調理道具の小物を購入し、

ホクホク顔でラルゴさんの屋敷へと戻るのであった。



屋敷に到着すると、まずはラルゴさんに本日の付き添いのお礼を言って、明日は、俺とアリーシアさんで廻るので、大丈夫ですと、重ねてお礼を言って断っておいた。


何故か、断ったら、捨てられた子犬の様な悲しげな表情をされてしまったのが、ちょっと意味が判らない・・・。もしかして、そっちの気は無いと思うのだけど、大丈夫だよな?


もう、米も醤油も味噌もある。こうなったら、自炊しない手は無い。脳内会議は満場一致で早く自炊出来る環境を作れ!である。


思わず部屋の鏡の前で、踊っちゃったよ。


そう、余りにも多くの事が続け様にあったので忘れていたが、この屋敷にはちゃんとした大きな鏡が有り、俺はこっちの世界に来て初めてこの身体になった俺の顔や全体像を確認する事が出来たんだよね。


元の焼けてしまった27歳の小デブ程ではないが弛んだ身体と、贔屓目にも整っているとは言い難いふつーの顔しか記憶の無い俺にとって、この身体の俺は控え目に言ってイケメンで、俺の目から見てもモテそうな外見だった。

大丈夫、茶髪だけどチャラい感じには見えないし。


ただ唯一の残念ポイントは『堕ち武者』よりは幾分かマシだけど、ザンバラにカットされた酷い髪型だ。


これなら、坊主の方が良いかも知れない・・・。


そうだ、散髪について、聞いておこう。


さてと、風呂に入ってサッパリして魔法で乾かして着替えて暫くすると、夕食のお知らせのメイドちゃんが来て、食堂へとお呼ばれしたのだった。


今日の夕食も昨日同様の構成のメニューだが、やっと望んだ調味料や米が手に入ったので、心が非常に軽い。


まあ、願わくば『みりん』や『日本酒』もあれば尚味の再現率が高くなるのだが、米があるって事は、酒麹さえ何とか出来れば俺でも作れるかも知れない。


俺の寿命が何歳までかはは知らないが、何とかなるだろう・・・。


そうそう、お風呂から上がった後、『時空間庫』の整理とラルゴさん達に約束していたアプモグの実とエグドラの実を5個ずつ出して籠に入れて食堂で待って居たラルゴさんにお渡ししておいた。


もうね、ラルゴさんが固まっちゃって、暫く息が止まっている感じだったからビビったよ。


その後復活して、ゼイハーゼイハーと息をしてたけど・・・。


一時期俺を支えていたこの主食だった果物は相当にレア物らしい。


「ああ、それは色々お世話になったラルゴさんに差し上げる物なので、食べるも売るも誰かにあげるも好きにしちゃって下さい。」と俺が言うと余計に息が荒くなっていたのだった。


「ああ、アリーシアさんの分も忘れて無いよ。食後に上げるから、心配しないでね。」とアリーシアさんに言うと、こっちも息が荒くなっていたのだった。


まあそんな訳で、取りあえず、夕食を終えると、アリーシアさんを部屋に呼んで、冷やしておいたエグドラの実を皿に入れて出してやったら、思った以上に大きかったらしく、どうやって食べようかと悩んで居る様だったので、溢しても良い様にシートを敷いてやって、その上で齧り付いて貰った。


意を決した様に大きな口をガバッと開けてガブリと恥ずかしそうに齧り付く美少女の図はなかなかに良い絵だった。

うん、別にナイフで切り分けながら、食べれば、普通に食べる事が出来るんだけど、意図せずにやったとは言え、差し出された大きな実にオロオロする『様子がちょっと可愛くて思わず放置して見ていたのだ。


一口食べた瞬間に目を見開いて、蕩けた様な恍惚の表情は本来ならお歳頃の美少女がしてはいけない表情だと思うのだが、凄く可愛かったのだ・・・。


何だかんだで大きな実を丸々1個完食したアリーシアさん、少々お腹が苦しそうで、続けてアプモグの実を出そうとしたら、ギブアップ。

「すみません、もう今日はこれ以上食べられません。出来れば後日でお願い致します。」と申し訳無さそうに言って来たのだった。


「うん、OKだよ。結構大きいもんね。判るよ。」と言って了承するとホッとした表情をしていた。


そうだ、包丁やナイフ類も買ってなかったな。どうせ、マトモな剣やナイフも欲しいし、明日、ラルゴさんに聞いてみよう。



そうそう、散髪だけど、普通は家の人や家族が切るらしい。(しかもナイフで!!)


家族の居ない1人者はどうするの?って思うじゃん? ふっふっふ。

何とビックリ。男の場合、恋人や家族が居ない場合は、なーーんと、娼館で娼婦のおねーさんに切って貰うんだって。驚いたよ。

それを聞いて、「なるほど・・・」って素で返事したのだが、


そうすると、「あのぅ、私で良ければ髪の毛お切りしますが?」と頬を染めつつ恥ずかしそうに片手を挙げるアリーシアさんが俺の目の前の席でモジモジしていたので、

「そうですか、どうぞお願い致します。」と頭を下げてお願いすると、「お任せ下さい。」と握る拳を顔の前で構えていた。

そんなアリーシアさんと俺のやり取りをラルゴさんが微笑ましいと言うか、生温かい視線で見ていた気がするが・・・。


で、女の子の場合だが、女物の服屋さんの一部ではサービスの一環でカットしてくれる店もあるらしい、ただ、一番多いのは友達同士で切り合う感じだそうだ。

しかし、女同志の喧嘩の90%の発端はこの友達同士の散髪が原因らしい・・・怖いって!!


話は変わるけど、この世界に鋏と言う文明の利器は存在しないらしい。


興味本位で更に爪はどうやって切るのかを聞くと、これもナイフで切るらしい。怖っ!!


足の爪とか自分でナイフで切るのは怖過ぎる。


その内に、鋏、爪切り、毛抜きの3種を提案してみるのも良いかも知れないな。


そう言えば昔日本の匠が作る毛抜きと爪切りが凄いって番組あったのを見た気がするな・・・。


後日ラルゴさんから、聞いたのだが、この国には、女性が男性に好意を寄せていると言う事を遠回しに表現する時に、「髪の毛を切って上げる。」と言う事を言うったりお願いしたりする風習があるんだそうな・・・。


マジかよ!?と。


あ、髪の毛はエグドラの実を食べて満足気なアリーシアさんに切って貰いました。


アリーシアさんは、おれの髪の毛を櫛で梳かして器用にナイフでカットしながら、「本当に酷いカットですね。もう、次からは自分でしないで、私に言って下さいね!」と言って約束させられてしまいました。


「うん、じゃあ、ずっと、カットお願いするよ!!」と何の気なく返すと、アリーシアさんが凄く真っ赤な顔で、「はい!」とシッカリと返事をしたのであった・・・。


そう、この時の俺は、その言葉の意味する意味(暗に秘める真意)を全く理解して無かったのだった・・・。

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