第19話 楽しい爆買いツアー その1
神殿から出て、元来た道から大通りへ向かう途中で振り返って、ふと神殿の奥に目をやると、神殿よりも小さいちょっとした田舎の小学校の木造校舎の様な建物が見えた。
「ねえ、アリーシアさん、あの神殿の奥にある木造の建物は何かな?」と聞いてみると、孤児院らしい。なるほど、よくある話だ。
この世界では神殿とセットで神殿が運営する孤児院があるのが定石らしい。
あの清廉潔白そうなアデルさんを見れば、異世界物でよくあるデップリ油ギッシュな悪徳強欲司祭による横領で孤児が飢えてガリガリとかは無さそうだな・・・。
俺の心の安寧の為にも・・・次回訪問時に偶然を装って孤児院の方もチェックしとくかな!?
来た道を徒歩でラルゴさんの屋敷方面へと歩いて戻るのだが、先程曲がった交差点を衛兵の詰め所方面に曲がってこの面ストリートを進んで行き、先程買い物をした雑貨屋を通り過ぎる。
通りには所処に屋台などが店を出しているのだが、悲しい事にそれ程俺達の食欲を刺激する匂いを放っては居ないのだ。
おかしいな? 異世界の屋台と言えば美味しい肉串が定番なんだがな。
何か、食文化もう少し発展していても不思議はないのだけど、あれかな?漬け焼き用のタレとか、そもそも漬け焼きって言う発想がないのだろうか?
俺としてはそう言う所が凄く不満である。要改善ポイントだな。
やっぱ肉串とか焼肉や焼き鳥って言えば、タレである。
醤油無いかなぁ? 確か、醤油やみりんやコチジャンとか唐辛子とか摺り下ろしニンニクや玉葱とか色々混ぜるんだよな?
ヤバっ、焼肉と白米食いたくなる・・・。おれは首を振って邪念(焼肉と白米)を振り払ったのだった。
何処に行けば食料品や市場があるのかな? 通りを歩いている通行人に聞くと、新雪にも厭な顔一つせずに市場の場所を教えてくれた。
場所は結構距離があったのだが、俺としては整った道なので森の中より歩き易いのは勿論の事、色々な商店に並んだ商品を見たり、何よりも女性と一緒に話をしながらデートの様に歩ける事が新鮮で楽しかったのだ。
「トージ様、楽しそうですね。」とアリーシアさんが微笑みながら聞いてくるぐらいにはワクワクしていた。
「ふふふ、ああ初めての街の散策は楽しいけど、更に誰かと話しながらなんて、本当に産まれてこの方初だもん。楽しいよ!」と素直に認めると、頬を真っ赤にして照れて居た。
一般大衆向けの服屋さんを見つけて入って、適当に着替え等を購入したり、漸く良い匂いを放って居る食堂を発見し、丁度昼飯時だったので2人で店内に入って席に座って、俺はメニューが全く判らないので、適当にお薦めの昼食セットを注文すると、アリーシアさんも同じ物にするらしい。
出て来た食事は野菜炒めっぽい何かに肉を焼いたステーキにソースを掛けた物。それにパンとスープであった。
それなりに食えたが大喜びする程美味しい訳では無かった。ただ、フォークは件の二股の非常に食い難い物で、食べて居て非常にイラッとしたのは言う間でも無い。マジで今度からマイ箸持参する様にしよう。
ラルゴさん、早く4つ股フォーク普及してくれないかなぁ?
やはり、この世界でこの先も暮らして行くのであれば、もっと食文化を美味しい物に洗脳しないとやってられない。
俺の持って居る食の知識なんて微々たる物だが、1人になってから、食い道楽出自炊したり、レシピ調べてお袋の味の再現とかしたから、そこらの独身男には負けない位の腕はあると思うんだ。
勿論、基本的に必要とする原料や材料、それに調味料とかあれば、だけどね。
例えば、醤油や日本酒等の製造方法やその過程を知って居ても、自作までした事も無い。
天然酵母を使ったパンを焼いた事はあるが、デミグラスソースまで作った事もない。
カレーはお袋のレシピノートを見つけて一時期嵌まって、スパイスから調合して作った時期もあったけど、マイブームが過ぎたら、普通に市販のルーを使って手を抜いたし。
蕎麦とうどんには手を出したけど、ラーメンにまでは手を出さなかった。
理由は、簡単で、1人暮らしだとスープを持て余すから。
パスタは一時期、色々な種類作ったなぁ~。ああ、オリーブオイルとかごま油とか撃ってるかな? 生パスタも一時期手打ちしたし。
3回ぐらいやって、面倒になって、後は乾麺で済ませたけど。
でも、こうして考えると、俺って何気に優秀じゃねぇ?
全部普及させれば余裕で食文化がエライこっちゃで爆誕物だよね?
グフフ・・・ジュルッと涎が垂れそうになって、慌てて、何でもない風を装って、手の甲で口元を拭ったのだった。
これは『ナンシー』様の依頼達成の為と言うより自分の為にも本気で大至急やるべきだろう! と心に決めるのであった。
食べ終わって店を出ると直ぐに市場の一角へと到着した。
そうそう、会計は、運ばれて来た物を受け取る時に支払うシステムみたい。
つまり、支払わないと受け取れないから、食い逃げは出来ないってシステムだね。
ただ、これは大衆食堂でのシステムで、貴族やセレブの御用達の高級レストランとかだと後払いらしい。
ああ、でも大丈夫だって。そう言う高級店は、屈強な警備員も雇っているから、逃げるのは無理っぽい。
「おー!結構賑わってるじゃん。何か色々な食物や穀物、それに調味料も探したい。 そうだ、アリーシアさんちょっと教えて、砂糖って判る? 甘い味のする調味料なんだけど、知ってる?」と聞いてみると、うん知ってた。
庶民ではてが出ない高級品だって。
そうか、在るにはあるのか、砂糖。しかし高級品ってどれぐらいの高級品度なんだろう?例えば、一匙十万ギリーとかじゃ実用的じゃないから、砂糖作りから考え無いと駄目だし。
料理文化を進めるにしても調味料から全部は流石に厳しいし。作り方を知ってるのと作れるのとは話が別だからな・・・。
特に発酵が絡むと余計に難しい。
市場は、この街の近隣の農村から持ち込まれた竜車をそのまま店にした様な移動販売あり、藁で編んだ筵の上に商品を並べたフリマの様な雰囲気の物等様々である。この風景は予想以上だった。
そんな市場の様子を見るアリーシアさんはちょっと懐かしそうな切ない表情をして居る。
きっとお父さんとの行商の日々を思い出したのかも?
「アリーシアさん、大丈夫? 何か面白い物とか珍し物とか、欲しい物あったら教えてね!」と強制的に気を紛らわせる様に仕向ける。
「はい。大丈夫です。ちょっと昔を思い出しただけで・・・。」とアリーシアさんが無理に笑顔を作って返して来た。
「ああ、無理に笑顔作らなくて良いよ。誰だって悲しい気持ちや寂しい気持ちや無性に泣きたくなる事も在るんだから、無理に抑えなくても・・・」と言うと「ありがとうございます。ふふふ、でもここで号泣したら、トージ様が泣かせたって思われちゃいますよ?」とお礼を言いつつもからかって来たのであった。
「それは拙いな! 勘弁してね! それはそうと、アリーシアさん、ヤバイよ!!メッチャ楽しいよ。色んな見た事無い物だらけじゃん!!」と年甲斐も無くはしゃぐ俺。
「ふふ、この街の市場でさえ、これだけの店が集まってますが、王都の市場だと、この数倍以上に凄いんですよぉ~。」とアリーシアさんがちょっと自慢気に教えてくれた。
穀物や豆類を扱っている店を見つけ、物を見せて貰うと、小麦、大麦に粟っぽい物を発見したが、まずは、小麦と大麦を購入する事にして、値段交渉をアリーシアさんにお願いし、それぞれ5袋ずつを1袋大銀貨2枚で購入した。以外に安いのかな?
そして店のオッチャンに形状等を説明しつつ『米』が無いかを聞いてみたら、「うーん、兄ちゃんの探してるのはひょっとしてこれか?」と言って置くから袋を持って来て中身を見せてくれた。うむ、正にこれだ!!籾付きのお米である。美味いかどうかは食ってみないと何とも言えないが、
「そう、多分これ、『マイマイ』って言うのか。俺の故郷では『米』って言ってたんだけどな。なるほど。オッチャン、これどれくらいあるの?買える分だけ全部買うよ。」と俺が言うと、オッチャンと交渉係のアリーシアさんが大層驚いていた。
嬉しい事にこの世界では米こと『マイマイ』は人気が無いそうで『粟』と同じく、非常に安い家畜の餌等に用いられている。美味しいのに勿体ない話だ。
購入した小麦、大麦、それに『マイマイ』の袋をドンドンとリュック経由で『時空間庫』に放り込んで行くと入れても入れても入る事で驚きの声を上げるオッチャンに指を立てて、シーと声を上げない様に制して、ニッコリ笑いながら、親の形見の『マジックバッグ』って言う魔動具なんんだ。と言うとポカンとしていた。
更に、豆を何袋も見せて貰って漸くお目当ての大豆を発見した。
これさえ在れば、最悪努力次第で味噌と醤油が作れるのだ。
まあ極力既製品を探すつもりだけどな・・・念の為である。
それに大豆があれば、納豆も豆腐も作れるから、無駄になる事は無い。
一応、大量にお買い上げしたお得意様って事で、かなり気前良く値引きに応じてくれたオッチャンには、
「値引きしてくれてありがとう。お礼代わりに、一回味見してみないと何とも言えないけど、この先、『マイマイ』は段々売れる物になるよ。美味い筈だし。」と俺が言うと意味が判らずに驚いた顔で俺を見て居た。
「もしかして兄ちゃん、あの『マイマイ』自分で食うのかよ!?家畜の餌だぜ?」ととんでもない奴を見る様な目で見られたのだった。
「ああ、あれはな、特別な美味しく食う食い方があるんだよ。そうじゃなけりゃ食えたもんんじゃないだろうな。」と言うと、「兄ちゃん、教えてくれ!」と言うが、まあ、俺の望む『マイマイ』と同じかチェックしたら、レシピや必要な道具も商人ギルドを通して販売する予定だよ。その時は早めに教えるから、楽しみにして居てくれ。」とまずは自分で試してからと話を切り上げたのだった。
「そうか、頼むぜ!おらぁ、ガルダって言う者だ。覚えて置いてくれ、週に1度ここに居るからよ。」と微笑むガルダさん。「そうか、俺はトージだ。次回も同じぐらいマイマイ購入すると思うから宜しくな!」と自己紹介をして次の店を物色するのだった。
そんな俺を不思議そうにジト目で俺を見つめるアリーシアさん。
あんなに購入してどうするんですか?と言う事だろう。本当に食うのか?と。
「ハハハ、予想通りなら、食生活が楽しい事になるから。アリーシアさんにも食べて貰うから、楽しみにしてて。」と俺がニヤリと笑いながら返したら、
フフフと悪戯っぽく笑いながら、「どうしましょう? 大変です!このままでは、私が料理でトージ様の胃袋を掴む前に、トージ様のお料理で私の胃袋を掴まれてしまいそうです。」
大袈裟に慌てた様な仕草をしていた。
「確かにトージ様に貰ったあの干し肉?燻製でしたか?あれも美味しかったし、今から楽しみです!」と楽しそう顔をしていたのだった。。
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