第18話 神殿報告会

教えられた交差点を曲がると目の前に大きな白い建物が見えて来た。神殿である。


ああ、ここまでの道程の長かった事・・・。

「ここまで来るのに、2年だよ。長かったな・・・。」と呟く俺。


いや、ここまで来て、『ナンシー』様に挨拶して何が変わると言う訳でもないのだが、1つの区切りと言うかケジメな。


「ああ、そうだ。ちょっと神殿について聞いて良い? えっと、この世界の神殿って、全世界共通なの? その祀ってある神様とか。何処も共通なのかな? もしかして神殿によって祀ってある女神様や神様が違うとかあったりするの?」とそもそも全く何もした無い事を聞いてみた。


「トージ様はそこら辺の常識もご存知では無いのですね。それぐらいなら私にお任せ下さい。この世界の神殿は全て、この世界をお造りになった英知の女神マルーシャ様を祀った神殿となります。他の神様の名前は全く聞いた事がございませんので、マルーシャ様だけだと思います。寧ろ、そんな事を神殿の司祭様や他の方々に聞かれたら、異教徒や邪神信仰者として、制裁を受ける可能性あるので、絶対に迂闊に口にしないで下さいね。」とヤバイ事言ったら世間的に葬られると警告されたのだった。


「わぁ~、危ない!ありがとう、教えてくれて。気を付けます。」とお礼を言って、冷や汗を拭う俺。


何処の世界も宗教絡みは恐ろしい・・・。俺、やっぱ宗教嫌いだわ。


と言う事で少々ビビりながら、神殿の敷地に入って、アリーシアさんの先導に着いて行って礼拝等を行う様な祭壇と像が置いてある広いホールに入って、一礼して、そのまま祭壇の前まで進み、アリーシアさんの真似をして、両膝を着いて、女神像の方を見て手の指を組んで合わせてお祈りを始めるアリーシアさん。


俺も同様に手の指を組んで合わせて、心の中で、「初めまして、英知の女神マルーシャ様、神殿をお借りしてます。『ナンシー』様聞こえますか?やっと神殿までやって来ました。色々大変ですが、少しずつ前に進めて居ります。文明を発達させるって、難しいですよ。聞こえますか?『ナンシー』様色々先に教えてくれるべき事あったんじゃないですかね?」と多生ボヤきつつも頭の中で話し掛ける俺。


「やっと来居ったか。遅いのじゃ!」と聞き覚えのある『ナンシー』様の声が俺の頭の中に響いて来た。


第一声がそれかよ!? こっちは大変な目にあっていたのに・・・。


「あー、ゆやっと返事が来た。『ナンシー』様、酷いですよ、あんな場所にポケットナイフ1個だけで放り出すとか、俺で無ければ死んでましたよ?ちゃんと見てましたか?知らないかも知れませんが、人間って3日間水飲まないと死んじゃうんですよ!」あんなにも水場が無い場所に放り出すって死ねって行ってるのと同じですって。

俺以前の人4回失敗って、それそう言う細かな気遣いが無かった所為じゃないんですかね?

まだ、最初から魔法使えればまだ良いけど、魔法使う以前の問題で魔力を感じる所からですもん。『しかも』あの頂いた『女神の英知』の知識って少々古いし全く更新されてないですよね?

しかも情報が非常に不親切で足りないし。あれはもっとてを入れないと駄目ですって。」と脳内で今までのあれやこれやの鬱憤を晴らすかの様に一気にクレーム捲し立てる俺。


「じゃ、じゃがのぉ~。あれは、試験官からの支給品じゃったし、どうしようもなかったんじゃ。」と不可抗力を強く主張する『ナンシー』様。


「で、一番大きな質問!どんな程度文明を発展させれば良いんでしょうかね?もしかして、俺の料理知識を広めるだけでクリアとか? もしくは俺の編み出した魔法に関する知識を広めるとかでも良いのかな?『女神の英知』に無い知識だし。」と俺が聞くと。


「多分、ええとは思うのじゃ。だがそれだけで足りとるかは判らんのじゃ。」と『ナンシー』様。

まあ、そうか!? 判って居れば、前の4人だかで合格してるか。 あ、そうだ!これも聞いておかなきゃ!! と聞く予定だった事柄を思い出して質問を続ける。


「一応ベストは尽くしますが、それよりも、もしクリアした場合って、俺ってどうなります? まさかその場で即死で居なかった事にされるとか無いですよね? ああそれと、現在こちらに派遣されてる手駒って俺の他に何人か居るんですか?」と俺のこの先や他の同輩の情報を聞くと、

「すまんのぉ~、まだクリアした事無いので知らんのじゃ。今度合格した先輩に聞いてみるのじゃ。また定期的に報告せい。妾の手駒はお主だけじゃぞ! 他の見習いの手駒は知らぬのじゃ。今度探り入れておくが、他の手駒が送られるにしてもおそらく時期時間軸がズレると思うのじゃ。

しかしそれはそうと、お主、女子とイチャイチャ楽しむだけじゃ駄目じゃぞ! シッカリ励むのじゃぞ!じゃあのぉ~。」と言って脳内に響いて居た『ナンシー』様の音声がブツッと途切れ・・・


「やっと妾の出番かの?長いのじゃ!妾の神殿なのに!」と言う第ニの『のじゃ』音声が現れた。たのであった。


ああ、これは・・・「初めまして、トージと申します。英知の女神マルーシャ様でしょうか?」と新しい声の主にお伺いを立てると。「そうじゃ、妾の神殿じゃからの。」とちょっと背伸びして胸を反らすロリのじゃな女神のイメージが俺の脳内で広がる。

「違うのじゃ!妾はもっと豊なのじゃぞ!お主、女神の冒涜じゃぞ!?」と脳内にピリッとした物が走った・・・。


「女神像を拝見させて頂き、その神々しさに喜び打ち震えておりました。そんな英知の女神マルーシャ様に是非ともお聞きしたい事があるのですが。」

「ん、判れば良いのじゃ、何じゃ申してみよ。」と俺の質問に興味を示す英知の女神マルーシャ様。


「ありがとうございます。お聞きしたいのは、この世界をどうされたいのか?と、私めの立ち位置と役目や達成条件、達成後どうなるのか?です。」と『ナンシー』様が答えてくれなかった事を試験官『その人』・・・いや『その神』に聞いてみた。


「なんじゃ、お主聞いて居らぬのか。妾はこの世界をもっと発展させたいのじゃぞ。してお主の立ち位置とは見習い女神の試験用の手駒となる者じゃが、それは滅び行く世界からや不慮の死で消滅する者達から抜粋する様にと決まって居る。よって、お主ら手駒となった者は、その主旨にそって、文明を発展させれば良い。どのような分野であっても進化は進化は進化じゃ。一定以上の発展が妾の目から見ても顕著であれば、それでゴールじゃ。

そのゴール後じゃが、その身体の寿命が尽きるまでこの世界で生を謳歌すれば良いのじゃ。どうじゃ、寛大じゃろ?」と自慢気なご様子の英知の女神マルーシャ様。


「なる程、概ね理解できましたが、この世界の進化という意味ならば、私の目から見た駄目な部分を指摘させて頂きます。 まず、この世界のステータス画面の構成です。評価数値化される項目の少なさや、基準となる目安や、情報の少なさで、人々自身がに自身の進化に向けて自発的に努力する気持ちにさせる釣りで言うところの餌がなさ過ぎです。

私の元居た世界にはここと同じ様な空想世界の娯楽があったのですが、その遊びである娯楽の世界ゲームでは皆が自己努力で数値が上がって行くのを楽しみにして、ドンドン進化して行くのです。

更にレベルや達成度合いによって、新たなる能力スキルが開花されるので、人々プレーヤーのモチベーションが保たれるのですよ。

つまり、やればやっただけその結果が自分で分かる「数値化」が進化の鍵なんじゃないかと思う訳です。


この女神見習いの皆さんの試験も然りで、ただの合格不合格だけだと、何点足りなかったのか?努力の方向がどっちなのかが判ればヤル気も上がるし士気が上がるでしょう。」と提案してみた。


「うーむ。なる程のぉ~。言わんとする事は判ったのじゃ。」と理解を示す英知の女神マルーシャ様。


「じゃがのぉ、この世界のステータスはもうマイナーバージョンアップ規模天災如きでは現状では弄れん。そうなると、かなりの大規模バージョンアップ天変地異級が必要になるんじゃ。」と非常に不穏な発言が飛び出す英知の女神マルーシャ様。


えええー? 何その人類滅亡級のアルマゲドン?とセットの様なヤバイ表現は・・・。

「えっと、まあ何かの機会あれば・・・で無理に直ぐヤレと言う話では。あくまで参考までにと言う事でして・・・。そんな俺の生存している間は天変地異とか本当に止めて下さいね!!」と慌てて世界滅亡のフラグを撤去するのだった。念を押すのであった。

「しかし、お主トージとか言ったかの? 面白い奴じゃな。お主、7462号『ナンシー』に名前を付け居った様じゃの? まあお主を手駒に選んだ時点で面白いから7462号『ナンシー』は合格でも良いんじゃが、一応、面白そうじゃ~、最後まで見ておくかの。こっちも毎日食っちゃ寝するだけでは暇じゃし。」と愉快そうにぶっちゃける英知の女神マルーシャ様。


「おっと、そろそろじゃの。お主、また、何か報告しに参れ。妾も退屈じゃて。存分に生を堪能し発展させよ。またの機会を待って居るぞ!」と一方的に言うだけ言って最後の質問(他の手駒の存在の有無)を聞く前にブツッと接続を切られた様に英知の女神マルーシャ様の声がしなくなった。


「トージ様? 大丈夫でしょうか?」と声がして横を見ると、心配そうに俺の顔を覗き込むアリーシアさんの顔が直ぐ近くにあった。

「わぁっ! ビックリした・・・集中してまてた。ゴメン、お待たせしました?」と慌ててアセアセと取り繕う俺。


「ビックリしましたよぉ~、5分ぐらい全く動かなくなったので・・・。」とアリーシアさんが焦った理由を教えてくれた。


感覚ではそんなに長時間話してなかったはずなのに、時間の流れのズレがあちらとこちらであるのかも知れない・・・。


まあ、『ナンシー』様の事も、女神マルーシャ様との事も今ここで言うべき事じゃないな。


一応、お賽銭じゃないが、お布施的な物を入れる賽銭箱をキョロキョロ探してアリーシアさんに聞くと、神殿の司祭さんや、シスターさんに直接手渡す制度らしい。


そんな賽銭箱とか置いて在ったら、盗まれると思いますと言われなる程と思った。


暫く祭壇の前でそんな話をして居ると、祭壇の脇の扉が開き、ダボッとした白い神官が着る様な服を身に纏った30代くらいの男性が現れ、微笑みながら挨拶をして来た。


「こんにちは、今日はお祈りですか? 何か御用あれば、お声を掛けて下さいね。私、ここの司祭をやっております、アデルと申します。」と。


「ああ、お祈りをさせて貰いに来ました、初めまして、トージと申します。えっと、詐称ですが、心ばかりの寄進をしたいのですが、アデルさんにお渡ししても宜しいでしょうか?」と聞くと、


「そうですか。それは信心深い事で。ええ、私にお渡し頂ければ・・・奉納させて頂きます。」と嬉し気に微笑んでいた。

俺は、用意して居た金貨の入った小袋をリュックから取り出して、アデルさんに「こちらを。」とと言って手渡したのだった。


「ありがとうございます。トージ様とお連れの方に女神マルーシャ様のお導きがあらん事を。」と言って、祭壇の女神マルーシャ様の像に向かって俺の渡した小袋を掲げ恭しくお辞儀したのだった。


「では、またお祈りに来させて頂きますね。ありがとうございました。」と挨拶をして神殿から出たのだった。

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