第11話 秘密の共有者
ラルゴ邸のお風呂を堪能して、湯上がりに休憩した後、サッパリとしたアリ-シアさんが俺の部屋を訪ねて来た。
「あのう、トージ様、助けて頂いて、ありがとうございました。本当に感謝しております。申し訳ございません、何かお礼をしたいのですが、全て奪われて無くしてしまい、残ったのはこの命と汚されたしまった身体だけで、如何様にでもして頂いて構いませんので・・・。」と頭を下げてくるアリ-シアさん。
「いやいや、言葉で十分だから。まずはちょっと椅子に座って落ち着こうか。それにそんな自分を卑下しちゃ駄目だって! 全然綺麗じゃん。汚れてなんてないから、安心しなよ!俺が洞窟で魔法で治療したし、全て綺麗に洗い落としてしまって元通りだから!
そんな風には思わないで欲しい。」と必死で変な方向に思い込んで自暴自棄にならない様にと説得したのだった。
「あと、それに盗賊の物は全部回収したから、アリ-シアさんの持ち物やお父さんの商会の物も全て返すし、その他の元の持ち主不明な物も慰謝料代わりに貰っちゃいなよ!」と俺が言うと慰謝料の意味が判らなかったらしくキョトンとしていた。
何はともあれ、こんな俺に言われても意味無いかもして無いが・・・重要なのは俺の魔法で多分無かった事に出来て居る筈と言う事。それに隅々まで綺麗に洗いきったので、大丈夫な筈だ。気休めにならないかな・・・。
話を聞くと、アリ-シアさん御年18歳で、とある行商人の1人娘だったそうだ。お母さんは15歳の頃に病気で亡くなり、父一人娘一人の状態で育ったらしい。 今から約1ヵ月程前に行商中の竜車を襲撃されて、攫われてしまったらしい。父もたった1人の従業員のお爺さん(祖父では無い)も護衛の冒険者も盗賊に殺されて、生きる希望を失って心が壊れかけて居たらしい。
聞けば聞く程に胸が苦しくなる話だ・・・。
ふむ・・・。「もしかしてお父さんの遺品も混じっているんじゃないかな? これから見聞きする俺の能力的な事に関しては内緒にして欲しい。出来るかい?」と言って同意したのを見届けてから、『時空間庫』を開いて内部に纏めて置いてある盗賊の宝物類を見せてやると、「ああ、これは!」と父の形見の小剣を見つけて抱きしめて居た。
「良いよ、他にもお父さんの遺品や自分の店の商品とか見つけて良いから。」と伝えると、父親の小剣だけで十分と言う。
まあ、そうか、持って行けと言われても運べないか・・・。
「で、アリ-シアさんこれからの宛はあるの?」と聞くと力無く首を振るアリ-シアさん。
俺と同じで、親を殺されて天涯孤独となったアリ-シアさんに思いっきり感情移入してしまった俺は、何か良い方法は無いか?と頭を捻った。
いや、アリ-シアさんが前世でお目に掛かった事が無い程に超美女とか可愛いとかそう言う疚しい所は殆どないぞ? 俺と同じで理不尽に両親を亡くして点が孤独の身となった同志?をただ放っておけない気分になっただけで、惚れた腫れたでは断じて無い!
ましてや、酷い目にあって、尚気丈に振る舞って居る人にそんな不埒な感情を持てる訳が無い。 そうだろ?
「じゃあさ、こうしない?取りあえず俺の秘書と言うか、マネージャー兼アドバイザーというか、ちゃんとお仕事として給金も出すし。もし、アリ-シアさんが料理出来るなら、更にその分給金アップするし。
あ、アリ-シアさんが落ち着くまででも良いから。」と提案すると、凄く嬉しそうな笑顔を見せて「どうか末永く宜しくお願い致します。」とペコッと頭を下げたのだった。
その後、結局意味が通じて無かった様で、秘書やマネージャー等の意味を説明させられたのだが・・・。「なるほど、つまりそう言う所ですね? 私が補佐すべきと言うか通訳みたいに間に入る感じで調節する役目が必要と・・・。」と微妙に異議を申し立てたい感じには納得してくれた。
多少これらのやり取りで、同世の仲間として笑顔で接してくれる様になってホッとするのであった。
これで、拠点での生活が多少華やかになるかな? いや、あんな森の中に連れて行くのは流石に酷か? 今の小屋じゃあ、2人だとちょっと狭すぎるし駄目だな・・・部屋や寝床も追加しなきゃいけないし。」と頭の中で妄想を広げるてはダメ出しして否定する俺だった。
アリ-シアさんって、ギルドに登録してるの?」とこれから俺のやらなきゃいけない行動の序でにアリ-シアさんも登録が必要なのかを問うと「商業ギルドの家族会員って事出登録してました。ギルドカードは取り上げられたので、無くしたのですが・・・。」と悲しそうな表情をしていた。言う。
えーっと、じゃあ、あの中に探せばカード出て来るのかな? 少なくともあの洞窟にあった物は臭い匂い以外は全部『時空間庫』にぶっ込んで持って来ている。
それから2人で『時空間庫』の中をゴソゴソと探して廻る事小一時間。漸く、アリ-シアさんのお父さんのカードとアリ-シアさん本人のカードを発見に凄く嬉しそうに微笑んでいた。
「良かった!これでお父さん思いの詰まった物の1つは回収出来たね。他にもまだまだこの山の中に埋もれている筈なんだけど。何でも欲しい物は何時でも言ってね。」と告げると、「ありがとうございます。今の所特にありません。」と言う事だった。
この『時空間庫』だが、もう少し使い易く、フォルダーじゃないけど、パーティションで区切る様な使い方出来ないのかなぁ? 当時は必死で『時空間庫』が使えた事だけで満足していたが、使うと色々不満な点が目に付いて来る。
逆に、箱とかで小分けにするぐらいしか無いのかな・・・お金はお金専用の大箱に入れるとか?。と小山から溢れている。お金革袋等に目を見つめる。
「しかしさ、適当に放り込んだから、殆ど認識して居なかったんだけど、これって多分凄い金額だよね?」と俺が指差した先にある金貨の詰まった革袋や、金貨や銀貨の詰まった宝箱に目をやると、
カードを探し回った疲れで少しゲッソリした表情のアリ-シアさんが頷いて居た。
「恐らく、これだけあれば、働かずに一生遊んで暮らしても十分足りると思います。」とアリ-シアさんが呟く。
やっぱりそうなのか。というか、そんなにお金あったのに、何故まだ盗賊をしているのか、奴らの思考パターンが理解出来ない。最早趣味なのか?
下らない盗賊稼業を辞めて悠々自適に暮らせば良いのに・・・。
「俺、全く貨幣の価値が判らないから1年にどれ位あれば足りるのかさえ、1食の値段さえ知らないんだよ。」と言うと、
「そうですね、大体の宿は1泊で大銅貨2~5枚程度、一食は銅貨5~7枚の間くらいでしょうか。」とザックリと教えてくれた。
「なる程、それは非常に判り易い。大体の物価というか、生活費のイメージが湧いたよ。」とお礼を言うと。ニッコリと笑ってくれる。
いやぁ~美人さんの笑顔のある生活って、心が潤うなぁ~。
前世でも両親の死後、ズッと1人だったし、こっちに来てからも勿論1人。ボッチが長かっただけに、人恋しさと色々で、何とも言えない気分になるな・・・。
「良いね。アリ-シアさんの笑顔。」と俺が素直な感想を漏らすと照れた様に頬を染めていた。
「じゃあ、さ、ちょっとこれからの事を相談しても良いかな?」と自分自身の気持ちも誤魔化す様に話題を切り替える。
「俺、一応、やらないといけない事があってさ、ちょくちょく街に来る必要がありそうなんだ。だから、街の中に家を買うか、街の外に人に見つからない様に拠点を作るとかしなきゃいけないかも。
街の中の家だったら、そこをアリ-シアさんに任せれば良いかなって思ってね。 どう思う?」と聞くと、
「それって、あのアジトから、林の出口まで移動した事に関係しますか?」と鋭い質問をして来た。
やっぱり、若いのに賢いな。
「うん。それだよ。さっきの『時空間庫』と同じく、移動してる所を人に見られると多分拙いと思うんだよね。だから街の中も考えたけど、そうすると城門の検査を掻い潜ってしまうから、やっぱりそれも拙いかな?って。」と答えると。
そうですね。やはり城門通らないと不審に思われちゃいますね。多分、トージ様は目立ちますから。」とアリ-シアさん。
「そっかーー。やっぱ拙いよな。取りあえず、街の中に家と外にも目立たない拠点の2つで行くか? それとも、城壁の外なら、自由に開拓して家や拠点作り放題なんだったら、場内には用事のある時だけ入場すれば良いのか?」と方針を決めかねて悩むのだった。
アリ-シアさんの話によると、場外は特に禁止区域以外であれば基本的には開拓した人の物(所有権)になるが、それは土地代が掛からないだけで、領主に土地の使用に伴う税金が発生するのでそれは毎年支払う必要があるらしい。税の種類は不明だが、ただ、これは場内に比べて比較にならない程安い設定との事。
詳しくは商業ギルドに行けば、教えてくれる。 商業ギルドは行政機関の一角を代行しており、領主に代わって税金回りの計算や纏めを代行している民間運営の市役所兼税務署でも有ると言う認識で良いみたい。
ある意味商業ギルドって滅茶苦茶有能じゃん!?と明日行くのが楽しみになってしまった。
だって、役所、銀行、税務署、不動産屋、商工会議所?、法務局?何か凄い数兼任してるよね。
この数時間でアリ-シアさんとは、かなり打ち解けたと思うし、これからは心強い助言者になって貰えそうだ。
「何か、色々頼りにしちゃうけど、これからも色々教えて助言してくれると非常に助かるよ。宜しく頼むね。」と俺が頭を下げてお願いすると、
「私なんかでトージ様のお役に立てる事があれば、如何様にも。こちらこそ、宜しくお願い致します。」と言って、頭を下げ合う2人。
ここで一瞬『様』抜きの『トージ』呼びに変更して貰おうかと脳内で検討したのだが、そうなると、確実に自分にも呼び捨てを要求してくると予想し、
俺自身が『アリ-シア』と呼び捨てで呼ばせられる事の難易度を計算して、『それは今じゃ無い』と言う結論に至ったのであった。(この間約0.5秒)
そして2人でこれからの予定等を話していると、ドアをノックする音がして、「どうぞ。」と言とリアルなメイドさん(クラシックなメイド服を着た高校生ぐらいの女の子)が、姿を見せて、お食事のご用意が出来ましたと教えてくれたのであった。
俺は密かに感動して居た。何故なら秋葉で見かけるなーんちゃってメイドじゃなくて、マジのリアルメイドである。改めて異世界に来たと言う実感に思わずほくそ笑むのだった。
短いスカートの秋葉メイドと違いシックな黒のロングスカートで、無駄に肌を見せる事も無い本職のメイドだ。世界が違うので判らないけど、これも他の手駒先輩達の置き土産だろうか?
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