第10話 マッシモの街
驚く衛兵にに盗賊共を引き渡すと、何故か盗賊共に「旦那!ありがとうごぜーました。お陰様で生きてここまで来られやした!」と涙ぐみながらお礼を言われたが何を言って居るのかサッパリ判らん。
精々あの世で、自分らが殺した犠牲者(アリーシアさんのご家族を含む)に会って土下座して来いよ!とちょっと怒りが込み上げたのであった。
俺とアリーシアさんの分の銀貨を払ってマッシモの街へ無事に入場した。
まあ、それはさて置き、『魔の森』についてを『女神の英知』で調べると、色々とヤバイ伝承や噂がヒットした。
まあ、簡単に言うと魔物の宝庫で生きて戻れない魔境ってキャッチフレーズだね。俺にすれば、食材の宝庫なんだけどな!
しかし、『女神の英知』の情報の古い所を更新しつつ、活用するのだが、キャッシュレス決済に関しては特にヒットしなかった。
ケネスさん曰く、冒険者ギルドのカード、商業ギルドのカードの何れかが無いとキャッシュレス決済が出来ないので早く作った方が良いと言われ、早々に登録する事にした。
しかも入場税も不要になるとの事だし。
衛兵曰く、盗賊達の賞金や報酬に関しては翌日の精算になるとの事で、明日以降に、衛兵の詰め所に受け取りに来てくれと言う事であった・・・。
「ああ、そのお金って、ラルゴさんや護衛の『マッシモの夜明け』と山分けって話になっているんだが、どうすれば良い?」と衛兵に尋ねたら、悪いが分配はそちらでやってくれと素気無く言われてしまった 。だよな・・・。
「なあ、それで良いかい?ルゴさんと『マッシモの夜明け』のみんな!?」と尋ねると、「いや、俺らは流石に助けて貰った方だし、貰えないって! 律儀だな、トージの旦那。今度逢った時にでも一杯奢ってくれりゃあ、それで良いからよぉ~。なぁ?」と『マッシモの夜明け』のみんなに同意を求めて全員が頷いていた。
「ああ、トージ様、私も命を助けて頂いたお礼をせねばならない方ですので、折角のお申し出ですが、彼ら同様にご辞退させて頂きます。」と頭を下げられてしまったのだった。
まじか~、みんな欲がねぇ~な。判った、今度奢るぜ!」と俺もこれ以上は逆に嫌味になるとありがたく受け取る事にしたよ。
と言う感じに上手く纏まり、さて、早めに動かないと、俺とアリ-シアさんが路頭に迷ってしまう・・・。
宿だ、宿! 最悪俺は小屋に『ゲート』で戻れば良いが、アリーシアさんはそうはいかないし、ベッドも1つしかない。
酷い目にあった彼女を早く落ち着いた場所で寝かせて上げたいし、飯も食わせて上げなければならない。
俺は現在非常に機嫌が良いのだ。 こちらに来て2年間目標にしていたこの街に漸く到着したのだ、所謂、『始まりの街』なのである。
何処かに宿を取らないとどっちかのギルドに加入してキャッシュレス決済にしないと不便だし、素材とか大量に捌く必要もあるし、大変だな。
「ラルゴさん、申し訳無いが、何処か綺麗な宿ない?紹介してくれると助かるんだが?出来れば風呂付きだと尚嬉しいが。」と言うとラルゴさんが、
「そんな、トージ様!! 命の恩人なんですから、私の家にお泊まり頂ければ・・・お風呂もございますし。精一杯のおもてなしをさせて頂きますし。それに服やブーツ等のお着替えもご用意させて頂きますとも!!」とボソッと最後に一番重要なポイントを突いて来た。
「ああ、それは非常に嬉しいお誘いだけれど、ほら、アリ-シアさんもいるし、2人も余計に世話になると流石に迷惑では?」と聞くと大丈夫ですと何でもない様に首を振る。
「えっと、私も、お世話になって宜しいのでしょうか?」と申し訳無さそうなアリ-シアさん。
「ええ、大恩あるトージ様の連れて来られた方なので、ご遠慮なさらずに。お着替えも全部ご用意させて頂きますので。」とラルゴさんが勧めてくれて、アリ-シアさんが「お言葉に甘えて、一晩お世話になります。」と頭を下げていた。
「じゃあ、そう言う事で、俺もお言葉に甘えて、一晩宜しくお願いしますね。」と俺も頭を下げる。
「なあ、アリ-シアさん、後で一服したら、ちょっと話聞かせてよ。」と俺が言うと緊張した表情で「はい。」と頷いた。
さて、驚いた事にラルゴさんの所のラルゴ商会はなんとこの街マッシモだけでなく、この国でも有数の大店だそうで、自宅も大変大きなお屋敷でした。
これに比べると、俺の小屋は、犬小屋未満だな・・・。
で、俺とアリ-シアさんはラルゴさんに先導されて、大豪邸の門を潜った。広い庭を横切り、玄関前のロータリーに到着すると、ズラッと並ぶメイドや執事達に出迎えられて、小市民な俺としてはちょっと萎縮してしまう。
「さあ、トージ様、アリ-シア様もご遠慮なく。」と案内されて、執事風の初老の男性に短く指示をして、先頭を歩き始めた。
俺としては、この小汚い格好でこの屋敷に入るのが非常に心苦しくて、取り急いでラルゴさんにお願いをする。
「大変すまないのだが、もう服や靴や下着がボロボロでな。後でお金は払うので、俺とアリ-シアさんの分の着替えを2セット程見繕って貰えないだろうか? このまま屋敷の中に入ると屋敷を汚してしまいそうで、気が退けてしまう。
俺のは清潔であれば上等品でなく冒険者が着る様な庶民用の普通の服で十分だ。特にブーツは丈夫な物が良いけど。」と我が儘なお願いすると笑顔で承諾して人を呼んでゴニョと命じてくれた。
「それはそうと、トージ様。最初に見た時から凄く気になっておりましたが、そのアリ-シア様にお貸ししている赤いローブはもしかして、マッド・ディアーの皮じゃあるりませんか?」と言い難そうに聞いて来るラルゴさん。
「ほう、流石は商人のラルゴさん。良くご存知で。ちょっと派手だけど軽くて丈夫そうだったから、使ってみたんだよ。」と何気に返すと凄く驚いていた。
「何と!もしやトージ様、まだ端切れでも良いのでマッド・ディアーの皮をお持ちではないでしょうか?」と勢い良くグイと近寄って聞いて来るラルゴさん。
「ああ、ああ、確かまだ2頭分ぐらい在った筈だぞ?」と俺が返すと、
「本当ですか? 是非、是非にそれを私共にお売りいただけませんか?」と懇願して来る。
「うむ、元々そのつもりで持って来てはいるし、買い取って貰えるなら好都合だし構わないぞ。ちょっと何処か部屋を貸して貰えないか?」と俺が言うとキョトンとしていたが、
直ぐに個室を用意してくれたので、『時空間庫』からブラック・マーダー・ベアのリュックを取り出してマッド・ディアーの皮等山席や宝石等を入れておいた。
「お待たせした。」と言って何食わぬ顔でラルゴさんの待つ応接室へ戻り、テーブルの上にご所望のマッド・ディアーの皮2頭分を置いて、「他に売りたい
宝石の原石とかも出して見て良いか?」と聞くと頷いたので、魔石は出さずに宝石の原石をゴロゴロとテーブルの上に並べたのであった。
取り出したこの宝石の原石だが『女神の英知』によると、『ホーラント輝石』と言う名の珍しい宝石で、錬金術による付与を行うと素晴らしい効果が期待出来るレア物らしい。
まあ、カットをするにしても、荒く削っても拳大のサイズにはなろうと言う『ホーラント輝石』が2つである。相当に期待出来るだろう。
見た瞬間に息を飲むラルゴさんの頬が興奮で上気して赤くなっている。
「どうだろう? 悪く無い物だと思うが?」と予め『女神の英知』で希少性を知っていてニヤリと笑いながら話し掛けると、ラルゴさんが拗ねた様に
「トージ様もお人が悪い、こんなサイズの素晴らしい物、二度とお目に掛かれない一品じゃないですか!?」凄い勢いで食って掛かったのだった。
やはり予想通り・・・いや予想以上の反応である。
「しかし、トージ様、これ程の『ホーラント輝石』、私共だけではお恥ずかしながら流石に支払いが厳しいのでございます。どうでしょう? 王都で開催されるオークションに出してみるのは?」と提案して来た。
「じゃあ、お願いするよ。ラルゴさんの所に一任するので、オークションに出して貰えるか? 勿論適正な手数料をさっ引いて貰って構わないので。」と答えると嬉し気に頷いていた。
「ああ、是非にお任せ下さい。一世一代の大仕事、見事に熟してみせますとも!!」と鼻息荒く胸をドンと叩いて興奮気味に言っていた。
ああ、これで買い物し易くなったな。ホッとしたよ・・・。
この様子だと、俺の欲しかった物の殆どはラルゴさんの所で賄えそうだ。
もうね、俺の欲しいと思っていた洋服やブーツなんてマッド・ディアーの皮だけで一生分買ってもお釣り来るらしい。
ちょっとホッとしたよ・・・。
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