第5話 お出かけ準備

さてここに来た当初に目標としていた、遠く彼方に見える文明の香りのする城壁の街!


そろそろ、ズボンもヤバイし、シャツも継ぎ接ぎダラケで見窄らしい。髪の毛は伸び放題で正に無人島の遭難者状態である。


おかしいなぁ、普通異世界物の定番だと、女神の用意してくれる初期装備の服って丈夫で上等な不壊属性の付与された伸縮自在の自動サイズ調節の付いた汚れない『物』なんじゃないの?って突っ込みたい。


ブーツは破けて崩壊する寸前なので、現状は裸足で活動している。裸足なら、破ける事も無いからな。


ほら、街に行くとき、一応形ばかりでもブーツ履いてる方が見た目マシなんじゃないかな?って思うじゃない?

だから、普段はブーツを脱いで、未開の地の原住民の様な裸足でやってます。

もうね、こうなったら、ズボンも無しにして、保管しとく?とも思うんだけどね、人としての尊厳が許さないのと、例え千切れる寸前でも、布一枚外に在るのと無いのとで、心強さが違うんだよ。

防御力の有無の問題じゃなくて、気持ちの問題ね。

どうやら俺は裸族には成れないと悟った・・・。


見窄らしいけど、毎日風呂に入り石鹸の良い匂いがする乞食って感じだろう。一応、セルフカットで、髪の毛をカットしたんだけど、鏡なんて洒落た物はないから、片手で掴んで、大体の長さを雰囲気でカットしたので、出来映えは推して知るべし。ちょっと長いスポーツ刈り程度かな。

少なくとも、堕ち武者にはなってないと思う。


今でも成長は続いており、身長は多分前世を超えて、180cmに到達したんじゃないかな?

え?成長が早過ぎる? 知らんよ。 高スペの専用ボディのお陰なんじゃないかな?

とは言え、ここに来て1年は過ぎてるし、15歳スタートでも既に16歳だし、成長期だろう?


そろそろ、十分な力を付けたと思うので、街に買い出しに出かけても、道中で酷い目に合う事は無いと思われる。



さて、買い出しと言ってもお金なんて持っていないが、そこは『女神の英知』のお陰でお金になりそうなこの森の産物や魔物の素材、更に見つけた宝石の原石や鉱物等がタンマリとあるので、街で換金すればブーツやズボンぐらいは訳無いだろう。



既に怪我等の治療が出来る『回復魔法擬き』は習得済みだったので割愛するが・・・。

何故ここで擬きとつくかは、傷口や突き指等の回復は一瞬で出来たが、万能とは言い難い事、そしてそれ以上の損傷等を自分のからを傷付けてまで試す事が出来なかった為である。

後は、解毒かな。これも毒って判って居る様な物態々口にしたくないでしょ? だから、試してないし、骨折以上、毒物未検証ってところ。


何故、ここに来て1年半以上も経つまで居続けたか? これは十分な自己防衛力を持ったと自信を持てる様になるまでと言うだけで無く、新規に3つ魔法を習得するまでに要した時間が予想以上に掛かった為だ。


1つはここに来た時から欲しかったアイテムボックスの代わりになる何か。散々試行錯誤した結果、『時空間庫』(俺命名)と言う所謂某猫が亜の丸い猫のポッケの様な物を完全にマスターしたのだ。

ただ、これはよくあるチートスキルと違って、基本俺の魔力頼みである為、固有の波長の『時空間庫』に接続するタイミングで魔力を持って行かれる。とは言え1回の接続に高々MP10程度だが。

ただ、よくあるストレージやアイテムボックススキルとかと違って、思っただけで物を出し入れしたり、入って居る物がリストアップされたり、品名のソートが出来たりする様な便利な物じゃない。

単に、レンタル物置と同じで、空間に入り口繋げて、物を入れたり出したりするだけ。何か空間を繋げる時に想像したイメージのお陰か、繋いだ先の倉庫は時間経過がない空間らしく、生物でも腐る事は無い。

容量の制限は不明だけど、元々貧乏症で、何かの役に立つかもと、薪になりそうな木から、そこら辺で掘った普通の土や拾った小石や大きな岩等無数に入っている。

だから既に学校の体育館位の量は溜め込んで居ると思う。

接続を切る際には魔力は使わない。途中で魔力枯渇で気を失ったとしても『時空間庫』の中身を失なったりする事は無いので心配せずにガンガン枯渇させて大丈夫だ。


そして、もう1つ欲しかった魔法は移動手段である。『時空間庫』が使えるって事は魔力さえ保てば空間と空間を繋げてSFのゲートの様な事が出来るって事。


ただ、これの習得にはもの凄くビビりまくったよ。二度と空間の狭間から帰れなくなったりしないかってね。最初は生物以外の石や花や、虫などを移動してみて様子を見て、最後はエイヤー!で飛び込んで成功させた。


これも結局『時空間庫』と同じで空間と空間をくっつけた入り口と出口の『ゲート』を両空間に作るだけと言う認識らしく、特にゲート自体のサイズを極端に大きくしないなら、『時空間庫』と同じくMP10の消費でイケるのだ。


現状、この森の中限定だが、魔力消費量は距離やゲートを潜る物の量にも影響を受けない事は確認済み。


この理論通りなら、日本から米国まで行ってもMP10で済むと言う事だ。何気に俺一人で物流革命である。



これは俺の命名:『ゲート』は、日本での明確なイメージが物を言った様で、『時空間庫』同様に『女神の英知』に未掲載の情報だ。思わずドヤ顔しちゃったよ。


最後にこれも移動手段に該当するが、この丈夫な身体ならではの荒技である。


正直に言うとこの魔法の所為で、俺の衣服の限界が早まってしまった。破けたズボンはマッド・ディアーの赤い鹿革を使って破れた部分を補強したので、軽くチンドン屋かピエロっぽい酷いファッションである。

しゃつも風圧で裂けた所を補強してある。

まあシャツもズボンも良い。結局、そのマッド・ディアーの皮で作ったローブを羽織る様にしたので、余り目立たない筈だ。赤いけどな!


で、魔法の話に戻るが、身体の内部に魔力を浸透させる事で身体強化が可能になるが、身体の表面に魔力を纏う事で、魔力鎧と化す事が出来る。つまり魔力に余裕のある限り、壊れず再生可能な鎧装備が出来るのは理解出来ると思うが、

これを外装魔法(俺が命名した)


『ゲート』行き先の空間を見知ってないと繋げられないので、遠方からの帰還とか旧知の場所間のいどうには便利だが新規の場所へは移動出来ない。

一応、詳細が見える範囲であれば、既知の場所と言う判定になる様で、視界のエリアにも移動出来る。

じゃあ、あの遠くに見える街の城壁まで『ゲート』で行けるんじゃないかって思うじゃん? 無理だったんだよ。流石に詳細まで見えない距離だし。


皆さんはご存知だろうか、『ウイングスーツ』と言う物を!?

簡単に言うとムササビやモモンガの様に飛ぶ為にスーツだ。よくスカイダイビング等のシーンが映画にあったりするが、もっと風の抵抗を利用して自由自在に滑空するスポーツ的な物だ。


腕の裾から脇の下にヒレがついて、太股辺りに繋がる羽代わりの布(革)がついて、足の間には尾翼代わりの布が点いて居るスーツである。

だが、これ『ウイングスーツ』を今の俺が縫えるか?と言われると、出来なくは無いだろうが、既に作って愛用しているマッド・ディアーの皮で作ったローブが非常に形状的に近いのだ。


足りないのは引っ張り強度を上げる為の補強や、股の間から2本の足の膨ら脛に掛けての尾翼部分をどうするか?である。

そこで俺は天才的な閃きをしたのだ。


そこで、考えたのが、ウイングスーツを模した無属性の外装魔法である。


尤も今回はローブがあるので、それをベースに不足するだろう物を外装魔法で補強し足りない尾翼部分程度なら何とかできるのではないか?と。



丸っきり何も形の無い所に無属性の外装魔法(俺が命名した無属性の魔力の外装甲を身体の表面に纏う事の総称)で形を作って纏うのは、慣れて来たとは言え、かなりハードルが高いが、普段の行動時に外装魔法でブーツを作って纏ったり、色々練習した。


文字にすると、簡素だが、気が散る様な状況で形状をキープし続けるのは相当に難しいのだ。


そして、2週間程頑張った結果、思った通りにスンナリとイメージした外装甲を纏えると自信を持って言えるまでになったのだった。


さて、『ウイングスーツ』を試す時がやって来た。

無属性魔法の足場を作って高高度まで登ると言う手もあるが、『ゲート』は詳細が把握出来る程度の視界の範囲になら何とか繋げる事が出来るのだ。


つまり、上空を眺め雲の近辺に『ゲート』を繋げる事も可能なのだ。


『ウイングスーツ』の外装を纏って、『ゲート』を上空に繋げて空中へと踏み出した。


グォーー♪と言う風切り音とヒュンと股間がすくみ上がるマイナスG・・・怖ぇ~!!!


最初の一回目の怖い事怖い事、思わず、インストール時のホールの移動を思い出した程であった。



風圧と恐怖で身体が硬直して思ってた以上に操作が難しいが身体強化も併用する事で凄いスピードで滑空しつつ、森の上を大きく旋回したり左右に振ったり急上昇したりと鳥になった様な錯覚を楽しむ。


多分、魔法でだけで風や重力を弄って飛ぶ事が出来る様な気はするが、100kg未満とは言え人体を無理矢理飛ばすのは恐らく魔力燃費が悪くて距離が稼げ無いだろう。


その点、この『ウイングスーツ』は、最初の『ゲート』以外は外装魔法と身体強化だけである。非常に魔力のコスパが良く、飛行距離が稼げるのだ。


等と頭の中で得意気に解説しつつ、自在に飛んではいたが、初飛行自体は成功したが、その後が良くなかった。


通常、ウイングスーツを使って滑空した後着地はどうするかと言うと、パラシュートを使って減速して着地するんだが、スッカリその事忘れてて、死ぬ目に合ったのには流石の俺も笑えなかった。



着地寸前で、思いっきり、真上向いて強引に減速して、最後、風魔法でエアバッグの様に身体を包んだので、ローブが傷付き、服が一部ボロボロになって、軽くかすり傷程度で済んだのだった。


本当にあれは危なかった。


だが、危なっかしかったのはこのファーストフライトだけである。


回を重ねる毎に着地の衝撃や勢いの殺し方も洗練されて、洗練された技術昇華したのだった。


こうして、俺は上空に『ゲート』を繋げて滑空する狂気の移動手段を手に入れたのだった。


勿論、『女神の英知』にも、この『ウイングスーツ』に匹敵する滑空移動手段の前例はなかったのだ、ドヤァ~!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る