第3話 生活基盤の充実

何とも言えない一夜が明けた。

身体中が彼方此方痛い。

あんな生活だったけど、今思えばベッドのある素敵な生活だったよ。


片腕が痺れていてジンジンと痺れて血流の再開でむず痒いがストレッチして無理矢理身体を解し、まだ昨夜の倒木が少し燃えていたので薪を追加して、火をキープしといた。


取りあえず朝飯の木の実を頂いて、早速新しい寝床の作成に取り掛かる。


贅沢は言わない。柔らかいベッドと温かく清潔な布団、衛生的なトイレと足を伸ばして入れる風呂!そして美味しいご飯! これだけあれば文句無い。


でもさ『ナンシー』様曰く、中世のヨーロッパより下の文化レベルって言ってたし、衛生的とか夢のまた夢じゃないかな? 衛生的なトイレあるのかな?


いかん、トイレの事を考えたりした所為か、この身体になって初の便意が・・・。


この拠点の近くは駄目だ。風で臭って来たり、変な虫が湧くのも厭だし、適度に離れて穴を掘らないと!!!


慌てて、拠点を離れ、穴の掘れそうな柔らかい地面を探して走り廻りつつ、見つけたトイレットペーパー代わりの大きな棘の無い葉っぱ(毒を持って無い)を何枚かストックして、少し柔らかそうな地面に竹棒をザクザクと突き刺して耕し、手で土を取り除いて即席トイレ穴を作ったのだった。

大して食べてないのに、出る物は出るんだな。と妙な事を関心しつつ、葉っぱの拭いたお尻が痛くならなかった事にホッとして、上から土を掛けて証拠隠滅して拠点に戻って行くのだった。


何で、葉っぱで拭いて何事も無くホッとしたかと言うと、昔入った便所でトイレットペーパーが無い事に『事後』に気付いた事があり、その時鞄に入っていたアルコール入除菌ティッシュを発見し、やったー!って何も考えずに拭いた直後にアルコールによって激痛走り悶絶した事があったんだよ。

だから、凄く過敏になったんだよね。異世界に来てまであんな間抜けなダメージを食らいたく無いし。

まして、そんなシーンを『ナンシー』様に覗き見られでもしたら、幾ら相手が見習い女神様とは言え、軽く死ねる。


さてお腹がスッキリしたので爽快な頭脳を働かせジックリ考えた結果、まずは飛び乗るのでは無く、蔦と枝や倒木つかって、梯子か階段を作るべきだと思い付いた。


何で最初からその考えに至らなかったのか? それは言い訳させて貰うなら、なまじ身体能力があがって、飛び乗れてしまった事で、魔物や獣に襲撃された際の防衛面を考えた為って事にしおいてくれ。


昨夜は全く獣の鳴き声も気配も感じず、安心して眠れたが、ハンモック等の寝床の改善は急務だ。幾ら身体が丈夫になったと言ってもこんな状態が1週間も続くと保たない。


同じ長さの竹を拾って来て、階段を作る。竹製の為軽いので、稼働式にして夜は上に上げておけば安全である。

この階段を作った事で、資材の運び込みが一気に加速し、幹の上に簀の子状のフロアを作り、竹の支柱と梁を組んで葉っぱで、簡易的な壁を作って、屋根も作った。フロアーが出来た事で、一気に文明的になったと一頻りはしゃいだ俺は、木の実で昼飯を済ませて、ベッドの作成に取り掛かった。


ある程度、ツリーハウスが完成したら、魔法の訓練をしつつ徐々に周囲の探索をして、水源と鍋の代わりになる様な物をみつけなければ。そして、欲を言えば、岩塩などを見つけたい。


竹の棒を幾つかをナイフでチミチミと削って先を尖らせて、竹槍にした。これでも何も無いよりはマシだろう。予備に先の尖った鏃の様な石を石で擦って成形して、石槍も作っておいた。

え?石器時代に逆戻り? だってしょうがないじゃん!? まだ全く魔法の『魔』の字すら出ないし。


魔物が居る世界らしいし、魔法の1つも使えずに(使わずに)ガブガブ食われて死ぬのは厭だし。


こっちに来て4日が過ぎる頃には、出来るだけフラットにした床の上に刈って来た草を干して乾かして、フカフカ感をだしてその上に編んだ葉っぱを敷いてベッドマットにした。やっと作ったベッドで寝れる様になったので、多少寝心地は堅い物の、かなり改善された。


まあ、干し草マットは直ぐにペタンとするので、日々メンテナンスが必要なんだけどね。


もっと藁の様なモッサリ感が出れば良いのだがな。



兎に角、そんな感じで、日々探索と生活基盤の改善に取り組み、それによってこの身体にも大分馴染んで来た。


この身体の基本性能は本当に凄い。筋力や反射神経とかだけで無く、頭の回転の良さや記憶力も抜群で、少々の事では怪我すらしない。


当然に視力も良くて、聴力も凄い。 

前世で目が悪く眼鏡を掛けていた俺には裸眼で目を細める事無く遠くまでハッキリ見えるだけでも小躍りしたくなる。



嬉しいニュースがある。漸く徒歩(小走り)15分と少々遠いのが問題だが湧き水の水源を発見し、竹筒で作った水筒10個をぶら下げて水を汲んで来た。


これで乾涸らびる心配が無くなった!!



恐らく大丈夫だとは思ったが、念の為、竹筒をヤカン代わりに沸騰させて、から、飲用水にして居る。

ほら、北海道のエキノコックスみたいに野生の動物の寄生虫が居ても怖いし。


しかもその水源に行く途中にもう1つ食べられる果実を発見。アプモグの実と言うらしい。見た目はリンゴに近く味は梨に近くて甘くて美味い。


このアプモグの実、食べると、何か、身体が喜ぶと言うか、クワッと湧いて来るというか、何か、エナジードリンク的な効果でもあるんじゃない?って思って再度『女神の英知』を調べたら、

魔力増強の効果があるっぽい。

ほほう! 毎日沢山食うべ!!



果物ばかりではあるがやっと寝食が充実したので、重点的に魔法の鍛錬に重きを置く様にした。


瞑想からの内なる魔力を探して廻る・・・。


「目覚めよ! 俺の内なる魔力よ!」とか唱えてみても当然の如くにウンスンである。



まあ、瞑想ばかりだと煮詰まるので2時間ぐらい瞑想して、2時間ぐらい探索や食料探しと言う名の気晴らしをするローテである。


こっちに来て10日が経つと、そろそろ、果物生活は限界である。丈夫な身体の恩恵で、体調こそ崩してないが、タンパク質が欲しい!炭水化物も欲しいし、塩気も欲しい。


今ここに焼肉に白ご飯とかあれば、おれは狂喜乱舞で踊れる自信がある。


そうそう、水場に獣の足跡を発見してるので、何時か殺ってやろうと思っているのだが向こうが用心深いのか、俺の気配を消すのが雑なのか、出会わないのだ。


もしかして、俺が魔法を使える様になるまで待ってくれているのか?


最近は、生で食える野草も見つけて、一応、野菜じゃないけど、草も口にしている。


もっと、食える物の種類を見つけないと!


茸も食べられる物を見つけたので、天日干ししたりして、味の変化や出汁取りとかを研究中だ。


タイムっぽい香草は見つけたし、ローリエっぽのも見つけた。肉が無いので利用価値がないのだけど・・・。


それより、塩だ!塩!!人間塩分取らないとシムから!


日々汗は掻く訳で駄目元で一応、汗を自分で舐めたりしてるけど、マジで気持ち悪い。


岩塩って何処にある?って考えた結果、断層や崖の地層を調べた方が良いんじゃないかと思い付いて、森の中を駆け回って、断層等の地層が出て居る場所を探して廻った。


そんな捜索の中、ついに魔物に遭遇。


と言うか、気配を察知して、コッソリ様子を窺った。あれだよ、猪。サイズがヤバイ猪。『女神の英知』によると、『ワイルド・ボア』って名前の魔物で美味いらしい。


で、木の上からコッソリ観察して居ると、そのワイルド・ボアさん、何か、とある崖の地層を舐めてる様に見えるんだよね。


ふふふ、もうピーンと来たね。 これだよ、多分。


小石を拾って力一杯遠くの木に向かって投げて音をガタンと出すと、ビクッとして、ワイルド・ボア君がソソクサと去って行った。

俺はワイルド・ボア君が舐めていた地層の辺りを竹槍で突き回すと、ゴロッと拳大のうすピンクと白の混じった塊が落ちて来た。

小さい欠片を口に入れると、塩っぱさが口一杯に広がり、思わず竹筒の水筒の水をチェイサーにしてグビグビと煽った。


「助かった~!」と心の底からの言葉を呟き、同サイズの岩塩の塊を5個程掘り起こして、濡れたりしない様に木の葉に大事に包んでシャツを脱いで風呂敷代わりに包みを入れて腰に巻いた。


岩塩の崖の場所を忘れ無い様に記憶しながら、木に登ってここら辺で一番高い我が拠点の方向を確認して一直線に帰ったのだった。


これで、魔法さえ使える様になれば、少なくとも食うにも生活にも困らない様になるだろう。


「早く魔法カモン!!」と声に出して気合いを入れるのだった。

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