娘視点

 一度は止まった涙がまた溢れてきた。


「結婚式中はドタバタして、食事が出来なくてお腹が減ったでしょ? 俺、何か軽く作るよ」


 克也は言いながら、立ち上がった。


「ありがとう。私はもうちょっと仏壇の前ここにいるね」


「分かった」


 克也はもう一度、私の頭を撫でてくれた。

 そして、部屋から出て行く。


「お父さん、今まで本当にありがとう。ゆっくり休んでね」


 私は一人で呟く。




 ――




「ごめんね、お父さん、一年も余計に付き合ってもらっちゃって……それにずっと無視をし続けちゃって……」




 お父さんの葬式が終わった翌日、死んだはずのお父さんが家に現れた。


 幽霊など信じたことはなかったけど、目の前に現れたお父さんを見て、すぐに理解し、受け入れることが出来た。



 ――そして、絶対に反応しないと決めた。


 もし、お父さんに見えていることがバレたら、私のことが心配になって、現世から離れなくなってしまうかもしれない。


 霊とかは良く分からないけど、死んだ人が現世に留まるのは良くないことだと思った。


 だから、私は一日でも早くお父さんに成仏してもらう為、前を向くことにした。


 そして、今日、お父さんは旅立った。


 これで良かったんだ……


「お父さん……」


 私は一人で泣く。


 今日はたくさん泣こう。


 でも、明日からは泣かない。


 これからは私が支える側にならないと…………


「涼香、出来たぞ」


 克也の呼ぶ声が聞こえる。


「うん、分かった。お父さん、お母さん、写真はここに飾っておくね」


 私は仏壇と対面になる場所へ私のウェディングドレス姿の写真を飾る。


 部屋を出る時にもう一度だけお父さんとお母さんの部屋を眺めた。


「……お父さん、お母さん、じゃあね」


 お父さんのいなくなった部屋を見ると切ない気持ちになった。


 けど、もう後ろは振り向かない。

 前に進む。

 それがお父さんやお母さんに対して、私なりの恩返しだと思うから。

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