テレビCM放送記念SS
カーグリーバーの社食。
とっても広々とした場所。
私、佐藤愛はめぐみんと窓際の席に並んで座っていた。
一人用の席で、とても椅子が高い。股下が1メートルくらいあっても床に足が届かないと思う。
ここから見える景色は圧巻だ。
高級感溢れる六本木の街並みが一望できる。東京タワーもある。そして、地上から見上げれば首が痛くなるような高層ビルが下にある。
しかし私はめぐみんを見ていた。
彼女はご機嫌斜め。ぷんすかしている。
理由は先程まで行われていた会議。
私は「ほっぺ突いたら怒られるかな?」と思いながら数分前の出来事を回想した。
* * *
「テレビCM!?」
私は鈴木さんの説明を聞き、大袈裟な声を出した。
来月、ライブを開催する。
それに向けてテレビCMを流すことが決定したそうだ。
「翼が頑張ってくれた」
テレビCMは「明日からお願いします」と言って実現するものではない。本来は、何ヶ月も前に枠を取得して、完成した映像を納品する必要がある。
しかし、たまたま空きが出たらしい。
偶然、運良く、奇跡的に、翼が交渉していた枠が空いたらしい。
そんなことある?
私は何か黒い力を感じたが何も言わなかった。
なぜって?
それはめぐみんがキラキラと目を輝かせているからだ。
うんうん、分かるよ。
推しを広める大チャンスだよね!
「残念だけど、それはできない」
しかし鈴木さんは首を横に振った。
テレビCMにはルールがある。ひとつの枠で宣伝できる対象はひとつまで。だからライブのついでに小鞠まつりの宣伝をすることはできないそうだ。
「いちじ〇しゃ!」
私は深夜アニメを見ている時、親の声より聞いたワードを口にした。
「それはあくまで〇迅社のCMだよ。特定の作品を宣伝しているわけじゃない」
鈴木さんは淡々と説明した。
私とめぐみんは共に「ぐぬぬ」という目で彼を睨む。
ルールがあることは理解した。
しかし私は思う。ルールとは、抜け穴を探すためにあるのだ。
「抜け穴なんて無いからね」
「まにゃ!?」
嚙んだ。まだ何も言ってないと言いたかった。
「夕方までアイデアを募集してる。何かあったら連絡して」
* * *
回想終わり。
そういうわけで、めぐみんはムスッとした表情で食事をしている。
「……いっそ、まつりちゃんのCMに」
めぐみんがヤンデレ目で何か呟いた。
私は聞かなかったことにして、パンと手を叩いて言う。
「でも! すごいよね! テレビだよ、テレビ!」
「……そう?」
「あれれ? 反応薄くない?」
「……テレビ、あまり見ない」
「あー、……」
なんか納得した。
だけど解せぬ。めぐみんにも私の興奮を伝えたい。
「CMトークします」
「急になに」
「……」
「……愛?」
「イヤァァァァァアァ!? シャベッタァァァァァァァ!?」
ぺちん。
「なんで叩いたの?」
「恥ずかしい」
めぐみんが周囲を気にしながら俯いた。
私は「なんだあいつ」という視線に気が付いて、素直に謝罪する。
「ごめんなさい」
数秒、間が空いた。
めぐみんはひとつ右の席にズレた。
しかし、この程度で折れる愛ちゃんではない。
推しを布教し続けること幾星霜。興味無さそうな友人に推しの魅力を布教することで鍛えたメンタルが、今ここで輝きを放つ。
「動画サイトにも広告は入るよね」
私はめぐみんを追いかけて右にズレた。
「とても邪魔」
「分かる。最近スキップできない広告増えたよね」
めぐみんがジトっとした目で私を見た。
ん、なにかな?
「CM、どうしよう」
めぐみんが溜息まじりに話を戻した。
「二秒で良いからまつりんの歌唱シーンをねじ込みたいよね」
私も真面目に返事をした。
それから二人揃って空を見上げ、うーんと唸る。
──すん(๑・ᴗ・)
……あれ?
めぐみんから覇気が消えた?
「めぐみん?」
呼びかける。
彼女はのんびりとした動作で食事を再開した。
もぐもぐ。ごくり。
「……CMって、なに」
哲学かな?
どうしよう。一周回って無になっちゃった。
「めぐみん、もっとシンプルに考えようよ」
「シンプルに?」
「そう! まつりんが、テレビに出るんだよ!」
「……ふーん?」
あれれ?
「興奮するよね!」
「……べつに」
「なんでさ!?」
「いつも、画面で、見てるよ?」
おのれ!
……おのれ!
出たよ。めぐみんの合理的なところ。
あー、はいはい。地上波だろうがインターネットだろうがディスプレイを通して見るだけ。何も変わらない。そういうことだね。まったくもう。分かってないなあ。
「想像してください」
私はプレゼンを開始する。
「地上波です。みんな大好きテレビジョンです」
「最近の若い子、テレビ持たない」
「シャラップ」
私は咳払いをして、
「我々、個人の目線で見れば、何も変わらないかもしれません」
めぐみんの言葉は否定できない。
CMと言っても、結局はディスプレイを通じて映像を見るだけだ。
「しかし、同時接続人数が、けた違いです」
私はめぐみんを見つめる。
「思い出して。推しの生配信。同接が増えた時、思わず腕組みしちゃった経験を」
「無いよ」
「あるの!」
私が昔から知ってる推し!
ずっと三桁だった同接が!
徐々に増えて気付けば四桁!
……ふっ、おいおい、お前らやっとこいつの魅力に気付いたのかよ?
へ、しゃーねぇ。掲示板に古参だけが知ってるエピソードでも書き込んでやるか。
「あるでしょ!?」
「無いよ」
「バーカ!」
決別しました。もうめぐみんには頼りません。
推しの魅力を伝えるためのCMプランは、私が考えます!
【あとがき】
ワンオペ解雇、テレビCMデビュ~!
わ~!
わ~わ~!
ナレーションは、声優の白石晴香さん!
出演作は各自ググって「ほぉ~!」と唸ってください!
いや、もうね。もう。もうなんですよ。
自作のタイトルがね。読み上げられる。それだけでね。あっという間に限界オタクの完成ですよ。大興奮で「見てこれ見てこれ!」と友達に進める度に「……あー、うん。すごいよ。すごいすごい」みたいな(笑)。愛想笑いをされるんですけどね。それでも布教するのが我々の性って奴ですよ。へへ。
というわけで!
PASHの大先輩である「イケナイ教」のCMに登場します!
100回見てね!
わ~!!!!!!!!!!!
動画はYoutubeにて限定公開中です!
1日2880回再生してね!!!!!!
URL:https://www.youtube.com/watch?v=Y_dpkAYPx-E
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