休暇用レコード27:笹部悠高編「ミルフィーユ式演技メゾット」

五番目、五番目・・・と、彼女が呼びに来る

一桁の中でも比較的まともな扱いをされている僕は、今日も理事長に呼び出しを食らっていた

今日はなんだろう、学校外活動の報告が滞っていることに対しての叱責だろうか


「笹部君」

「・・・なんですか、理事長」

「・・・あんたに一つ頼みたいことがあるのよ」

「はいはい」


こんな神妙な顔で問いかけを始める時、彼女はとても面倒な依頼を僕に持ってくる

やだなぁ。面倒くさいんだろうなぁ

適当に考えつつ、僕は続きにのんびり耳を傾けた


「・・・これは一科学者と、あんたたちの保護者としての言葉よ」

「ふむ」

「能力保存の観点から考えて、真昼が独身を貫くのはどうしても避けたい」

「勝手だね、科学者」

「好きに言いなさい。それと保護者としてはね・・・あの昼寝モンスターを学校卒業後は野放しにしないといけないの。ぼぉっとした子でしょう?正直怖くって」

「まあ、確かに言いたいことはわかるけど・・・」

「大人になったら独り立ち。それは前々からあんたたちにも説明していたけど・・・正直、私としてはあんたら一桁の誰かに真昼の側についていてほしいのよ」

「・・・けど、真昼ちゃんの意志ってものが」


僕としては喜んで引き受けたい話だが、真昼ちゃん自身はどう思っているのだろうか

僕じゃなくて、他の誰かがいいとかないのだろうか

けど、真昼ちゃんだしなぁ・・・面倒くさいからって理由で選ぶのを理事長に押し付けてそうだし・・・

一桁なら誰でもいいのかな


「本人から「卒業後の保護者、燐音先生が決めて」って言われたのよ・・・他の生徒に押し付けるわけにもいかないし、あんたたちなら丁度いいかなって」

「まあ、そうかもですね。小さい頃から熟知してますし」


小さい頃から、僕らは様々な事情でこの箱庭に集められて・・・一緒に暮らしてきた

病める時も、健やかなる時も、能力が覚醒した時も・・・僕らはずっと一緒だった

けれど、そろそろ箱庭で繰り広げられる優しい時間はおしまい


僕らの卒業から始まる箱庭の崩壊

これは、僕ら「一桁」と呼ばれる九人の能力者の中でも、一番懸念材料である「藤本真昼ふじもとまひるの将来」を今のうちから決めておこうという話だ

僕らが、卒業してしまう前に


「けど、真昼自身内心は特定の誰かを決めていたりしないかなって。選ぶ判断材料が欲しいのよ。つまりどういうことかわかるかしら?」

「・・・なんとなく察しました。一桁全員を演じてこいってことですね」

「そういうこと。あんたなら出来るでしょう?」

「出来ますけど」


できますけど、なかなかに酷なことだと思いません?

真昼を騙すのも、自分自身の心も演じる事だって・・・


「報酬は、有名洋菓子店のミルフィーユ。好きでしょ、あんた」

「・・・好き、ですけど」


好きだけど、嫌い

ミルフィーユは好きだ。何層にも重なったそれは見栄えが綺麗で、何時間でも見てられる

けれど、半分に割れば見れるその本質は、自分を見ているような気さえ覚えてしまうから嫌いだったりする

重ねて、何層にもなって、中心が見えないその仕様が、とても憎たらしいのだ


「じゃあそういうことで。確認よろしくね「演技理論」?後、最後に目の前で変身解いて「今日の皆全員僕でした!」ってドッキリ成功ボード持って言って頂戴ね」

「・・・は?」

「返事は?」

「・・・了解」


別に報酬に釣られたわけじゃない

僕としても気になるのだ

真昼ちゃんにとって、誰が一番側にいてほしい人物なのか

確認するために、ついでにこの仕事を引き受けただけだ


襟元の「Ⅴ」のピンバッチが小さく煌めく

一桁の能力者・・・「五番目の演技理論アクトメゾット

不名誉なあだ名と能力、変な命令を携えて、僕、笹部悠高ささべゆたかは学校での仕事に取り掛かった


・・


他の皆には仕事だと理事長経由で説明してもらい、今日だけはあまり真昼と遭遇しないように気を遣ってほしいと頼んでいる

だからこうして、朝一からしっかり演じることが出来ているわけだ

僕らが在籍するこの華清学院かすみがくいんは能力者が集まる学校だ

その中に例外は存在しない。僕も同じく能力者


僕の能力は対象・・・基本は他人に化ける能力

動物や物にも化けられるけれど、身体に負荷がかかるから基本的には人間を対象にしている

対象者の情報が多ければ多いほど緻密に再現が可能だし、能力だってコピーできる

今回は再現をしっかりこなすことが重要だと思ったので、全員分の一日スケジュールを聞いて演技の順番、方向性を固めていって・・・

全員の身体チェックを行う羽目になった

今もなお、七人の男の全裸を見る羽目になったのは僕のトラウマである。なぜ男の体を眺めて触って過ごさないといけないのか。拷問としか言いようがないよ

これも能力の為だと言い聞かせていたが、やっぱり気持ち悪い・・・


「ふわぁ・・・」

「はよ、真昼。今日もよく眠れたか?」

「・・・ありま?」


いけないいけない。今の僕は僕じゃない

しっかりと演技を続けなければ


まず最初は九番目の穂宮有馬ほみやありま

予定のスケジュールを聞いて引いたのだが、この男・・・昼寝を共にするだけではなく教師という立場を乱用して、女子寮へ合法的に入り込み、真昼を起こしに言っているらしい

控えめに言ってドン引き。マジで引いた


「おう。今日もねぼすけだな。遅刻するぞ」

「・・・ありま、おきてる」

「これから職員会議あるんだぞ。寝間着でいられっか」

「仕事に対して真面目な姿勢な有馬はキモい。天変地異の前触れ・・・」

「いいすぎだっての。ほら、顔洗ってこい。制服用意しとくから」

「はぁい」


フラフラな真昼の後ろ姿を見守って、僕は有馬のふりを続ける

こちらもふらふらして適当さが出ている教師・・・だけど、意外としっかりしている

最年長なだけあって、包容力は高いんだよなぁ


「有馬」

「おー・・・ってお前な」


顔を洗いに行った真昼は、ついでにこの後の準備も済ませて来たらしい

そう、この後やることは着替え

まさか寝間着を洗面所で脱いで、そのままここに来るなんて思っていなかった

なんて格好で出てきているんだ。下着姿とか恥ずかしくないの?


室内で過ごすことが多い彼女の肌は雪のように真っ白だった

・・・色々と、意外と、成長されているようで


ジロジロ見るつもりはなかったことを一応言っておく

僕としては不本意だけど、有馬はいつもこれをバッチリ見ているらしいからね

けしからん!


そんな雪肌を彩るのは淡いピンク。可愛らしいなぁ・・・なんて言ったらダメだ

完全に変態になってしまう

頭からピンクを払い除け、僕は有馬としての仕事を続行していく

確か、この後は制服を着せればいいんだよね

・・・世話を焼きすぎている。真昼の将来が切実に心配になってきた


「制服よろしく」

「いつも思うけどさ・・・恥ずかしくねえの?」

「いまさらじゃない?小さい頃は一緒にお風呂も入っていたし、見慣れてるでしょ?」


I・MA・SA・RA。そうきちゃいましたか

てか見慣れてるって!いやそれは小さい時の話であって、成長したそれは見慣れてないと言うか、見てはいけないものと言うか・・・

あの淫行教師め・・・真昼が適当なのをいいことにこんながんふ・・・不健全なことを無自覚にさせているだなんて

でもこの調子だ。有馬はないな。保護者としては一位かもだけど

男として見られてないや・・・かわいそうに


「ん」

「ああ、ボタンな。動くなよー・・・」


制服は最後まで着せるのが仕事らしい。ボタンもリボンも、ピンバッチも

・・・本当にこの子、一人で生きていけるのかな

僕ら三年が卒業しても、教師な有馬は残留なので真昼の世話は焼ける

けれど、その後は・・・

制服を着せて、寮食堂に送り出したら有馬の仕事はおしまい


物陰に隠れて能力を解き、改めて時間を確認する

これから有馬は職員会議

寮にいる間は真昼一人だから・・・次は登校途中

そこでよく出没するのは・・・彼だ

真昼が登校し始めたことを確認して、僕は次の人物に化けて再び彼女の前に現れた


「真昼」

「日依だ。おはよう」

「はよ。今日もだるそうだな」


今度演じるのは八番目の梅賀咲日依うめがさきひより

付属の大学に通ってる彼は登校途中か下校時刻以降じゃないと真昼に接触できないそうだ

・・・その隙間みたいな時間、必ず真昼と会うため「だけ」に、近くの物陰で待ち伏せして彼女に偶然を装って接触するとか・・・ガチで気持ち悪いなとしか思えなかった


「だるい。登校する意味を見いだせない」

「・・・一応、全寮制の学校だからなここ」

「能力者隔離施設じゃなかったの?」

「そういう一面もあるけどさ。基本は能力者しかいない「学校」だ。能力者が正しく能力の使い方を学ぶ場所」

「おかしい。ここは子供に人体実験をする悪い施設・・・そんなキレイなものじゃない」

「確かにそうだけども・・・」


僕も、君も、皆も・・・一桁の皆は雨月以外皆売られてここに来て、能力者になった

人工的に能力者を生み出す、最悪な実験の産物

それこそが、この華清学院に通う能力者たちの正体だ


二桁からは応募制になっており、本人と家族が同意した上で能力者になった

そこにデメリットは存在しない

なんせそのデメリットを消化するために、僕らは犠牲になったのだから


「日依は、恨んでいる側だと思っていたのに・・・裏切られた気分」

「まあ、この生活は悪くないとは思ってるよ」

「・・・この小さな箱庭で死ぬことが?」

「この小さな箱庭で生きることが」


一桁は実験サンプルな扱いを受けていた

必要のない子供を集めて、最適化に向けて何度も人体実験をされたモデルタイプ

僕と有馬のように、借金を返済するためだけに売られた子供

日依や永時のように、口減らしで送られた子供

奏太や雪見のように、無知な親に差し出された子供

巡がここに来た理由と、過去の経歴は謎だからわからない

けれど、目の前の彼女は・・・研究者の父親に「都合がいいから」と、ここへ連れてこられた


大人に裏切られた僕たちがここで得られたのは必要のない能力と、二桁以降からの羨望

そして、二十五年程度しか生きられない・・・短い寿命だけ

それをどう楽しむのかは各々の自由だ


「まあなんだ。とりあえず俺達には今しかねえんだ。だから、とりあえず楽しんでおけ」

「嫌」


不機嫌な真昼を送り出し、僕は一応大学への道を歩いて・・・そのまま引き返す

これで日依の出番は終わりだ

総合的に見て、やはり天然物の「お兄ちゃん」という生き物だからかな

真昼の態度が僕たちといる時より若干柔らかい気がする

けれど所詮「お兄ちゃん」だ。それ以上でもそれ以下でもなさそう

有馬お母さんと日依お兄ちゃんは違うかな

良くも悪くも彼らはもう自分の立場を得てしまったらしい。それ以上は難しいか


では、やはり同世代となってくるよね

・・・次は、彼だな

次の演じる対象へ化けて、僕が普段しないようなテンションで通学路を駆け抜ける

・・・意外と激務だな。一人八役。あっちに駆けたりこっちに駆けたりで大変だ


「おっはよー真昼っ!」

「あ、出た。おはよう永時。今日も朝からうるさいね」

「真昼こそ、なんだよその暗いテンションは。朝ぐらいテンション上げていこうぜ!」

「うるさい・・・」


お次は七番目の綿貫永時わたぬきえいじ

苗字は違うが、一応彼は日依の血縁者な弟だ

面倒見のいい兄に甘やかされた結果か、常にオーバーなテンション

ついでに能力の影響で快楽主義に育った人間だ

人との距離感は常にゼロ距離。真昼に抱きつくところから彼の朝は始まる

そして、そのまま抱きついて登校するのが彼の日課だ

・・・明日になったら邪魔してやろうと考えながら、永時としての朝をこなしていく


「うぅ・・・」

「真昼、真昼、宿題やってきたか?」

「・・・うるさい」


真昼、さっきからうるさいしか言ってないな

それもそうだろう。僕としても声を出すのが大変なほどの声を出している

永時は毎日この声量で真昼と接しているそうなのだ。害が酷い

靴箱までこのテンションで同行し、それからはクラスが違うので別行動になる


物陰で能力を解き、真昼の様子を伺っておく

三人に化けたが、違和感は持たれていないようだ


後、永時から解放されて滅茶苦茶嬉しそうだった

それは、永時だけは絶対にないなと僕が確信した瞬間でもあった


・・


それから僕は僕として普通に授業を受ける

・・・僕は三年だよ。流石に化けて二年生の授業を受けに行くわけがないじゃないか


さて、昼休みは第二ラウンド

早速彼に化けて様子を見ようか


「真昼や。そろそろ行こうじゃないか」

「雪見。うん、行こっか」


お次は六番目の萩原雪見はぎわらゆきみ

奇人のフルセットみたいなところがある小説家だ

いつも彼は真昼を誘ってお昼を食べに行っていたらしい

・・・僕たちが誘っても「用事があるから」の一言で昼食は別行動

まさかこんな事をしていただなんて。これは酷い裏切りだね


「今日は何を食べようか」

「・・・昨日とは別のものがいいのぉ」

「じゃあラーメンで」

「呪文を述べればいいのか?めんましましばりかたちゃあしゅうもやしおおめ・・・」

「なにそれ」

「外のらぁめん屋ではこの呪文を唱えるのが常識らしいぞ」

「そうなの?」

「外によく出る儂が言うんじゃ。常識に決まっておるぞ、真昼」

「うん。雪見がいうなら常識だよね。今日も賢くなってしまった・・・」

「うむ。どんどん賢ぉなれ。真昼」


ごめんね真昼。常識じゃない

雪見だから常識風に述べているけれど全然そんなことはないから

僕もよく知らないけれど、これは絶対常識じゃないから!


しかし雪見。真昼が「外に出してもらえない能力者」だからってこんな適当なことばかり・・・今度時間がある時にお説教をしないと

それから僕はラーメンを真昼と共に食べて、打ち合わせがあるとか適当に理由をつけて別行動に入る

これからまた別の人に化けないといけないからね


昼休みは有限。貴重な時間だ。有意義に使わないと

別行動を開始してしばらく。僕は先にあるものを仕入れ、それを片手に化けた状態で真昼の前に現れる


「・・・真昼」

「巡だ。夜行性なのに珍しいね。登校お疲れ様」

「ん」

「授業出た?」

「出るわけがない。今日はおやつ買うために来た。切らしてたから・・・もう帰る」


今度は三番目の芦屋巡あしやめぐる

色々と経歴が謎すぎる彼は、行動も思考も謎

おやつを買うためだけに登校するから、このタイミングでしか化けることが出来ないレアキャラだ


「これ、真昼にあげる」

「いいの?大好きなのに」

「大好きだから、真昼にも食べてほしい」

「・・・ありがとう」


これまでの全員と少し異なる反応に、少しの諦めを顔に出してしまう

・・・やっぱり巡なのかな

小さい頃から大体いつも一緒だし、テンションも気もあうみたいだから、真昼は安心して側にいられているようだ

・・・けれど、二人が一緒になったら僕がお世話係として理事長に派遣されかねない

今でも理事長から巡の世話係を頼まれているのに・・・それに加えて真昼の世話だなんて

片方ならともかく、両方になったら惨めじゃないか


真昼にお菓子を預けて、昼休みはおしまいだ

僕は三年の教室に戻って通常の授業を受けようとしたのだが・・・


「・・・次、体育か。嫌だな」


長距離走だしなおさら嫌だ。午後にこれとか人の心ないの?

仕方ない。ここは理事長からの任務で授業をサボろう


そして、真昼と同じクラスなあの子に化けに行こう


・・


五時間目

僕は前髪の隙間から、うたた寝をしている真昼を眺めていた


「・・・むにゃ」

「真昼、寝ちゃダメ。ちゃんと起きて」

「・・・むにゃ」


先生は真昼がウトウトを通り越してヘトバンをしているのに見てみぬフリ

僕ら一桁には特別待遇が存在している。授業の成績が悪かろうとも、能力さえきちんと使いこなせればあとは自由

授業に出るのも、こうして眠るのも


永時だって授業に出ないで、郊外にある工場でサボっている

僕らの学年だと、奏太が授業にも何も出ないで外でピアニストとして演奏会を飛び回っていたりする

ちなみに巡と真昼と雪見はサボりの常習犯だ。在学時代の有馬と日依も同様


僕と、僕が今化けている彼・・・一番目の「浅葉雨月あさばうづき」のように真面目に授業に出ている方がおかしいと言われるぐらいに・・・一桁は自由気ままに生きている


「真昼、せめて教科書を読む素振りぐらいはしてほしい。授業に出る者としての最低限の礼儀だから」

「・・・勉強したって一緒じゃん。今日は雨月がどうしてもっていうから出たけど・・・私、教科書も何も持ってきてないから」

「じゃあ一緒に見よう」

「えぇ・・・」


嫌がる真昼の席と自分の席をくっつけて、教科書を一緒に見ていく

・・・同級生だったら、こういうのもあり得たのかな


学年が一つ違うからこういうことは一切できていなかった

こういう時でしかできない夢だった出来事を、しみじみと体感しながら放課後の時間まで過ごしていく


・・


放課後の時間は最後の一人へ

雨月を終わらせる前に、音楽室へ行くように頼んで・・・僕は音楽室で「残りの一人の姿」で待機する


「・・・戻ってきていたんだね、奏太」

「ん。ただいま」

「今回はどこに?」

「色々な国。ヨーロッパを中心にな」

「ヨーロッパってどこ・・・?」

「ここから西に行ったところ。海を超えた場所だ」

「別世界みたい」

「そうだな。国の一つ一つが別世界みたいで面白かった」


最後は二番目の「柳田奏太やなぎだそうた

ピアニストである彼は基本的に学内にはおらず、世界中を渡り歩いて演奏会を開いている

ちなみに、本人は今もイギリスで演奏会中だ


「いつか、真昼も一緒に行かないか?」

「無理」

「燐音ちゃんに頼むからさ」

「理事長に頼んでも一緒。私の能力は人の心を捻じ曲げる。人に危害しか与えない上に、調整できないから・・・この箱庭で生きて、果てるしかない。外の世界にはもう出られない」

「これからどうしたいとか、ないのか?」

「ないよ」


「・・・将来の夢はお嫁さんじゃなかったのか?」

「昔は昔。小さい頃はそうだったかもしれないけれど・・・今はただ、一人で死ぬのが夢。というか、その夢、奏太に言ったことあるっけ?巡と悠高にしか言った記憶が・・・」

「好きな人とか、いないの?」

「いないよ。いたとしても、その人は本当に私が好きでいてくれているのかわからないから・・・あれ?なんで?」

「どうしたの?」

「なんで、悠高?もしかして奏太に変身していた?」


彼女の酷い本心を聞いて動揺したのか、能力が解けてしまっていたらしい

冷静に状況を分析した真昼は、驚くことなく僕を見上げてくる


「うん。そうだよ。理事長の命令で」

「・・・変なこと考えるね」

「僕もそう思ったよ。あと、これ・・・これをやらないと任務完了にならないからさ」

「・・・なにこれ。ドッキリ大成功の看板?なんで?」

「・・・今日一日、君に接した一桁の皆は全部僕なんだ」

「は?」

「・・・」

「え?有馬から奏太まで全員?」

「全員」


朝からの記憶を思い返した彼女は、顔を真っ赤にして僕から距離を取る


「どうしたの?」

「だだだだだだって!朝からって言ったら!」

「可愛かったね」

「最低!見てないって言うところ!」

「なんで有馬はよくて僕はダメなんだよ!?」


「有馬はお母さんだもん・・・でも悠高は」

「僕は?」

「なんでも無い!帰る!」

「ちょっと真昼。どうして僕はダメなんだ。教えてよ!」


けれど、理事長のいたずらは大成功という最悪な結果で・・・この日は幕を閉じた

それから一週間程度、真昼は僕と口を利いてくれなかった

ちなみに、僕がダメだった理由は明らかになっていない

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