休暇用レコード26:鳴瀬響子編「世界で一番繊細な商売道具の守り方」
「鳴瀬さん、その怪我どうされたんですか!?」
「ええっと・・・」
普段の彼からは想像できない迫真の声で、私の手を優しく自分の手の上に乗せてくれる
遠目から見ているだけだったその手が、指が今・・・私の手をなぞっている
これは夢かしら。いいえ、現実
手にふとした瞬間に走る痛みが、私に現実だと伝えてくれる
「こんなに包帯を巻かれて・・・まさか、骨に?」
「ち、違うわ。これは包丁で・・・」
「切ってしまったんですか!?」
「そ、そうね・・・」
指を少し切ってしまった
別に縫合するほどでもないし、切断してあら大変というわけでもない
今回の怪我は、絆創膏を貼っていれば処置が完了するような怪我だ
けれど、保健室に行ったらちょうど絆創膏を切らしてしまったらしく、こうして仰々しい処置を施されてしまったのである
ただの、切り傷程度なのに
「・・・そんな。治りますよね?」
「へ?まあ、すぐに・・・」
「すぐに治るとしても、しばらく弾けないのですから・・・」
「しばらく?」
ここでやっと気がついたのだが、彼は大きな誤解をしているのではないかしら
「・・・あの、七峰君。私ね」
「治るまで僕に生活のお世話をさせてください!大変でしょうし!」
我が聖清川音楽院が誇る孤高の奏者「
ライバルであり、憧れでもある彼とこうして普通の友達らしく話せるようになったのはつい数日前の話
一年生の時から一緒にいるのに、三年生の秋にこうして話せるようになるなんて・・・自分の不甲斐なさと奴の邪魔が本当に憎たらしかった
もうすぐ卒業が近づいているこの時期に行われる文化祭と演奏会
文化祭はどこにでもある文化祭が繰り広げられるのだが・・・本題は演奏会
三年の成績上位者十名が演奏をすることになっているそこで、私と七峰君は奏者に選ばれて、こうして二人きりで練習に励んでいられているけれど・・・
やはり彼に近づける機会は本当に少なくて
近づくために、こんな些細な誤解も解きたくなくなるほどなのだ
「いいの?」
「ええ。これぐらい。あ、鳴瀬さんにはこれぐらいじゃないですよね」
「へ?」
「しばらく練習ができなくなるのですから。大したことじゃないじゃないですか」
「あ、そうよね。これから迷惑をかけるだろうけど・・・お願いしてもいい、七峰君?」
卑怯だと、下劣だと罵られようとも・・・私はこのチャンスを活かしてみたい
卒業後はどうせ、離れてしまうから
嫌われてもいい。後に彼から最低な思い出と言われてもいい
ほんの少しだけ
留学して、一生関わらない存在になる前に
貴方と一緒にいる時間を、ください
これがあの日、私と七峰君が学校内で過ごした最後の思い出になる
嘘でもいたずらでも度が過ぎているそれは、ここから始まってしまったのだ
・・
その後、私達はいつもの練習教室でギリギリまで練習をしつつ過ごしていた
「・・・どうかな」
「やっぱり綺麗。なんと言えばいいのか・・・音の一つ一つが優しくて、繊細で聞き惚れてしまう。どう弾くのか教えてほしいぐらい」
「ありがとう。けど、僕は鳴瀬さんの演奏の方がとても綺麗だよ」
「そう、かしら・・・私、楽譜通りに弾いているだけだから」
そう。それだけ
私は楽譜の指示通りに弾いて、お手本になるような演奏をするだけ
そこに七峰君のような遊び心を含められない
彼のように感情を込めて弾くことが出来ない
良くも悪くも「お硬い演奏」だったりするのに・・・
「音楽に正解はない」
「へ?」
「忘れました?一年生の時に鳴瀬さんが言ってくれた言葉です」
「そうだったかしら」
「ええ。僕は今も覚えていますよ」
「忘れて欲しいわ。あの時は・・・」
一年生の時の七峰君は「演奏技術だけが卓越した奏者」だった
楽譜すら読めない、記号の意味がわからない彼に何度怒鳴ったことか
・・・恥ずかしくて忘れたい記憶なのに、彼は未だに覚えているらしい
ムカついているから覚えている?
彼はそんな人ではないはずだけど・・・やっぱり、言いすぎていたかしら
「あの時の僕は本当に場違いな奏者・・・奏者というのもおこがましいような存在でした。鳴瀬さんが叱責して、楽譜の読み方を教えてくれなければ・・・僕はもうここにはいなかったと思います」
「それは・・・そうかもしれないわね。聖清川は、演奏技術だけが凄いだけで生き残れるような場所じゃない。知識だって必要だもの。経験だってそう」
彼に近寄り、緩んだネクタイを見栄えがいいように締め直す
三年生になった男子生徒が身につける、特注のネクタイだ
これをつけられる存在はなかなか存在しない
けれど彼は、無知の状態からここまでやってきてくれた
「今、貴方がこれを巻けているのは偶然?」
「偶然ではないと思いたいです」
「そうね。私も偶然じゃないと思いたいわ。貴方は凄いもの」
私にないものを全部持っている奏者
感受性も、繊細さも・・・どこで身につけたのかわからないその技術は、誰もが手に入れられるものではない
彼の才能。それも天性の・・・
「・・・指、ちゃんと動いてる。よかった。そこまで酷くないんだ」
「どうしたの?」
「いえ。あの、前々から思っていたのですが、鳴瀬さんはなぜ僕にここまで世話を焼いてくれるのですか?正直、時間の無駄だと思うのですが」
「へっ!?」
「気になるのです。僕みたいな人間に、鳴瀬さんが関わる理由とか未だにわかりませんし」
「そ、それは・・・」
それは貴方が好きだから・・・なんて、まだ言えない
その小さな隙は、奴が戻ってくる時間を十分に与えてしまった
「おいこら鳴瀬ぇ!近い!離れろ!」
「げっ・・・九重君。なんでいるのよ」
「はぁ・・・はぁ・・・いちゃ悪いか。打ち合わせが早く終わったから志貴を迎えに来たんだ。いつものことだろうが」
息を切らしてやってきたこいつこそ私の天敵
「深参。打ち合わせ終わったの?」
「ああ。急いで終わらせてきた。俺がいないうちを狙って女狐が志貴のところに来ていると思ったら・・・案の定だな」
「・・・人を女狐扱いしないでくれる?」
「事実だろうが。てかその指どうした」
「・・・怪我、したのよ」
「どうせ家庭科室で何か作ってる時に指切ったんだろ。そんな包帯で処置なんざ大げさすぎるんだわ。なんだ、志貴に心配してもらうためか?」
「なっ・・・なんで知ってるのよ」
まるで見ていたかのように・・・いや、この男なら私の動向を逐一監視ぐらいするわよね
七峰君に関わることならしっかり把握するその姿勢
素晴らしいけど気持ち悪いわ。貴方七峰君の何なのよ・・・幼馴染らしいけど
「し、志貴さん・・・これは」
しかし問題はこっち
あまりにも予想外な形でバラされた私の嘘に対して、彼はどんな反応を見せているのだろうか
振るえながら後ろを見ると、七峰君は胸を静かに撫でおろしていた
「よかったです。怪我、酷くなくて。あ、指の怪我だし酷いとかそういうの一切ないですよね。全部重症ですよね」
「そ、そこまでじゃないと思うわ・・・?」
「あそこの保健室、よく絆創膏切らしていますもんね。だから包帯かぁ」
「な、七峰君。私、その」
「どうかされました?」
「誤解、させたんじゃないかなって・・・思っていて」
「誤解?怪我をしたことには変わりないじゃないですか。僕が少し過剰に考えてしまって、ごめんなさい。いつもより勢いが強かったので、鳴瀬さんは怪我の具合を言い出せなかったんですよね」
「ち、ちが・・・!」
「無事で何よりです。けど、傷が塞がるまでは安静にですよ」
「わ、わかっているわ・・・ありがとう、志貴さん」
「はい。あ、そうだ」
七峰君は鞄の中から小さなポーチを取り出す
そのポーチは市販のものではないようだ。もしかして・・・誰かの手作り?
「はい、鳴瀬さん。絆創膏、後で使ってください」
「あ、ありがとう・・・あの、七峰君、そのポーチ」
「ああ。鳴瀬さん、この子の事、気になりますか?」
「う、うん。可愛いなって」
「あげましょうか?」
「へ?」
「おい志貴。こいつにやることないだろ」
「僕が作ったんだよ。誰にあげたっていいじゃないか」
「そうだけどさ」
「絆創膏とか、応急処置のキットを入れるポーチが欲しくて自分で作ったんです」
鶏とひよこがプリントされた生地で作られたミニポーチ
下の方には足跡の刺繍も施されている
まさかこれが七峰君の手作りだなんて・・・なんか色々と負けている気がするわね
「凄い・・・でも、いいの?」
「はい。気に入ってくれた人に持ってもらえるのが、この子も嬉しいでしょうし。でも、手作りでしばらく使ったものです。既製品とは程遠いものですが・・・それでもいいですか?」
「う、うん!それがいい!」
「ありがとうございます」
手作りポーチなんて、まさか貰えるなんて思っていなかった
一生大事にする。家宝にする!
「志貴、俺にもなんか無いの?」
「深参にはハンカチを作ったでしょう?」
「既製品に名前の刺繍しただけじゃん。俺だって志貴のオリジナルプリント布で何か作って欲しい」
これ布のデザインも七峰君作なの・・・?
可愛い・・・本当に多才ね、七峰君
てかハンカチに刺繍ですって?それで「私の」ミニポーチまで欲しがっているわけ?
図々しいにも程があるわ、九重くん
「我儘言わないでよ。注文しても、生地が多すぎて前の分も使い終わるのに苦労したじゃないか」
「俺がお金出すから」
「お金出すとかの問題じゃないの。使うのが大変なの。最終的に油汚れを拭う布にしちゃったんだよ。もったいないからもうしません」
「えぇ・・・志貴のデザイン、めっちゃ可愛いのに。作ってフリマで売ればいいじゃん。一馬もたまにやってるぞ」
二人だけにしかわからない人物の名前で、二人だけの会話を目の前で繰り広げていく
七峰君と九重君は小さい頃からの幼馴染
ずっと一緒で、小中高と離れずに過ごしたらしい
私みたいなぽっと出てきたような女が知らないことも、二人は知っているし覚えている
・・・時折、九重君が見せてくる勝ち誇ったような表情を睨み返しながら話に入るタイミングを伺っていく
「僕が作ったものなんて売れないよ。それに僕は一馬君みたいに上手じゃないし・・・」
「あら、私は売れると思うわよ。縫製は丁寧だし、生地も刺繍も可愛らしいもの。なんならこれだって、お金を払って買いたいぐらい」
「そんな、そこまでのものじゃ」
「あまり自分を卑下しないで。貴方は十分凄い人なんだから、もう少し・・・いいえ、もっと胸を張って欲しいわ」
「・・・僕みたいなのが」
「それ。今度から禁止ね」
「へ?」
いつもの彼の口癖は正直聞いているこっちはイライラするものだ
僕みたいなの、それは彼の自信のなさを表した呪縛のような言葉
凄いのに、私より評価されているのに、いつも自分なんかと下に見て・・・
その姿勢がライバルとしてはとてもムカつくものだし
友達としては、悲しく思えてしまうのだ
目の前の男はそれを口癖だからと放置して治そうとしない
七峰君にひっつくなら、それを指摘して直すぐらいしなさいよ・・・
「僕みたいなのって自分を卑下して、下にする言葉・・・私、嫌いなのよ。実力がある人が、努力をしてきた人が使うのは尚更ね。次、言ったらデコピンよ」
「わかり、ました」
「よし」
「・・・鳴瀬さんって、ちょっと変わってる」
「あとそれ」
「まだ、なにか?」
ついでだ。ついでに・・・これも変えておこう
「・・・名前で読んでほしいの。私達友達でしょう?私も、その、志貴さんと呼びたいもの。いいかしら」
「友達・・・久しぶりだな。あの、鳴瀬さんは僕のことそう思ってくれていたんですか?」
「え、ええ・・・ずっと前からね。でも、もう一つ。ライバルも入っているわ」
「ライバル。いいですね。確かに一年の頃からずっと首席と次席を交換しながら過ごしていましたもんね。それは僕らの間柄を的確に示しているような気がします」
「そうでしょ。友達でライバル。私達はこれからも音楽を続けている限りライバルよ。友達は貴方と私が双方ともに嫌だと思う日まで続けましょう。どうかしら」
「やっぱり鳴瀬さんは少し変わってる。いいよ、それでいこう。ところで」
「なにかしら」
「鳴瀬さんの下のお名前、教えてもらえないかな?」
「忘れたの!?」
「忘れたとかそういうわけじゃないんだ。ただ、滅多に名前を呼ばないから自信がなくて。間違いがあったら申し訳ないから」
「・・・志貴さんらしいわ」
傷つけないように、しっかり理由を述べて
これからも間違わないように、間違うことで誰も傷つけないようにしっかり先に準備を済ませる
ここにいる誰よりも優しい志貴さんらしい行動だと心から感じた
繊細な心の守り方でも熟知しているのかしら
でもまあ、そうね
世界で一番繊細な商売道具である心を支えて、傷つかないように守れるのはこういう人なのかもしれないわね
長い髪を軽く靡かせて、夕焼けに彩られながら彼に最初で最後の自己紹介をしておく
もう忘れられることはないだろう
自己紹介をするような機会もないだろうから、しっかり印象に残るように
「響子。
「きょうこさん。音を響かせ届ける子で響子さん。的確な演奏で、色々な人の心に演奏を届けている響子さんには素敵な名前だね」
音楽家としてはぴったりな名前とは言われ続けたその名前
流石、鳴瀬のお子さんだ。音楽家らしい名前だと
演奏を含めた褒め方をしてくれた人は、志貴さんが初めてだった
「ところでよぉ、志貴。こいつ指の怪我黙って」
「話を蒸し返すところじゃないわよ、九重君」
「怪我をしたのは事実だよ、深参。でも、家庭科室にいたってどういう事?わざわざ料理でも・・・」
「・・・そのまさかよ。最近練習で夜も遅いでしょう?休憩時に軽食を取れればと思ってサンドウィッチを作ろうとしたの。私と志貴さんの分ね」
「言ってくれれば作ったのに」
「・・・私がしたかったの。たまにはその、演奏以外もちゃんとできるのよって見せたくて。でも野菜を切っている時に少し失敗しちゃって」
「指の皮を切っちゃったと・・・間抜けすぎる」
「外野は黙っててくれる?」
「おおこわ・・・」
無関係な九重君が後ろからグチグチ言ってくるので、一喝して黙らせる
でも、いつまで黙っているかわからない
けどあれなら黙らせられるわよね
話の流れで「それ」を取り出すチャンスを伺う
「一応、切る前に完成していた物も持ってきたのだけど・・・これも少し失敗しちゃっていて、とてもじゃないけれど志貴さんに食べさせられる代物ではないの」
「え、でも凄く上手に出来て」
「・・・いいから見ていて」
志貴さんにそっと耳打ちした後、笑顔でそれを九重君に差し出す
「なんだよ」
「貴方のことだから、毒味させろとか言いかねないでしょう?先に差し出してあげているのよ」
「ちっ・・・よくわかってんじゃねえか」
そのまま一切れ私はサンドウィッチを掴んで、そのまま九重君の口に突っ込んだ
「なにす・・・むぐむぐ。意外と普通だな」
「味のバリエーション、変えているわ。他のも毒味しないといけないわよ」
「・・・響子さん凄く悪い顔をしています」
「やだ、悪戯心が顔面に出ちゃってたかしら」
「なんで俺がお前のむぐんぐ。あれ、これなんか甘くね?」
「次、いってみましょうか」
どんどんどんどん本当は彼に食べさせたくないサンドウィッチを
「だからなんでお前のサンドウィッチを俺が食わされてんぐんぐ・・・ぎゅっ・・・なにこれかっっっっっっっらっ!?」
あ、やっと当たってくれたわね
自分でも見分けがつかなくなってしまった唯一のハバネロサンドウィッチ
これで他は安全ね。後で志貴さんと分けて食べてしまいましょう
「・・・ロシアンサンドウィッチ、楽しんで頂けて何よりだわ」
「ゲホゲホっ!最低だな鳴瀬響子!食い物で遊ぶとか人としてどうなんだ!」
「あら、全てを炭にして無駄にしている貴方よりは遥かにマシだと思うのだけれど!」
「ふ、二人共喧嘩しないでよ。ダメだってば!」
その日は、騒いでいるうちに、志貴さんの専属をしている講師が練習教室にやってきて、私達は酷く叱られた
志貴さんは残って練習。私達は強制的に帰らされて終わった
「演奏会が終わったら、互いにご飯を作って慰労会でもしようか、なんて話していたわよね」
なんて、眠る彼には聞こえていないか
楽しかった青春時代は遠く過ぎ去り、私達はもう二十代の後半になっていた
その間に、色々な事があった
けれど私と志貴さんはあの日の約束を果たせないまま大人になってしまった
演奏会の少し前、彼はある事件に巻き込まれた
その影響で彼は体中に怪我を負い、同時に心を壊してしまった
声ももうまともに出ないから意思疎通も難しくなっている
その事件と、同日に起きた事故は私の身近にいた人物たちの人生を大きく狂わせた
志貴さんだけじゃない。深参君も、彼のご家族も・・・
その中でも一番影響が大きかったのはやはり志貴さんだと思う
指が三本しかない彼の右手を私の両手で包み込む
世界で一番繊細な商売道具
彼にとってそれは指で、それは心
二つの商売道具が揃ってこそ、七峰志貴というピアニストは煌めいていた
「・・・」
「あら、志貴さん。起こしてしまった?」
「・・・」
歌も上手いことは、あの日から少ししてから知った
男性にしては細く、高い声で囀る彼の歌は今もなお私の耳に残っている
けれどもう彼自身で歌うことはない。歌うことが出来ないのだから
声も指も、尊厳も・・・何もかも失われた
「・・・志貴さん、私はどんな事があっても貴方の友達をやめないからね」
「・・・」
それが、世界で一番繊細で目を離した瞬間に壊れてしまう貴方を守れる・・・最後の一手だと信じて
「元気になったら、あの約束を果たしましょう」
「・・・あの約束って?」
「あら、深参君。打ち合わせ終わったの?」
「まあな。志貴はどんな感じ?反応ある?」
なんだかんだでいがみ合っていた彼とも、志貴さんを通じて和解し・・・今は互いに仕事をしつつ、志貴さんを支える生活を二人で送っていた
・・・一応、半同棲だ
勿論だが互いに志貴さんが一番
半分一緒に暮らしているのは、志貴さんに関する利害が一致している間柄なだけだ
けどその利害は、私達の関係を結構丸くしてくれていたりする
「少しだけ、手を握り返してくれているわ。今日は少し体調がいいみたい」
「それはよかった」
「どこかへ行くの?」
「実家。一馬がまた倒れたから、下の面倒と手続き諸々やってこねえと。しばらく志貴頼むわ。夜には帰る」
「大変ね。ここは任せて。今日は一日いられるから、家のことが大変そうだったらそっちを優先してあげてね」
「助かるよ。それじゃあ、いってくる」
「いってらっしゃい」
彼を見送り、志貴さんの元へ戻って、なにもない時間を彼の手を握りしめつつ過ごしていく
いつか、かつての志貴さんが戻ってきて・・・また普通に語り合えるその日を願いながら
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