休暇用レコード2021

休暇用レコード1:穂宮有馬編「お昼寝ツリーハウス」

無機質な天井、同じ床

そんな研究所の一室で、俺を含んだ九人の子供たちは生きている

その九人の中で、年長に分類される俺は一つの不満を抱えていた


この箱の中にいる子供たちは皆、大人たちの都合で集められた実験体

決められた時間だけは自由だが、それ以外は全て大人の言いなりだ

規則正しい生活を心がけないといけないし、部屋から出ることもできない


俺はインドア派だからその点は気にしないのだが、他の子供はそうではない

外に出たいと騒ぎ、俺はライフワークである昼寝に集中できない状態が続いていた


「お前はいいなぁ・・・疲れたら寝られるんだから」


俺のお腹を枕にして眠る少女の頭を撫でながら、一息吐く

眠りにつけるように目を閉じると、誰か隣に来た気配がした

うっすらと目を開くと、そこには分厚い本を広げた梅賀咲日依うめがさきひよりが座っていた


「日依か」

「ああ。お前が寝付けないとは珍しいな、有馬。お前もあいつらみたいに体を全力で動かせば眠れるんじゃないのか?」

「あのなあ日依。九歳のお前ならともかく俺はこれでも十三なんだわ。六歳と七歳に混ざって遊ぶとか面倒なんだわ。もっと言うなら運動嫌いなんだわ」


「ああ言えばこう言う。少しは最年長らしいところ見せろよ・・・」

「最年長でもこの中では後輩なんだわ」

「じゃあ先輩の言うこと聞けよ。ここに来た年功序列でな。俺八番。お前九番」

「うるせー」


ああ、やっぱり騒がしい


「・・・」

「いいなあ真昼。俺もお前みたいにのんびり寝たいよ・・・」


眠る少女を心から羨ましく思う

俺は隣でぐちぐち言ってくる日依に付き合うしかなくなり、結局お昼寝のタイミングを逃すことになってしまった

ああ。いつか、日当たりのいい静かな場所でのんびり昼寝がしたい


「・・・」

「あ、起こしたか。真昼」

「・・・」


気がつけば、昼寝をしていた彼女が起きるほど時間が経っていたらしい

寝ぼけた視線を浮かべて周囲を見渡す真昼は、俺を見つけて嬉しそうに笑ってくれた


「ありま」

「んー?どうした?」


頭をグリグリと俺の腹に押し付けて、 真昼はなぜか「してやったり」な顔を浮かべる


「ありま」

「うんうん。そうだぞ。有馬お兄ちゃんだぞ。高い高いしてやろうか?」

「やだ。お昼寝の続きがいい」

「まだ寝るんかい」


そう言いつつも、再び真昼は俺の腹を枕にして眠り始める

俺もまた、今度は真昼につられて一時の眠りの中に誘われた


できれば、こんな大多数の部屋ではなく二人きり

静かな部屋で、のんびり昼寝をしたいな・・・とか思いながら

そんな願いを密かに抱いたのは・・・俺の中だけに留めておこう


・・


それからざっくり十年ほど経過した

当時十三歳だった俺も二十三歳

特殊な境遇ばかりの人間が集まる都市型の全寮制学校「華清学院」で俺は教師をしていた


小さい頃にお世話になった俺たち「らしさ」を作り上げてくれた保護者みたいな藤埜先生と同じように実験台の道を辿るよりは・・・飼い犬の立場でいた方が楽だと思ったから


ある日の昼下がり

俺はお気に入りのあの場所で昼寝に勤しんでいた

こんな時間から昼寝なんて本来なら日依から蹴飛ばされる案件なのだが、今は特別だ


「穂宮先生」

「んー・・・真昼か。お使いご苦労」


寝転んだまま、ここに来る道を教えた唯一の存在に声をかける

藤本真昼ふじもとまひる。かつて俺と一緒に昼寝をよくしていた少女

今は高校二年生。子供のようなあどけなさは少し残っているけれど、可愛いよりは綺麗になったと言えるだろう

・・・あの部屋で過ごしていた連中が放っておかないぐらいには


俺の隣に腰掛けて、覗き込むように不機嫌な顔を向けてきた


「人使いが荒いよ」

「たまにはいいだろう?いつもお前らの我儘聞いてやってんだから」

「それは・・・」

「いつも良い子な真昼を使うには少し罪悪感があったから、こうしてご褒美も用意しただろう?これで許してくれ」

「まあ、いいけどさ」


俺に毎日のように無茶振りを注文してくる綿貫永時わたぬきえいじをこき使う分には心痛まないんだけど、流石に真昼・・・他の例を挙げたら萩原雪見はぎわらゆきみ芦屋巡あしやめぐるのような、むしろ面倒な連中に巻き込まれているような人間をこき使うのには少々罪悪感が存在する

今回のようなことがあれば、些細なご褒美を用意してからお願いをするようにしている


「ここ暑いね・・・」

「まあ真夏の屋外だからな。直射日光はないけど」


歩いて来た分暑いのか、真昼は制服をパタパタさせて服の中に風を取り込んでいく

小さい頃から一緒だったということもあり、あの部屋で過ごしていた俺たち八人にはよく言えば「とても気を許してくれている」悪く言えば「気を許しすぎている」

無防備に腹を見せてくるところが、本当に気を許しすぎていると思う


・・・どうしたものか。こういうの、注意していいものなのかね

腹を見てることに怒られやしないだろうか。それとも今更?難しいなぁ・・・


「・・・真昼、腹」

「どうしたの?」

「無自覚ですかい。まあ、なんだ。他の奴の前ではするなよ?」


まあ、俺はとやかく言わないし、乙女の柔肌もちもちお腹程度で心臓を跳ねさせませんし?角度的にちらっと見える白いフリルに笑みを浮かばせたりしませんし?

でも他のは狼ですからね。これぐらいで興奮しちゃうようなポンコツばっかりですからね


「他のって?」

「・・・日依とか、雨月とか。とにかく!真昼は女の子なんだから、昔から一緒の八人でも肌を無闇に見せる真似はするな」

「はーい」


本当にわかっているのかわからないほど適当さが滲んだ返事が戻ってくる

・・・まさか確信犯。そんなわけはないよな


「しかし真昼。夏休みなのに制服を着てきたのか?」

「商業エリアならともかく、学院エリアを移動しないとだから念の為ね。日依に見つかったら怒られるし。はいこれ。ミルクましましティーでよかったよね?」

「どうも。お前もちゃんと水分補給しろよ?」

「うん」


真昼は袋の中から冷たい紅茶を出してくれる。その後、自分の分であるほうじ茶を取り出して飲み始めた

流石に体を起こさないと行儀が悪いので、やっと体を起こす


「ぷぺー」

「ぷぱー」


二人して特徴的な飲み方をした後、残りはキャップを締めて端に置く


「しかし有馬。なんで木の上に昼寝場所作ったの?それにこの木は・・・」

「ん?ああ。ここ、川辺だし、夏場にしては涼しい方なんだ。それに静かだろう?俺たち以外は寄り付かないしさ」

「セミはうるさいけどね・・・」

「それも風情だろ?」

「そうかな?」


「そうだよ。それに、木の上ってなんか秘密基地っぽいじゃん」

「なんだか発想が子供みたい」

「構想を練ったのが十三の頃だからな。子供時代だから許してくれ」


ここは誰にも内緒な理想の昼寝場所

不器用な自分を憎みながら、汗水たらして、組み上げたのがこの木の上に築いた昼寝空間


床に寝転んで空を見上げる

葉の隙間から溢れる日の光。川のせせらぎに、セミの鳴き声

吹き渡る風は夏の風にしてはとても涼しくて、心地よさも覚える

今年は虫刺され対策で張った蚊帳も装備していい感じ

理想的な夏場の昼寝空間だ


「・・・エアコンで適温にした部屋で寝るのはダメなの?」

「夜はそっち。けど、昼寝は外って決めてるんだ」

「そっか」

「・・・」

「・・・」

「・・・なんでお前は寝ないの?」

「いや、屋外で昼寝とか子供じゃないんだからさ・・・」

「なんでそこで照れるんだ。ほら、お前の大好きなお腹枕だぞ。ほれほれ」


これが日依だったら筋肉もりもり小さな枕が六つとかだろうけど、残念ながら俺は運動しないのでお腹タプタプ

同期の彼岸深夜ひがんしんやから冷めた目で「だらしねえなぁ」と言われるレベルだ


「それ小さい時の話でしょ。今、そんなことしたら・・・」

「そんなことしたら?」

「有馬・・・淫行教師でしょっぴかれるよ?小さい頃からの友達だって言っても、今の私は学生。有馬は先生だから」

「真顔できついこと言うなよ」


しかしそうは言いつつも、真昼は横になってくれる

最もお腹じゃなくて俺の腕を枕にしているが


「あの、真昼さん?」

「けど、誰も来ないだろうし少しぐらいいいよね」

「ああ。ここまで来る奴はそうそういない」


腕の力を抜いて、真昼が自由自在に動かせるようにする

本来なら誰も知らないはずのこの場所に、真昼が来たのは俺が招いたから

真昼もまた小さい頃から趣向が変わっていなければ昼寝が好きだろうから・・・よければと思い、ここに招待した

それを今回のお使いのご褒美として


どうやら、どんなに大きくなっても変わってはいないらしい

大きくなってもお昼寝が好きでいてくれるらしい・・・喜んでくれていればいいのだが


「有馬が整えたお昼寝空間にせっかく招待されたんだし、少しだけね」

「ああ。好きなだけどうぞ。でも一人で寝にくるなよ。何かあったら大変だから」

「わかってる。有馬と一緒に来るよ。それが安全」


俺と来るから安全か

いいことのはずなのに、なんだか虚しいような、グサっと来たような感覚を覚えた


「・・・他の奴とは来ないよな」

「有馬の場所だから有馬に招待されなきゃ来ないよ」

「なら、いいけどさ」

「・・・変なの。しかし有馬のお腹はもちもちだね。ほどほどにしときなよ」

「うぐ・・・」


俺の二の腕を枕にしつつ、腹についた贅肉をひとつまみ


「あー、だらしない。だらしない。こんなタプタプもっちもち。日依が見たら鬼の形相で飛んでくるよ。私は好きだけど」


鬼の形相をした日依と、嬉しそうに俺の腹に顔を埋める真昼が頭の中に同居を始める

地獄の果てと天国の頂上がワンセット。中々に酷い


「まーた悠高ゆたか奏太そうたに餌付けされてるんでしょ」

「否定はしない」

「美味しいお菓子買ってきてくれるからね・・・」

「お前も餌付けされてんじゃん」


俺たち九人の一人である笹部悠高ささべゆたか柳田奏太やなぎだそうた

悠高は芸能人、奏太は音楽家としてよく外に出かけることもあって、色々なお土産を買ってきてくれる

このお腹の影響は、彼らのお土産も受けている・・・と思っている


「俺のお腹好き?」

「好き。柔らかくて寝心地いいし」

「・・・」

「日依とか雪見とか堅いのより柔らかいのだよね」


堅さを知っているということは、あいつらの腹で寝たことあんのかよ・・・あいつらもよく付き合ったな

てか雪見腹堅いのな・・・

ここに来る時に見かけたが、初等部の子供と混ざってラジオ体操しているような男がなぁ・・・人は見かけによらないらしい


「しかし若干複雑」

「?」

「無自覚かい。まあいいよ。参考までに聞くが、真昼の理想の枕はどこだ?」

「今は二の腕」


少し引っ張って、自分のベストポジションに俺の腕を持っていく

しかし、腕が思ったほど太くなかったからか、少し違和感のある表情を浮かべながら腕のベストポジションを探し続けていた


「・・・腕、曲げてやろうか?」

「む!それは助かる。細いからどうしようかと思っていたから」


密かな要望通りに腕を曲げた後、真昼はその腕の上に頭を乗せる

やっと満足いくものが現れたようで、満足そうにそのまま俺と同じように仰向けでのんびりし始めた


「・・・木漏れ日が綺麗だね」

「そうだな。少し眩しいけど、こういうのもありだ」

「日差しもキツくないしね。適度に涼しくて、暖かくて気持ちいいや」


のんびりした声で、感想が述べられる

俺たちは体から力を抜いて、自然の中に身を任せた

真昼も本格的に寝る体勢になっているのか、頭を経由して俺の腕に動きが伝わってくる

脇腹あたりが少しくすぐったい感覚を覚えた後、腕が軽くなり、逆に胸あたりが重く感じるようになった

もう眠気の方が優っていたので、俺は気にすることなく「そうするべき」だと本能的に感じ取り、空いた手を真昼の方へ伸ばしていく


セミの鳴き声すら心地よく感じるほど、体がふわつき始めた頃

俺と真昼の顔に影が落とされた


「よくお眠りで」

「・・・んぁ?」


うっすらと目を開くと、そこには日依が笑顔で俺を見下ろしていた

大方、真昼の後をつけていたんだろう。いい感じに油断したところで姿を現す。こいつお得意の手段だ

真昼が一人で山に入るような人間じゃないことは、俺たちがよく理解している

そんな彼女が心配でついて来た。多分だけど


「おはよう有馬。おっと声を出すなよ。真昼が起きる」

「・・・おはよう日依。俺と真昼のお昼寝を邪魔しないでもらえるか」

「無理な相談だね、有馬」

「僕らもいるんだけど」


抗議と共に反論が返ってくる

日依の影からふと、二人現れた


制服を着ている二人の男

根暗な方は浅葉雨月あさばうづき

胡散臭い笑みを浮かべる方は笹部悠高


個人的に苦手な二人だ。両方真昼が関わると厄介さが増すし

けど、悠高の方は「同じ境遇」でここに来たという共通点があるから、苦手でもどこか放っておけない


「雨月、悠高・・・」

「俺たちだけじゃないよ。全員で来たよ?」


さらに現れる影。今度は頭にゴーグルをかけて、夏場にしては若干集めの作業着を来た男、今年の夏休みは補習漬けだと聞いていたのになんでこんなところにいるんだ綿貫永時ぃ・・・!


「永時もかよ・・・全員でって・・・嘘だろ」


少しだけ身を乗り出して木の下を覗くと、そこには残りの三人


「心地良さを覚えるいい音だな・・・」


エアピアノに勤しむ奏太。完全にヤバい人にしか見えないのはあえて指摘しないでおこう


「雪見。虫取りしよう」

「おう!ここならやりがいもあるもんよ!」


年甲斐もなく無邪気に虫取りを始める巡と雪見

気がつけば、昔から一緒の「一桁」が集合してしまっていた


「有馬」

「・・・なんだよ、日依」


もう全員集合してバレてしまった。こいつらには秘密にしておきたかったのに

秘密基地だったのに、もうただの基地だ

秘密がバレるのも一つのお約束かもしれないが、完成した翌日というのは流石に早すぎる


「これ、いつから作ってたんだ?」

「夏休み始まったと同時」

「夏休みの工作かよ」

「好きに言え」


しかし、これが夏休みの工作というのなら、こんなに時間とお金をかけたのは初めてだ

俺があの研究所に引き取られたのは十二の時。中学生になってからだった

俺もそれ以降の「普通の学校」は知らないけれど、まだマシな方だ

日依は少しだけ、後の七人は普通の学校を知らないから


「でもさ、日依」

「なんだ?」

「これが夏休みの工作っていうならさ、俺、初めて立派な工作ができたと思うよ」

「・・・お前の両親はギャンブル中毒だっけか?」

「ああ」

「・・・」


日依の言葉で俺と悠高の表情が曇る

彼のいうとおり、俺たちの両親は「ギャンブル中毒」

子供を売れば金になると聞きつけて、一人息子を研究所の実験台として売ったロクでもない連中だ

夏休みの工作に使えるようなものがあっても、それを売って資産にするような人たちということだけは覚えている


「・・・すまん。悠高も流れ弾で傷つけた」

「別にいい。それより、有馬、一つ聞いても?」

「なんだ?」

「うちは離婚して一人になったらそれぞれ理性を取り戻したらしいけど、有馬のところはどうなったの?」

「二人揃って遠洋で漁業さ。借金取りがここにいる俺のところまで来た時には肝が冷えた」

「・・・華清の庇護を初めてあって良かったと思ったかな」

「俺も思ったよ。だからこそ、逆らえなくなったのは言うまでもないよな」

「・・・うん」


俺たち一桁には、そう簡単に切れない縁がある

同じ境遇だからこそ生まれた絆というのか、わからないけれど

けれど、昔のようにはいかないのだ

全員、立つ場所が変わってしまったのだから

話す前に雨月と永時を一瞥しておく


「俺と雨月は今日非番だから、今日のことは聞かなかったことにするし報告もしない」

「・・・右に同じ」


「じゃあ話しておくか。悠高」

「なに?」

「俺も日依も華清に救われた過去があるせいで、もうあいつらには逆らえないし、表立って協力はできない。雨月と永時は敵対する立場。でも、お前らの意志は理解している」

「うん」

「成し遂げろよ・・・絶対に。奏太にも伝えろ」

「わかってる」


一通り伝えたいことを伝え終わると、悠高だけではなく永時と雨月も立ち去っていく

残されたのは俺と日依

それから、あんなに賑やかだったのに起きる気配すらなくのんびり眠り続けている真昼

・・・よく眠れるな


「・・・このツリーハウス系秘密基地、後で永時に補強してもらえよ不器用」

「ああ。お前ら用の空間も頼んでやる」

「話がわかるな」

「昔から一緒だし、ある程度はわかる」


全員の腕に輝く腕章が、襟元のピンバッチが、その繋がりを象徴するように煌めく

雨月が「Ⅰ」、奏太が「Ⅱ」、巡が「Ⅲ」、真昼が「Ⅳ」、悠高が「Ⅴ」

雪見が「Ⅵ」、永時が「Ⅶ」、日依が「Ⅷ」、そして俺が「Ⅸ」


「一桁」はあの部屋に最初に招かれた九人のこと

雨月から始まり、今も続いている招待の順番を示している


「ん・・・」

「ああ。真昼。おはよう。よく寝てたな」


少し騒がしくなったからか。眠っていた真昼が目を覚ます


「おはよう。うん。ここ、凄く心地いいから・・・あれ?日依?」

「よう。全員引き連れて来てみた」

「そっか。でも、皆とここにいると昔を思い出す」

「そうだな」


真昼の言葉に返事を返すと、ふと、俺たちの顔をみていた真昼が何かを閃いた


「もしかしたら今年の夏がこうして全員で集まれる最後かもしれないのかな」

「そうかもな」

「せっかくだし、何かする?」


真昼が俺にそう聞いてくる

確かに俺は今、教師という立場にいるし、生徒側である七人が取りにくい様々な許可も簡単に取れるだろう


「俺が面倒な許可とんのかよ・・・。おーい、お前ら。どうせ聞こえている前提で聞いとくわ。真昼の意見に対する反対意見は?」


木の上から身を乗り出して、下で遊んでいる六人に声をかけてみる


「「「「「「ない」」」」」」

「お前ら本当に仲いいよな・・・羽目外すなよ」


間髪入れずに返答を返した学生組に反対意見はない。ついでに隣の日依も反対はしていなかった

こうなることは昔から知っている

真昼のお願いは、全員の総意なのだから


「真昼。理事長ババアはお前がいないということ聞かないからついて来てくれ」

「わかった」


梯子を降りて、七人の見送りを背に少しだけ蒸し暑い森の中を歩いていく

後ろから誰かつけている気配はない。今は、二人だけのようだ


「ねえ有馬」

「んー?」

「お昼寝場所、見つかっちゃったね」

「仕方ねえよ。なんせあの木は藤埜先生の木なんだからさ」


あの秘密基地を作った木は竹中藤埜たけなかふじの

俺たちが敬愛する藤埜先生が死んだ後に埋められた木と聞かされている木

そんな木の元に俺たちが集まるのはある意味自然なことだ


「藤埜先生は賑やかなの大好きだからね。でも、私は静かな場所が好き」

「・・・つまり?」

「今度は二人で作ろうよ。お昼寝場所」

「おー・・・じゃあ、めぼしいところは探しておく」

「楽しみにしてるね」


差し伸べられた手をとり、二人で歩いていく

バレたのは痛いけれど、当然ともいえるだろう

しかし・・・収穫もあった


まだ夏は始まったばかり。夏休みだってあいつらを交えてこれから本格的に始まっていくと言えるだろう

それと同時に、お昼寝が大好きな彼女との「理想のお昼寝」を求める日々も幕を開ける


今年の夏は、退屈せずにすみそうだ

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