第3話 はじめようか、動画視聴
「やっぱ討伐系が人気みたいね。派手だしカッコいいし、冒険者って感じがするもの」
トレサポの人気動画一覧を見れば、先ほどの様な討伐動画が多く上がっている。もう少しランキングを下げると採取や調査クエストという単語も増えてきた。それと、母数が多いからだろうけど、圧倒的にヒューマンの冒険者が多い。
「確かエルフとドワーフが大体一割程度で、残りの一割未満がその他の種族だっけ」
色白で尖った耳と背中の羽が特徴的なエルフは魔法の才能が、茶色や緑色の肌で全体的に丸っこくて投身の低いドワーフは手先が器用らしい。
ランキングに並んでいるのは種族問わず美形が多い。世知辛いけどそういうものか。
「元の世界ではドワーフってあんまり美しいイメージ無かった気がするけど、この子とか身体は小さいけど目が大きくて可愛いのよね」
なんとなく目を引いた配信タイトルは『ドーマ街道修繕工事クエPART7』。丁度LIVE中だったのもあり、『視聴する』をタップする。スマホと同じ使い勝手なのはありがたい。
『あぁー。これ、ほら、見て。ねじ穴バカになってんのに魔法で無理矢理接着した跡。これだからエルフの業者は本当害悪なんだよな。魔法で大体解決できると勘違いしてやがる』
再生されたのは薄暗いトンネルでレールやランタンを一つ一つ確認しては修繕する小柄な緑の身体、ドワーフ族の女性だ。長い髪をポニーテールにして大量の工具を腰にぶらさげ、みるみると不備を見つけては修理していく。その姿は素人目に見てもかなりの職人技で思わず見惚れてしまう。
『これを見てる有能なヒューマン! エルフに精密仕事を任せるなんて馬鹿なことは絶対やめろよな』
配信というには口数は少な目だし、ちょっと口が悪い。彼女が画面に向かって語り掛けるとコメントがちらほらと反応する。
“エルフに技術作業なんてやらせるのはありえないよな”
“わかる。うち建設系なんだけど新人のエルフがマジで使えない”
“魔法頼りで不器用過ぎるからな”
“無駄に寿命だけ長い”
・・・なんというか、エルフアンチのコメントが多い。時折擁護するコメントも流れるけど、大半が冒険者の彼女を支持する内容だ。ドワーフの彼女は支持コメントを何個か読んではうんうんと頷き、素早い手つきと身のこなしで修繕を進めていく。
『やっぱ長い目で見るとドワーフ製の方が絶対使えるわけ。市場に出回ってる高級精密機なんて殆どドワーフ系統のだし。どっちが優れてるかなんてもう世間が答えだしてるようなもんだよなぁ。種族人口のせいで同列扱いされるのほんと納得できないわ』
自信の優れた技術を存分に披露しながら出てくるドワーフ語りは説得力があるのか、控えめな視聴者数だけどコメントやギルチャがそれなりに貰えている。
討伐クエストのような派手さも軽快なトーク力もないけれど、共通の敵を責める事で視聴者からの好感度を稼ぐタイプか。こういうのは炎上が怖いけど、種族単位で対立しているならそこまででもないのかな。最多種族の人間がいるからこれくらいはプロレスとして認められているのかも・・・。
「ねぇ、セピア」
ヒューマンの立ち位置について詳しく知りたいと思い、隣にいるセピアに声をかけると。
「・・・すぅ。すぅ」
「あら」
そういえば、寝ていいって言ったわ、私。
「・・・・・・むにゃ」
すやすやと可愛らしい寝息を立てて、胎児のように体をまるっこくして眠っている。
「出会ったばかりの人間をこんなに信用して大丈夫なのかしら」
私に対してではなく、セピアに対しての言葉だ。最初は警戒心剥き出しだったのに今はこうして私の傍で無防備に眠っている。大きな尻尾と口から見える牙は確かに獣みたいだけど、寝ている顔はただの可愛い女の子。
「不思議な子だけど・・・もし、セピアが望むなら」
この子は冒険者になりたいと言った。美味しい物を食べて、種族に関係なく扱ってもらう為に。
「私の経験なんて役に立たないと思ったけど、この世界でなら、冒険者が配信者になるこの世界なら・・・セピアの夢を叶えてあげる事もできるのかな」
アイドルを推したい。アイドルが輝く手助けをしたい。そんな私の血が騒ぎだして、私は新たな動画を再生した。
***
「・・・むにゃ・・・・・・・はっ!」
ビクッ。と隣にいた小さな体が動き、ガサガサと床に敷いた藁が舞う。
「あっ。アズマ!」
天井にぶつかってしまいそうな勢いで頭を起こし、慌てるセピアに声をかけられて私も我に返る。
「・・・あ。お、おはようセピア」
「あれ、もう起きてる」
手にはスマホもどき。再生中は『ビキニアーマーで挑む!モルタ草原スライム討伐』。あえて簡単な敵を選んでサービスシーンでギルチャを釣るタイプのちょっとエッチな討伐動画だ。別に変な目的で見たわけじゃなくって、強いモンスターを討伐する以外の方法で人気がある冒険者の傾向を勉強している最中だったのだ。
所謂スーパープレイ動画は人気が出るけど技術が必要だし危険もある。芸能業界と同じで王道が最も強いけど、新人が成り上がるには新たな市場を開拓したり供給の少ない分野を責めたりする方が効率的な場合が多い。セピアを人気配信者にするために供給の足りないジャンルを知ろうと片っ端から動画を見ていたのだ。
つまりは、徹夜していた。
「・・・あー。ごめん、充電とか大丈夫かなこれ」
外の景色見えないし、このスマホもどき時計の表示無いし充電なくなったりしないから、ちょっと夢中で見続けてしまった。おかげで冒険者配信界隈に大分詳しくなった気がする。
「じゅうでんなに? わかんないたぶん大丈夫・・・、けど。アズマ、寝てない?」
わざわざ寝床に入れてもらったのに一睡もしないとは。というか異世界生活一日目で新たなコンテンツ見つけて徹夜しちゃうって、我ながらオタクの才能が濃すぎる気がする。
「大丈夫大丈夫。それより聞きたい事たくさんあるから、街に向かって歩きながら話そ」
まぁ、弱小事務所のワンオペドルPですから、徹夜明けで仕事なんて慣れっこですけどね。流石に徹夜明け異世界は初めてだけど。
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