俺の料理でお前を太らせる!

ヘイ

一食目 肥えろ

 

 俺こと、鹿嶋かしま大翔ひろとには子供の頃からの付き合いのある女の子が居る。名前は日向ひなた美咲みさき。俺の通う高校の有名人であり、成績優秀、品行方正、眉目秀麗。おおよそ、出来ない事はないんじゃないかと思う様な超人。

 そんな超人、俺としては苦手な人間だが。

 というのは、子供の頃から苦い思い出しかないのだ。コイツに揶揄われた事も山の様にある訳だ。

 俺は特別優れた人間でもなく、勉強は人並みを少し下回り。運動は壊滅的。

 

「大翔、今日のお弁当は?」

 

 だから、俺はコイツに揶揄われた分を復讐してスッキリしてやりたい訳だ。とは言え、コイツを揶揄うにも色々と無い。

 そう、弱点が見つからない。

 

「唐揚げにキャベツの千切り、ポテトサラダ。後は卵焼きにミニトマトだ」

 

 なら、その弱点を作るしか無い。

 俺は母さんに手解きを受け家事能力を身に付け、練習台と称して美咲に食べさせている。弱点に、太っていると言う物を作る為。

 

「今日も相変わらず美味しそうね」

「おう。期待してくれ」

 

 そして問題があったのはご飯の彩りだ。

 例えば、手っ取り早く美咲を太らせるとして、そうなれば油物ばかりで作れば早いのだが……それでは俺の意図が見出されてしまう。というか、気が付かれかねない。

 初めて直ぐの頃にそれをしてバレかけた。当時は『ごめん、全部美咲が好きな物にしようと思ったら』と誤魔化したが。

 だから、気が付かれないように少しずつ摂取カロリーを増やしていくのだ。

 

「ほらよ」

 

 俺は弁当箱を差し出す。

 卵焼きは砂糖を使用。唐揚げの衣には小麦粉を使い、一度しか揚げない。ポテトサラダにはカロリーお化けのマヨネーズを大量に入れている。

 可能な限りにカロリーを高めた俺の手製弁当だ。

 存分に食って太ってくれ。お前は幸せそうな顔をしながら太っていけばいい。俺を勉強もそこそこで、運動については全く出来ないと見せしめにした事は一生忘れない。

 

「ん、ありがと。あれ、そう言えば今週の土曜日ってご飯作ってくれるんだよね?」

「まあ、そう言う話だろ?」

 

 一ヶ月に何度か、休みの日に美咲は俺のところへやってくる。俺の作る料理を食べる為だ。これも、俺がぜひ食べてほしいと提案したからだ。

 既に仕込みは始めている。

 作るのは鶏白湯の塩ラーメン。スープは少し濃厚だが、中々に美味く作れたと言う自負がある。

 

「何作ってくれるんだか」

「それは……楽しみに待っといてくれ」

 

 俺もお前がぶくぶくと肥えていくのを楽しみに……あれ?

 

「…………」

 

 ちょっと待て。

 

「どうしたん、大翔?」

 

 俺がふと足を止めると、美咲が少し先で振り返る。

 

「いや」

 

 何でこいつ、太ってないんだ。

 

「何でもない」

 

 ただ、流石に口には出さない。

 俺の料理では足りないのか。いや、可能性としては服の下が脂肪でプヨプヨになってる事も……だが一年はやってるぞ。

 

「悪い悪い」

 

 だが、俺の復讐はいつか身を結ぶだろう。

 カロリーは積み重なり、脂肪になる。こいつがデラックス体型になるのも時間の問題だ。

 

「…………」

 

 どれほどの時間を掛けてでも、俺はこいつを俺の手で太らせ……そして、こいつの弱点を作り出す。

 

 俺の復讐は未だ半ば。

 それに一朝一夕で体重に変化はない。長い目で見ていこう。

 

「あ、大翔。ラーメンの煮卵は半熟ね? あと、刻みネギ大盛りで!」

「チャーシューも付けてやる。替え玉も覚悟しろよ」

「良いね」

 

 いや、やっぱり気になる。

 何でこんだけ食い意地張ってるのに……成果が目に見えてないのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺の料理でお前を太らせる! ヘイ @Hei767

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ