第48話 天界

「く、雲子……!」


「そうよわっちよ」


「い、生きてたの!」


 雲子は黙って頷く。するとルシファーが光線の質量を上げると同時に叫んできた。


「貴様! 一体どうやって!!」


「簡単な話よ。消される前に体の一部を雲の中に格納してそれを増殖させた。そして頃合いを見て出てきた。ただそれだけ」


 雲子はそう言った後、鼻で笑ってみせた。


「ッ!! シャラクサガァァァ!!!」


 ルシファーがより一層光線の威力を増幅させていく。あまりの質量に雲子が曇りかけていった時、横からシャラが高速で飛び出してきた。


 走るシャラに反応したルシファーは、もう片方の手から鈍く光る光線を乱射させていく。

 しかし、シャラは華麗な足運びでそれを避けると、左手に構えた手刀をぎらつかせる。


「千切れなさい」


 シャラは一瞬にしてルシファーの背後に回ると、すぐさま彼女の黒い羽を叩き斬った。

 彼女は痛みで思わずよろける。それを見逃さなかったシャラは、能力を使ってルシファーを遥か上空へと蹴り上げる。

 彼女は髪が風でぐちゃぐちゃになりながら叫んでいた。


「嘗めんな餓鬼どもがぁぁぁ!!!」


 彼女は両手から幾本もの光線を乱射させる。しかし、その時には既にシャラは彼女の右隣にいた。

 シャラは両手で一つの拳を作ると、自分の頭の後ろ辺りまで振り被る。


「合いの玉鋼!!」


 シャラの拳がルシファーの胴体に衝突する。彼女は物凄い速度で落下していく。彼女の落下地点付近には、巨大な雲の塊を設置した雲子の姿があった。


「向こうで寝てな」


 すると彼女は雲の中から超巨大な氷塊が現れた。雲子はルシファーの体にピンポイントで当たるように、それを発射させる。


「ガァァァァァ!!」


 ルシファーに衝突した氷塊は、勢いそのままに天悠門の扉を破壊し、門の向こう側に彼女を無理やり押し込んでいく。

 彼女はひっきりなしに叫んでいた。


「アァァァ!! 私を無理やり押し込むかぁ! いいだろう! このまま天界に向かい、世界を荒廃させてやる!!」


「荒廃? 何言ってんのあんた。その門はとある巨大な広場に繋がっている。広場にはわっちがシャラに頼んで召集させておいた天界中の猛者がうじゃうじゃいる。今のあなたに逃げる余力は残っているのかしら?」


 雲子は淡々と言葉は発していく。ルシファーは反論する間もなく門の中へと吸い込まれていった。


 辺りが忽然と静まり返る。私は仁王立ちをしている雲子の元へと歩きだした。


「く、雲子……終わった……の?」


 歩きながら私は問う。彼女は優しく微笑みながら答えた。


「えぇ、終わったわ。安心して」


 その言葉を聞いた時、張り詰めた糸が切れ、疲れが重くのしかかってくるのを感じた。

 思わず私は膝をつく。すると、シャラが服装を整えながら隣に来た。


「ようやく終わりましたね。サリナ様はこの後どうされますか?」


「え? どうするって言われても……普段通りの生活に戻るとしか……」


「……なるほど。では、一つ提案があるのですが」


 シャラはそう言うと、雲子の顔を視る。彼女が首を縦に振ったのを確認したシャラは、提案の内容を話し始める。


「このまま門をくぐって天界に行くというのはどうでしょうか」


「!?!?」


 私は固まった。いきなりどうしたというのだろう。なぜ天界に行くだなんて発想に至ったんだ?

 するとシャラは私の目を見つめてきた。


「あなたはこの先、天界の血のせいで普通の生活を送ることが困難になるでしょう。なら、もう私達の世界に来て保護してもらう。その方が何かと安全だと判断したのです」


「……」


 私は考え込んだ。この提案、私にはメリットしかない。別にこんな世界に未練なんかないし、やりたいこともない。親だって全然帰ってこないし同級生からは苛められるし。


 ならいっそのことさ……。


「……わかった。行くわ。天界に」


「……本当に良いのですね?」


 シャラと雲子が真剣な眼差しを向けていた。その環境下で私はゆっくりと首を縦に振る。


「えぇ。もう覚悟はできたわ」


「……そうですか。わかりました」


 シャラは私を一瞬にして抱きかかえると、能力を使って門のすぐ傍にまで移動する。

 雲子は何やら呪文のような言葉を唱えると、3回拍手をする。


 すると、門が黄金色に輝きだした。


 雲子が私を視てきた。


「じゃ、行きましょうか」


 そうして私達は光り輝く門をくぐっていった。

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