革命編

第46話 意味

 裏切られた時、私はどう行動するだろうか。預けた財布をネコババされたり、片思いしていた相手が突然私を殺しにきたり……その時私は何を思い、何を為すだろうか。

 時代は絶えずうねり続けるように、人間関係もまた渦巻き続ける。

 もし、渦中に流されていく船には乗らず、逆に皆の拠点となる港を造ることができたなら、きっとその人は英雄として崇められるだろう。


 語り継がれるかどうかは別として。


ーーーーーーーーーーーーー


 ………… …………

 ………… …………


 5畳ほどの誰もいない部屋でただ一人、何も考えられずにうずくまっていた。


 盛大に粉砕された窓。床中に散らばるガラスの欠片。朝五時を告げる時計。シャラに飛ばされた後のこの間、私は一睡もしていない。


 やる気なんて湧いてこなかった。挑む勇気なんて潰れていった。涙も出し切ってしまった。腫れて痛む目が現実をひしひしと伝えてくる。


 ……どうしたらいいんだろう……私……。


 そんな言葉ばかりが思い浮かんでくる。あの場で何もできなかった自分に対して怒りさえこみ上げてくる。


「雲……子……」


 掠れきった声が口から漏れ出る。その時だった。視界に一瞬だけ手が光ったのが見えたのだ。


 幻覚かと思った私は、確かめるために両手を顔面の前まで持ってくる。すると手は淡い光を小さく灯し始めた。

 灯はだんだんと輝きを増していき、遂には部屋一帯を神々しく照らした。


「……何よ……今更……」


 そう呟いた時、一つの言葉が脳裏をよぎった。


「サリナ様! お逃げください! そして、これまでのことを思い出して萌してください!!」


 気が付けば私は部屋の扉を開けていた。私の身体は勝手に2階から玄関へと移動していく。

 まるで紐で引っ張られているかのような感覚だった。


 状況が上手く呑み込めなかった。


「ちょ、勝手に動かないで! どうせ行っても勝てっこない! それに、私にとってあの人達……は……」


 仕事で誰もいない家に独り言が空を踊る。

 私にとって彼女達は何なのか。自分で叫んでおきながら私はふと立ち止まって考えた。


 雲子とシャラ。彼女らは私にとって何なのだろうか。年上? 仕事仲間? 仕事を押し付けてくる厄介人?

 いや違う。

 どんな形であれ新しい居場所をくれた恩人達だ。内容がブラックだろうがホワイトだろうが関係ない。

 多少のいざこざはあったが、それでも最終的には互いを認め合うことができた。この家に飛ばしたのだって、私を守るためだ。自分の身なんて考えずに。


 途端に私の中から羞恥心と憤りが湧いてきた。同時に、おぼつかなかった足取りもしっかりとした韻を踏むようになっていく。


 私は光り輝く手でドアを開けた。扉の向こうには数本の電線と木造の一軒家が並んでいる。頭上には、暗くてもわかるほどの厚い曇天が広がっていた。


 その時、勝手に両手が目一杯広がる。

 少しばかり混乱した。だがしかし、それよりも早く口が自然と動いていた。


「皓然と羽搏け。創乱!!」


 これまでとは比べ物にならない光が視界全体を包み込む。光が収まった後、私が両手に掴んでいたのはゴルフのドライバーだった。


 私は理解した。雲子と初めて会った頃、彼女が創乱の説明時に放った言葉の本当の意味を。

 創乱で創れる限界サイズは両手の平ではなく、両腕サイズなのだと。


 私は、具合の悪そうな夜空を見上げた。体には若干の風が吹きつけており、ちょっとばかしの小雨がまばらに視える。

 私は学校に向けて歩き始めた。死ぬ想像なんて欠片もしなかった。死んだら死んだでどうでもいいという感覚に陥っていた。


 そして、感覚がぶっ壊れた状態で私は戦場へと向かった。

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