第36話 雲鉄砲
私は左手で近くにあったギターのネックを持つと、抱えながらクラの神の元へ歩いていく。
なぜ重いこれを簡単に携えることができたのか。理由はわからない。だけど、体の底から不思議な力が湧き出てくるのはわかっていた。
手を伸ばせば届きそうなところまで近づいた時、彼女は美声を響かせ始めた。私はすかさずギターを顔面に向けて降り下ろす。
「この程度、何の問題もありませんわ。幾重の調べ!!」
ボディが彼女の頭部に当たるか当たらないかの瀬戸際に到達した直後、突然目の前に8分音符が現れるとギターとそれが激しくぶつかり合った。
一瞬脳内に地獄の風景が思い浮かんだ。幸い、その景色が正夢になることはなかったが、代わりに眼前でギターが潰れた林檎のように爆裂した。
「サリナ様!!」
途端、それの残骸が欠片も残さずすべてシャラの方へ吸い込まれていった。
2人はどうやら私の支援に回ってくれているようだ。さっきから神を攻撃する素振りを一切みせない。
一見丸投げのように思えるかもしれないが、今回ばかりは違う。いくら私でも彼女達の目を視ればどれほど本気なのか伝わってくる。
どういった判断で現在の状況を創ったのかは知らないけど、後方から矛先のわからない執念と信頼を感じる。
「おりゃぁぁぁ!!」
私は残ったネックを使って彼女の心臓目掛けて刺突していく。がしかし、それはあと少しで当たるという所で止まってしまった。
力を緩めたわけでもないし怖気づいたわけでもない。なのに動かなくなった。
唐突な出来事に驚きを隠せないでいると、彼女が口角を上げた。
「馬鹿め。馬鹿めですわ! あなたは絶対に僕に触れることはできない。今のままではねぇ!! お~ほっほっほっほっほ!!」
彼女は大口を開いて嗤い始めた。見ていると胸糞悪さが鰻登りに増幅していき、どんどんと頭に血が上っていく。
その時視界に入ったのは、私の攻撃を宙に分散させている具象化した音波の姿があった。
直後に理解した。これは、さっき弾け飛んだ奴の8分音符が分解されてここにいるのだと。それが壁状に積みあがって自分の突きを防いでいるのだということを。
次の瞬間、私の左腕が空を踊った。ギターは完全に粉々になり、私のほぼすべての体部が明後日の方向を差している。
だけど、右手だけは違った。
「挟死なさい。冥界を視る暇も与えませんわ!」
クラの神は両拳で頭蓋骨を破壊しようと仕掛けてきた。
私は吹き飛ばされかけていると言ってもよい姿勢である。だからこそなのか、好機だと思った。
気が付けば、咄嗟に水鉄砲を彼女の口の中に入れこんでいた。タンク内には大量の雲が詰め込まれていた。
「ファガ!」
彼女は爆笑していたのでいとも簡単にこれを押し込むことができた。
私はぽつりと一言呟く。
「神も堕ちれば塵と化す」
途端に引き金を引くと雲が線状になって喉の奥へと潜っていった。
私は水鉄砲と反作用を使って後方に退いていく。
「さっき雲子と話してた時にいれてもらったのよ!」
私はそう叫びながら床に墜落した。痛みが全身を駆け巡っていく。
少し経ってゆっくりと頭を上げると奴は首を掴んで苦し泣きをしていた。彼女の手は酷く腫れている。
「ゲフォ! ハガッ! い、息が……」
私はゆっくりと体を起き上がらせると、額を人差し指で押さえながら彼女を睨む。
「あなたをいくら眺めても御紋は見つからなかった。もちろん服で隠れている部分も。だからもう内側しかありえない。そう踏んだの。雲子、お願い!!」
「了解!」
すると雲子は右手を天に掲げると力強く握りしめる。次の瞬間、クラの神の肺を中心に
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