第31話 仲直り
高校に入って最初の頃はとても充実していた。放課後は全員で近くにある海辺に行ったり、休みの日はカラオケで一緒に歌ったりなんかした。
でも、半年が過ぎた辺りから私と彼女らの間に変な壁が築かれ始め、年が明けるとそれは強固な障害物となっていた。
こんなことになった理由はわからない。私が何か致命的なやらかしを犯したというような心当たりはないし、当の本人達にわけを聞こうとしても近寄っただけで避けられるし。
そんな状況が長く続いた結果、彼女らと再び仲良くなるのは不可能となった。いわゆる詰みである。
加えて、私に対する実質的ないじめが起きるようになった。この学校ではいじめが判明した場合処分は最低でも停学なため、大それたことはしてこなかった。
その代わり、先生が居ない時に地味だが精神にくるような行為をほぼ毎日やられた。
私の心はストレスによって蝕まれていき、最近ではご飯を食べる量が少しずつ減ってきている。体重も同様だ。
何度も考えた。先生に告発することを。でも、あいつらは足跡を一切残さない動き方をしていたから結局言えずじまいとなってしまった。
そんな学校生活を送っているのに私は不思議でしょうがなかった。心の奥底では生きたいと唸っていることに。
次の瞬間、突然目の前が真っ白に輝いた。私は勢いよく瞼を閉じる。直後、前方から落雷のような轟音が耳を超特急で貫いていった。
光も収まり、ゆっくりと瞳を開くと、眼前に電気を吸収しながら宙を漂う小さな雲があった。
「これ……は……?」
私が絶句していると、隣からシャラさんの声が聞こえてきた。
「それは上司のものですよ」
「シャラの
突如として後方から女性の声が響いてきた。咄嗟に私は振り返ったが、そこには誰もいなかった。
「あれ?」
「どこ視てんのよ。こっち!!」
全身の肌をすいばりで刺すかのような音波を感じた時、私は頭を上の方に向けた。するとそこには曇装状態で空中に浮いている雲子の姿があった。
「雲子?!」
「そうだともわっちだよ。喜べ喜べ!」
雲子はドヤ顔で佇んでいる。それを視たシャラはすかさず彼女に喝を入れる。
「駄目ですよ上司。あなたは関係を悪化させるためにここへ来たんですか?」
「あ、すみません。それとあれの攻撃の速度を落としてくれてありがとう」
シャラのドスの効いた言葉を聞いた雲子は、曇装のまま静かに私の顔の高さまで降りてきた。
私は彼女をじっと見詰める。雲子は気まずそうな面相をしていた。
「……えっとぉサリナ。この前はその……」
「待って雲子。今はそれよりもあいつを倒さなくちゃ!」
私の発言に彼女は少し驚いた様子でこちらを視てきた。
「ん? 残り香ならもう処理してあるよ。よく視てみ」
「え?!」
私はすぐさまマナの方を向く。そこには、細長くなった雷を纏う雲に脇腹を貫かれた彼女の姿があった。
「ガ……こんな……筈じゃ……なかっ……たの……に」
あまりにも唐突な展開に、私は飛び出した目を元に戻すことができなかった。
私が絶句していたせいで、ちょっとの時間空気が沈黙で埋め尽くされていた。
何とも言えない状況が続き、場が歪になっていた頃。建物と建物の境目から暖かい夕陽が差し込んできた。濁った空間が包み込むかのような光で徐々に洗浄されていく。
ふと私はシャラを視る。それに気づいたシャラは、直後に両手を叩いた。突然の炸裂音に、雲子は一瞬肩をビクつかせると勢いよくシャラの方に体を向けた。
「いきなり何するのよ! びっくりしたじゃない!」
「上司。文句を言うのは構いませんが、それよりも先にやることがあるのでは?」
「ヴッ……その通りね。その通りだわ」
すると雲子はゆっくりと私と目を合わせてきた。
「その……この前はごめんなさい。あの時は無茶苦茶な命令を受けてムキになってた。本当にごめんなさい」
彼女は頭を下げてきた。雲子の言葉を聞いた私は、雲子と同じように頭を下げた。
「私の方こそ酷い物言いをしてごめんなさい。あなたに、私の中で溜まっていたものをそのままぶつけてしまった……本当にごめんなさい」
私は地面を見つめたまま動かないでいた。重苦しい雰囲気が宙を漂い始める。そんな時、隣から再び手を鳴らす音が聞こえてきた。
「はい。お2人とも無事に謝り合うことができましたね。これで仲直りということでよろしいでしょうか?」
「えっと……そうなるね」
「そうなりますね」
雲子と私は小さな声で返答した。
「でしたら、このような空気は吹き飛ばして明るいムードで行きましょう。兎にも角にも、これで私の仕事が一つ減ったわけです」
「え、それってどういうことですか?!」
不意を突かれた発言に、私は思わず声を張り上げる。
「実はですね。先程サリナ様にお伝えしたここに来た目的にはまだ続きがあったのですよ。とある方との約束で言えませんでしたけどね」
「こらぁ! 内緒にするって話だったでしょそれぇ! 止めてよ恥ずかしい!!」
そう言って雲子はそっぽを向いた。シャラは、はぶてる彼女を視て思わず笑みを零す。
「フフフ。それにしても上司がここに来ているとは考えもしませんでしたよ。気配を察知した瞬間驚きましたよ」
「うっさい! わっちにだって人の情はあるっての!!」
雲子は私達に背を向けながら叫んだ。
「雲子……」
私は知らず知らずのうちに小さな言葉を吐いていた。それはきっと、束の間に感じた安堵から来たものだと思う。
自分でもよくわからない不思議な気分だったけど、2人の姿を視ていると次第にそれは確信へと変わっていった。
太陽がさよならと手を振る頃、私の視界には希望が広がっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます