第29話 古書と伝承
「ア、ガッ……い、嫌だ。悔しい……敗けたくない……消えたくない……!!」
電気の神はそう呟きながらどんどんと萎れていった。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
私は荒ぶる息を整えながら小さくなっていく彼を注視する。過程をすべて見届けた後、私は目線をシャラの方へと向けた。
彼女はまばたきを一つすると、私目掛けて歩き始めた。進む度にガラスの砕ける音が辺りに響く。
一瞬顔を別の角度に逸らした時、近くから大きな物音がした。高速で首をそっちに向けると、派手にすっころんで地面と挨拶を交わしているシャラがいた。
「痛たた……また転んじゃった」
頭を掻いて困ったと言わんばかりの表情をしながら私を視てきた。
……そこでもうちぃと床とレスリングでもしてればいいのに。
シャラのその姿に可愛いと思う感情と怒りの感情が同時に沸き起こり、渋茶を飲んだ後のような気分が私の中で渦巻いていた。
ひとときの間気まずい雰囲気が宙を漂っていた。そして、突然何かを悟ったような面相をしたシャラは、頬を赤らめると物凄い勢いで立ち上がって私の眼前まで詰め寄ってきた。
「@*#$%&!!!」
「わ、ちょ、落ち着いてください。どうしたんですか急にぃ」
「!!! ……し、失礼致しました。私としたことが意味のわからないことをしてしまいました……」
……それに関してはさっきの戦闘からずっとなのでは?
私は大量に思い浮かんだ疑問を一気にぶつけようと試みたが、それよりも速くシャラの言葉が私の未来を妨げた。
「それよりも、対象の特性をよく見抜くことができましたね。更には教えていない最後の基礎、先を想像する力も実践することができている。文句なしの出来です」
シャラはなぜか満足気な表情をしていた。逆に私の脳内は負の心で造られた船の淦に浸っていた。
そして私は口を開いていく。
「褒められるのはいいのですがそれよりも! いきなり私とバトンタッチするとかおかしいでしょ! せめて合図をください合図を!!」
「も、申し訳ありません! つい集中してしまって周りを視るのを忘れていました」
そう言って彼女は数歩退くと、深々と頭を下げた。
シャラって……そういうタイプだったの? 突然すぎて脳が追い付かないんですけど。
彼女はゆっくりと面を上げると、今度は真剣な声色を発し始めた。
「それにしても、彼の言い分には不可解な点が多かったですね。気がついたらここにいたというところが特に」
「ねぇそれってあなたが言っていたルシファーって奴の能力じゃないの? 怪物なんでしょ? そいつ」
「確かに奴は怪物です。ただ、それだけで決めつけるのはまだ早いです。私達天界人の寿命はあなた方よりも少し長いだけで大した差はありません。ですから、ルシファーに関する情報は古書や伝承にしか残っていません」
「え……てことは要するに、ルシファーの情報はほとんど残ってないってことですよね?」
「そうなりますね。わかっていることといえば、性別が女だとか3000年間監獄に幽閉されていたとかしかないですね」
それってだいぶマズいのでは? 相手の情報がほとんどない状態ってこっちが圧倒的に不利だよ? どうすんのよ、これ。
「サリナ様。いつまでもここに長居する理由はございませんので別の場所に移動しましょう」
「え、えぇ。そうね」
シャラはそう言うと、廊下の奥の方へと進み始めた。私もそれに付いて行こうとしたその時、破壊されて原型が無くなった窓跡の外側に雷が落ちた。
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