第28話 怒り
「!!!」
奴の赤い拳を視た瞬間、本能的に体を一気に後ろへと退いた。私が教室の中央部地点に到達した直後、前方すべての机や椅子が粉々になった。
あまりのけたたましさに、私の鼓膜は悲鳴を上げる。
「アァァァァァ!!!」
私は絶叫しながらも足を止めることなく走っていく。
「これが俺様のレイボルトだ!! 砕け散れぇぇ!!」
彼は纏う電気の量をより一層増大させながら追いかけてきた。私はその時、破壊されて跡形もなくなっていた窓辺を潜り抜けようとしていた。
奴は攻撃をしながら光速で向かってくる。
「俺様に傷を負わせたこと後悔させてやる!!」
「いやあれ怪我のうちに入んないでしょうがぁぁ!!!」
直後、瞬速の赤雷が私目掛けて振り抜かれた。その常人離れした一閃は直に当たりはしなかったものの、踵部分にマッチを点ける時のような音を立てて通り過ぎていった。
だが、それだけのことだったにも関わらず、まばたきひとつする間もなく激痛が全身を駆け巡った。
私は該当部を押さえつけながら飛び越えた時の勢いそのままに廊下を悶え滑っていった。
「ファラガァァァシャァァァ!!!」
い、痛い! 溶岩の中に体を突っ込んだかのようだ! 掠っただけでこれって……反則だろうが!!
で、でも、考えは間違ってなかったし、逃げ回っていた時に左太ももに御紋があるのがわかった。なんとかしてあそこを攻撃しないと!
転がりが止まり、どうにかして立ち上がろうと右手を地面に叩きつけた瞬間だった。
「どうだ、苦しかろう!! 青臭い若造がぁ!!!」
奥の方から奴の怒鳴り声が聞こえてきた。耳にかつてないほどのストレスが圧し掛かってくる。
彼との距離は普通に歩いたら数秒程かかるぐらいの間隔であった。だけど、奴にとってそれはあってないようなもの。ちょっと動いたら届いてしまう。
私は辛苦を堪えながらゆっくりと立ち上がる。
「あなたの方が青臭いのでは? 神の癖に私相手に難渋してるじゃないですかぁえぇ?!」
「ッ!! うるさいぞクソッ垂れがぁ!! 下等種の分際がほざきよってぇぇ!!!」
彼の顔は深い紅に染まり、纏う赤雷の度合いも一層増していく。
目にはひどく悪く、失明してしまうんじゃないのかと思うほどの発光である。このままでは瞼が開かなくなり、肌が変色し始めるかもしれない。
でも、時間を稼ぐことはできている。
私は態勢を整えながらもただひたすらに煽り続ける。
「こらこら。いくら真実を言われたからって話を逸らそうとするのは良くないんじゃないのかな?」
「黙れアホンダラがぁぁぁ!!!」
とうとう抱えきれなくなったのか、斑な電気が暴走車のようにそこら中を駆け巡っていく。
蛍光灯や視界に映るすべての窓は割れていき、破片達が宙を舞う。その一部は私の皮膚を次々と切り裂いていく。
所々から血が滴り、徐々に床へと通じる一本の川を形成した。地面には自毛がちらほら落ちていて、その下には数えきれないほどの残骸が散らばっていた。
「許さん、許さんぞォォォ!!!」
未だに奴は吠えている。私は拳を握りしめ、袋が破けるほどに唇を嚙んでいる。そして、シャラは部屋越しに戦況を傍観していた。
私は、電気の神が怒号を放っている隙に両手の平の側面を合わせ、早口で唱える。
「鳴り足掻く孤独の襲雷。たっとして受け止めんとす。創乱!!」
目の前が黄金色に輝きだす。そこに現れたのは煉瓦のような鉄塊だった。
「ナッ!」
突然の重さに思わず体が前のめりになる。直後、膨大な殺気を感じ、目を廊下の奥の方に向ける。そこにはこちらを睨む彼の姿があった。
「撲滅だ……くたばりやがれ!!」
その時、視界から彼が消え失せた。次の瞬間、本能的に私は鉄塊を前方に放り投げた。
すると気がつけば奴はそこに張り付いていた。同時に、私は床から大きめの窓の破片を拾うと、標的目掛けて腕を振り抜く。
「ハ!! 馬鹿め。そんなへなちょこが俺様に当たるわけねぇだろうが!!」
奴は鉄塊を足場にして慣性の向きを変えた。がしかし。
「んなことたぁ百も承知よ!!」
それを視た私は手首を捻って角度を曲げながら破片を振り下ろしていく。そして、私の攻撃は見事に彼の左太ももに深く突き刺さった。
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