第26話 先生
一瞬、部屋中が光で包まれていく。私は思わずしゃがみ込む。
「キャァ!!」
「サリナ様。そのままでいてください」
シャラは電気の神に向かって歩き出した。彼女は物怖じするどころか進む度に雰囲気に重みが増していく。
「シャ、シャラ!! 危ない!!」
やられる! 死への恐怖からなのか不意にそう思った私の手は気がついたらシャラの方へと伸びていた。
一方で彼女は冷静の源泉となっていた。
「いいですかサリナ様。あなたはおそらく上司から何も教わらずにここまで来たかと思います。しかし、これから先のことを考えるとその状態はあまりにも危険です。ですから、今から私が戦いの基礎を伝授いたします」
「え? あの、急に言われても」
唐突な言葉に慌てふためいている私だったが、シャラはお構いなしに話を続けていく。
「今日は基礎を3つほどお教えします。早速ですが一つ目です。それは、相手から目を離さないこと」
「ごちゃごちゃうるせぇ!! 心臓を抉り取ってやる!! 俺様は最強なんだよ!!」
向こう側で怒鳴り声が聞こえたと思った次の瞬間、なんと彼はシャラの目の前にいた。
奴は電気を拳に集中させて殴り掛かった。
「ラグヂャワシャァァァ!! 焦げ死にやがれぇぇ!!」
「あぁぁぁぁ!!!」
私は反射的に叫んでしまった。だって彼女の顔の零距離に無への誘いがあったのだから。
「静粛にお願いします。
かと思った直後、彼はいつの間にか地面に体がめり込んでいた。床は音を立てて凹んでいき、彼の視線の先にはシャラの口だけの笑みがあった。
「て、てめぇ……!!」
「フフフ。サリナ様。これが基礎一つ目でございます。対象から眼を離さなければ今のような芸当が可能となります」
「あ、はい、了解です」
いや、あれってどう視ても神業だよねぇ。あれやれっていうの? 無茶苦茶だよおいぃ。
私が絶句していると、彼は間隙のない罵倒を吐き始めた。
「解きやがれごらぁ!! 俺様はさっさと勝利で終わらせてぇんだよ!! せこい真似なんざせずに正々堂々かかってこいやぁ!!」
「本当にうるさいですねぇ。まぁいいでしょう。あなたがそこまで早く決着をつけたがっているのなら私の質問にお答えいただきましょう」
シャラは咳払いをひとつした。
「あなたはなぜ現界に降りてきたのですか? 戦いなら天界で充分ではないですか」
「知らねぇよ!! 俺様が知りたいわ!! 俺様はなぁ、気がついたらお前らに喧嘩売ってたんだよ!! 最後の記憶は突然現れた変なやつに、”天界で最も速い奴が現界にいる”って言われたところで途切れている。それ以降のことは何も知らん!!」
彼は顔を地面にめり込ませながら言った。シャラは両手を体の前で組み、奴を細い目で見降ろしていた。
「……本当ですか?」
「あぁ本当だ! 俺様の神の称号に誓う!!」
彼は目を充血させながら言った。
「……その気迫。どうやら真のようですね。いいでしょう。信じることにします。ですが……無許可で現界に降りたことに変わりはありません。よって罰を与えます」
するとシャラは斥力を更に強めた。床の木が割れる音がしだす。
奴は顔を上に向けることさえできなくなっていた。
「フゴォォォォォ!! 勝ち誇ってんじゃないぞこのアホダレがぁぁぁ!!!」
すると次の瞬間、彼の体が電気で包まれると池の水面が揺れるように横滑りしながらシャラの束縛から抜け出した。
奴が潰されていた場所は蹴りか何かによって原型を無くしかけていた。
「ラグヂャワシャァァァ!! もう誰も俺様のことを止められねぇぞ。完全にキレた!!」
そう叫ぶと、奴は突如として赤い電気を身に纏いだした。窓から入ってくる夕陽と相まって部屋中が朱色に包まれていく。
鹿
「今度は何よ! 自分の血でも使ってるわけぇ?!!」
私はさっきから体を小刻みに震えさせてばかりで、シャラの援護なんかまともにできていないでいた。
そんな生まれたての鹿状態の私に向かってシャラさんは少し大きめの声で話しかけてきた。
「サリナ様。お次は、瞬時に対象の特性を見抜く。ということです。これができるのようになれば、格上相手にもそれなりの戦いに持ち込むことが可能となります」
私は彼女の言葉を聞いて目を飛び出させた。
ここで言うか?????!!
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