第24話 ギャップとラップ

「以上になります」


 シャラはそう言うと美しい顔をこちらに向けてきた。私は、彼女の真珠のような眼を視つめる。


「……だいたい理解しました。雲子が一応すごい奴で、5人の神を連れ戻す任務と、ルシファーっていう何かヤバい奴を倒すためにここに来たっていうことを。何て表現していいのかしら……複雑だわ……」


「心中お察しします。ただ、あの方を真っ向から否定することだけはどうかお止めください。確かにあの人は面倒くさがり屋でいい加減な態度しか取りませんが、やる時はきちんとやる御方です。不器用なところもありますが、どうか……どうか……彼女の傍に居ていただけないでしょうか……ッ!!」


 シャラは次の瞬間、常人離れした速度で最敬礼をしてきた。私は大慌てで手を振る。


「か、顔を上げてください!! 別に彼女を真っ向から嫌いになったわけではありませんし、今の話を聞いて思うところもありました。仲直りしたいとも思っています」


「ほ、本当ですか?!」


 彼女は最敬礼から直立の恰好に戻ると、涙目になりかけていた顔でこちらを視ていた。


 可愛いんだっていちいち。


 私は彼女の言葉に目を少し泳がせながら返答した。


「本当です。ただ、仲直りしようにも肝心の雲子がいないんですよ。彼女が今寝泊まりしてるプールの管理室に行ってももぬけの殻だし…」


 私が少しくらい声で話すと、彼女は安心した顔をしながら言葉を発した。


「それならば心配はいらないと思います。おそらく、上司もあなたとよりを戻したいと考えていらっしゃるはずです。姿を現さないのはきっと自分のプライドがそれを阻害しているのではないでしょうか。私が悪いのにあっちから謝ってくるのはおかしい。だからといってこっちから謝るためだけに行くのもなんか嫌だ。とでも考えているのだと思います」


「な、なるほど……そんな気がしてきました。それと、雲子もシャラもいなくなった天界守護組は大丈夫なんですか? 色々とやらかしていますが」


「心配には及びません。きぃぃぃぃぃっちりと、教育は施してきましたので」


 彼女は満面の笑顔で答えた。それも微妙に高い声を出しながら。私は、何となく組員がどんなことをされたのかが想像できた。きっと、夢に出てきたら一生寝られないほどのものなのだろう。


 ……これが雲子の右腕的ポジションの人。恐ろしや恐ろしや。


 穏やかそうに視える者ほど怒らせたら怖いということを学んだ私は、ちぃと汗ばんでいた両手を軽く握りしめた。


「そ、そうですか……というかもしかしてシャラさんなら」


「シャラさんではありません。シャラです」


「あ、すみません」


 この人そういうところ気にするタイプだったかぁ……マズいしくじった。


「シャラなら雲子の現在地わかったりします?」


「えぇもちろんです。ただ、彼女を探し出す前に先約が入ってしまったようです」


「え? それってどういう……」


 私がそれを言った直後、教室の天井に張り付いている蛍光灯がいきなり不規則に光りだした。

 部屋は明るくなったり暗くなったりを繰り返していき、しばらくすると落ち着きを取り戻した。

 が、代わりに教卓の上では知らない人が座ってラップ調で叫んでいた。


「おうおうおうおう俺様が直々に来てやったぜ!! さっさと殺り合おうぜ決着つくまで!!」


 私はそいつを視界に入れた時、深呼吸をした後目を細めた。


 また変なのが来たぁ……。

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