第23話 ルシファー
「それは本当か!!」
おっさんは顔を青ざめさせながら絶叫した。知らせを届けた男は静かに首を縦に振った。
シャラの組んでいた両手には一層力が入っていく。雲子は息遣いが荒くなり、唇は物凄い速さで波打ちを繰り返している。
雲子は声を震わせた。
「なぜあいつが今になって脱獄をしたんだ! やつが幽閉されたのは3000千年以上前のことだぞ!!」
「そ、それが、彼女を抑制していた
「ば、場所はどこだ!!」
「日本という国のY県I市にあるS高校です!!」
「ッ……」
雲子は絶句した。なにせ彼女自らが選抜した5人の精鋭集団である、空堅衆がいなくなった瞬間にこれである。
男の言葉を聞いた雲子とシャラは、組織のあまりの脆弱性に呆気に取られていた。同時に怒りも覚え、2人の脳内はてんやわんやになっていた。
ルシファー。それは、遥か昔において天界を滅ぼしかけた存在である。「理核」という、どんな願いも叶えてくれる物質を使って不老不死を手に入れた彼女は、全てを我がものとするために暴虐の限りを尽くした。
彼らは対ルシファー専門部隊である天界守護組を発足させると、命を賭した抵抗を開始した。戦いは昼夜問わず繰り広げられ、最終的に彼らの勝利に終わった。
敗北したルシファーはその後、特別な監獄に幽閉され、今の今まで暴れるといったことはしてこなかった。
そんな彼女が現界に降りた。つまりは世界の危機である。
両手を組んでしばらくの間考え込んでいたおっさんは、ゆっくりと眼を開けると、右肘をつきながら雲子を指差した。
「先程儂はお主に部下の尻拭いをせよと命じた。ここにルシファーを加える。生死は問わん。天界に連れ戻してこい。一応やつは儂らの問題じゃからな」
「いや、あのぉ……はぁ?! 行くって一言も言ってないんですけど!! 仮に行くとしても一人はさすがに無謀すぎますよ!!」
雲子はあまりの理不尽さに声を荒げた。そんな彼女の意見にシャラは静かに同意した。
シャラは足を一歩前に進めると、おっさんに意見を申し出る。
「天頭。ここだけは彼女の言う通りです。神達は何とかなったとしてもルシファーを一人では無茶です。私の記憶が確かなら、その高校には偉人の子孫がいるはずです。ここは、その者に血を与えて協力者になってもらうことを提言させていただきます」
シャラの言葉を聞いた後、おっさんは自分の顎を少し撫でるとおもむろに口を開いた。
「……確かにその通りだな。偉人の血筋を引いているという条件も満たしている。よし、その者に天界の血を渡すことを儂が許可しよう。では、あらかた準備が整ったようだからお前には直ちに現界に行ってもらう。連れて行け」
おっさんが号令をかけた直後、扉から顔を隠した人が複数名入ってきた。彼らは瞬きする間に雲子を担ぎ上げると、掛け声を合わせながら運搬し始めた。
「ちょ、何してんの!! 離しなさい!! 離しなさぁぁぁい!!!」
雲子はこれでもかと手の上で暴れまくった。だがしかし、下の者達はビクともしなかった。
暴れている途中、シャラを視界に入れた雲子は彼女に向かって叫んだ。
「シャラァァ助けてぇぇぇ!!!」
「総組隊長。守護組のことならご安心を。私がきっちりと引継ぎをしておきます。何も気にせず、思う存分任務を遂行してきてください。応援しています」
シャラはポケットから取り出したハンカチを振りながら彼女を見送っていた。それを聞いた雲子は、より一層声を荒げていった。
「お前ふざけるなよぉぉ!! 自分だけ
こうして彼女は、半ば強制的に現界に送り込まれたのであった。
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