第21話 太陽に照らされる亀

 天界のとある高級住宅街にある豪邸。それは、周囲にある建物とは一線を画す装飾と大きさで、権力の具現化とも言っていいほどのものであった。


 その建物の2階にある部屋の窓には、憎たらしいほどに輝いている朝日が響いていた。

 朝日が空間中を照らしていく中、ひとり日陰ですやすやと寝ている人物がいた。雲子である。

 彼女は、机の上でうつ伏せになって眠っていた。鳥の鳴き声が冴え渡り、太陽の温もりが彼女を包み込んでいく。


 陽の勢いが増し始めた頃、ゆっくりと部屋の扉が開いた。中に入ってきたのはシャラであった。

 シャラは雲子の姿を視ると、大きな溜め息をついた。そして彼女に近づくと耳元で叫んだ。


「起きてください!! もう陽が完全に顔を出していますよ!! 予定を1時間も超過しています!! 早く起きてください!!!」


 シャラが、豪邸中に響くほどの怒鳴り声を発すると、雲子が目をかきながら頭を上げてきた。


「ん……おっ、シャラじゃぁんおはよぉん」


 雲子は大きな欠伸をしながら言うと、椅子の背もたれに身を任せた。シャラはそんな彼女を視て、再びドデカい溜め息を漏らした。


「まぁた執務室で寝たんですか? 布団の上で寝てくださいっていう言葉をどれだけ言えばいいんですか」


 そう言いながら、シャラはごちゃごちゃになっている机の上を片付けていた。雲子は呆けた顔をしながら頭を掻いている。


「だって移動するのが面倒臭いんだもぉん。ここで電源を落とした方が無駄な労力を使わなくて済む。わっちは省エネを心掛けているだけだよぉ」


「屁理屈はいいですから早く支度をしてください。天頭あまがしらがご自宅でお待ちですよ」


「え~あのおっさんのところに行かないといけないのぉ? 嫌だよ~どうせ天界での犯罪率が増加傾向にあることをねちねちと問い詰めてくるんだろう? もう厭きたよ~。税金を懐に入れているあんた達が大きな要因のひとつだってのに、自分達の身が危なくなったら下の者を攻めるとかマジで人格が終わってるよねぇ」


「総組隊長。そこまでにしておいてください。聞かれでもしていたら面倒事になります」


「え~だって本当のことじゃぁん。ほんっと、今の政界終わってるわぁ」


「愚痴はその辺りにして、早急に出立の準備をなされてください。あちら側は大層なご立腹具合でしたよ」


「う~んそれはマズいねぇ。でも、どうせ遅刻するならわっちは目一杯遅刻するよ。急いで準備するのだって面倒臭いし、何より、もう事実は書き換えられないからね」


 雲子は明るい声でそう言うと、ウインクをしてその場を後にした。すでに机上を片付け終えていたシャラは、彼女が部屋を出ていったのを見届けると、机に少し寄りかかった。


「はぁ……聞かれたら大火傷では済まないようなことを淡々とおっしゃりますねあの人は。本当に天界守護組を取りまとめる重要な職に就いている人なのか、怪しくなるぐらい面倒臭がり屋の肩ですね……」


 シャラは顔を窓に向けて少しだけ太陽を見つめると、雲子の後に続いて執務室を出ていった。


 雲子が起床して数十分が過ぎた頃。ようやく一同は、天津纏頭あまつまとめがしらがいる邸宅に到着した。

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