第19話 溜まった思い
次の瞬間、ロボットの胴体が、私の頭上を高速で駆け抜けていった。後方で壁が壊れる音が響いてくる。
私の視界には、ロボットの首を掴んでいる雲子の姿があった。それと同時に、極光の空間が赤い世界へと変貌していった。
私の平衡感覚も戻り始めていた。
「ピピ、ピ……」
「おいしいだろう? わっちの蹴りわぁ。もう一発サービスしてあげるよ!!」
すると、雲子の額にさっきのが雲が集まり始めた。雲はどんどんと膨張していき、ついには自分の頭よりも大きくなってしまった。
雲の大きさがそれほどまでになった直後、雲子は大きく振りかぶった。ロボットはけたたましい音を鳴らしだす。
「ピピ、ピピピピピィィピピィィピィィィ!!!」
「そんなに欲しいのかいわっちの綿飴が。なに、焦らしはしないよ。こんな風にねぇ!」
彼女は、頭部に溜めたエネルギーを投石機のように一気に放出していく。
「雷曇砲!!!」
激しい稲妻が私の傍を駆け抜けていく。後方からは再び壁が壊れる音が響き、背中がじんわりと温かくなり始める。
私の視界は正常な状態に戻っていた。そこに映っていたのは、左耳に手をあてて独り言のようなことを喋っている雲子であった。
彼女はしばらくするとこちらに向かってきた。一方で私はその場に俯いていた。
「今天界に応援を要請したわ。一週間後ぐらいにわっちの部下が1人くるはずよ……? どうしたのよサリナ。俯いちゃって。お腹でも壊したの?」
彼女は呑気な口調で問いかけてきた。
私は心底むかついた。なぜあいつは平気な面をしていられるのか。急に神以外との戦闘が始まったかと思ったら何も聞かされないまま終わったし。怒りでどうにかなりそうだった。
言っては駄目だ。行動に移しては駄目だ。頭ではわかっていても肉体はわかっていなかった。
気づいた時には遅かった。
「……てんのよ」
「え? なに? 聞こえなかったんだけど」
「何でひとりで疑問符浮かべてひとりで解決してるのよ!! ふざけんじゃないわよ!!」
「サ、サリナ、突然どうしたのよぉ。そんなに声を荒げなくても聞こえてるってぇ。それに疑問符ならさっきあなたも……」
「黙らっしゃい!! 勝手に私を中に引っ張った挙句、変なロボットに攻撃されるようなこともされて……あなた私に死んでほしいの?!!!」
「ッ! そんなわけないでしょ!! 第一、恐怖で立ちすくんでいたサリナが動けるように手助けしてあげたのに何よその言い草わ!! 心外の極みよ!!」
「それはこっちの台詞よ!! いきなり私に仕事を押し付けてきた癖に協力の1つもせず、神に関わる情報なんてこれっぽっちも教えてくれない。私はいつ死ぬかわからない絶望の淵にいるのにあなたは余裕の笑みを浮かべさせながら上から目線。もううんざりなのよ私はぁ!!!」
「はぁ?!! こっちだってねぇ、永遠に続く激務に追われて気が滅入ってるのよ!! わっちだって苦労してるのよ!!」
「そんなのと一緒にしないで!! もういいわ。その面二度と視せないで。いいわね!!」
私は高速で後ろを向くと、勢いよく走り出した。走っている最中、背中越しに彼女の叫び声が聞こえたが、私は無視して走り続けた。
溜まっていたものをすべて吐き出せたような気がした。でも、怒りは吐き出されることなく胸中に留まっていた。
沈みかけていた太陽は、私の体を優しく包み込んでくれた。それでも、目と鼻から溢れ出てくる液体を蒸発させることはできなかった。
「アァァァァァァァァ!!!!!」
猛獣の如き叫びを上げながら、私は振り返ることなくその場を後にしていった。
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