第15話 曇りのち真剣

 視えてるものが総てじゃないだとか、目の前のことに全力を傾注して取り組めだとか言うけれど。皆テカテカに磨かれた綺麗ごとなんじゃないかと思っている。

 本当に重要なのは、誰が脳内でどのようなことを考えているのか。それを推し量ることなんじゃないのかな。


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 私達は、神の残り香が発生すると予測される地点まで歩いて向かっていた。


「ねぇサリナ。何でさっき顔が赤くなってたの?」


 道中、突然雲子がそんなことを聞いてきた。その時、体中から汗が滲み出てきた。


「い、いい今はどうでもいいでしょそれぇ!」


「いいや。これは気になるね。女のサガってやつだわ。たぶん」


「あなたって本当に女だったのね。とてもじゃないけど信じられないわ」


「ほほう。よほど殴打されたいようねぇ。どれ、ちょっと面ぁ貸せやぁ……」


 雲子は、拳をクラッキングしながら近づいてきた。私は慌てて場の空気を変えようと試みる。私は、すでに視界に入っていた目的地に注目した。


「そ、それより、どうして残り香の発生地点が演劇部の部室だって特定できたの? 私、何も知らないんだけど」


「あん? そういや言ってなかったわね。あれは簿記の神が事前に教えてくれていたのよ。神ってのはねぇ、それなりの経験を積むと、残り香が発生する前にあらかじめどこら辺で生まれるのかがわかるようになるのよ」


「へぇ~。忘れかけてたけど、あの人って一応神様だったわね。まぁいいや。早く部屋に入りましょ」


 私は職員室で借りてきた鍵を使って錠を解くと、扉を開けて部室の中に入っていく。

 中に入ると、部屋の中央に1人の女性が立っていた。彼女は私が敷居を跨ぐと、こちらに体を向けてきた。


「誰だよお前ら」


 開口一番に彼女はそう言ってきた。あいつの名は松岡。朽鎖の1つだ。ここでは名前ではなく、簿記の神様の残り香aと呼称することになる。

 aは少し間を置いた後、言葉を連ね始めた。


「誰かって言ってんの。言葉通じる? もしかしてチンパンジーの生まれ変わりですかぁ?」


 う~んウザい。心の底から怒りが噴いてくる。同時に、早く終わらせて帰りたいという思いも噴いてきた。

 すると、隣にいた雲子が口を開いた。


「やぁやぁ残り香よ。御託はいいからわっちの部下のサリナにやられなさい」


「ちょっと待って。私、あなたの下についた覚えは微塵もないんだけど。私、巻き込まれてるだけんですけど!」


「ジョークだよ。ジョーク。気にしない気にしない。とりあえず、残り香処理してきて~」


「あんたもやれやぁ!!」


 そう言いつつも、早急にこの場から離れたかった私は、aに向かって突撃していく。

 aは左人差し指を上に向けながらにやけてきた。


「はぁ……まさかチンパンジーの遥か上をゆく奇行をしてくるとはね。これは一発きついのをプレゼントしないといけ」


「うるさい黙れ!!」


 全速力で駆ける私は、勢いそのままにやつの顔面に拳を叩き込んでいく


「ドジョベァァァァァ!!!」


 aは部屋の奥まで吹き飛んでいった。壁に衝突し、しおれた藁人形のように床に倒れていく。


 彼女は動かなくなった。


 それを確認した私は、瞬時に体を雲子に向けて彼女を睨む。


「ふぅ……前回は大衆の眼があったから大胆なことはできなかったけど、今は話が違うわ。願わくば一生そこで寝ていなさい……さぁ雲子! 私は帰るわ。私は帰るわ!!」


 aが動かないのを確認した私は、瞬時に雲子の眼を睨む。


「何で二度も言うのよ~そんなに言わなくてもわかって……ごめんけどサリナ。まだ帰らないで」


「はぁ?! あんた何言って……ッ!!」


 頭おかしいんじゃないの?! と、言おうと思ったが、それはできなかった。理由はわからない。でも、過去一真剣な形相をしている彼女に気圧されたのはわかった。

 雲子はかつてないほどの尖った声を発した。


「近くから不気味な雰囲気を感じる。初めて感じたようにも思えるし、何度も感じたことのあるようにも思える。とても奇妙でおぞましい気配だ」


 そう言うと、彼女は足早と部屋の外へ出て行ってしまった。


「ど、どうしたのよ急にぃ! ちょ、待っ! ……もう!!」


 私は一瞬額に手をやると、雲子を追いかけるために部室を後にした。

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