簿記編
第11話 黒板と考査
古来より数多の国と地域で試験が実施されてきた。それは現代でも同様で、最たる例の1つである学校では、生徒達の成績を数字化あるはアルファベットに変換し、通知表なるものを作成している。
どうして先生達は、私達の学校生活を数字に表したぐらいですべてを解った気でいるのだろうか。
私の好きな食べ物さえ知らないくせに……。
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自販機の残り香を処理してから2週間が過ぎた。あの日、私は職員室で何時間も怒られた。何回も同じようなことを言われ続けたことは覚えているが、それ以外は覚えていない。
また、創乱の能力について悪い発見をした。それは、一度力を使うたびに私の身近にある物が消えていくということだ。
きっかけは、説教された後教室戻った時だった。黒板にはまだ授業の跡が残っており、電気はまだ切られていなかったが、人間は1人もいなかった。
だけど、机上で横になりながら手を振ってくる雲子の姿はあった。
「お疲れ~元気だった~?」
ぶん殴ってやろうかあの野郎ぉ。
そう思ったものの、体は疲れ果てていたのでツッコむのは止めて自分の机に戻った。鞄を開き、帰る準備の過程で筆箱を開いた時、私は叫んだ。
「あぁぁぁぁぁぁ!!!」
「何よもぉ相変わらずうるさいわねぇ」
「あなたには一番言われたくない! ……なんか消しゴムが一個無くなってるんですけど! どうして?!」
「何を騒いでるのかと思ったらそんなことか。どうせそこら辺にでも落としたんでしょ?」
「いいえ、絶対に落としてないわ。自信を持って言える」
「はぁ……そこまで言うなら創乱で創ればいいでしょぉ? めんどくさい」
「あんなランダム能力で出るわけないでしょうが!!」
「物は試しだよ。ほらほらやってみな」
雲子は吐き捨てるようにそう言った。憎たらしいことこの上なかったが、ここはやってみることにした。ランダムといっても、確率がゼロというわけではないからだ。
「ッ……擦りまわれ、創乱」
直後、両手が黄金色に輝きだした。輝きが消えると、そこには炭が現れた。
いらん!!
私は教室の窓を開けると、彼方目掛けて炭をぶん投げた。
「やっぱり出てこなかったじゃないのよぉ!」
「ドンマイドンマーイ」
彼女は、棒読みで言いながら空を眺めていた。
こいつだきゃぁ……。
「はぁ……」
諦めの溜息をついた私は、仕方なく帰宅の準備を再開した。だけど、また叫んだ。
「あぁぁぁぁ!!!」
「今度は何よ。鬱陶しいわねぇ」
「いやいやいや、シャーペンが無くなってるんですけど! さっき筆箱を視た時は確実にあったのに……まさか」
私は、雲子の顔を全力で睨んだ。彼女は、視線を外しながら少し考えていた。
「あぁ~たぶんそれ創乱のせいだよ。天界人が使う分には問題ないけど、あなた人間だから……そのせいで代償があるのよ。今のを視る限り、身近な物が1つずつ無くなるってところかな」
「はぁぁぁ?!! 何その傍迷惑なやつ!! 最悪!!!」
私は憎しみを思いの限り詰め込んで叫んだ。直後、突然教室の扉が開いた。私は瞬時に視線をそちらに移す。そこには、同じクラスの男子が立っていた。
「あれ、石川じゃん」
「白谷?」
彼の名は
少しだけナルシストっぽいところがあるものの、私が友人と思える数少ない人物である。
「偶然だねぇ、何してるんだい?」
彼は両腕を腰より高い位置で固定しながらこちらに近づいてきた。
「帰る準備だよ。そっちは?」
「俺は先生に頼まれていた黒板消しをしにきたのだよ」
「へぇ~ちゃんと頼まれたことできるんだねぇ」
「もちろん! だって俺はテンッサイだからね!!」
白谷は大声で両手を上げながら答えた。高音が響くせいで耳がキンキンする。
「テンサイと言う割には何で今消しに来たの? 帰りのショートホームルームの時にやればよかったのに。まさか、忘れてたけど突然思い出したから急いで戻ってきたくち?」
私は少し弄るような口調で言った。
「そそ、そんなわけないだろうぅ?! だって俺はテンッサイだからね!!」
そう言いながら彼は爆速で黒板を消すと、一瞬で教室を出ていった。
「あの反応は図星ね……」
私は誰にも聞こえないぐらいの声で呟くと、再度帰宅の準備を始めた。荷物整理をし始めて少し経った時、雲子が口を開いた。
「ねぇ。いくらなんでも遅くなぁい? さっきから入れちゃぁ出しちゃぁで、一体何をしてるのよあんたは。馬鹿なの?」
「馬鹿じゃない! 再来週にある考査に備えて家で勉強するの。今は持ち帰る物の選別をしてるのよ。やけくそに持って帰っても大変なだけだからね」
「へぇ~」
彼女は、疑いの目を向けてきた。気持ち悪い視線が肌を攻撃してくる。
「言っとくけど、嘘じゃないからね?! ちゃんと勉強するんだからね?!」
「ほんとかなぁ? わっちには部屋の隅で置きっぱにされる教材の未来が視えるんだけど」
「うっさいちゃんとやるわ!!」
私は鞄のファスナーを勢いよく閉めると、肩に担いで歩き出した。扉に向かっている間にも雲子の口は止まらない。いちいち構っていたらキリがないので私は聞き流しながら進んだ。
「無視はよくないぞサリナ~ブーブー」
扉の前に立った時、さすがに一言かましたくなった私は、後ろを振り返って雲子を指差す。
「いいからあんたは寝床に帰りなさい!!」
と言った後、体の向きを元に戻し左手で引手を掴むと、一気に扉を開けた。木の板が縦枠に激突する音が部屋中に響き渡る。
扉を開けた私は思わず氷像のように固まってしまった。後方からは、雲子の腑抜けた声が聞こえてくる。
なんと、目の前で変なおじさんが髭を弄っていたのだ。
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