第10話 回る光源

 私は、右手の中にあるLED懐中電灯の電源を入れる。


「まさかそれをぶつける気ぃ? 歪な視線が交差する傀儡共の前で?!」


 cは腹を抱えて笑っている。私は右手を握りしめながら睨んでいる。大衆は、吐き気のする目線を向けてくる。


 私は、覚悟を振り絞って口を開く。


「歪なのはあなたの方じゃないの? 臆病な自分を隠すために周りに毒をまき散らし続けるあなたが! どの面下げてもの言ってんのよ!!」


「な、何を言っているのかさっぱりだわ。第一、僕は臆病でも柔弱でもなんでもない! このならず者が!!」


 cは壁に寄りかかっていた体を起こし、こちらに近づいてきた。私も同時に一歩前へと体を進める。

 cは虚勢を張っていた。腕は少し震えているし、汗はそこら中に浮き出している。


 これで確信した。残り香の性格は、取り憑いたモノに酷似する。現に、取り憑かれているやつが抱いているコンプレックスを突いたら簡単に喰いついてきた。

 このまま突っ走る!!


「ほらビビった。そこよそこ! そこが臆病だって言ってんの。真実を提示されるとすぐに逃げようとする姑息な人間なのよ、あんたは!!」


「うるさいうるさいうるさぁぁぁい!! 粋がるなよブスが!! 今! あんたは悪側の人間だ! 一方で私は大衆を味方につけている! これは埋めようのない差だ。あまり図に乗るなよ!!」


 cは両手を広げ、喚き散らしながら少しずつこちらに近づいてくる。その姿に途轍もない威圧感があったが、私は構わず同じ数だけ足を進めていく。


「力を誇示し、自分可愛さに周囲を壊していく。私はあなたのそういうところが嫌いなの。あなたは最早一種の公害よ。質の悪い、言葉によるね!」


「その口を閉じろやボケぇぇぇ!! 人の皮被った畜生がぁぁぁ!!!」


 cは左腕を振り被ると、流れるように拳を飛ばしてくる。それを屈んで避けると、やつの顔面を睨みつけた。


「私はあんた達とのえにしを切ることを誓った。これは、その序章!!」


 懐中電灯を握りしめると、そのままcの脛目掛けてぶん投げていく。がしかし、やつはそれをジャンプして避けた。


「ドアホが! このぐらい予測してるわ! しくじったわね!!」


「いいや。しくじったのはあなたの方よ」


 直後、奥の方で甲高い音が鳴り響く。次の瞬間、投げた懐中電灯が壁に当たって跳ね返ってきた。

 それは、右回転しながらcの着地地点に戻っていく。


 cは、そのことに気が付いていない。彼女は、降下しながら喚く。


「何を世迷言をぉ!!」


 やつが叫ぶのと同時に懐中電灯が現場に到着した。cは着地の際にそれを踏むと、滑って体が宙に浮き、地面とほぼ垂直になった。


「ちょ、待!!」


「待たない」


 私は満面の笑みでそう答えると、cは重力に従って地面に墜落していき、白目を向いて倒れた。


 するとa、b、cの体から黄金色のもやが出てきた。靄は1つに結集すると、天高く昇っていく。


「終わっ……た……」


 精神的にきつかった。でも、何とか倒すことができた。やっとだよ……。


 心から安堵し、そのまま教室に戻ろうとした時、突然肩を掴まれた。後ろを振り返ってみると、額に青筋を立てた先生がいた。


「石川さん。これは一体どういうことかな?」


「いや、えっと、これは、その……」


 神の残り香を倒してました。何て言えないし通じるわけがない! どうする。この人は生徒指導の先生だ。きっと視ていた誰かが呼んだんだろうけど……なんて人を呼んだんだよ!! 捕まったら最後、数時間にも渡って説教し続けると言われているこいつをぉぉぉ!!


「詳しくは別所で聞かせてもらうよ。いいね?」


「……はい」


 先生は強い力で後方に引っ張ってきた。私はそれになす術なく従うことしかできなかった。


 何でこうなるのよぉぉぉぉぉ!!!!!

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