第9話 解らない

 高1の頃。自分達でいつメン(いつものメンバー)と呼ぶほどに仲がよかったグループがあった。

 グループは10人で構成されており、私はその内の1人だった。


 本当に私達は仲が良かった。学校帰りに海で遊んだり、休日にはカラオケなんかに行ったりもした。


 だが、所詮は高校生。時間が経過していく毎に話す機会は減っていき、ハロウィンが過ぎた辺りでグループラインが消滅した。

 グループラインが無くなったからと言って個々の繋がりが消えたわけではなかったが、私だけは違った。


 年が明けて2か月が経った頃。私は教室で少しだけ咳きこんでいた。前日まで風邪で寝込んでいたためだ。もちろん、喉飴を嘗めながらマスクをしている。

 そこで、元グループの人がどうしたのかと聞いてきた。私は、簡潔に理由わけを話した。その次の日からだ。皆が私を避け始めたのは。


 一週間ぐらいならまだわかる。風邪が移るかもしれないから避けるのは当然だ。だけど、その避けは今なお続いている。そう、今もだ。

 今も避け続けている理由はわからない。唯一連絡が取れるやつに聞いても、適当にあしらわれるだけで答えてくれなかった。

 もし私に否があったとしても、原因がわからないから改善のしようがない。足掻きが取れない状況だ。


 私は絶望した。私は失望した。私は、彼らを一生嫌厭することを決めた。


 そして現在。私の前には自分を除いた9人の内の3人がいる。先程負の言葉を並べたが、すべてがそうではない。もしかしたらという可能性を信じる心も、まだ残っている。


 だが、それもどんどんと薄れていきつつあった。


「ガバラバラバラバラァァ!!」


 汚い叫びを上げながら、bが腕を振り上げながらこちらに突進してきていた。aはbに続いて突進してくる。cは未だに静観を続けている。


 私は軽く構えた。雲子が言っていたことが本当なのなら、このぐらいで大丈夫だと踏んだからだ。

 何より、人が集まってきた。さっさと終わらしたい。


 恥ずいんだよぉぉ!!!


「薔薇に刺さってお陀仏なさい!!」


 bの拳が私の胴部目掛けて飛んでくる。それは、自販機の攻撃に比べれば月とすっぽんであった。

 遅すぎる。いや、私がおかしいのかもしれないが。


 私はbの拳を軽快に避けると、そのままこいつの水落みずおちに左ストレートを叩き込む。


「ガッ!!」


 左ストレートをまともに喰らったこいつは、白目を向きながらうつ伏せに倒れていった。


 雲子が言っていたことは本当だったんだ……てか、あいつ帰ってこない。逃げやがったなぁ……。

 後でぶっ叩く。


 とか思っていると、aが酷い形相で殴り掛かってきた。


「よくも、よくも俺のダーリンをぉぉぉ!!!」


「乗りとわかってても気持ち悪いんだよ!!」


 私は、今まで思っていたことを叫びながら顔面をぶん殴っていく。

 aは数メートル先まで吹っ飛び、白目を向きながら仰向けに倒れていった。


 それと時を同じくして、人がさらに集まってきた。何なら、半分以上の人が私を凝視している。


 これは……ひんじょうにマズい!!! は、早くcを倒して立ち去りたい!!!


 私は、息を荒くした状態でcの方向を視る。やつは、壁にもたれかかりながら溜息を吐いていた。


「やっと環境が整ったか。僕はこれを待っていたのよ。この青瓢箪あおびょうたんが」


 額に青筋が浮かんだ感覚がした。cは、おっとりとした性格とは裏腹にかなりの毒舌だ。人を傷つけるような言葉なんて平気で言ってくる。

 近くで聞いていた時ですら胸糞悪かったのに、直に聞くと度を超えた怒りが湧いてくるわ。


 このまま殴り掛かってもいい。でも、周りに人が居すぎてできない。今この場にいる私とcは、一般人から見たらただ単に人間が2人いるだけの状況。ここで殴ったら私が大目玉を喰らうだけになる。


 あいつぅ……!


 私はcを睨みつける。やつは、わざとらしい声で言葉を発した。


「あれぇ? 攻撃してこないのぉ? あの2人みたいに殴らないのぉ? ねぇねぇどうなの丸坊主君~」


 最後の辺りなんかは大声に近かった。そのせいでより一層私を凝視する目が増えていく。


 本当にマズい。私の未来が無くなってしまう! どうしたら……どうしたら……!! 創乱だわ!!


 私はとっさに両手をくっ付けると、限りなく零に近い声で呟く。


「群れから逸れた流浪の狼。強靭な牙を以って反逆せよ。創乱!」


 私の両手が輝きだす。輝きの後に現れたのはLED懐中電灯であった。


 はぁぁぁ!! なんで懐中電灯なのよ!! 目潰しにも使えないわ!! ほんっとにポンコツ能力ねこれぇ!


 とか思っていると、cが私を嘲笑てきた。


「ギラファガガァァァァァ!! 何よそれぇ! ゴミクズじゃなぁい。あんたと一緒でぇ。さすが脳内スッカスカ娘。やることなすこと予測不可能だわぁ」


 あいつは呼吸をするように毒舌を吐いてくる。正直、限界点はとうの昔に突き破っていた。でも、我慢することができていた。おそらく、まだ創乱という心の拠り所があったからだと思う。

 でも今はそれがない。時間と周囲の状況を考慮すると、これ以上ここに長居することは不可能だ。

 例えるなら、私は今、動物園の虎だ。狭い敷地内で鉄柵という名の檻の中に閉じ込められ、来園者にまじまじと視られ続ける虎だ。そこに自由など存在しない。


 だが、抗うことは可能だ。


 私は1つのアイデアを思い付いた。アイデアと言っても、戦略性は皆無の代物だ。でも、やるしかない。


 私は、頬に沿って落ちてくる汗を舐めた。味はしなかった。だけど、視界はえらく開けていた。足は少々震えている。


 cは、そんな私を視ながら口を達者に動かし続ける。


「何それ小鹿? まさかあんた生まれたての小鹿の真似してんの? ギラファガガァァァ!! 傑作だわぁ!! 芸人も顔負けねぇ。もっとあなたの間抜け面を晒しなさい! 僕が盛大に祭り上げてあげるわよぉ!!」


「お断りよ。あんたに侮辱されるぐらいなら喜んで恥地獄へ落ちるわ。しんに大事なのは自分を誇ること。決して貶すことなんかじゃない!」

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