第8話 3本の朽鎖
私は自販機の前で座り込み、立てなくなっていた。雲子は、呆れ顔で自販機を覗き込んだ。
「綾鷹が1700円~~? そんなバカなことあるわけ……ほんとだわ」
「ね? ね? マジでしょ? 一体どうなってるのよぉ。待って。また100円値上がりしてる!!」
綾鷹だけではない。カルピスや麦茶なんかも青天井で金額が膨れ上がっている。私は、ちょっと目を離せばどんどんと値上がりしていく自販機に恐怖を覚えていた。
このままでは、学校内で飲み物を買えなくなってしまう!! 何とかしなくては。でも、どうすれば……。
思い倦ねていると、隣にいる雲子が淡々と話し始めた。
「これはあれだわ。自販機の神の残り香のせいだわ。うん、間違いない」
「残り香? それってあれでしょ? 昨日言ってた
「その通り。でも、なぜ残り香っていう名称なのかは言ってなかったわね。まぁ簡単な話、破壊跡や抉り跡なんかといった負の魂が天界の血を持たないモノに取り憑くことで、周囲に悪影響を発生させる。人間でいうところの垢。詳細な説明は面倒くさいから省くけど、あいつの場合は、自販機内の値段を上げることね」
「何それ?! 傍迷惑なんですけど!」
「まぁあなた達からしたらそうよね。ちなみに、取り憑かれたモノのことを
そう言いながら、彼女は動かない自販機を視た。
「あのざまよ。まったく……使えないわねぇ」
「いや、私達がその状態にさせたんですけど。さすがに酷くない?」
「……そうとも言う。とりあえず、あいつが動けない以上、サリナが片付けるしかないわね」
「確かにそうね……ちょっと待て。何で私1人でやるみたいな言い方してるの?」
「だってそうじゃん。わっち、やりたくない」
直後雲子は、客観的に視たら可愛らしい声とポーズで訴えかけてきた。普通の人。特に男子相手なら一撃必殺だったのだろうが、私はそうはいかない。
「あぁなぁたぁねぇ……!!」
あどけない顔をする雲子に飛び掛かろうとした直後、近くから殺気が放たれているのを肌で感じた。
「「「ガバラァァァァァ!!!」」」
私達は、咄嗟に殺気が出ている方向を視る。そこに居たのは、私にとって見覚えのある3人だった。
隣で雲子が呟く。
「言ってる傍から残り香出てきちゃったよもぉ。面倒くさい。えぇと、左から残り香a、b、cってところかな。ん? サリナ、あんた何固まってるの?」
「え? あ、ごめん」
私は驚愕していた。なぜなら、目の前に切りたい縁が3つもあるのだから。
雲子には後で話すつもりだが、私が切りたいと思っている朽鎖は9つある。うち3つが彼らで、左から順に山中、河本、品川。山中は男子で、残りの2人は女子だ。
今はもう名前しか覚えていない。まぁ、そういうことだ。
いちいち名前を想い受かべるの面倒なのでここでは左から順にa、b、cと呼ぶことにする。
少し体の動きが止まっていると、残り香aが叫んできた。
「おいおいおいおい! いつまでそこに居座るつもりやぁぁ!! 買うなら早よ買え!!」
aの言葉に、私は反論した。
「いや何言ってんの? こんなボッタくり買えるわけないでしょ?! さっさと値段を元に戻して!」
「それは無理だ」
「何でよ」
「無理だと言ったら無理だ!!」
と、周りのことなど気にもせず叫んだ。そんなaに、bが話しかける。
「まぁまぁ落ち着いてよハニー。馬鹿相手に怒るのは時間の無駄だよ」
「おっとそうだねダーリン。ごめんごめん」
aとbは、普段からノリで互いのことをそう呼び合っている。最初聞いた時は少し引いた。
ふと隣を視てみると、雲子が本気で引いていた。
「あ、へ~。なるほどねなるほど。サリナ。速やかに倒してきて。わっち、トイレに行ってくるから」
「待って待って。倒すのはいいとして、どうやって攻撃するの? 一応あっちの体人間だよ?!」
「あぁ大丈夫だよ。取り憑かれてる人はその間のこと覚えてないから。それに、残り香自体、
直後、雲子は超特急で校舎の中へと駆け込んでいった。場には、私と残り香a、b、cが取り残された。
cはさっきから何も喋らず後方にいるが、aとbの口は一向に止まる気配がなく、何なら時間が経過するごとに加速していっている。
まず最初にbが口を開いた。
「ちょっとあんた。随分と軟弱な体してるわねぇ。まるでもやしの擬人化だわぁ~」
bの言葉に、aはすぐに同調する。
「ガバラバラァァ!! 確かに! こいつぁ傑作だぜ!」
「「ガバラバラバラバラバラァァァ!!」
aの後、bが畳みかけるようにまた同調する。一言で表そう。地獄だ。
何なのよもぉぉぉ!!! いきなり出てきたと思ったら罵倒してくる。ほんっとに気持ちが悪い!
どうしてこいつらが!!!
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