第7話 お値段なんと!!

 大人は、私達が言い訳をすると、直ぐに「言い訳をするな」と言ってくる。確かにそれは、時として正しい。だから否定はしない。ただ、これだけは言わせて欲しい。

 あなた達は、言い訳をしたことがないのですか?


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 力を押し付けられてから一夜が明けた。私は今、地理総合という授業を受けている。

 この授業は名前の通り地理についてを学ぶのだが、現在、フランス革命の8月10日事件についての熱弁を聞いている。

 なぜ地理の授業なのに歴史をしているのか? それは、社会の先生が大の歴史好きで、少しでも関連があると、史実に関することを話しだすからである。


「つまりだ! 革命軍の団長と副団長であるティール・フォレスティアとカルパラ・バラフォンが革命を始めなければ、今の世界は存在しなかったのだ!!」


 彼は教卓を叩きながら話していた。それを私は、椅子にもたれ掛かりながら聞いていた。


「はぁ……」


 あまりの退屈さに、私は溜息をついた。机上にあるノートは半ページしか埋まっておらず、シャーペンは筆箱の中に引き籠っている。

 窓から入ってくる風が、私の前髪を揺らしていた。


 暇だ。暇すぎる。寝ようかなこのまま。別に怒られはしないだろう。


 そう思い、就寝態勢に入ろうとした時、頭の中に声が響いてきた。


「おぉい。暇してるぅぅ??」


 雲子であった。しかし私は耳を塞ごうとした。


「おい、無視するなよ。こっち視ろこっちをぉ」


「……はぁ……」


 しつこく訴えてくるので仕方なく窓の外を視ると、そこには全身を雲で包んだ雲子がいた。

 彼女曰く、その姿は曇装どんそうと言うらしく、通常よりも速く動けたり雲の一部を発射したりすることができるらしい。


「何よトラブルメーカー。私、授業受けているんですけど」


 私達は現在、脳内で会話をしている。これを波無語はむがたりと言い、天界の血を持つ者同士であれば誰でも可能なわざらしい。昨日帰る時教わった。


 雲子は、体を左右に転ばせながら笑っていた。


「ナハハハハハハハハ!! 面白いこと言うねぇ。トラブルメーカーはそっちでしょぉ? わっちはトラブルメーカーではなくミラクルメーカーよ!」


 顔は視えなかった。でも、容易に想像することができた。あいつが全力で私を笑っていることを。


 腹立つぅぅぅぅ!!!


 今すぐ物でもぶつけてやりたかったが、何とか堪えるよう努めた。


「特に用事がないならどっか行って。確か今、使われてないプールに住んでるのよね? なら、そこにさっさと帰れ!」


 私はそう言いながら黒板の方へと目線を戻した。先生は、まだ歴史の話をしていた。

 目線は戻せど、雲子の言葉は止まらなかった。


「ナハハハハハハハ!! サリナは笑いの才能があるよぉ、きっとね。それよりさ、あの人ずっとフランス革命の話してるわねぇ。しかもところどころ違うし。革命軍の団長と副団長の子孫であるサリナからしたらうざったらしくて敵わないでしょうねぇ」


「うざったらしくて敵わないのはあなたの方よ。というか、何であなたが私の祖先のこと知ってるのよ。誰にも話したことないのに」


「あったり前でしょ? わっち、彼らとは友達だしぃ。ここに天界あっちに居た頃は朝まで一緒に飲み明かしたこともあるのよ?」


「え? マジで?!」


 私は視線を前方へ固定したままであったが、内では言葉にできない驚愕が、心底を支配していた。


 え、待って。つまり、あいつは私のご先祖様と会ってるってことだよね? ……実は凄い奴だったの? ……いや、勘違いだ。私の勘違いだ。絶対に。こんな奴が上に立ったら組織が終わる!


 とりあえず私は深呼吸をした。


「と、ともかく、続きは授業が終わってからね! はい帰った帰った」


「もう……しょうがないわねぇ。あそこ暇なんだけどなぁ」


「文句があるなら住む場所変えればいいでしょ? 早よ帰れ」


「はいはい。わかりましたよ~ん」


 そう言って、ようやく雲子が去っていった。

 教室には、未だに先生の蘊蓄うんちくが響き渡っていた。だが、雲子との会話に比べれば些細なものである。


 その後、授業終了のチャイムが鳴り、昼休みに入った。私は机に掛けてある鞄から財布を取り出すと、自販機へと直行した。


 自販機の前に着くと、そこには雲子がいた。


「あれ? さすがに来るの早くない?」


「そりゃぁ追い払われた後からずっとここに居るからね。どうせ血を持ってる人以外、私を視ることができないんだからいいでしょ?」


「……まぁそうね」


 私は、彼女の言葉を右から左に流しながら財布を開いた。

 財布から硬貨を数枚出すと、私は自販機の中にお金を入れた。入れた後、ボタンを押すために顔を上げた時、私は腰を抜かした。


「え? え? えぇぇぇ???!!!」


「一体どうしたってのよ。尻もちなんかついて」


 雲子は、呆れ顔をしながらこちらに近づいてきた。私は、震える指を自販機に向ける。


「あ、綾鷹が……」


「綾鷹? あのお茶がどうしたってのよ」


 私は、声を震わせながら叫んだ。


「あ、あああ綾鷹が……1700円になってるのよぉぉぉ!!!」

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