第5話 いつだって

 私は、高速で飛来する缶を避けながら自販機に向かって走り出す。


「はぁ……はぁ……」


「いいねぇいいねぇ! ようやく勝負らしくなってきたよぉぉ!!」


 自販機は、缶とペットボトルを一気に放出し始めた。私の眼前に弾幕が張られていく。

 それを私はターンやステップを駆使して避けていく。

 自販機との距離が、手を伸ばせば届きそうなほどまで近づいた瞬間、手に持っていた(何故か)使用済みのチューインガムをぶん投げた。

 ガムは奴の腕に付着した。


「ッ! 俺っちの堪忍袋破こうとしてもそうはいかねぇZO!」


 自販機はガムに目もくれず缶をこちらに投げつけてくる。私は微笑した。


「ド阿保。そんなことわかってるわ!」


「わかってるお前の方が馬……!!」


 奴は驚愕の表情を見せいていた。なぜなら、私の手と自販機の側面を伸びたガムが繋いでいたからだ。


「どう足掻いてもお前は機械。体が熱くなるのは必然。なら、これが生きる!」


 彼が動揺している暇を突いて、ガムに履いていた靴を取り付けると、振り子のようにガムが奴の方へと衝突していく。


 自販機を中心に鈍い音が辺りに反響していく。隙を見た私はすかさず蹴りの連打をブチかます。


「ガッ! ギャッ! ガッ!」


「神にも痛いっていう感覚があるんだねぇ。びっくり」


「あるわぁぁ! 神にもそんぐらいの感覚!!」


「あっそ。なら、きるまで叩き込んであげる!!」


 私は、次から次へと奴の体に蹴りを叩き込んでいく。


「ぬぅぅおぉぉりぁぁ!! ッ!」


 足が痛くなってきた。いつになったらこいつは膝をつくんだ。ていうか……。


「雲子! 怠けてないであんたも手伝いなさいよ!!」


 私は、近くで悠長に浮いている彼女を視ながら叫ぶ。


「え〜面倒臭いよ〜じゃ、わっちコンビニ行ってくるから〜」


「ちょ、あんた、何を言って!!」


 すると隣から奴の声が聞こえてきた。


「よそ見してんじゃないYO!!」


「!?」


 直後、私は奴の方を振り返った。そこには、今にもボタンが光りそうな自販機の姿があった。


「ま、マズい!」


 この光の量は駄目だ。もろに受けると目が潰れる! 何とかしないと。でもどうやって……!

 そうだ、サングラスだ!!


 私は、すぐさま両手の側面同士をくっつける。


あけ鳴玉なりだま、創乱!!」


 私の両手が黄金に輝きだす。光が収まり、両手の平の上にあったのは廃グラス1つであった。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ???????!!!!!!!」


 ふざけるなよ! 何で廃グラスなんだよ! これじゃ光を抑えるどころか増してくじゃないのぉぉ!!


「TU☆BU☆RE☆RO!! 銅鑼輝缶どらむかん!!」


 瞬間、奴の体が輝きだした。


 マズい。このままだと目が!


 私は咄嗟とっさに目を瞑ろうとした。瞑る間際、ガラスケースの左上端にあかく光る何かを見た。


 ピカリィィィィィ!!!


 まばゆい煌めきが、辺り一帯を覆いつくしていった。その光は、まぶたの先にある目にも届いた。世界が一瞬、真っ白になった。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 な、何も視えない。目を開けることができない!

 次の瞬間、右腹部に強烈な痛みが走った。


缶鎚かづち!!」


「ガファァァ!!」


 丸太のようなものが当たる感触がすると、そのまま後方の壁まで吹き飛ばされていった。

 体中に激痛が駆け巡る。


「ジハンハンハンハンハァァ!!! 終わりだYO!!!」


 直後、複数個の缶やパットボトルが高速で私に向かって飛んできた。私は立ち上がろうとするも、ダメージが残ってすぐには動くことができなかった。

 もう死んでもいいかもしれない。頑張ったんだし。許されるよねきっと。とも思ったが、心底に流れる何かがそれを拒んで許さなかった。


 死んでたまるか……何も知らないまま、何もできないまま……死んでたまるか……死んでたまるかよぉぉぉ!!!


 私は力の限り踏み出すと、自販機の方へと全速力で駆け抜けていく。


 さっさと御紋ぎょもん傷つけないとこちらがやられてしまう。場所はわかっているのにガラスケースの中にあるからやり辛い。取り出し口から攻撃するしかないのはわかっているが、肝心の創乱が……。

 手にはさっきの廃ガラスしかない。だけど私は覚悟を決めた。


 今更考えても仕方がない。やってやる!


「爆ぜり哂え。創乱!!」


 両手が黄金に輝きだす。輝きの後に出てきたものは小型のハンマーだった。

 鉄の重さで肩の高さが落ちる。


「お、重! で、でも、これで!!」


「ほらほらどうしたYO! 動きがのろいZE、おこちゃまがぁぁ!!」


 高速で缶が四肢目掛けて飛んでくる。


「なぁぁぁ!!」


 私はそれをギリギリで避けていく。途中、私はグラスで缶の勢いを相殺すると、そのまま回し蹴りで缶を奴の方へと飛ばしていく。

 当然防がれてしまったが、代わりに辿り着くための道が出現した。私は左手にハンマーを持ちながら突撃していく。

 

 そしてとうとう彼の懐に行きついた。


「て、てめぇぇ!」


「いつだって、私は弱者だ。いつだって何もできやしない。でもこれからは違う。今を皮切りに私は変わっていくんだぁぁぁ!!!」


 持てる腕力。そのすべてを使ってハンマーを振り抜いていく。


 ガシャラァァァァァ!!!


 ガラスケースは、音をたてて崩れていった。

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