第4話 創乱

「キャァァァァァ!!!」


 私はひたすらに体を動かしていた。

 前からは缶が絶えず高速で飛んできて、隣からは雲子が創乱についての説明が聞こえてくる。


 混沌の極みである。


「いいサリナ。まず最初に意識を集中させて」


「集中? こ、こんな状態でできるわけ……」


「いいからやる!」


「はぃぃぃぃぃ!!」


 雲子が鬼に近い形相をしてきた。私は慌てて避けながら集中する。すると、内側から不思議な何かが湧き上がってくるのを感じた。

 それは、火とも言えるし、とも言えるし、灯とも言える、紅色に染まったモノであった。


 不思議な感覚を覚えたところで、雲子が説明を再開した。


「感じ取れたようね。じゃぁ次。今度はそれを、何でもいいから宣告しながら取ってみて」


「宣告って言ったって何を言えばいいのよ! ひゃ!」


 耳の傍を缶々が駆け抜けていった。あと数センチ右にいたら顔面が凹んでいただろう。

 足が動かなくなってきた……ガチ目にマズい。


 雲子は口を止めることはなかった。


「宣告? そんなもの適当よ適当。黄金血殻こがねけっかくでもなんでもいいから早くして」


「ハァ! 何て無責任な……はぁ……はぁ……」


 ヤバい、息が切れてきた。考えろぉぉ……死にたくなければ考るんだ私!!


 私は、意を決して息を深く吸い込む。そして発する。


「哀調に染まりし衰弱の太陽よ! 藍よりでし青を掻き消し、数多を照らす革命となれ! 創乱そうらん!!!」


 その言葉と同時に、湧き出てくる緋をその手に掴んだ。瞬間、私の両手が黄金色に煌めき始めた。

 煌めきは徐々に両手の平の中央に集結していき、1つの形を形成した。


 それは、チューインガムだった。しかも使用済みの。


 私は、激怒した。


「ちょっとあんた、何これふざけてるの?!! こういうのって爆弾とか武器とかその辺りのものが出るんじゃないの?!!!」


 と言いながら雲子の方を視ると、彼女はまた「忘れてた」という顔でこちらを視ていた。


「言い忘れてたけど、創乱で創れる物はいつもランダムだから。そこのところよろしく」


 は? 何澄ました顔で言ってんの? こっち今死にかけてるってんのに唯一の対応策がランダム? ふざけるなよなぁぁぁ!!


 私と雲子が缶々を避けながら言い争っていると、自販機が顔を真っ赤にしながら叫んできた。


「おいおいおいおい。逃げてないで戦えYO! 興覚めだぜお前はYOoo!!」


「いやいや、そんなこと言われても困るんだけど!」


「お前がどう思おうが関係無いんだYO! とっととやられんだZE! 缶官繁砲かんがんはんぽう!!」


 やつは、先程よりも格段に速い缶をハイペースで打ち込んできた。


「マジかこいつぅぅぅ!!!」


 私はそれを全力で躱していく。がしかし、中には避けきれずに当たってしまうものが出てきた。その内の1つが、私の脇腹に激突した。


「ゲフォォ! アガラァァ……」


 私は腹部を押さえながら膝から崩れていき、その場にうずくまった。


 もう嫌だ! 足がパンパンだしお腹には激痛が走ってるし! 今日は何なのよ……神とかいう変な奴らと出会うわぁ身に覚えのないことで戦いが始まるわぁ……私が一体何をしたって言うのよ! 人間関係が上手くいかなくて落ち込んでる時にこんなことが起こるなんて……泣きっ面に蜂よ!!


「これで終幕! ジ・エンド!!」


 自販機はそう叫びながら缶を飛ばしてきた。缶は、私の顔面めがけて突き進んでくる。


 このまま当たれば楽になれるかもしれない……泥沼の人間関係から抜け出せるかもしれない……。


 私は、あいつの攻撃を受け入れようと思った。気まずくて、近づいたら離れられてしまうような人生から解放されると思った。

 目を瞑ろうとしたその時、近くから雲子の怒鳴り声が耳を貫いていった。


「サリナ! 絶対に諦めちゃ駄目って言ったでしょ! あなたが倒れたらわっちの仕事が増えるの! あなたの血筋しんねんはそんなもんじゃないでしょ! 踏ん張りなさい!!」


「雲子……」


 途中本音らしきものが聞こえはしたが、彼女の言葉は、私の奥深くにある何かを激しく揺さぶった。

 同時に、信念ココロが猛烈に燃え上がった。


 私は、自販機の神を睨みつける。


すべてを洗い流す……私が……私であるために!!」

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