第3話 彼の生き様をココロに刻め

「キャァァァァァ!!!」


 私は、絡まりそうになる足を何とか回転させて走り出す。後ろからは自販機の化け物が襲ってくる。


「逃げるなYO!!」


「逃げるわよ! ちょっと雲子! あれ何?! キモ過ぎなんですけどぉぉ!!」


「彼の名はヌズマダ・バフラマ。自販機の神様よ」


「自販機の神様ぁ?! さすがに速くない? 私、まだ何も準備できてないんだけどぉぉ!!」


「まぁまぁ、そう言わずに頑張って~」


 と、雲子は満面の笑みで手を振りながらそう言った。


 あいつぅぅぅ……絶対に後でお仕置きしてやる……。


 とか思っていると、棟と棟の間にある開けた場所に出てきた。周りは校舎で囲われており、前には駐車場に出る道があった。


 真ん中には一本道が、両側には緑と岩がある広場の中央まで来ると、私は停止した。同時に雲子と自販機も止まる。


「おぉぉ。ようやく止まったか。さて、俺っちの名はヌズマダ・バフラマ。お前はが言っていたやつでいいな? いざ、尋常に勝負!」


「ストップストップ!! 急に何なのさっきからぁ! 私、隣にいる変なやつに変なことされたけどさぁ、何であんたにまでこんなことされなきゃならないの?!」


「変なこととは失礼だぞサリナ。あれは立派な……」


「うっさい! あんたは黙ってて!!」


「何を言っているのかはわからないが、とりあえず腹くくったってことでOK?」


「いやいや全然オッケイじゃないし。ていうかいきなり公開ストーカーするとか正気?! 頭狂ってるんじゃないの?!!」


「狂ってるとはなんだ狂ってるとは。俺っちはねぇ、あんたと戦うために現界ここに降りてきたんだYO。俺っちだけじゃなく、一緒に降りてきた他の神達もお前と戦うためにきた。皆、戦いが大好きだからねぇ。からあんたの話を聞いた瞬間、居ても立っても居られなくなったんだ。だから来た」


「は?」


 ちょっと待て。誰だよあいつって。誰だよその傍迷惑なやつは。あれか? そいつのせいで私の未来行きの線路が狂い始めているのか? 冗談じゃない。なんで関係のない私が被害被ってんの?

 何とかしてさっきの話を消化しようと頑張ってたのにさぁぁ……新しい要素盛り過ぎなんだよもぉぉぉ……。


 脳がバグってきた。


 私が頭を抱えていると、雲子が耳元でささやいてきた。


「言い忘れてたけど、わっちが言った五人の神達は皆戦いが好きなの。所謂いわゆる問題児ね」


 そういうことはもっと早くに言ってよ……。


「で、彼らを倒すための条件なんだけど……」


 雲子が私に囁いている時、それを遮るように自販機が叫んできた。


「もう話はこれぐらいでいいだろうYO。勝負を始めようぜ」


「もうちょっと待って。まだ雲子の話が終わって……」


「行くぜぇ、缶砲かんぽう!!」


 彼は私の言葉を遮って、自販機の取り出し口から缶々を高速で飛ばしてきた。


「うわ、ちょ、ガッ!」


 私は、缶が視界に入った瞬間に前方向に体を動かした。


 ドガラァァァァァ!!!


 避けた缶は校舎の壁に激突した。凸凹でこぼこへこんだ壁からコンクリがボロボロと零れていく。


 壁が壊れた……どんな威力してるのよあれぇ……本気で私を殺りにきてるじゃない!


「ほらほら! まだ始まったばかりだぁぁ!!」


 自販機は、次から次へと缶々を飛ばしてくる。避ける度に壁や窓が壊れていく。

 今の時間帯が薄暮だったから良かったけど、いや良くないけど。人が居たらどうすんのよ! バレるじゃない! 待って、先生がいるわ。


 私は、先生達がいる管理棟。つまり、目の前にある建物の2階を視る。

 誰も廊下に出ていなかったので、一先ず私は安堵した。その時、突然視界に雲子が現れた。


「キャァァ!!」


「キャァじゃないわよ。自販機のせいで言えなかった神達を倒す方法を教えようと思ったんだけど」


「え? あ、えっと、お願いします!」


「全く……調子のいいことで……」


 すると彼女は手から雲のような何かを自販機に飛ばすと、奴をその場に固定させた。


「ナ! クソッ、何だこれ!!」


 彼は必死に体を揺れして抵抗している。そんな中雲子は私の目の前でため息をこぼしてきた。


「はぁ……しょうがない。あれ、視える?」


 彼女は、奴のガラスケース内の左上にある、朱く光った印を指差した。


「見えるけど……何あれ?」


「神達の身体のどこかには、必ず御紋ぎょもんと呼ばれる神とそれ以外を分ける合い印みたいなのがあるの。それを思いっきり傷つけて。そしたら勝てるわ」


「本当にざっくりね……もうここまで来たらやるしかないわ……」


「その意気よサリナ。カルターナの人生のように、絶対に諦めないでね」


「カルターナって誰のことよ。聞いたこともないわ」


「そりゃそうよ。だって、歴史の闇に消えてしまった偉人の名だもの」


 と、雲子が言った直後、自販機は彼女が先程飛ばした固定剤のようなものを引き千切ると、こちらに向かって砲口を構えてきた。


「よくも俺っちをこけにしてくれたなぁ……許さんぞ!!」


「また来たァァァ!!!


 瞬間、奴は缶を大量に発射してきた。私は死に物狂いでそれらをギリギリで避けていく。

 隣からは雲子が手拍子を叩く音が聞こえてくる。


「そんなことするより早く攻撃してよ。逃げてばかりじゃ勝てないわよ」


「うっさい! そもそも私に攻撃手段なんか無いし!」


「あるじゃない。創乱が」


「使い方知らん!」


「あ……」


 雲子は私の前で頭をコツンと小突いた。


 こいつ、完全に忘れてたな。


 彼女は溜め息を1つつくと、少し面倒くさそうな顔をしながら話し始めた。


「もう……一度しか言わないからよく聞いといてね。今から創乱をレクチャーするわ」

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